線路の跡をめぐり、そもそも鉄道趣味とは?を聞いていく
東急東横線はかつて高架線で高いところを走っていたが2004年からみなとみらい線とつながるために地下化した。
この高架の跡を鉄道/旅のジャーナリストである栗原景さんに案内してもらうことになった。(前回の横浜駅あたりはこちらの記事を参照)
かつての線路は横浜から東白楽あたりまで東横フラワー緑道という遊歩道になっている。これを横浜から歩いて高島山トンネルまでやってきた。考えてみれば鉄道が廃止になることは多くない。かつて鉄道だったトンネルを歩けること自体珍しい。もっとありがたがっておけばよかった。

鉄道のトンネルを歩ける場所





大正時代に作られたトンネルなんですけど補修をした結果現在はちょっと小さくなっています。古いトンネルの内側にコンクリートをもう一度吹き付けてあるんです。
ぼくら遺構好きとしては惜しいところではあるんですけど。ただ外側のコンクリート擁壁は鉄道時代から変わってません。










鉄道はつるつるしていて大きなものを運べるが坂に弱い



摩擦が少ないのでものすごく重いものでもわりと簡単にひょいってやると動かせる。摩擦が少ないと、一度動き出したものはずっと動き続けようとするので、大きな力を加えなくても動かすことができます。小さい力でたくさんの物を運べるというのが鉄道の利点なんです。
その代わり摩擦が少ないので坂にはめっぽう弱い。一方、自動車はゴムタイヤや道路の摩擦がすごく強いので、トラックなどは坂には強いですが、ずっとエンジンを動かして力を加え続けなくてはいけません。



国鉄は都市を結んで、私鉄は細かく拾っていく



それに対して、京浜急行や東横線の前身である東京横浜電鉄は、街道沿いの集落を結んだり、新しい住宅地を作ったりして地域を細かくつなぎました。










ガーダー橋に熱くなれ

鉄道橋のレールとかを外してそこに歩道用の桁を乗せているんだと思います。ここが昭和初期の鉄道だったんだなという面影を一番感じるところです






























駅が廃止になるとき



例えば、秋葉原の近くに万世橋って駅があったんですけど、神田と御茶ノ水に近すぎることもあってなくなっちゃいました。駅を一つなくせば、資材や駅員を節約できますし、極端な言い方をすれば、その分物資や人員を戦地に送れたわけです




ここまで来てようやく電車を見る











狭い線路幅をどうしたものか大論争

ですから、カーブでは線路の幅が1067mmよりもちょっとだけ広めになってるんです。でもすごいですよね。1067㎜なんて狭いレールの上に3m近い幅の車両が乗っているんですから。

(※日本は鉄道を導入したときに世界標準1435mmよりも狭い1067mm(狭軌)という規格にした。詳しくは前回の記事を)

それに対して「そんなことよりもまだ鉄道のない地方にどんどん鉄道を作ったほうがいい」っていう意見が議論になって、地方に鉄道をっていう人達が勝ったんですよ。
地方優先か都市優先かという議論で地方優先しようというのが勝った。それを支持したのが初の平民宰相と言われた原敬なんです。でもそのときに、線路幅を広くしようという主張がかなわなかった人たちの教え子たちが新幹線を作ったんですよ



やっぱり小さい鉄道でも物運ぶ力というのは当時の車の比ではないので。運転士と車掌がいたら何百人と運べるじゃないですか。地方の鉄道が一番儲かったのは戦時中なんです







通勤電車ばかりというのがさびしいんですが、唯一土曜休日だけ西武鉄道のS-Trainというのが入ってくるんです。これがまた変わった電車で、元町・中華街発西武秩父行きという(※2時間以上かけて横浜の中華街から埼玉の山間部まで行く)





都営地下鉄は後からできたんですが、乗り入れる路線の線路幅にみんな合わせたんですごく種類がたくさんあるんですよ。浅草線は1435mmですし新宿線は京王線に入るので1372mm。東急目黒線に乗り入れる三田線は1067mm。最初に作るときに規格を合わせるので。お、あれは東武ですね、東上線直通、川越まで行っちゃうわけですね

3000車両をデータベース化する人もいる





この車両を、ひとつひとつ全部写真に撮ってデータベースにしている人がいました。素人目には全部同じに見えるんですけど、同じ形式でも修理した結果ここが違うとか、雨樋の形が違うとか、少しずつ違うんですよ。それがコレクター魂を刺激するんだと思います。仮面ライダーシールとかと同じで、コンプリートしたくなっちゃいますよね。

私達は鉄道ファン大国に住んでいる








一粒で三度でも四度でも楽しめるのが鉄道趣味







必ずこうじゃないとダメみたいなのはなくて、この人は素質があるなと思ったら、じゃあどの方面から攻めるかみたいなのを考えます。歴史にロマンを感じる人だったら、もう少し遺構がちゃんと残ってるところに案内するとか

へぇ疲れを起こすほどの知識の旅
記事を書くうえで車両の形式をしらべようとWikipediaの車両のページにいくとそこだけ趣がちがっていた。知らない部活の部室に迷い込んだような気持ちだった。
だが車両を特定し、違いを認識できるようになると今までのでかい鉄の塊が「わかるでかい鉄の塊」に変化した。なるほど、こうしてちょっとずつ興味を広げていくのだろうか。
鉄道オタクの世界は広く深く壁の高いものだなと思っていたが、私達が住んでいたのは世界一鉄道が細やかに敷かれ、発展し、鉄道オタクが集う国だったのだからそう感じていたのかもしれない。
彼らが深めた知識のおこぼれを拾って歩く街歩きはとても楽しいものだった。身近にそんな人がいたら連れて行ってもらうといい
専門家と街を歩くシリーズ バックナンバー
テーマ:中世日本史 場所:世田谷 ゲスト:谷口雄太さん
日本史研究者と街を歩くとどれだけへぇへぇ言わされるのだろう?
日本史の研究者と世田谷を歩いてへぇへぇ言わされまくる
テーマ:通学路 場所:中目黒 ゲスト:小山田裕彦さん
「子供の道は猫道と一緒」通学路の視点から専門家と街を歩く
通学路の専門家と子供目線で街を歩く
テーマ:植物 場所:久が原 ゲスト:小林由佳さん
植物図鑑を作ってる人と街を歩いてへぇへぇ言わされたい
植物は進化の先を行く!植物図鑑を作る人と街を歩いてへぇ~と言わされたい
テーマ:鉄道 場所:横浜 ゲスト:栗原景さん
鉄道に詳しい人と街を歩いてへぇへぇ言わされたい
鉄道は何通りもの楽しみ方がある! 鉄道に詳しい人と街歩きしてへぇへぇ言う
テーマ:植物 場所:渋谷 ゲスト:山下智道(野草研究家)
渋谷駅前の線路沿いに長芋やラズベリーが生えている
タワレコの隣に蕎麦が生えている~渋谷の植物を見て歩く
テーマ:石 場所:二子玉川 ゲスト:西本昌司さん
専門家と街の石を見て歩きへぇへぇ言わされまくる
百貨店には化石が埋まっている~専門家と街の石材を見て歩く~
テーマ:のぼり 場所:新丸子 ゲスト:堀江賢司さん
おしゃれな街に印刷物はない~街の印刷を専門家と見て歩く~
のぼりは世の中の変化に強い~街の印刷を専門家と見て歩く~
テーマ:税金 場所:代官山 ゲスト:高橋創さん
税の視点で街を歩く
目に映るものはだいたい経費~税の視点で街を歩く
テーマ:コピーライティング 場所:戸越銀座 ゲスト:森田哲生さん
「そのコピーは誰に向かって言ってるのか?」コピーライターと商店街を歩く
テーマ:タクシー 場所:三軒茶屋 ゲスト:ぜつさん
「回送でも停まる」タクシーの運転手さんと街を歩く
「どの道から行きますか?」「知らねーよ」タクシー運転手と街を歩く
テーマ:飲食店 場所:渋谷 ゲスト:大橋義也さん
「渋谷の一階は一人飯の店」飲食のプロと街を歩く
「結局メニューが一番大事」飲食のプロと渋谷を歩く
テーマ:建築 場所:祐天寺 ゲスト:神田順さん
どうして街はこんな形なのか?建築の専門家と街を歩く
どうしてこんな家ばかりなんだろう?建築の専門家と街を歩く
テーマ:考古学 場所:大井町 ゲスト:谷口榮さん
大井町駅前の通りは歴史を横断できる~考古学者と街を歩く
公園にある古墳を専門家と見る~考古学者と街を歩く
テーマ:植栽 場所:渋谷 ゲスト:赤尾正俊さん
木の寿命は葉の量と幹の太さで決まる~樹木の専門家と街を歩く
建造物に植物があると街になじむ~樹木の専門家と街を歩く
テーマ:民俗学 場所:渋谷 ゲスト:室井康成さん
路上飲み対策にも恋愛の南京錠をかけるのも民俗。民俗学者と街を歩く
テーマ:屋外広告 場所:渋谷 ゲスト:原壯さん
日本で最も看板激戦区の渋谷を専門家と歩く
日本一高い看板はここ! 屋外広告を見て渋谷を歩く
テーマ:土木 場所:渋谷 ゲスト:八馬智さん
都市景観の専門家と渋谷の土木を見て歩く
変わりつつある渋谷の跡を専門家と見て歩く
テーマ:接着剤 場所:渋谷 ゲスト:木村修司さん
専門家と街の接着剤を見て歩く
街にはどれくらい接着剤が使われているのか? 専門家と見て歩く
テーマ:お金 場所:渋谷 ゲスト:田内学さん
専門家と街を歩くシリーズ、思い切ってお金の専門家を呼んでしまう