タクシーの気持ちが分かってきた
信号を待っているタクシーの目の前に空車のタクシーがどんどん入っていく。今までなにも思わなかった光景にセリフがついた。今後の人生で信号待ちをしているタクシーを見たら「割り込まないでくれ…!!」という吹き出しが付くのだ。専門家と街を歩くとこういう視点が自分の中にインストールされる。ここにあるバックナンバーはどれもそういう記事だから読んだ方がいい。
専門家と街を歩いてひたすら「へぇ~」と言わされるシリーズ、今回はタクシー運転手さんと三軒茶屋駅を歩いている。
大きなタクシー乗り場が存在しない三軒茶屋駅周辺は流しタクシーの激アツスポットでもあるらしい。街をそんな目で見たことがない。
一体タクシー運転手さんはどんな目で街を歩いてるのか。聞きたいことを全部聞いた。
ライターでもあり個人タクシーの運転手でもあるぜつさんと東急田園都市線三軒茶屋駅を歩いたつづきである。前編では(こちら)
・タクシーは特定の駅で待つ駅付け、流し営業、無線待ち、など営業スタイルがそれぞれにある
・三軒茶屋はタクシー乗り場がなく、流し営業がぐるぐる回る
・左回りでできるだけ小さく回る
・お客さんかどうかを見分けるのは難しい
などがわかった。このあたりを踏まえて後編である。
林 :ここを曲がると246号。運転手さん的にはいよいよ。
ぜつ:いよいよちょっと集中して。さっきのトイレの辺りも含め全域に渡ってチャンスではあるんです。でもここから先は激アツ。
大北:呑み屋がこのエリアに集中しているから?
ぜつ:それはあると思います。あとは左回りで流しやすい場所なのと。
林 :あ、ジャパンタクシー。個人タクシーでジャパンタクシー(※トヨタのタクシー用車種)を買ってもいいんですか?
ぜつ:買ってもいいです。あれはたしか国と都から100万円近い助成金が一時期出たんです。
大北:ジャパンタクシーってなんですか?
林 :ずんぐりした。
ぜつ:最近良く見る、黒い色でオリンピックのマークが入ってる。
ぜつ:※ジャパンタクシーという会社があって。日本交通の川鍋一朗さんっていう人がいて、タクシー業界を牽引しているんです。政界にもパイプがあって、中曽根さんの孫の方と結婚してたり。
(※日本交通の関連会社であるジャパンタクシー社。現在モビリティテクノロジーズ社に改称。配車アプリJapan Taxiは2020年8月時点ユーザー数首位で現在は配車アプリGoに統合。)
林 :蘇我氏みたいですね(笑)。
ぜつ:なかなかイケメンなのでタクシー王子なんて言われてるんですけど、やり手はやり手なので。アプリ開発したりとか。一番シェアを持ってるアプリ「Go」っていう。
大北:ジャパンタクシーはそういう車種があって、会社名でもある、と。
ぜつ:あのクルマって普通に買うと全部ひっくるめると500万ぐらいするんです。
大北:高いっ!
ぜつ:けっこうするんですよ。タクシー車なんてもともと200万しないぐらいの車を使っていたのに。それをどうやら川鍋一朗さんがトヨタとかなり交渉を重ねて、国からも助成金がおりるようにロビー活動をして400ぐらいにおさめた、と。燃費がいいのと頑丈に作られてて、ランニングコストがかかりにくいらしいですね。
林 :ジャパンタクシーの空車が曲がってきてどんどんこっちに。
ぜつ:信号の向こうで待ってた車が「あっ!」って感じですね。
林 :「入りやがった!」って。
ぜつ:「あっ! でもオーバーパスいくのか! 良かった!」っていう駆け引き。
大北:タクシーの気持ちが聞こえるようだ…。でもほんとにルートを一周回ってさあ激アツゾーン来たぞ、となったときに割り込まれたらキレますね。
ぜつ:人によってはこのあたりに一回停めてしばらくやり過ごしたあとに時間差をあけて行くということをやります。人によっては、ですよ。
林 :あっちの車は激アツゾーンに入らず曲がっちゃいます。
ぜつ:トイレに行くのか、前の車が入ったのを見て世田谷通りに行ったのか、いろいろあるんでしょうね。
大北:戦略みたいなものがあるんですね。
ぜつ:戦略ですね。いつもお客さんがいると言われてる場所でもタクシーが立て続けに行ったら絶対にいないんです。前に別のタクシーが行ってないのが条件。
大北:タクシーはいつも一番左の車線を走るんですか?
ぜつ:左側が流し業の基本。待ってるタクシーの前に入っても罰せられるとかはないんですけど、一応マナーとして空車の前に空車は入らないということに一応なってます。なんですけど、空車の前に一台一般車があったらその前には入っていいっていうのはなぜかあるんです。
林 :一台かませば。
ぜつ:かませばいいと。
林 :空車ロンダリングができる。
ぜつ:なので、駆け引きですよね。左側の流れが遅い場合、前に入られる可能性があるんです。なので、適度に右に出ないと右から前に入られちゃうよと。右に出たはいいけど、こっちの流れが停まるということは往々にしてあるので、だったら最初から左にいたほうがいいよなとか。
林 :うまいことやってるやつと、全然なんも考えてないなこいつというのはけっこう売上に開きにあるんですか?
ぜつ:タクシーって運じゃんって思うじゃないですか。全くそんなことないんです。売上トップ勢はかわらないんです。絶対にこのぐらいは上げてくるっていう人がズラっと並ぶんです。
林 :客がいる場所を知っている。
ぜつ:知ってますし、固定のお客さんをトークで獲得していたり。無線狙える場所をよく知ってるとか。研究している人でしょうね。
大北:固定のお客さんはどういう方が付いてくれるんですか?
ぜつ:さまざまなんですけど、例えばお年寄りとかが病院に行く時に。ちょっと怖い人にあたるよりはあなたにまた来てほしいわっていう人がちょくちょくいるんです。
大北:じゃあ戦略として、おじいちゃんおばあちゃん見たらめちゃめちゃ優しく接しようみたいなのはあるんですか?
ぜつ:それを目論んでやるというよりは、普段からやってる人にお客さんがつくという感じですよ。「今回はワンメーターだけどいつもは鎌倉のほうにお参りに行ってるのよね」って話もあるんですよ。普段からちゃんとやってる人に付きやすい。横柄な人にはつかないです。
林 :個人だと今日売上いくらぐらいになったら帰ろうというのはあるんですか?
ぜつ:1日3万円やれば十分かなという人が多かったんですけど、今の御時世なかなかそこまでいかないので。
林 :3万ってけっこう大変じゃないですか?
ぜつ:平均してだいたい1時間3000円ぐらいできるって言われているので、だいたい10時間ですよね。エリアによって全く違います。霞が関とか。
大北:10時間乗るとだるいですか?
ぜつ:だるいですね。慣れもあると思いますけどね。僕の場合駅付け、経堂駅に入り浸ってるんですけど、そのタイプの人ってあまり疲れないんですよ。だいたい待ってるので運転してる時間はそんなに長くない。流し営業10時間という人はかなり疲れると思います。
大北:さっきのジャパンタクシーを個人タクシーで使用する人は実際にいるんですか?
ぜつ:います。知り合いでもいますね。理由としてはスライドがいいとか、その人はもともとタクシー王子のお膝元、日本交通出身の人で「あの人の考えに沿ったほうが生き延びやすい」と。
林 :おお~
大北:めちゃめちゃ現実的…普通はどんな車種に乗るんですか?
ぜつ:会社が購入した車種があてがわれますね。1台にたいして2人の担当が付きます。今はイレギュラーですけど、タクシーの営業って基本的には「かくきん(隔日勤務)」といって、朝から深夜まで働いて、翌日は明けの日で休み。なので、空いてる時に別の人が乗る。
林 :車自体は24時間動いているんですね。
ぜつ:そういうことですね。一般の車って10万km越えたらけっこう走ってるねってなるんですけど、タクシーの10万kmは「新車じゃん」って。会社によっては100万km近く走ります。
林 :ものすごくボロいタクシーってたまにあるじゃないですか。
ぜつ:ありますね。整備士は常駐していて、厳密に整備は決められているんですよ。
大北:個人タクシーで乗ってる車種はどういう物が多いですか?
ぜつ:これも戦略によっていろいろ変わるんですよ。一般的なのがクラウン。
大北:高級車?
ぜつ:そうですね。ふつうのタクシーとは一線を画すということでクラウン。あとは燃費重視の人はプリウス。さっき戦略と申し上げたのは、中にはクラウンでも最上級のクラウンマジェスタ、それなりに役職の人しか購入できない最高級車のセンチュリー、あとはベンツとかを使ってる人もいるんです。こういう人たちは基本、流し営業をしない。固定のどっかの企業の重役をターゲットにしている。
林 :ハイヤーとは違うんですか?
ぜつ:使い方としてはそんな感じですよね。あとは人数多めに乗れるタイプ、ワゴンタイプを使って、3列シートで空港の送迎とか。場合によってはロケ関係のクルマ代わりにという人もいるかもしれないです。
林 :個人タクシーって番号書いてあるじゃないですか。
ぜつ:でんでんさんのほうだと無線の番号だったかな。ドア番号といって。
大北:でんでんってのは会社ですか?
ぜつ:事業団というスタイルですね。個人事業主の集団なんですけど、組織化しているので偉い人がいてっていう。
大北:無線もあるわけですか。
ぜつ:無線もやってます。個人タクシーのでんでん専用の無線もあれば、最近GOとか、ソニー系のS.RIDEとか、ああいうのに加盟して、無線機を付けている人はそれで呼べる。
大北:無線は加盟するとお金を払うわけですか?
ぜつ:無線に関しては月々いくらぐらい払うというのはあります。会社系アプリは無料なことが多いです。ただそれにメータを連動させる必要があって、こっちの出費になるんですよ。あれってすっごい高いんです。
林 :メーターが高くて政治とつながってるって話は聞きました。
ぜつ:どうかはわからないですけど利権が絡んでるのは間違いなくて、決まった人たちが牛耳っているような世界。メーターってタクシーの台数がこれだけあるので一定数さばけるじゃないですか。でも1台換えるのに20万とか。
大北:家庭だと20万かかる機械ってなかなかないですよね。
ぜつ:メーターも1年間に1回検査があって、車をそのまま持っていって無限に走れるルームランナーみたいなところに乗っけてウイーンってやってちゃんと測る。改造できないように完全に鉛で封印して。
林 :たまにメーター忘れる運転手さんいるじゃないですか。あれはどうするんですか? 諦めるんですか?
ぜつ:諦めですね。諦めなんですけど、お客さんの中にはいつもこのぐらい出てるからこのぐらい置いてくよみたいな人もいますね。
大北:「いくらか置いていってくれないですかね」って運転手さんから言えないんですか?
ぜつ:言っちゃまずいですね。あくまでもメーターが絶対なんです。あれよりも少なくとっても多くとってもダメなんです。割引だったらいいじゃないかと思うんですけど、これが価格競争を生むということで、ダメなんですよ。遠回りの場合は割引ではなく。遠回りした分をお返しする差し戻しという形で、あくまでもメーターに従う。
大北:遠回りってどう分かるんですか?
ぜつ:お客さんに「申し訳ないですけど、曲がらなきゃいけないところを間違えたので到着したらいくらか引かせていただきます」とこちらから言うことはありますし、高速の降り場を間違えるとか。経験はないですけど、やった人はいますね。
大北:こうやって見ると都会でも知らないタクシー会社がたくさんあって。地域地域にも知らないのがある気がして。
ぜつ:地域地域にあります。一見同じ会社だろって思いますけど。東京の有名どころだと東京無線。緑色の。あれは東京無線っていう大きな会社があるわけじゃなくて細かい会社の集合体なんですよ。なんでそうしているかと言うと、無線を強くするため。東京無線の番号にかければどこかしらの会社が来てくれる。
林 :日本交通はめちゃくちゃでかい一個?
ぜつ:そうです。日本交通もフランチャイズ展開をしていまして、日本交通本体と看板だけ貸してる日本交通グループというのがあってグループの子会社も一応いる。
林 :大きいのはまだあります?
ぜつ:最大手が日本交通で、大日本帝国と呼ばれる東京四社と呼ばれる会社があるんです。大は大和交通。日本は日本交通。帝国の帝は帝都。国は国際。
林 :国際はKMですね。
ぜつ:KMです。よく見るんですけどこれはシェア2位です。東京では。
林 :荏原無線は入らないんですね。
ぜつ:荏原無線はだいぶ下の方ですね。
大北:東京四社に食い込まなさそうな名前。
林 :大田区に住んでる時に荏原無線がよく。
ぜつ:まさに地域によってそのシェアは変わるんですよ。
林 :荏原無線は運転手がやさぐれてるって噂が。
大北:会社によってその辺、違いはあるんですか?
ぜつ:ありますあります。日本交通なんかは最大手ではずれがないですね。軍隊って言われてるぐらいで、新人教育とかちゃんとしてます。でも日本交通の看板を借りてるフランチャイズ系はそこまで行き届いてるかどうかは不明ですね。
林 :お客さんにとっては嬉しいですね。
ぜつ:道を知ってるかどうかは別ですけど、接客に関しては変なことはしてこない。迎車で来ると絶対に外で待つのが日本交通さんの特徴。
林 :外で待つ?
ぜつ:降りて手でドアを開ける。ハイヤーみたいな感じですよね。
林 :接客のコツみたいなものもありますよね。
大北:おしぼりを渡すとかちょっと変わった技はないんですか?
ぜつ:一時期霞が関で居酒屋タクシーっていう個人タクシーがいて。霞が関のお客さんっていいお客さんなわけですよ。そういう人たちを囲い込む意味合いで「乗ってくれたのでこれどうぞ」ってチューハイとかビールとか小型冷蔵庫で冷やしていたのを渡していたのがあって。
林 :あれ問題になりましたよね。
ぜつ:問題になりました。公務員法的にアウト。
大北:タクシー側が景品付けるのはかまわないですか?
ぜつ:ものによるみたいです。ポイント還元も安く乗せてることになるので派手にはできないって聞いたことはあります。缶チューハイぐらいだったらいいと思いますけどね。公務員に対してやっちゃうと問題かな。
林 :タクシーって昔はラジオでナイターかけてたと思うんですけど、最近かけてないですね。
ぜつ:お客さんが言うまでラジオはかけるなっていう教育があった気がします。会社によってはかけてる人もいるし、個人タクシーはかけてる人も多いんじゃないですか。
大北:道ってそうとう詳しくなりますか?
ぜつ:詳しくなりましたね。でも都内全域とはいかないですね。30年ぐらいやってるベテランの人に聞いても都内全部は絶対ムリ、得意な場所は限られてくるって言ってました。お客さんでも最近の運転手はナビのせいで道覚えないでしょって言う方いますけど、個人的にはそんなことないかと。地図が常に表示されてるぶんには地図を覚えるんじゃないかあって気はします。
大北:車のカーナビ、Googleのマップの経路案内、自分の感覚、この3つだとどれが一番早いですか? イメージで。
ぜつ:イメージですよね。出発地点とゴール地点で違うんですけど、自分の感覚が一番いいかなと思います。カーナビで行ったところなんだけども、こっちのほうが近いよなというのはよく見つかることなんです。昔のカーナビは住宅街を出してたんですけど、今は危ないということで大通りを行かせるので、それと比較したら経験のほうが勝ります。Googleマップ、これもお客さんとちょっと感覚のズレがあるんですけど、最短ルートと最速ルートと最安ルートは全然違うんです。最短ルートは距離だけは近いって話ですけど、それが一番安いとは限らない。混んでる可能性があって混んでるとメーター料金上がっちゃうので。最速だと安いのかっていうとそうでもない。高速使ったほうが一番早いとか。
林 :「どの道から行きますか?」って聞くのはトラブル回避ですか?
ぜつ:ルート確認すると新人扱いされちゃうんですけど、あれしないほうがまずいですね。「新宿」っていっても、お客さんの頭の中にある場所はピンポイントなんですよ。でも運転手はそこらじゅうが新宿なので。南口だとしたらこんなルートですが、いや違う歌舞伎町の方だ、っていうケースはよくある。お客さんとの会話でピンポイントに絞り込んでいって、そうしたうえでのルートですよね。
大北:「どの道から行きますか?」「知らねーよ」ってやりとりありませんか?
ぜつ:ありますね。「運転手なんだから行けよ」って。
林 :全くわからないところで「あの道ですかね」って言われてもわかんないですよね。
ぜつ:運転手の聞き方もあると思うんです。僕は「このルートが一般的ですけどいかがなさいますか」って聞き方をするんです。知らない人はじゃあそれでっていうし、知ってる人はこっちでって言うし。
大北:トーク技術みたいなところだ。
林 :聞き方ですね。知らねーよって言われちゃいますからね。
ぜつ:そりゃそうなんですよ。「エネオスのところ左で」って、どこのエネオスだよって。
ぜつ:茶沢通り行きましょうか。茶沢通りは道路を渡る人が多いので、お客さんっぽいけどお客さんじゃない人が見られるところです。このラインも実はすごく激アツなんですよ。三茶から下北に行きたい人って電車を使うと相当大変なんですよ。タクシー使うと5分ぐらいでぴゅっと行っちゃうので。
大北:となると東京は南北のラインがアツいと。
林 :南北は交通の手段がないですもんね。
林 :見てるとちょいちょいみんな横断しますね。
ぜつ:あとバス停でバスを待ちきれない人の手が挙がるということもけっこうあります。バス停は意外と狙い目ですね。
林 :バスを待ちきれない。
ぜつ:あるいは行っちゃった系。あの人はたぶんお客さん。…違うか。はずれだ。これを走りながら判断しなければいけないので、新人さんって事故多発するんですよ。慣れずに。お客さんを探しながら、安全確認するってけっこう大変で。
林 :確かに。今完全にタクシー乗るのかなと思ったらただの横断だった。
大北:お客さんで「急いでるんですけど」ってパターン多いですか?
ぜつ:言われなくても急いでるんだろうなっていうのはいつも思ってますけどね。人によってはもっとゆっくり走ってほしいという人もいるみたいで。最初に「急いでないですー」って言ってもらうとめちゃめちゃありがたいです。ほんとは急ぎたくないんですよ。危ないので。
大北:何も言わないと急いでるんだなって思われてるんですね。
ぜつ:みんな絶対に経験あるんですよ。「なんでもっと飛ばさないんだよ!」って言われたり「黄色だって行けよ!」とか。そういうのがあるので、基本みんな急いでるのかなって。
大北:暴力事件みたいなものは多いんですか?
ぜつ:ほぼないですね。でもこれも場所によります。歌舞伎町とかでやってる人はたまに寸借詐欺みたいなものとか、わざとなんですけど、ドア閉めた時に足挟まれたみたいなトラブルに遭うことはあります。唾かけられたとかそういうのも聞きます。
林 :お金払わないで降りちゃう人いませんか?
ぜつ:います。「ちょっと今ないので家にとりに行っていい? 携帯置いてくから」って置いていった携帯がレプリカだったことはあります。
林 :ルパンみたいですね、
ぜつ:遠方行ったときは要注意ですね。1000円ぐらいじゃやってこないんですよ。「ちょっと埼玉まで行ってもらいたいんだけど、お金ないから家に取りにいっていい?」っていうのが怪しいので。「ちょっと荷物置いていってもらえますか?」って言いにくいんですけどね。なんのつもりもない人だったら嫌な気分になっちゃうので。
大北:「家までついていっていいですか?」って言うこともありますか?
ぜつ:ありますけど、ほんとにそれを計画的にやろうとしている人は全く知らないマンションで、しかも通り抜けられるようなところを選んでる。
林 :それって被害届出すんですか?
ぜつ:会社は出します、基本。ただ、捕まらないことが多いでしょうね。
大北:違法の白タクってばんばんあるんですか?
ぜつ:羽田空港とかで中国系の白タクを最近見るっていうのはよく聞きます。それはもうわからないんですよ。中国人だけがわかるアプリでやりとりして決済まで済ませちゃうので。一見するとタクシーかどうかなんてわからないんです。
大北:友達乗せてるのと同じですね。
林 :白タクだけどそんなにぼったくられることはないんですね。
ぜつ:中国語も通じるのでそれは乗るかなという気はするんですけど。日本の法律上はアウト。
林 :昔は終電終わったあとに白タクいましたよね。
大北:今はいないんですか?
ぜつ:今でもいるというのは聞くんですけど、かなり減ってると思います。どっち方面?みたいな。
林 :秋葉原にいましたね。でも20年以上前ですよ。
ぜつ:それやってたのも元タクシー運転手だって話も聞きますけどね。違反でクビになった人がやってるとか聞いたこともあります。
ぜつ:私が使ってる車はセダンタイプでドアがこう(パカッと)開くタイプなんですね。最近お客さんが乗ろうとする時に当たりそうな場所に立たれることが増えてきました。
林 :スライドに慣れちゃったからか。
大北:そもそもドアが自動で開くことってうれしいことなんですかね。
ぜつ:自動ドアですか。日本特有と言われてましたよね。今でこそスライドドアが海外でも流行っていると思いますけど、セダンタイプがこう開くなんてのは信じられないでしょうね。開ける方法三種類あるって知ってました? 手動とエアーと、電気。
林 :へえ!
ぜつ:昔は手動、手で上に上げると連動してバカって開くタイプ。デメリットとして後部座席にへんなクランク状の装置が付いちゃうんです。その次に出てきたのがエアータイプで。トランクにボンベを積んでいる。急な上り坂だと開かなかったり、走ってチャージされるので、同じ場所で何回も開け閉めできない。最近のハイブリッド車によくあるのが電気系で増えてると思います。後ろにも特に突起物はない。何回も開け閉めできます。
大北:実はタクシー激戦区みたいな街はありますか?
ぜつ:下北沢もここと同様に確固たる乗り場というのがないんです。22時ぐらいになると駅の方まで空車がきてぐるぐる回るようになるパターンですね。
大北:駅の構造とか、乗り場とかが決め手になるんですね。
ぜつ:流しタクシー的にはそういう場所を狙います。
林 :新宿池袋渋谷はタクシー乗り場がしっかりあるし。
ぜつ:ああいうところは乗り場から離れてる場所を狙いますね。
大北:NHK放送局とか渋谷でも外れたところにありますね。
ぜつ:NHKはちょっと特殊で車のナンバーの下1桁の番号と、月の日付が合ってる車しか入れないとか、たしかそういう条件があった。
林 :すごい。ラジオの「電話していい人」みたいですね。
大北:タクシー側のルールなのか、放送局側のルールなのか。
ぜつ:両方の取り決めだと思います。NHKの人たちって霞が関同様に上客なんですよ、関東一円に戻るので。それしないと殺到しちゃうんです。
林 :霞が関は並んでいいものなんですか?
ぜつ:霞が関は並んでいいんですけど、乗り場というよりは道路が広いので。
林 :夜になると個人タクシーがだーーっと並びますよね。
ぜつ:無法地帯。この時期になると乗せるまで5〜6時間かかる。そんだけかけても1万円2万円ぐらいの仕事になればもとがとれるという時期なんですよね。
大北:それはタクシーチケットという文化ですか?
ぜつ:だけではないですけど、基本チケットですね。
大北:タクシーチケットというのはどういうものなんですか?
ぜつ:それぞれの会社が発行しているんですけど、さっき言ったタクシー大手四社は一時期スクラム組んでて四社専用チケットというのを発行していたんですよ。四社のタクシーだったら金額書き込んで乗れますよっていうのを官庁とか有名な企業にバンバン配ってた。接待とかお客さんとかに、会社が渡してこのタクシー呼んでくださいって。そういう人たちって自腹じゃないので全然距離とか気にしないんですよ。電車が動いてようが何しようがタクシーで帰っちゃうので遠方に行きやすい。
大北:基本的には立て替え払いみたいなこと?
ぜつ:立て替え払いです。領収書とチケットをセットでテレビ局にこんなん出ましたけど払ってくださいってあとで請求がいく。それは完全な個人ではできないんですね。そういう意味で組合に所属するというメリットはあります。
林 :タクシーチケットや会社の呑み屋の宴会とか、法人利用がどんどんなくなってますよね。
ぜつ:そうですよね。もともとチケットをあてにする営業方法をしていなかったので、気にしてないんですけど。
大北:今は山手線の中の方はお客さん減ってそうですけど、外側は需要がそこそこあるんですか?
ぜつ:そうですね。たとえば世田谷は繁華街という感じではないですね。ベッドタウン。こういうところはローカルと言われていて、基本は駅付け。で、駅から住宅街までの繰り返し。回数勝負って感じですね。こうなると個人タクシーだと燃料費が気になっちゃうんですよ。会社だと数字上いっぱい走ってる人のほうが売上が上がるので、会社は走れと言うんです。個人タクシーだと燃料は自分持ちなので、なるべく燃料がかからない方法はないかなと駅付け。効率がいい。あと個人タクシーだと待ってる間に記事書いたりとか他の仕事が自由にできちゃうので。そういった意味でも駅付けのほうが効率はいいのかなという気はしますね。
大北:待ち時間って長いですか?
ぜつ:場所によりますけど、経堂だとだいたい20分に1回ぐらいですかね。
林 :たまに全然いないときがありますね。
ぜつ:タイミングですね。電車がちょうどいいのが来ちゃうと、全部はけて戻ってくるまでにちょっと時間がかかるということはあります。
取材協力
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