渋谷の1Fの店は一人用だと分かったそのつづき
前回の記事『「渋谷の一階は一人飯の店」飲食のプロと街を歩く』ではデイリーポータルZと同じ会社、東京カルチャーカルチャー飲食部門をプロデュースした株式会社ザップ・ダイニング インスパイアー代表の大橋義也さん、そして同社東京カルチャーカルチャー運営責任者松田さんと渋谷を歩いた。
飲食店目線で渋谷を歩くとどうやってこの高いテナント料を払っていくのか問題が目についた。センター街路面店は回転率を上げるためにラーメン屋やタピオカ屋が多かったり、なぜか残っている老舗町中華が実は売上優秀店だったり。渋谷の風景には理由があったのだ。
大橋さんは住まいも職場も渋谷だそうで、今回は渋谷のおすすめ飲食店を聞きながら、引き続き飲食の「へぇ~」を引き出していく。
渋谷は若者向けというわけではない
大北:渋谷は街として特殊ですか? 飲食において。
大橋:特殊というよりは、すべてが網羅されてる系ですかね。若い子向けの業態から、セルリアンとか桜丘に行けば高級レストランもありますし。若者向けってところにフォーカスしがちですけど意外となんでもある。
飲食においてはメニューが何より大事
大北:店を作ってくれと言われたときに、どのへんから考えていくんですか?
大橋:2パターンありまして、お客さん側に明確にやりたいことが決まってるパターンがひとつ。もう一つは物件を持っているんだけどここでなにかできない?というパターン。前者の何かをやりたい方のほうが多いですね。でもこれだけ空き物件が出ているので今後は変わってくるかもしれない。空きテナントをどうするかというのは今後一番の課題になってくるんじゃないですかね。
林 :リスクがなく利益が出そうなものないですかね~?って。
大橋:事業なのでリスクがないことはありえないんですけど、さっきの渋谷に天ぷら屋が少ないとかそういういろんな角度から考えて、あとは自分の得意としていることや自分のコンテンツをはめこむことによって成功する確率を上げていく。
林 :空いてるところを狙っていくんですね。
大北:たとえば「ハンバーガー屋をやりたいです」ってなった場合、どういうところから考えていくんですか?
大橋:やっぱりメニューですね。レシピがないなら作らなければならないのでメニューの開発がメインになりますね。
大北:最終目標は売上があるかないか?
大橋:飲食の場合は安定的に利益を出していけるかどうか。たとえば最初の半年だけ利益が出て、あとは赤字だとやっても意味ないですから。
大北:その要因として大きいのはどのへんになりそうなんですか? 人の流れ?
大橋:飲食における一番のポイントはメニューの満足度ですね。
林 :「立地が全てだよ」なんて話じゃなくて、やっぱりメニュー。
大橋:メニューとか業態が確立されている場合は、あとは立地だよねって形になるんですけど、本質的にゼロベースで考えた場合はメニューと価格。そこが一番重要ですよね。
大北:メニュー超重要なんですね~。
世界一の飲食店数でどうやって目立つか
大北:磯丸水産はもう長いことありますね。
大橋:漁港をイメージされてるんですけど、あの見せ方は当時他になかったですから。
松田:大漁旗を飾ったり。
林 :ああいうのがあるとお客さんは増えるものなんですか?
松田:雰囲気が出ますね。
大北:雰囲気やコンセプトを作るのけっこう重要なんですか?
大橋:重要ですね。世界的に見ても人口の比率で考えて、飲食店の数が最も多いのが世界で東京なんですね。人口比率で※。その中で飲食店舗が多いって形になってます。
林 :多いなとは思ってましたけど世界で一番なんですね。
大北:多いからどこかで目立つ必要があるのか。
※1位かどうかのソースは検索では出なかったが、東京は1000人あたり6~7店あって世界主要都市でもとりわけ多い。コロナ禍前のデータであるが
林 :タコスって好きなんですけどあんまり流行らないですね。
大橋:シナモンロールがイマイチ流行らないのと同じで、日本人の味覚にあまりなじまないんですよね。文化とのマッチング度が高くない。小型店舗で個人店でやってる方はいけるけど、フランチャイズ化して多店舗展開できるかとなると、なかなか難しい。
大北:うまいまずい以外でなじみがある/ないって大きそうですよね。
歓楽街の焼肉屋はアフターのためか
大橋:ここは渋谷でいう歌舞伎町というか。裏通り。飲み屋さんもあってファーストフードもあって、普通の店もあるんだけど風俗もあって。そういうエリアです。
大北:沖縄を歩いた時に地元の人がこの辺は風俗街だから肉を食わせる店が多いんだみたいなことを言ってたんです。関係あるんですか?
大橋:キャバクラとかお姉さんとアフターに使うといったときに、通常よりも単価が高くても使ってくれるような意味合いはあるのかもしれないですね。
林 :歌舞伎町の叙々苑ってそのためにあるんだ。
大橋:あと閉まっちゃった焼肉屋さんが渋谷にあるんですけど。オープン前に億ぐらいかけて作ったと思うんですけど。
松田:オープンしてすぐにコロナで、1年間ちゃんとした営業時間で営業できなかったんですよね。
林 :億っていうのは。
大橋:僕が算出するに、1億5千はかかってると思います。
林 :見てわかるんですね。
大橋:一坪だいたい100万ぐらいで施工費を計算していただければ。
林 :一坪100万とか一坪売上20万必要とか、飲食界隈では単位が坪なんですね。
松田:繁華街にある姉妹店も大ダメージ食らったと思います。夜の営業がなくなって。アフターで来る人たちが来ない。
林 :一億かけてガンガン儲かる予定だったのが。
大北:いやー、これは読めないですよね。
大橋:ここは優秀なお店ですね。
松田:大衆ビストロ。イタリアン、フレンチって高いイメージがあったのを安く食べさせる。
大北:ます家5。なんか居酒屋っぽいワインの店あるなとは思ってましたが、人気店なんですか~。優秀かどうかってどいういうのでわかるんですか?
大橋:実際に食べての価格満足度。あと外から見る分にもお客さんが絶えず満席ですね。
大橋:これはカレーではなくて、豚カツにフォーカスしてる。カレーで一番単価が取れるのは豚カツなので(※この店のメインメニューである男気豚カツカレーは1280円)。豚カツが大きく平たく見えてる。
林 :カレーで一番単価取れるのはカツ。
大北:今後とんかつのことを「カレーのそばに置いたら一番単価が取れる」と思って見るんだろうな。
大橋:真正面に見えるのが、いきなりステーキに対抗して出てきたステーキロッヂ。
林 :パンチョと同じ店なんですか?
大橋:パンチョさんと同じ系列ですね。山小屋でお肉を食べているような雰囲気。価格も980円〜と書いてあるので、意外と安く食べられるイメージを出してますね。
林 :3桁の値段を出すことが大事。
大橋:大事ですね。980円のメニューはメインじゃないですけど、1980円を前に出すよりは。チキンステーキで安い面もありますよ、って。夜のメニューの価格を大きく出してないのはそういうこと。
林 :一回行きました。他にも色々あって「柔らかい」とか書いてあるのを頼みたくなっちゃうんですよね。
大橋:実際食べるとサラダ、ライスセットを付けて2000円近くかかったりしますが、満足度はありますね。ここはがんばってらっしゃると思いますね。 自分も良く利用しています。
渋谷七不思議の一つが解消
大橋:最近の渋谷ネタとしてマークシティの南館にいろんな飲食店やサービス業態が入っていたんですけど、一挙に全部ダイソーに変わったんです。ものすごい人が入ってる。渋谷のもうひとつの七不思議※で今まで(大きな)100円ショップがなかったんです。
※お好み焼き屋がない、天ぷら屋がない、という大橋さん独自の渋谷七不思議
渋谷の行列店に行く
大橋:これです。夜パフェ専門店。
大北:流行ってるんですか。
大橋:ここはコロナ関係ないんじゃないですかね。フルーツパーラーはふつう一階の路面とかわかりやすいところにあるんですが、ここは夜パフェって形にしているので、あえて上の階。ネットだけで拡散。
大北:渋谷の行列店ってそんなに多くないんですか?
大橋:多くないですね。夜中までやっていてこの階段下までずっと並んでます。まあまあ金額がするんです。1600円なんてラーメン2杯分ですからね。みんなインスタにあげてます。
大北:集客でSNSが影響及ぼしたのは何年ぐらいからなんですか?
大橋:ここ 5年ぐらいじゃないですか。
大北:今はそれを狙おうっていう流れなんですか?
大橋:当然それをうまく活用してということにはなっていくと思います。
大北:夜パフェは追随者が出てこないんですか。
大橋:これから出てくると思いますよ。
大北:やっぱり出てくるんだ(※前回の「飲食店はマネしてOK」の流れ)。
林 :パフェ1600円か~、千疋屋とか行ってもかなりしますもんね。そしたらちょうど渋谷で夜で甘いものっていうのが空いてたということか。
大北:行列って作らせたほうがいいんですか? ラーメン屋さんとかで席数を少なくして行列を作るみたいなのをコツとして書いてたりするじゃないですか。おい~そんなひどいことをやっていいのかって思ったんですけど。
大橋:並んでても食べたいと思うのはよっぽどですから。そうさせるようにみんなどうするか考えているんですね。
大北:行列の集客効果はすごいんだ。
大橋:最近渋谷で並んでる光景を見るのは夜パフェさんと明太子スパゲティ。宮益坂にあります。
林 :明太パスタとか嫌いな人がいない料理だから。
大北:専門店ができると人が押し寄せる。
林 :そういえば豚カツもカツカレーも嫌いな人いないもんな。
林 :フレッシュオーワダ。
大橋:日本が世界のドリンク市場でと比較して最も違う点はなにかというと、スムージーとプロテイン飲料みたいな健康飲料業態店舗が日本は圧倒的に少ないんです。欧米はすごく多いんです。プロテインバーやスムージースタンドとか。でもそれは狙い目ではないんです。日本人の文化と外食行動にあまり馴染んでないんです。
大北:空いていても狙い目ではない。
林 :タコスみたいになっちゃう。
大橋:外で飲むという文化があまりないんです。
ジャンルのイメージで値段が変わる
大橋:普段はこのへんまで並んでいるんですけど。
林 :ここってかつやじゃないですか。
大北:かつやがスパゲティ屋になったんだ(※母体は同じアークランドサービスホールディングスのよう)。
林 :へぇ!
大橋:今まで飲食店で明太子は保存が効くチューブのを一般的に使ってたんですね。ここはほんとの生たらこを使って、おいしいたらこが食べられるパスタ屋さん。
林 :これは来たくなりますね。
大北:おっ、1000円で食べられるんですね。
大橋:1000円って言ってもパスタだけなのでまあまあな金額ですね。ラーメンとかパスタはそんへんがマジックなんです。ステーキ定食1380円って聞くとまあまあな金額かなって思うけど、パスタの900円とか1000円はあまり高く感じない。
林 :パスタって買うと安いですよね。
大橋:めちゃくちゃ安いです。
松田:ここはオープンしてすぐにコロナになりましたが、コロナの真っ只中でも行列ができてました。
林 :へぇ!
松田:おそらくSNSの活用がうまいのかも。オープンの時もプロモーションを大々的にはやってなかったと思います。なのにすごい並んでる。
渋谷は会話に力を入れてないお店が多い
大橋:もう一軒ご紹介したいのが鬼亭さんっていう鶏の専門店。テーブルで焼く鶏の専門の焼肉屋さんなんですけど、食べログでかなりの高評価。予約も普段取れない。ここはそこそこします、一人5000円ぐらいは。
大北:普通の居酒屋の客単価はどれぐらいなもんなんですか?
大橋:2000円から3000円ぐらい。
大北:決まってるわけですか?
大橋:だいたい決まってますね。
大橋:ここは大山鶏がメインなんですけど、何食べてもおいしいのでおすすめです。女将がいて「これどう? これもおいしいわよ」っていろんなおすすめをしてくれます。渋谷の特徴として、従業員の方と会話ができるお店が少ないんですよね。
大北:経験の浅いバイトが多いってことですか?
大橋:サービスとか接客に注力している業態が少ないってことですね。逆にシステマチックな業態が多い。
林 :タメ口で勧めてくる店はいいですよね。そんな乱暴でもなく。
大橋:10代の人に言われたらカチンとくるけど、着物着た女将みたいな人に言われると「あーそれも!」って。
大北:「どう? おいしいでしょ」って言われるのも気持ちいいものですよね。
大橋:食べ方のコツを色々教えてくれるので。
大北:でもあれ「おいしいです」としか言えないですよね。それも含めてコミュニケーションなんでしょうけど。
大橋:実際にすごくおいしいんでね。
林 :あれって凝ったことを言わなくても平気ですか。気の利いた美味しさを言わなくちゃって。大丈夫ですか?
松田:いいんです、おいしいとしか言わなくても。
林 :一時期オイスターバーってありましたけど、落ち着いているんですか?
大橋:オイスターバーはオイスターバーで確立してますから。コロナ禍の中でポイントとしては自宅で作れない業態。うちがやってるのだとベトナム料理。あとは焼き肉とかに関してもなかなか家ではできない。
いかに人を減らせるかのシステム
大橋:ここのてんやさんはセルフスタイルのモデル店舗。外の券売機で買って、座って待ってて、番号を呼ばれたら取りに行って。食べたら下膳場所まで下げる。ホールスタッフがいない店舗。ここでシュミレーションされたそうです。
大北:飲食においてはシステムめちゃめちゃ大事ですかね。
大橋:業態によってはそうでしょうね。サービスに力を入れてるところは求めないでしょうけど、セルフやオートメーションが大丈夫な業態であれば積極的に取り入れたいと考えると思います。。
大北:大橋さん的に今まで革命的だったシステムはありました?
大橋:メニューがタブレットやスマホでオーダーできるというのがね。昔は。
林 :もう居酒屋はあれになりましたね。
大橋:すみませーんって聞きに来て、打っての作業がなくなりましたね。コスト削減につながる。
林 :バイト一人減らせる。
大橋:わざわざ呼ぶ必要がないから、これも頼んでみようってオーダー数が増えるんです。
林 :あれおもしろかったら頼んじゃうよな。
見せ方でプロントのパスタが変わる
松田:こういう見せ方もおもしろいですよね。低価格なパスタなんだけど、黒でシックな感じで見せて、高級感も見せながら価格は安い。そのギャップを狙ってるんですよ。今までこういうスタイルってなかったと思うんです。
大北:あーなるほど、たしかに高そうだけど普通のパスタだ。
大橋:デザインをシンプルにまとめつつ。
林 :おもしろいな~。安いですね。
大橋:瞬間的に茹で上がるパスタですね。パスタは一番のネックが茹でる時間。家庭にあるパスタだと7~8分ですよね。今は途中まで茹で上がってて、中に切れ目が入ってるパスタがあって、それをさっと茹でると瞬間的に出来上がる。
林 :家でもそれで食べたいな。
大橋:グローバルダイニングさんが東京都を訴訟したって話題になりまたけど、そこにいた方が独立されて作られた大型飲食店がこのリゴレット。今は大型飲食店に対する補助金が十分じゃない。5坪の店だろうが、100坪超える店だろうが1日4万円とか。
※現在は過去の売上に応じての支援金になっている模様。
林 :飲食店って内装にお金かけて、客単価3000円で回収してくと何年ぐらいで回収するんですか。
大橋:それぞれの飲食企業さんで考え方はそれぞれですけど、一般的に減価償却と言われてるのは10年ですね。10年で見る方もいるし、今は5年でみられる方が多いんじゃないですかね。僕らは3年でしかみてない。
松田:そもそも10年ってボロボロになってますからね。
林 :会社の報告の会議で、カルチャーカルチャーだけ備品が壊れた話をずっとしてますね(笑)。
チェーン店の方が撤退が早い
大北:今やっぱり大変な時期なんですね。
大橋:今まで都心の商業ビルとして日本では有り得なかったテナントの歯抜け状態がどんどん始まると思うんです。今まではなかった光景です。商業施設は作れば大抵埋まりますし。
林 :さっきのサンマルクカフェみたいなチェーンみたいな店も抜けちゃうのを見ると厳しいですね。
大橋:チェーン店は決断が早いですね。しかも大手のほうが早いです。シュミレーションの計算がきっちりできているので、無理だと思ったらパーンと撤退する。個人店さんのほうがどんどん被害が大きくなっちゃったりするケースが多いと思います。
20時以降もやってるエリアに行く
大橋:この辺りは20時以降も営業しているお店が多いエリアです。
大北:ゾーンごとそうなんだ。
大橋:この店も未だに「23時閉店」って書いてますね。
林 :ほんとだ、前のを変えて23時にしてる。アルコール飲み放題。
大北:これって営業してもいいんでしたっけ。
松田:最大で30万までの罰金ですが、営業しているお店が少ないからお客さんが来るのでやったほうが儲かるのかもですね。
大橋:時間短縮等はあくまでも要請なので経営が厳しい店舗は営業しないと潰れてしまいますからね。潰れてもその補填はしてくれないので、微妙なところですよね。
人通りで流行る店もある
松田:さっき中華料理屋見たじゃないですか。ここもすごいお客さん。
大橋:ここははっきり言って、この味でお客さんこんなに入るんだっていう店。普通美味しくなければお店ってダメになるんですけど、一階路面でいろんなお客さんが絶えず通る場所だとそれでもなんとかなっちゃうパターン。来るお客さんが毎日違うんですね。
大北:一回まずい店を探してた時期があって今全然ないんですよ。こういう場所をあたればいいんですね。
そうなってたのか渋谷の飲食店
理解が深まり認識が改められた。もう今後は飲食店でうかつに長居はできなくなってしまった。行列店を見たら検索して「元はかつやか」とか思うようになってしまった。
渋谷は食べるところに困るなーと筆者個人としては思っていたが、それは高いテナント料を乗り越え、生き馬の目を抜くような苛烈な戦いを勝ち抜いた店舗だからかもしれない。みんなそれぞれ理由がある。飲食店が多い渋谷の風景にもそれぞれ理由があったのだ。
最後に大橋さんがおすすめしていたがルートになかった店舗を照会して終わろう。
林 :美味しいお店他にありますか。
大橋:今日行かなかったですが、セルリアンタワーの近くにローディっていうイタリアンのラウンジスタイルのお店があるんです。オーナーさんがソムリエなんですが、女性と食事をする時に超おすすめです。