特集 2020年8月25日

植物図鑑を作ってる人と街を歩いてへぇへぇ言わされたい

根っから植物好きで植物図鑑の編集をしている方と街を歩く

家の近所を散歩することが増えた。そこらに生えてる雑草でも知っていたらこの風景も一変するのだろうが、調べるのも面倒だ。だれか詳しい人と街を歩いてひたすらへぇへぇ言わされたい。

そんな堕落した知の欲望をかなえるべく、小学館の植物図鑑の編集者である小林さんと東急池上線の久が原あたりを歩いた。

動画を作ったり明日のアーというコントの舞台をしたりもします。プープーテレビにも登場。2006年より参加。(動画インタビュー)

前の記事:「今日はチャーハンの口になっている」を人為的に作り出す

> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

今回案内してくれるのは『図鑑NEO 花』『図鑑NEO 植物』『花と葉で見分ける野草』などを手掛ける小学館の編集者小林由佳さん。

訪れた街は小林さんの地元東急池上線千鳥町~久が原周辺。大田区の蒲田と田園調布の中間あたりにあるちょっと高そうな住宅街だ。

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小学館の『図鑑NEO 植物』などの編集者小林由佳さんと東急池上線千鳥町~久が原周辺を歩く

エノコログサは猫じゃらしなのに犬

たとえばこういう草もすぐわかるんですか? と、目についた猫じゃらしについて聞いてみたところ「あー、エノコログサですね。エノコロってワンコロって意味なんですよ。だから猫じゃらしって俗称には猫がついてるけど正式名称は犬」とスラスラ答える小林さん。

すでにへぇ~である。私たちのへぇ銀行が今日はデフォルトを起こすかもしれない。こういう「へぇ」を今日はあと13回やります。

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例えばこれもわかるんですか?「あーエノコログサですね。エノコロって犬って意味で…」

小林さんは図鑑で育って図鑑編集者になった 

小林さんはただの編集者というわけではなく幼少の頃より植物図鑑に慣れ親しんで育ってきたそう。

小林:幼稚園に入る前から植物とか好きで「これ何? これ何?」ってずっと聞いてるから親が図鑑をくれたんですけどそしたらすごい覚えちゃって。就職して山とか行くようになったら本当に図鑑で読んでた通りのがいっぱいある! みたいな感じでおもしろくて

すごい。図鑑作ってる人ってほんとに図鑑好きなのか。世の中はうまいこと回っているな…

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小林さんが編集した図鑑NEOのポケット版とともにめぐる。小林さんは幼少の頃より植物図鑑に慣れ親しんで育った筋金入りの植物&図鑑ファン

オシロイバナと毒の話

小林さんが次に指差したのは線路脇に咲く紫の小さな花。

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オシロイバナ。奥が長い花は蛾や蝶などのストローを持った虫が媒花する

小林:これ、オシロイバナなんですけどもっと遅い時間に咲くんですよ。これって花の奥の方が長いじゃないですか。ここが長いのは蝶とか蛾とか口にストローがついてる虫が媒花するんですよ。

花の奥が長いいわゆる「花!」って感じのものは蝶や蛾を対象にしたものだったのか。その辺りからもうへぇ~である

小林:この場合スズメガなんで、スズメガって夜にしか飛ばないから夜に咲くんですけど、この後もうちょっと遅くなると多分満開になりそうですね

林:へぇ~植物ってそんなすごく理にかなってるものなんですね!

小林:そうです。あとこれオシロイバナの由来になったのがこの実なんですけど、割ると白い粉が出てきてこれを江戸時代とかにおしろいとして使ってたからオシロイバナっていう名前の由来になったといわれています。

林:へぇ~。でもこれだとおしろいにするのけっこうとらないとだめですね

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オシロイバナは実の白い粉末を江戸時代におしろいにしていたことから。毒らしい

小林:そうなんです。でも厳密にはこれ毒なんですけどね

林:昔の人は毒をおしろいに使ってたんですか?

小林:でも今もそうじゃないすか? 化粧水をごくごく飲んだら毒だし。植物やきのこの毒も同じで。

よく「毒って書いてあったけど別の図鑑には食って書いてあるんですけど」って意見がくるんですが、難しいんですよね。例えば牡蠣って毎年すごい食中毒出ますよね。あれを「毒」って書くか「食」って書くかってことなんですよ。

植物やきのこだと牡蠣みたいにメジャーじゃないから「毒」って書くと「うちの地域では食用にしてるんですけど…」ってなるので「食」って書くんです。

でも「食」って書いてあるものほど「毒」になる可能性も高いんですよね。牡蠣みたいに美味しそうなものは中毒覚悟でトライする人が多いじゃないですか。「食」とも「毒」とも書いてないものは「何となくマズそうなので誰もトライしないもの」だったりします。

へぇ~、食であるものほど毒、毒でないものは誰もトライしないもの。小学校の校長先生はこの辺りの文言を朝礼にご活用ください

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公園に行ってみましょうとなってくさっぱら公園という公園に来た

今歩いている千鳥町~久が原の住宅街は小林さんの地元なので植物の多そうな公園を案内してもらった。こちらのくさっぱら公園は昔からその名のとおり草ぼうぼう主義の公園だそうだ。公園ってこんなに文字通りにするものなのか…

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この公園、全部草もじゃもじゃでなるほどこれがくさっぱらかと
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ホウセンカ。潰すと弾けるやつ。やってみました。まだ生育が足らなくてパチンッとまでは飛ばず

 

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「これオオバコなんですけどこうやってバリッと破るとふわふわの糸状の繊維が残って……あれ? これヘラオオバコかもしれない」植物の同定は難しいようだ

ホウセンカでは種をはじけさせ、オオバコの葉は葉脈のスジを残してバリッとやる小林さん。これらは草花あそびとしてよく知られているものだそうだ。草花あそびというジャンルがあるのか…

 

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「これオヒシバでもうひとつはメヒシバってやつで…」どっちがどっちかわからなくなってしまった
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「メヒシバのかんざし作りっていうのがあるんですよ」へぇ~、こういう遊びあるある

小林さんは植物を使ってちょっとした遊びを紹介してくれる。これらの遊びは伝承されていくものでもあるし自分でも作るらしい。「新しいの発掘しないと子供が飽きちゃうから」だそうで、草花あそび研究会という集まりもあるそうだ。

幼稚園の先生がどこかから仕入れてくるこうした遊びにもプロたちがいるのだ。へぇ~

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ヨウシュヤマゴボウといって別名がインクベリーだそう。これよく見かけますね「そうですね、けっこうすぐ生えてきちゃうからかも」

 

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インクくらい色がつくから英名はインクベリー。なるほど! しかし毒なんだそうだ

 

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アベリアという花は蝶に花粉を運んでもらうためにこんな形をしている

小林:これはアベリアといって、マルハナバチや蝶や蛾の媒花(虫媒花:虫に花粉を運んでもらう)なんですけど、小さくて花の奥の方が細いじゃないですか。こういうのは大体、蝶や蛾狙いなんですね。媒花する虫を絞ることによって同じ種類の別の花に花粉を運ぶ打率を上げるっていう作戦なんです。

なるほど、同じ花にたどりついてもらいたいのでそういう戦略をとるのか、へぇ~

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小さい蝶狙いなので奥に蜜があってほんの少し甘いそうだ。サルビアとかももしかしてそうなのかな

 

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「ローリエですよ、使おうと思ったらこのまま使えますね」この家はローリエの下にローズマリーを植えている。植物は虫のために形状を最適化し、家は料理のために最適化した植物を植えている
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林「これモヒートにするとうまいやつだ 」小林「モヒートはミントですね」すいません、実は私たちは過去にその辺の雑草をモヒートにする会を開いていたんです
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記者が来ると本当に嫌

くさっぱら公園を出て久が原の住宅街を歩く。立派なお屋敷が多い。会社の社長の家も多いらしい。検索をすると

「数十年前、この辺の住宅地を大企業の勤め人にたとえれば田園調布は社長クラス、久が原は部長クラス、雪谷は課長クラスが住む地域と言われたものですよ」参考:暮らしワイドな窓No.884

という一文にあたった。部長どころではない「はっきりと立派な」感じがこの辺の家にはあるが。

小林:新井将敬さんていう政治家の家があって、品川のホテルで亡くなった事件があって。その向かいが友達の家なんですけど、張り込んでた記者がみんな自分ん家におしっことかしてて本当に嫌だって言ってました。この辺コンビニとかない住宅地だから
林:へぇ~、久が原昔ばなしですね(笑)

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碁盤の目状の久が原の住宅街。社長の家も多いらしい。
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「これはトクサですね。恐竜画とかにも出てくる太古からある植物です」

小林:これはトクサっていう恐竜とかの時代からある植物なんですけど、すごいヤスリみたいになってるでしょう。これをね切って、ビッグダディが「こうやって歯を磨くんだよ」ってテレビで言ってました。

へぇ~、植物に詳しいとビッグダディの歯の磨き方まで知ることとなる。(ビッグダディがどういう文脈で言ったのかは定かではない)

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イヌホウズキ? アメリカイヌホウズキ? 私たちにはわからない違いがあるらしい

小林:これはイヌホウズキっていって毒なんですけど。白い花が咲いててトマトっぽい実がなるのがだいたいナス科で。でもアメリカイヌホウズキかな、どっちだろう?

といって図鑑をめくる小林さん。白い花とトマトっぽい実はだいたいナス科。へぇ~。これを座右の銘にしよう(ちなみにそれまでの座右の銘は「生殺与奪の権を他人に握らせるな」鬼滅の刃より)。

小林:あれ? アメリカ載せてないのかな私…、あ、あった。これは光沢があるからアメリカイヌホウズキですねこっちは外来種。両方とも毒です

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実に光沢があることからアメリカイヌホウズキだと判明

ところでそもそも図鑑に載せる植物はどうやって決めるのだろうか

小林:植物って分かってるものだけでも何千種もあるんですよ。でも図鑑って最大でも1200種とかしか載せられなくて。その1200をどれにするか、テーマを決めて学者の先生と取捨選択するって感じなんですけど

林:へぇ~。これは絶対載せたいとか揉めたりします?

小林:揉めてる編集者ってだいたいフィールドに出てなかったりして。家の近所に咲いてるやつ絶対載せたい、みたいな変な固執とかしちゃう人の場合揉めますけど。ある程度分かってればそんな変なことにはならないですね

──基本的には「フィールドに出てるとよくあるやつ」っていう基準で選ぶんですか

小林:子供の図鑑でいうとそうですかね。大人向けの高山植物系とかだとすごいマニアックなもの、登山の時に見るものとかもあるかもしれない

──これがよく咲いてるとかよく知ってますね!

小林:パッと見て「こんなの私の子供の頃にはなかったけど増えてるな~」とかなんとなくありますね

林:へぇ~、そういう目で世界が見えてるんですね

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椿の実。小林「実の中に油っぽい種が入っててこれをすりつぶすと椿油に」

小林:これは椿の実ですね。この実の中にすごく油っぽい種が入っててそれをすりつぶすと椿油になるんです

林:へぇ~! 植物の椿と知ってる商品とが今やっと繋がりました!

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ソテツの実は毒がすごいのに、飢饉のときに食べられていた救荒植物だそう

ところで椿って毒あるんだっけないんだっけという話から毒の話に。

林:昔の人、毒があっても平気で中だけ使ったりすごいですね

小林:ソテツとかそうですよね。こういう感じでヤシの木みたいに上にいっぱい実がつくんですけど。これを毒抜きして飢饉の時には食べたらしいですね。食べられるものをみんな食べちゃうから本当に困った時の食べ物として毒があるものを毒抜きして食べるんですね。

林:うわ~。食べるなって警告を発してる感じの色ですよね

ソテツは救荒植物といって、実や幹のデンプンを毒抜きして食べることがあるそう。毒抜きの工程は複雑で戦前には「ソテツ地獄」という多数の中毒者を出した飢饉もあった。Wikipediaが読み応えある。

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オリーブの木は小林さんの言う「オリーブ植えてそうな家」にありました。たしかに!(というか実際に植わっているので)

林:おお、モサモサして野趣あふれる家ですね

小林:オリーブ植えてる、ああ、オリーブ植えそうな小洒落た家ですね。これがオリーブの葉っぱ

林:国旗とかになってるやつですか?

オリーブは国連の旗に使われていて、他にもキプロス共和国やエリトリア国(東アフリカ)に使われている。ちなみに月桂樹はメキシコら4カ国、ヤシはハイチ、ペルーら5カ国に使われている。へぇ~、だがこれは検索のへぇ。

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小林:ここで露出魔、変質者を小学生のころ、見たんですよ

久が原のアンダー・ザ・レインボー

小林:あっ! 私昔ここで露出魔を見たんですよ。雨上がりで、なんかまさにこういう感じで向こうから日があたって。そしたら後ろに見事な虹がかかっていたんですよ。

林:へぇ~(笑)こんな高級お屋敷街でも出るんですね

──虹を背負ってる変態が(笑)

小林:すごい覚えてます、逆光で、虹の。だから彼にとって見せたいところがよく見えないんですよね。神秘的な感じ。

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小林「逆光で見せたいものはよく見えなかったんですけど、空に虹がかかっててきれいだったのをよく覚えてます」すごいな!!
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これアカメガシワっていうんですけど赤くなってるのは新芽を守ってるんです

小林:これがアカメガシワって言って、もっとここ赤いんですよ。擦ってみてください。もっともっと強く。そしたら赤い毛がね、とれてつるつるになるんですよ。この赤いので強すぎる日光とかから新芽を守ってるんです

林:でもとっちゃったじゃないですか…

小林:ゲラゲラ~(笑)赤い新芽の葉っぱって多くないですか? 街路樹とかでもありますよね。ああいうのはだいたい新芽を守ってるんですよ。いつか緑になるんですけど

赤い植え込み、あるある。あれは新芽を守っているのか。なんとなく「和」とか「雅」とか感じていたが車の「赤ちゃんが乗っています」くらいの意味だったのかもしれない

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アカメガシワは本来もっと赤くなっていて、こすると赤い毛がとれて緑の葉が見えるのでおもしろいそうです。これは図鑑ポケットから

 

図鑑編集者の小林さんとめぐる久が原ツアー、住宅街だし酷暑の中行われて心配したがそれでもさすがにへぇへぇ言わされつづけた。住宅街でも見るものあるし見る目が変わるな…。まだまだ植物のかしこさや力強さにへえへえ言わされつづける続きが2週後に公開予定です
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