特集 2020年9月1日

植物は進化の先を行く!植物図鑑を作る人と街を歩いてへぇ~と言わされたい

植物図鑑の編集者小林さんと東急池上線久が原駅の住宅街を歩く

街を歩くと植物があり、きっとその一つ一つにまつわる知識があるのだ。しかし私は知らない。勉強をしていないから。

植物図鑑を作っている小林さんは子供の頃から生粋の植物図鑑ファンだ。そんな小林さんと街を歩けば知識のおこぼれをいただけるのではないか。

そして私達の知識の無賃乗車が始まった。

動画を作ったり明日のアーというコントの舞台をしたりもします。プープーテレビにも登場。2006年より参加。(動画インタビュー)

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コロナ禍で植物図鑑めちゃめちゃ売れたらしい

前回にひきつづき『図鑑NEO 花』『図鑑NEO 植物』『花と葉で見分ける野草』などを手掛ける小学館の編集者小林由佳さんと小林さんの地元でもある東急池上線久が原周辺を歩く。前回もへぇへぇ言わされまくったが今回は「ほぉ」と言ってもいいくらい、より深いへぇが出まくる。

ところで小林さんによると今年の緊急事態宣言で植物図鑑がよく売れたそうだ。みんな近所を散歩しているのだろう。

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久が原の住宅街にある「元タイヤ公園」と呼ばれる小さな公園に来ました。藤棚は決まってフジが植えられているそう。

──藤棚にあるのってもれなく藤なんですか?

小林:そうです、フジです。手入れが簡単なんじゃないですかきっと

林:フジってこういう柵があったらこんな風に絡まってくれるんですか?

小林:ブドウ棚とかと一緒ですよ、朝顔とかも誘導したら行くじゃないですか

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フジのつるが絡まり先を探して伸びてきている。写真左が図鑑編集者の小林さん、中央にデイリーポータルZ編集部林さん
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フジはマメ科なんだそうだ。これは図鑑NEO『花』のページ。こうした同じ種類で並べるのがこの図鑑の特徴だそうだ。そしてイラストでなく写真を使ったこと(※図鑑NEO『植物』の方はこの形ではない)

図鑑の作り方が変わった

小林:やっぱりこうやって花のアップだけ見ると「フジもマメ科なんだ」ってなりません? これいい図鑑なんですよ~! 花の形で種類がわかるんです。

この図鑑は近い種類のものを集めて並べていて。同じ科で並べる「分類順」という形式なんですけど。今までの子供向けの植物図鑑って「春の花」みたいに季節で分けたり「山の」とか「街の」とか場所で分けたりしてたんですよ。それが子供の頃に使いづらくて。

たとえば花期が長い花って、探しづらいんですよ。温暖化で季節めちゃくちゃになってきてるから、夏のページ見てたら春の方に載ってたり。

ほかにも従来の植物図鑑ってイラストだったんですけど写真にしたんです。私は絵だと実物と合ってるのか確信が持てなくて。これは七年間かけてきのこカメラマンの方に白バックで写真撮ってもらったんですよ。それが千種類ぐらいたまったから図鑑にしたんですけど。そしたら他の出版社もみんな白バック写真にしてきて、今これが主流になっちゃって。あと、さっきの「分類順」っていうのも主流になっちゃって。

林:へえ~、でも図鑑って編集視点がすごいあるんですね

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「フジはマメ科なので豆がなります」たしかにでかい豆を藤棚でとった記憶がある

ワカメとクズ、あいつらはヤバい

小林:フジはマメ科ですけど、同じマメ科にクズっていう、根っこから葛粉がとれる植物があって。秋の七草の1つでもあるんですけど、外国では今これめちゃくちゃ増えちゃってアメリカでは厄介な外来生物の扱いなんですよ。日本でもアメリカから来た外来生物が問題になりますけど、その逆バージョンです。

海藻のワカメもそうで、世界を行き来するタンカーが日本で汲み上げた海水にワカメの胞子がまぎれこんで、世界に広がったといわれてます。ワカメを食べる文化って韓国と日本くらいしかないらしく、それ以外の国では全然減らなくて、海がワカメだらけになってしまうらしくて。

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小林「ほらオシロイバナ(※前回登場)が夜になってきて咲いてる。多分さっきのも咲いてると思いますよ」
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小林「こういう風にしてパラシュートっていう草花遊び。っぽく見えますよね」

 

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林「これ廃線跡かもしれないと思って測ったら1050mmだからなんの電車とも関係ない。ただの用水路あとですね」小林「これスベリヒユっていっておひたしにして食べられるらしいです」誰もいない住宅街でも忙しい人たちだ

 

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林「ちっちゃくていいガードレールですね」大北「人生で一番狭いガードレールは久が原にありました!」

 

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小林「あ、きのこですね」

住宅街にキノコ登場

小林さんの得意分野であるキノコを発見。

小林:キノコって住宅地にはあまり生えてないんですよね。基本的に腐った木材を分解する(土に戻す)から、もっと森のある高尾山とか行ったら生えてると思うんですけど。都会で見るときは枯れ木や、チップがひいてある公園とか。

林:へぇ~

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名前がわからないキノコ。キノコはそもそもわかってるものの方が少ないらしい

キノコもナメクジも分かってる方が少ない

小林:硬いキノコ、サルノコシカケ系のキノコで何かはわかんないです。キノコは分かってるものの方が少ないんですよ。

林:へぇ、まだ命名されてないような感じですか?

小林:そうです。植物の方は名前はほぼついてるんですけど、キノコはわかんないものの方が圧倒的に多いですね。

林:あ~! それこの前ナメクジが専門の人も言ってました。あとハエの人も

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「小学校に土器の銅像あったんですけど、なくなってますね~」土器の銅像とは…

久が原の小学校に土器の銅像があった

小林:小学校通ってるときに校庭を作る工事をしてたんですけど遺跡発掘になっちゃってて三年ぐらい使えなくて。しかも校庭から土器が出てきて、土器の銅像ができたんですよ。

林:土器の銅像! ちょっと一回転してますね

小林:この辺よく遺物が埋まってるらしいです。こないだ同級生となかなか終わらない工事を見かけたんですけど、つい「土器待ちじゃね?」とか言ったり。

林:グリーンハイツ内遺跡って名前が大田区の資料館に書いてあって変わった名前の遺跡があるなって思ったら久が原のグリーンハイツっていう団地に遺跡が出たみたいですよ

小林:へぇ~!

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この校庭の隅で高田純次のマネをしていた小林さんを襲った悲劇とは…!!

高田純次の悲劇

小林:昔あそこにバスケットゴールがあったんですけど、そこで私、高田純次さんのモノマネしてたんですよ。それを三階の端っこの教室から六年生の不良軍団に見られてて。

下校中、その軍団にわーって囲まれて。「お前さっきのやれよ」って言われて。「お前さっき高田純次のモノマネしてたのやれよ」「さっさとやれよ」って。この街ぜんぜん人が通らないから誰も助けてくれなくて。私、小四くらいでめちゃめちゃ泣きそうになりながら、ううっ、ううっ、と必死になってやったこと…選挙とかで小学校に来るたびに思い出しますね

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小林さんがやってくれた当時の高田純次のものまね。「似てんじゃん」とほめられたそうだ

小林:で、なんか「似てんじゃん」とか言われて
林:認められたんだ(笑)
小林:殺されるかと思って。友だちも「こばよかったね~(泣)」って
林:今日は植物の話も久が原思い出話もあっていい回ですね~

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小林「これたぶんヒメムカシヨモギだと思うんですけど。これちっちゃい綿毛みたいなのあるやつ。こっちのオオアレチノギクかな」大北「すごい、図鑑の並び順にありますね!」

 

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小林「これドクダミですね。 すごいめちゃ臭い」大北「オエ~ 」林「湿気のある庭の匂いだ」

 

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小林「これイヌタデってやつで、このお花のここの部分をこういう風にとって…」
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小林「赤まんまという遊びなんですよ。よく図鑑では種名に『イヌタデ(アカマンマ)』っていう風に書いてあります」
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久が原名物逃げ出しタマサンゴ

小林:あー、タマサンゴだ。ナス科の植物なんですけどホウズキの中身みたいな実がなってて。これ園芸種なんですよ。「逃げだし」といって、どっかの家から飛んできたやつが定着してきてる。久が原すごいタマサンゴの逃げ出しが多く

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神社の隅に生えていたタマサンゴ

林:逃げ出す?

小林:逃げ出す。私的にはタマサンゴってかなり逃げ出し種、雑草として定着してる気がしてたんですけどそれってどうやら局地的っぽくて。久が原は多いんですよね。普通のエリアだとこんな風に雑草として生えてないので図鑑には園芸コーナーにしか載せれないんですよね。菜の花とかもそうなんですよね。多摩川沿いとか菜の花がいっぱい咲いているんですけどあれ逃げ出したんですよね。多摩川のは正確には菜の花ではなくてカラシナなんですけど

林:へえ~、もともと園芸種なんですね、菜の花って

小林:そう、で誰かがかわいいからって植えたらめっちゃ増えちゃったみたいな感じで。野菜として栽培してたのが逃げ出すケースもあります

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ほうずきの中身のような実がなる

──園芸種っていうのもそもそもどこかの野生なんですよね?

小林:だいたいどの植物もどの動物もどこかが地元じゃないですか。地元以外で数が増えちゃうと外来生物って扱いになっちゃう。日本だと特定外来生物だけどアメリカのミシシッピ川ではすごい絶滅危惧種のリクガメの仲間がいると聞いたことがあります。

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住宅街でも見かけたタマサンゴ。久が原では雑草化しているそうだ

小林:でもその生態系が崩されちゃうっていうのはそこに昔からある植物や動物がいなくなるってことですよね。人間が決めた箱庭を守ってるって感じじゃないですか。

地球にだれも番人がいなかったら、はびこれる場所を見つけて植物や動物達が好きなように住む、それが新しい生態系ってことになると思うんですけど。

今んとこ「今までこれでやってきたからこれを守りたい」っていうのがやっぱり人間ですよね…。今の生態系を崩しちゃうと問題になるっていわれているけど、もしかしたらもっと上手くいくかもしれないですよね

──エコだエコだっていってレジ袋断ってたんですけど、生態系のこと、なんにも気にしてませんでした。植物を気にして見ていくと生態系のこと避けては通れないですね

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「これ葉蘭っていっておばあちゃんはよく昔これにおにぎり包んで持ってったって言ってました。本来おにぎり包むのは笹っぽいですけどね(笑)」

 

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謎の神社があるんだが見つからない、ここにあるはずなんだ、と延々探し回っていて(諸星大二郎のマンガみたいな展開だなと思っていたところ)ようやく見つかったがもう閉まっていた
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久が原出世観音という。芥川賞、直木賞の選考会が開かれる東京・築地の料亭「新喜楽」の初代女将がここに住んでて大事にしてた観音像だそうだ。

ここで街路樹としてイチョウの木があった。

小林:イチョウってこれもトクサ(※前回登場の古代からある植物)と同じで恐竜時代くらいからあるすっごい古い木なんですよ。図鑑NEO『花』って分類順に載せてるんですけどイチョウとかソテツとかって一番最後のページなんです。もうすごい昔からある原始的な種類。

たとえばタンポポとかはすごく最近の種類なんですよ。タンポポって虫とかに媒花してもらわなくても自分で勝手に綿毛になって、それでしかも飛んでくし。なんにも手間かかんなくて子孫を増やすじゃないですか。あれってすごい進化形なんですね。

イチョウって雄の木と雌の木があって、それで花粉つけないといけないじゃないですか。普通、雄しべ(花粉)と雌しべで受粉して終わりなんですけど、イチョウは精子なんですよ。

──えーっ! 花粉じゃなくて精子!?

小林:顕微鏡で見ると銀杏の雌の木の方には本当に精子みたいなのが入っていて、泳いで卵にたどり着かないと銀杏ができないですよ。

※イチョウは春に雄の木の花から花粉が風で飛んで雌の木の花に受粉をし、ギンナンができる。秋にはギンナンの中で精子が作られて、ギンナン内の卵に到達する。

※コケ類(精子と卵で受精する、種作らない)→種を作るようになる→裸子植物イチョウ(精子と卵で受精する、雄の木雌の木)→一つの木に雄・雌両方あるようになる→裸子植物マツ(雄花と雌花、花粉と胚珠)→一つの花に雄・雌両方あるようになる→被子植物、多くの植物、タンポポなど という進化をたどっているそうだ

小林:動物って人間とか子供作るのものすごい大変な作業じゃないですか、すごい原始的なんですよね。植物の方が相当先を行ってるんですよね

林:自分で雌雄両方があって、しかも飛んでくってすごいですね

小林:自分の中に雌と雄の両方持ってるから「両性花」っていうんですけど。自分の雌雄が結びつくだけだと多様性がなくて、(種として)バグが起きるみたいで、それでタンポポも一応ハチとかとまるんですよ。自家受粉のものと媒花されたもの両方つくられるんです。

──へぇ~、そういうことか。中学生の頃に聞いた話が今ようやくイメージできたような気がしました。

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小林「これムクゲです」林「むいちゃうんだ」小林「こうなんかオクラっぽい感じじゃないですか? 仲間なんですよ。あ、これ葉っぱ見たらフヨウですね」

 

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小林「この辺の仲間って全部ハイビスカスっぽくないですか? ハイビスカスもここなんですけどで、綿もこれだしオクラもこれなんですよ。だからお花もハイビスカスみたいな感じ」なるほど、オクラもハイビスカスも全然ちがう用途だけど種が同じで花も似てるのか~

植物すげーな!

「大北栄人と申します。家はなくホテル暮らし、車はテスラです。」

会社に入ってきた新人にこんな自己紹介されたらどう思うだろうか。ふーむ、こりゃ新人類入ってきたなと思うことだろう。そしてこう続くのだ。

「私は雄であり雌でもあるので、自分で自分の子供を産むこともできるけど、それだとちょっとおもしろくないところもあるので、運次第ですけどできれば他人の子を産もうかなと思ってます。自己紹介を終わります。」

こりゃテスラどころじゃねーな、めちゃめちゃ新しい人入ってきたな、となるだろう。植物はやはり相当先を行っているのだ。

知のおこぼれ、今回も相当な恵みであり、家に帰ってすぐ『花と葉で見分ける野草』を買った。その後街でハハコグサではなくチチコグサを見つけた。オヒシバとメヒシバの区別はまだつかない。街を歩く視点が少しだけ変わった実感があり、ちょっとうれしい。

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