編集部日記 2025年3月31日

おきかえが可能なんだ(2025.3.31 朝エッセイ/伊藤健史)

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伊藤です。お疲れ様です。

休暇を取った平日の午前、近所を散歩していたら「ゴーン、ゴンオーン」とおだやかな鐘の音が響いてきました。
のどかでぽかぽかした初春の青空にしみわたるような心地よい音色を聴きながら、こんな日がずっと続けばよいのにと心の平安を願わずにはいられませんでした。

「花の雲 鐘は上野か 浅草か」と芭蕉は詠んでいましたが、ドヤ顔で「練馬ですよ」と返したい。花のように繊細で美しい鐘の音でした。

それにしても近くにお寺なんてあったのか。
引っ越して来て約6年、コロナ禍の在宅時代を経て近所は散歩しつくしたつもりだったのにまったく見逃していた。
路地はミステリーゾーンだなあ、昼食で使うネギも買わなきゃなあと、音が聞こえるほうを目指して歩いていっても寺社仏閣は見られません。しかし鐘の音は向こうから、ゴーン、グオンオンオンと時々余韻を残すように早打ちしながら聞こえてくる。

まさにここから聞こえてくるなという音の源流にたどりつくと、そこに存在していたのはガス類を取り扱う会社の敷地で、空のガスボンベを運ぶ際にとなりのボンベに触れてはゴーン、地面を転がってはゴンオンオンと音を発していたのでした。
 

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入り口にそそり立つガスボンベ。

「ボンベだったか」

完全に勘違いしていましたが、この音を聞いたとき、私はたしかに鐘の音と信じ、心の中で祈りをささげていました。
諸星大二郎の超名作漫画「マッドメン」でヒロインをさらいニューギニアの神話をなぞって逃走する学者の「大事なのは神話の構造の枠で、内容は自由におきかえが可能なんだ」というセリフが浮かんできました。

鐘からボンベにおきかわっただけで、超然的な何かの存在を感じ祈ることが重要なのだ。私はグオンオンオーンと鳴くボンベに向かい目を閉じて平安を祈ると、ネギを買いにスーパーへと向かったのでした。チャーハンのネギは入れすぎるぐらい入れてちょうどいいですよね。


今日も珠玉の記事2本、届いております。

11:00 アフターメントスコーラを味わいたい
11:00 4000円のごま油がもう魔法くらいうまい
16:00 見てるYouTubeはなんですか? / うっかりデイリー 2025年3月29日号

YouTubeなどでいやというほど見かけたメントスコーラ、シュワシュワっと吹き出してうわーッ、楽しいね盛り上がったねとなった祭りにも、その後があるはず、たしかに!

月餅さんの記事では4000円のとびきりのごま油が、都内の一室に集った大人達の心を支配してゆくさまが克明に描かれます。おそるべきごま油(ほしい)。

今週もなんやかんや始まってしまいますが、せっかくなので楽しくやっていきましょう。

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