料理って、美味しいですね
と、自分でも原稿を書きながらずっと、いくらなんでもこれはどうなんだ? っていう、読者のみなさんがさーっと引いていく顔が目に浮かぶような内容になってしまったことを反省しつつ、けれども確かに、あらためて食事の喜びを感じられた良い時間でした。

さて、次は絶対、吉池食堂に飲みにいくぞー!
根っからの酒好きであり、また「酒場ライター」という職業がら、外食をする際に酒を頼まないということがほとんどありません。一般常識から大きく逸脱しているという自覚は、あります。
そこで今回は、あえてお酒やつまみも豊富な、前から行ってみたかった食堂へ行き、そこで食事だけを楽しむという行為を通し、我が心の様を観察してみようと思います。
誰もが持っている世間知らずの一面。いま、スポットライトで照らします。(企画説明)
一般的に見てだいぶ異常な自覚はあるのですが、近年の僕は外食をする際、食事と一緒に「酒類」を頼まないということがほぼありません。
まぁ聞いてください。そりゃあ僕だって、かつて会社員をしていた時代は毎日のように「酒なし外食」をしていました。主に昼休みに、ランチで。それに現在だって、さすがに朝から晩まで四六時中酒を飲んでいるというわけではないんです。ただ、6年前にフリーライターとして独立してからというもの、
1)
日中は基本的に家か個人の仕事場で仕事をしており、どちらにもキッチンはあるので、昼は簡単な食事を自分で作って済ますようになった。
2)
お酒や酒場のことだけを専門に書くライターゆえ、日々の飲酒のすべてがなんらかの仕事のネタになる可能性がある。
3)
自己責任ではあるものの、いつどこで酒を飲もうと、人から怒られることがない(車の運転中、飲酒が禁止の場所など、法律的に問題がある場合を除く)。
4)
そもそも根っからの酒好きで、美味しい食事の横にはできれば酒があってほしい。
などの理由により、夜に酒場で飲むのはもちろん、たまに昼間に外食をするような場合も、そこにはせっかくだから酒があってほしいというスタンスになってしまったんです。もはや、外食で酒類を頼まないことの感覚を忘れてしまったほど。
そこで今回は、人としての原点(?)に立ち帰り、あえて心を鬼にし、酒を頼まず、“美味しい食事”だけの外食を純粋に楽しんでみようと思います。
いや、自分でもおかしいことを言ってるのはわかってるんですよ。それでも、僕にとってはちょっとした冒険。酔狂な方は、よろしれば応援してやってください。
そこでやってきたのが、上野・御徒町にある、魚介類に強い巨大スーパー「吉池」。その最上階に、吉池が経営する「吉池食堂」という飲食店があって、前から来てみたいと思っていたんですよね。
僕がふだんよく行くような大衆酒場とは違い、食堂というからには食事メニューも充実していることでしょう。それでいて、美味い魚を中心とした料理が豊富らしく、きっと“酒がまん”のしがいもある。今回の企画にちょうどいいかなと。
ところがこの吉池食堂、僕の想像よりもはるかに、酒がまんに対するハードルが高かった。だって、ビルの入り口からしてこうですよ。
いつもの僕だったら無条件に吸い込まれてますよね。まずここに。しかし今日の目的地は9階。なるべくそっち側を見ないように、さっさとエレベーターに乗りこんでしまいましょう。
ところが無事吉池食堂の前に到着すると、そこにもさまざまなトラップが。
グランドメニューも、
こりゃあまいりましたね。しかも、魚介が中心ではありつつ、洋食や中華料理も含めた幅広く魅力的すぎるメニューがこれでもかと並んでるんですもん。
いつもならばここで、さてどれをつまみに飲もうかな!? とよだれをたらしはじめているところ。単品で攻めるか、それとも定食をつまみと見立てるか、はたまたその複合技か。1杯目はなににするか、そこからなにに移行するか……。
あらためて考えてみると、常日頃から頭のなかでかなり忙しいことをやってたんですね、僕。しかし今日は単純。考えることは「なにが食べたいか」オンリー。
ランチのピークと予想される時間をずらして午後2時過ぎに到着したのですが、それでもかなりの人数の待ち客がいる大盛況。呼び出し番号の印刷された紙を受け取って待機場所に並び、店頭のメニューを参考に、今日食べたいものを検討しておきます。
約20分後、無事カウンター席に着席。
席に着いた瞬間にまず第一の発見がありました。お手ふきや箸とともに、卓上に1杯の水が用意されている。酒場ではこういうことはあまりないし、その他の飲食店においても「1杯目はなにを飲もうかな〜?」ばかり考えているので、そもそも水の存在をあまり強く認識したことがなかった。なんなら体が無意識にすっと、水を席の奥のほうに追いやってしまっていた気がする。ごめんよ、水。今日はかなりお世話になるはず。
が、今日はもう気持ちを固めてあります。お店のいちばん人気メニューであり、それも納得という魅惑のビジュアルの「北海飯」(税込1,500円)、の、サラダつき(プラス80円)でいく。
迷わず購入ボタンをポチッ! ……と思いきや、なんだか気持ちがそわそわ落ち着かないぞ。なぜなら、いつもならここで必ず合わせて酒類も注文するので、なにかを忘れたような気がしてしまって。
そこで、そうだ! ソフトドリンク! と思い立ち、ページを確認。
ここで、せっかくだからいつも家で飲んでいるようなもんじゃないほうがいいよな〜などと浮き足立ち、選んでみたのが「パインマンゴージュース」。
この決断、あくまで自分にとってはですが、「血迷い」だったと言えるかもしれません。だって、さっそくやってきたそいつを前に、思いましたよね。え、おれって今から、パインマンゴージュースを飲みながら北海飯を食べるの? どう考えても、合わなそうじゃね?
自分が招いた状況でありながら、酒なし外食に慣れていないにもほどがある。
なんてことをしていると、北海飯も到着。
北海飯は、北海道にある自社工場で加工された上質な鮭をフレークにしてごはんの上にたっぷりとのせ、さらに、いくら、かに、ほたてが散りばめてあるという豪華な一品。独特の風呂桶のような形の木桶がかなりのサイズで、その迫力に負けないボリューム感がインパクト大です。
桶から取り皿へとよそうと、量がけちけちしていないので必ずたっぷりと一緒に盛りこまれてくれる具材たち。いよいよひと口ほおばってみます。
なるほど、酢飯ではなくて、温かい普通のごはんだ。そこにたっぷりの風味良い鮭がのって、その時点で素晴らしくうまい。なのに、味が濃く甘いかに、とろりとしたほたて、そしてたっぷりのぷちぷちいくらが、ひと口ごとに変化のある食感と味を加えてくれる。これ、すさまじくうまいです……。
ところで、ごはんもののなかでも、こういうふうに味のしっかりした料理は、僕の脳は間違いなく「酒のつまみ」と判断するクセがついています。つまり、ここですかさず酒をごくりと飲みたい。ところが目の前にあるのは水およびジュースのみ。
そこで、パインマンゴージュースをひと口飲んでみる。と、案の定、あ、合わねぇ……。
というわけで、ジュースは食後のお楽しみに設定しなおし、ひたすら食事を楽しんでいくことにしましょう。
メインの北海飯もうまいですが、旨味の出まくったしじみ汁、和風ごまドレッシングが爽やかなサラダ、さっぱりとした白菜の浅漬け、どれもものすごくきちんとしてますね。食事にリズムを与えてくれる。
取り皿によそってもよそっても、まだまだたっぷりとある北海飯。頼もしい副菜たち。ひたすら食べていると、なんだか快感すら感じはじめます。
そしてあらためて、当たり前にもほどがあることに気がつきました。近年の僕は、あくまで外食中に限った話ではありますが、なにか美味しいものを食べると「この料理、うまい!」と感じると同時に「つまり酒に合うぞ!」と、反射的に思ってしまっていた。当然すかさず酒を飲む。するとこんどは「うおー、酒うまい!」に、モードが即移行してしまう。
ところが酒なし外食の場合、「料理うまい!」のあとに「……うんうんうん、うまい」と、味をしっかり楽しむ余韻がうまれる。そしてまた料理を食べる。美味しいごはんのエンドレスループ。
バカみたいな話なんですが、久しぶりに味わうこの感覚がなんだか新鮮で、ものすごく良かったんですよね。
一緒にやってきた調味料入れの中身はなんだろう? と思ったら、「ゆかり」系の赤じそふりかけのようですね。出てきたからには合うんだろうと、
すると、ほんのりと塩気が増し、さわやかな香りも加わって、これまたいい! でまた、今さら気がついたけど、そもそも米自体がやたらうまい! あ〜、食事って、幸せだな〜。
というわけで、水で口をリセットした後、あらためてパインマンゴージュースを飲んでみると、濃厚な南国風味でこれまたうまい。
加えて、誰が見ているわけでもないのに、「どうです? 私は食後にお酒ではなくてジュースを飲んでいるんですよ? 立派でしょう? 真人間でしょう?」という、謎の優越感が湧いてくる(重篤な世間感覚とのズレ)。
それから、ふだん頼みがちなビールやホッピーやチューハイなどの炭酸ものを飲んでいないせいでしょう。かなりボリュームのあるランチだったのにもかかわらず、そこまでお腹が苦しすぎないのも新鮮。
は〜美味しかった。さて午後も仕事がんばろう! なんて、いっぱしの社会人になったような錯覚すら覚えてしまって……。いやぁ、いい体験でした。
と、自分でも原稿を書きながらずっと、いくらなんでもこれはどうなんだ? っていう、読者のみなさんがさーっと引いていく顔が目に浮かぶような内容になってしまったことを反省しつつ、けれども確かに、あらためて食事の喜びを感じられた良い時間でした。
さて、次は絶対、吉池食堂に飲みにいくぞー!
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