税理士さんと代官山~渋谷を歩く
デイリーポータルZライターの井上マサキさんが税に関する本(『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』)を出したので共著である税理士の高橋創さんとともに代官山駅周辺を歩いて話を聞いた。
なお東京都はまだまだ緊急事態宣言下にあるのでzoomでお散歩することになった。
前回の記事(『税の視点で街を歩く』デイリーポータルZ)では「経費の項目はなんでもいい。強いて言うならセンス」などたくさんの税に関する名言が飛び出した。今回もなんとなく知らないままでいたことがどんどん明らかになる。
土地をすぐ売ったら4割の税
林「右側は仮囲い。ビルか何か作ってるんですね。」
高橋「仮囲いを見ると、前にいた人のこと思うんですよね。建物を建ててる時って、建ててるだけだから課税が発生しないんです。課税が発生するのは、建ててる人に土地を売った人なんです。代官山でこれだけの土地を売ったということじゃないですか。さぞかし金になっただろうな。」
井上「儲けがあるということは課税されるだろう。」
高橋「おそらく税率が2割なんですけど。長いこと持ってた土地を売ったら2割。短期でコロコロ売った場合は40%近くになるんです。」
大北「持ってた期間で変わるんですか!」
高橋「土地ころがし防止用。バブルの頃にできたんです。」
林「バブルっぽい考え方ですね。」
お金のかわりに部屋をもらう
高橋「新しく開発しているところを見ると、さぞかしお金をもらったのかなとか。よくあるのが新しくできたマンションの最上階の部屋をもらえるとか。地面(土地)を譲る代わりに一部屋くれよ、みたいな。等価交換っていうんですけど、けっこうあるんですね。」
林「そうすると税金はかからないとか?」
高橋「かかります。等価交換っていうことは、土地を渡して建物をもらうじゃないですか。キャッシュが一個も動いてないから税金がかかると払えないんです。だから、不動産を交換した場合は税金をかけないよという特例があるんです。将来そこを売った時にまとめてよこせよって。」
井上「キャリーオーバー※になるんですか?」(※宝くじの当選出なくて持ち越しになるやつ)
高橋「キャリーオーバーなんです。」
井上「税金のキャリーオーバーあるんだ!」
林「そうしたら、払う税金はいつの時点の評価額なんですか?」
高橋「売った時の金額と、手に入れた時の差額なんですけど。建物を手に入れた時の払ったコストって土地じゃないですか。その場合、最初に土地を買った時の金額を引き継ぐルールになっていますので、その差額は結構な額になるんですよ。しかも先祖代々持ってた土地だと買った金額がわからない。」
井上「先祖が2両で買いましたみたいな。」
高橋「その場合は売った値段の5%を買った値段にしてやりましょうって。」
税金を払ってマイナスになることはない
井上「95%儲けてるよねってことになりますよね。」
高橋「そうです。」
井上「1千万で売りました。でも5%だから、50万円で買ったよねみたいなことになる?」
林「それって土地の値段が上がる神話に基づいてないですか?」
高橋「買った時の値段がわからない人って、みなさんが思ってる以上に多いんです。そういう時に95%が利益ですね、って極力笑顔で言うのが僕らの仕事。」
大北「やさしい鬼だ!」
林「そんなことあるか!って思うだろうな。」
大北「そうすると売った値段の95%の20%を持っていかれるってことになるんですか?」
井上「儲けた分の20%。すぐ転がしていたら40%。」
林「税金を払っても利益が出るようなら、転がしてもいいわけですね。」
高橋「そうです。税金って利益の何%だから。」
井上「儲かってはいる。」
高橋「税金を払ったことでマイナスになることはないんです。ただ、キャッシュベースで見るとマイナスになっちゃう人がいるから、交換の特例みたいなのがある。」
会社員でもスーツは経費になるけど大変
大北「世の中で税金について知りたいと思ってる人って、個人事業主とか商売をしてる人ですよね。普通の人ってあんまり関係ないんですか?」
高橋「だいたい会社がやってくれますからね。」
井上「一般の人でもスーツを経費にできるとか聞いたことがありますけど。」
高橋「会社員にも経費を認めさせようっていう裁判を起こした人がいるんです。何十年もかかって死後も裁判が継続して、結果負けるんですけど。それによって一部分だけ経費を認めようねって法律ができたんです。負けたけど法律は変えた。」
井上「ほー。熱い話。」
高橋「その法律ができた10年後に、全国で何人使ったかと言ったら3人。報われない。」
井上「使いづらいからですか?」
高橋「要件が厳しかったんです。対象となる経費の種類も少なかったし、仕事上必要だということを会社が証明しなければならなかった。要件を甘くしたから今全国で2000人ぐらい使ってますけど。」
林「スーツをたくさん買わないといけないんですか?」
高橋「そうです。年収500万の人だったら、スーツを買ったとか研修に行ったとか、国が認めた経費が7〜80万ぐらいないとだめなんです。」
林「そこそこ買えますね。」
高橋「年収500万で年間100万スーツ買ってるとなったらちょっと待てとなるじゃないですか。税金安くするとかよりも、スーツ一着買うのやめろって。」
井上「やむを得ずスーツ100万買うとかなさそうですよね。」
大北「スーツ使い捨て派だ!」
個人のものと雑草以外はだいたい経費
林「世の中全部経費だな。こうやって見ると。」
大北「公共のものの経費ってあるんですか?」
高橋「あります。公共のところは税金が収入で、経費でプラマイゼロになるようにやっていこうねっていうふうにしているので。税収を収入とするならば、道を整えたりするのも全部経費です。」
林「経費じゃないものって、利益のためじゃなくて、ただそこに存在してるものってことですかね。」
高橋「生えてきた木とかはそうかもしれないですけど。」
大北「経費じゃないものはない。」
高橋「そいつらぐらいだけがインディペンデントな存在で。」
大北「ほとんど経費だ。」
井上「目に入るものが。」
高橋「歩道に植えられている街路樹は渋谷区が整備しているものだと思いますが、『植物』の『その他のもの』として15年で償却されるような気がします。」
井上「ガードレールとかアスファルトとか。」
高橋「公共的なものは全部税金でできている。国の財源って税金しかないので。」
林「三角コーンも誰かがなんのために置いたのかな。」
高橋「これが向かいの家に住んでる人のただの私物だとしたら経費ではないです。」
林「冗談で置いてみた。」
大北「経費に対抗するもの、冗談。」
高橋「車とか個人のものだから、経費って概念はないですね。さっきの黄色いポルシェが無職のボンボンが乗っているとしたら誰の経費でもないです。」
罰金はすべて経費にならない
高橋「仕事中に切られた駐禁は経費にならないんですよ。」
林「あらゆる罰金は経費にならないんですか?」
高橋「ならないです。経費になるってことは税金が減るってことじゃないですか。罰金払って税金減るってどういうことよって。」
井上「確かに。」
高橋「お客さんで『駐車場借りるぐらいなら、駐禁切られたほうが月額で考えたら安い』ってずっと会社の前に車置いてる人いるんですけど、同額だとしたら経費になる分だけ駐車場借りたほうが得です。」
大北「お得というよりそんな人もいるんだ…という別の驚きが。」
井上「そんな価値観があるんだ!という。」
免税店ってなんなの?
林「右側にトイレですか。」
大北「トイレです。けっこう変わった形の。」
高橋「こういうところの看板とか作ってる会社がうちのお客さんにいるんですけど、ここんとこずっと(オリンピックのために)多言語化しないとってすごい大変だったらしいですよ。」
井上「ちょっとバブル的な感じなんですね。」
高橋「今鎖国みたいになってますもんね。」
井上「インバウンドで外国人の人が払うのって税金からんでます?」
高橋「免税店が増えましたよね。都内でも。」
大北「免税店ってどういうことなんですか? 全然わかってなくて。」
高橋「消費税って消費をした人、国内で消費をした人の負担なんですよ。海外の人って消費をする場所は海外になるので、考えに合わないんですね。だから海外から一時的に来てる旅行者からは消費税をとっちゃいけないんですよ。それをあらかじめ税金とらないようにしますよっていうのが、免税店です。税金を払ってしまった場合、我々も海外に行った時に買ってきたもののこと書かされるじゃないですか。払っちゃった人はあれで最後は精算されるんです。」
林「海外で免税店でものを買って、飛行機の中であけないでくださいねって言われたんです。」
高橋「消費位置を買った国以外の場所にしないといけないので。玉手箱みたいになっちゃってる。」
井上「持って帰って使わないといけないんだ。」
林「着いた瞬間ガッて飲んでもいいわけですね。」
井上「成田でガッと。」
大北「免税にまじめなアル中だ。」
高橋「こういう話をしていると、今更自分でいうのもなんですが、税金おもしれーなって思います。」
プロ野球選手の整体はよくてホステスのエステはダメ?
大北「税理士さんの仕事って大まかにいうと、確定申告とか、ああいうものを作るための相談をする人ってことになるんですか?」
高橋「相談と代わりに計算をする。」
大北「税理士の方が日常的に頭を悩ませるのはなんなんですか? これは税金かどうかとか?」
高橋「そこは先行事例があるので。一番悩むのはお客さんからの無理難題ですね。あとは税務署との板挟みになる部分があるので。昨日税務署の人とやりあっていたのが、銀座のホステスさんのエステ代が経費になるのか否かって話。」
林「なるんですか?」
高橋「僕はしなきゃいけないと思ってるんですけど、向こうは絶対に違うと。」
大北「ありゃ(※前回の記事で「本人が経費と思えば経費」話が出た)。」
高橋「税務署の人達が言うには、プロ野球選手の整体とかは経費なんです。銀座のホステスも同じく体が勝負なのに。メンテナンスが大事だし、なんならプロ野球選手より稼いでる。何がだめなんだ、って今やりあってる。」
林「説得の材料って何ですか?」
高橋「僕の勢いと、あとは先行事例をどうひっくり返していくか。夜の店関係になると、飲み歩いたりしないし税務署の方もわかってないんです。だから『お前にはわかんないかもしんないけどさ…』っていう感じの悪いマウンティングをしながら詰めていく。」
井上「実態を知れと。」
大北「そういうのって一個決まったら一斉にひっくり返る感じなんですか?」
高橋「法律になってしまえば。個別の案件だと、これぐらいにしておきましょうみたいなのがあるんですけど、そのときも『ここで通じたから次も通じると思わないでくださいね』って釘はけっこう刺されます。」
大北「へえ~!」
井上「一個前例ができたら全部OKじゃねーぞと。」
高橋「明文化されてないのはルールじゃない。」
井上「今回は多めに見てやるが」
林「税理士としてもそのカードを使いすぎちゃうと言うか、今回は認めたからなみたいなカードを毎回使うわけにはいかない?」
高橋「いや、使いますよ。来るやつ違うし。しっかり交渉するほど良い結果が出しやすい商売ではあるので。」
一同 へぇ〜」
井上「簡単に折れちゃだめなんですね。」
高橋「一番簡単に折れたのは自分のところに(税務)調査が来たときだけです。めんどくさかったので。」
税理士の事務所にも税務調査は来る
林「税理士の事務所にも税務調査が入るんですか?」
高橋「飲み代が多すぎるって言われました。全国の税理士の平均の交際費はいくらぐらいなんで、って。あの人達は統計をもっているんですけど、平均って言われても島根とかと一緒にされても困るので。ここ新宿ですよって言ったらそういう問題じゃありませんって。帳簿を付けてる家内がGOサイン出してるものなのにやましいところがあるわけないじゃないですかって言ったら、それもそういうことじゃありませんって言われた。だいたい負けました。」
大北「本人はだいたい負けるのか…。」
井上「フリーランスにも税務調査って来ますか?」
高橋「来ると思いますけど、今このご時世なので電話での問い合わせが多いと思います。逆に、全部書類持って帰っていいですかとか聞かれるのでめちゃくちゃ嫌です。全部を細かく見られても良いことななんて何もないので(笑)。」
井上「まあそうですよね。」
大北「税理士の人もそう思ってたんだ(笑)。」
ビルを買っても税の面では得じゃない
林「渋谷警察のところまで来ましたね。」
大北「新しいビルがたくさん。」
高橋「みんな新しいとこ入りたがるじゃないですか。」
林「あれは税金的に新しいところがいいとか古いところがいいとかあるんですか?」
高橋「賃貸で入るならないですね。買うのなら別ですけど。オフィス用のビルを持つとかって、会社としての経済的な合理性ってあんまりない気がするんですよ。税金のこと考えても。鉄筋のビルというのは、減価償却の期間がめちゃくちゃ長いんです。50年とか平気でかかるので。ということは、年に50分の1ずつしか経費になっていかないじゃないですか。家賃が高いにせよ、借りてる場合のほうが払った分全部経費になるし。ビルとか持った場合って、当然地面も持つじゃないですか。地面は減価償却とかしないから。」
井上「(地面は経費として)初年度で全部?」
高橋「いや、帳簿には資産としてのっかるだけで、経費には絶対にならないんです。売るまで経費化しない。税金を減らす効果は不動産を買うってあまりなくて。ただ信用度とか高まって、担保に入れたりはできるから、お金借りるときに役に立ったりはするけど。税金のことを考えて不動産を買おうと思うんですけどって相談は、まあちょっと待てよと。」
井上「借りたほうがいいですよって。」
高橋「高い買い物をする時は税金のこととか考えちゃだめですよ。車買いたいんだけど税金のことを考えたらどの車種がいいですかって聞かれても知らねーし。」
林「ランボルギーニ買えばいいんですよ。」
103万以下かどうかで人生を選ぶな
高橋「経済効率性とかも大事かもしれないですけど、好きなことやるのが大事なので。好きなことやった上で、どっちが税金安いとかならいいんですけど。」
井上「ゼロベースから税金主体で考えられるのは本望じゃないですね。」
高橋「ほんとに多いんですよ。家買うのに税金的にどうやったら安くなりますかとか。」
林「目的を間違えちゃうパターンですね。お金を貯めればいいとか。」
高橋「さっきも言いましたけど、利益の中からしか払わないんだから、マイナスになることはないんですよ。精神的に嫌だってだけで。そういう相談が一番困るっちゃー困る。車とかならいいんですけど、税金安くしたいからどんな嫁さんもらったらいいですかって言われてもね。年間103万までしか稼がない人がいいと思いますとか。そういう話じゃないですか。」
井上「配偶者控除。」
林「今の話をまとめるとそうなりますね。」
高橋「いっぱい病気する人のほうがいいと思いますよとか。そういう話じゃないですか。そういう話されて、いや知らねーしって言えるまでに10年ぐらいかかりましたね。最初は真摯に取り組んでたんですけど。」
井上「だんだん振り切れる時が来るんですね。」
高橋「俺のことじゃねーしなと。」
大北「脱税したいんですけど…って相談はないんですか?」
高橋「ありますよ。どうやったらごまかせますかって。あとは今回給付金があったんですけど、どう工夫したら給付金もらえますかって。」
井上「本来対象じゃないのに。なんとかしてもらえないのかと。」
高橋「なんとかするものじゃねーからなって。」
林「みんな正直に相談するんだなー。」
大北「そういう驚きがありますね。」
井上「真正面から言いますもんね。」
高橋「ロバの耳の井戸みたいな存在なので。なんでも言われるんですけど。」
税のことがわかってきたぞ
大北「税金の相談って普通の人はどこに相談行くんですか?」
高橋「税理士がいいと思います。相談無料ってしてるところもけっこう多いし。うちも相談料取らないですし。最初仕事頼むみたいな顔で行くとみんな優しくしてくれるから。結果、頼まなかったとしても。聞いちゃうのが一番いいですよね。『税金に詳しいよ』って言ってる近所の人が一番やばいこと言うので。」
林「それはよく言いますね。」
高橋「これ、俺このやり方で税務署通ってるから大丈夫だよとか言うんですけど。」
大北「見つかってないだけで。」
高橋「税理士に聞くのが一番良いと思います。どんなこと聞いてもそんなにやな顔されないんで。」
税金とはどういうものかがおぼろげにわかってきた。親しみさえわいてきた。これでもう確定申告は怖くない。怖くはないがやるかやらないかはまた別の話である。