特集 2025年4月1日

町に眼鏡をかけてあげたんだ

僕達はいつも町を眺めてはあーだこーだ言ってる。

でも、町から僕達はどう見えているんだろう?

町に眼鏡をかけてあげたら、今まで考えてこなかった問題を突き付けられたんだ。

1980年、東京生まれ。片手袋研究家。町中で見かける片方だけの手袋を研究し続けた結果、この世の中のことがすべて分からなくなってしまった。著書に『片手袋研究入門』(実業之日本社)。

前の記事:地上にも無限の宇宙が広がっていた!おもちゃのデジタル顕微鏡で「拡大散歩」

> 個人サイト 片手袋大全 >ライターwiki

町に眼鏡は似合う

町を歩いていて眼鏡が落ちてるのを見つけると、とても胸が痛むんだ。

+1.JPG
落とされた挙句車に轢かれたのか、バラバラになってしまった眼鏡

僕自身眼鏡なしでは日常生活もままならないから、「落とした人は今大変な思いをしているんじゃないか?」と考えてしまう。

だけど町に取り残された眼鏡を見た時に湧き上がる感情は、それだけじゃない。

+2.JPG
似合うじゃないか。ガードポストの上の眼鏡。哀川翔を思わせる凛々しさ

「普段と印象は違うけど、良いよ。凄く良い。たまにはかけなよ」。そう言ってあげたくなるくらい、町には眼鏡が似合ってる。

僕は町の眼鏡姿を、もっともっと見たくなってしまったんだ。

いったん広告です

素敵じゃないか

まずは電柱なんてどうだろう。

+3.jpg
優しく、そーっと
+4.jpg
ハハ。良いぞ。嬉しくて笑ってらぁ
+5.jpg
パラレルワールドのヤーレンズ
+6.jpg
お次は君だ
+7.jpg
良いよ。やっぱり凄く似合ってる

もう30年くらい前になるか。僕が眼鏡をかけ始めたちょうどその頃、初めて女性とお付き合いすることになったんだ。ある日突然、そのお相手から「眼鏡似合わないからかけないで」って言われちゃってね。なぜか「う、うん。分かった」と受け入れてしまったんだよね。

「恋は盲目」なんて言うけれど、それから約一年間くらい、物理的に何も見えない状態で僕は生きていたのさ。

今ならはっきり言える。「僕は眼鏡をかけた自分が好きだ!それは誰にも否定できないことなんだ!」って。だから町よ。お前もこれからはもっと積極的に眼鏡をかけてご覧よ。それはきっと、とても簡単で素敵なこと。

いったん広告です

分かってきた

最初は凡ミスだってしたさ。

+8.jpg
例えばこれなんか…
+9.png
絶対にこうするべきだったよね

でも色々試していたら、すぐに正解が分かるようになっちゃった。

+10.jpg
これはイージー。ここにかけるっきゃない
+11.jpg
では自転車ならどこにする?多分殆どの人は籠にかけちゃうと思うんだけど…
+12.jpg
正解はここさ。一番納まりが良いじゃない
+13.jpg
お酒のケースはどうだろう?
+14.jpg
そう!ひっくり返してこうだよね?
+15.jpg
一見なんの特徴もないスペース。眼鏡をかけられる余地なんてないように見えるけど…
+16.jpg
角を利用したらあら不思議!もう眼鏡なしの姿は考えられない、ってくらいお似合いさ
いったん広告です

町から僕はどう見えているのか?

眼鏡姿の町を見ているうちに、なんだか凄く気になってきたんだ。

+17.jpg
眼鏡をかけると街路樹がこちらを見ているように思えてくる

僕は「片手袋研究家」なんて名乗って、路上観察を20年くらい続けてきた。僕は町のことを見続けてきたけど、町から僕はどう見えているんだろう?

+18.png
街路樹からこちらにカメラを向けてみる

電撃が走った。路上観察をするとき、僕たちは路上からも観察されていたんだ。「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている」なんて言葉を引くまでもなく。関係ないけど「SHEINをのぞく時、サイズ感とかちゃんと確かめよう」って僕は言いたい。

+19.jpg
僕が排水溝を見下ろすとき…
+20.png
排水溝はこちらを見上げている
+21.png
電柱からは前を通り過ぎる人はこんな風に見えている

町はいつだって、黙って僕達を観察している。そのことをまったく意識してこなかったなんて、驕り高ぶってたんだろうな。町眼鏡は色んなことを教えてくれる。

いったん広告です

もっと町に寄り添う

そう考えてみると、一方的に眼鏡をかけてきたこれまでの態度も改めるべきだ。もっと相手の好みや状態に寄り添って対話しないと。

+22.jpg
君に眼鏡をかけてあげたいんだけど…
+23.png
まずは視力検査とか…
+24.jpg
フィッティングとかもちゃんとやってあげるべきだよね。どう、気に入った?
+22.jpg
でも三角コーンはなぜか沈黙を保ったまま

どうしたら良いんだろう?悩んでいると、町でよく見かける光景を思い出した。

+26.jpeg
日に焼けて変色したり朽ち果てたりしている三角コーンをよく見るぞ

そうだ!常に日光に晒されている三角コーンに必要な眼鏡はこれだ!

+27.jpg
サングラスこそ、君にかけてあげるべき眼鏡だったんだ
+28.png
良いぞ。本当に似合ってる。三角コーンも照れてるのか、普段より少し赤くなってる

町の声に耳を傾ける為には、やっぱり観察も重要だったんだ。観察すること自体が悪いんじゃない。大事なのは「観察」と「観察される」が対等にある、“視線の権力勾配”がない関係性だったんだね。

僕の路上観察が新たな段階に入ったことを喜んでいると、散歩中の保育園の子供達がこちらにやって来るのが見えた。「帰るよ」。やや怒気を孕んだ妻の声を無視することは出来ず、サングラスを三角コーンから外して僕らは家路についたんだ。


時代の先

この日、眼鏡をかけた町をiphoneのポートレートモードで撮ってあげようと思ったのに、たびたびこんなメッセージが表示された。

「顔を認識できません」

+29.jpg
嘘だろ?


目の前にこんな素敵な顔があるのに。最先端の技術のさらに先に広がる地平を、僕は歩いている。

編集部からのみどころを読む

編集部からのみどころ
「あげたんだ」という語尾の記事タイトルは初めてかもしれないですね。 その後の本文だって「凡ミスだってしたさ。」「こうするべきだったよね」。 昭和50年代の歌謡曲のようにねっとり語りかけてきます。 改札口で待ってたり、待ち伏せされるような勢いです。
エイプリルフールだから気軽に書いてと伝えたらこんなにねっとり自由な原稿が入稿されてきました。デイリーらしくという意識が足かせになっていたのかもしれない。
楽しそうに書く彼を見て僕は落ち込むのさ(文体がうつった)(林)

▽デイリーポータルZトップへ

katteyokatta_20250314.jpg

> デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ

イベント情報

undefined

お知らせ

編集部日記

Amazon検索

書評

undefined

投稿コーナー

関連書籍

undefined
デイリーポータルZをはげます会

有料ファンクラブ

チラ見せはげます会

はげます会更新情報(会員限定)

undefined

懐かしの記事