特集 2021年6月22日

どうしてこんな家ばかりなんだろう?建築の専門家と街を歩く

どうして街は、家は、こんな形をしているのか。建築の先生と街を歩いて聞いた。

私達が住んでいる街は、そして家は、どうしてこんな形をしているのだろうか。効率を考えて建てるなら直方体がぎっしり並んでいるSF世界のような街になるはずでは。

専門家と街歩きをして腰が抜けるほどへぇへぇ言うシリーズ、今回は建築の専門家と街を歩いた後編である。

2006年より参加。興味対象がユーモアにあり動画を作ったり明日のアーという舞台を作ったり。

前の記事:どうして街はこんな形なのか?建築の専門家と街を歩く

> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

建築の学者さんと街を見て歩く

私達が住んでいる街がこんな形なのはどうやら建築基準法という法律によるところが大きいようだ。

そんなことがわかった前回の記事(こちら)にひきつづき東京大学名誉教授、日本大学理工学部客員教授である神田順さんと東急東横線祐天寺駅周辺を歩く。

建築のとりわけ構造の世界では著名な神田さんに「なんで家ってこんなことになってんですか?」とのんきに聞きながら街を歩く。

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神田順さん(右)とデイリーポータルZウェブマスター林雄司(左)

もし建築基準法がなかったら?

大北:建築基準法がなくて、任せてやっていいよってなったら街はどうなっていきますか?
神田:全部市場原理になるでしょうね。敷地いっぱいいっぱいまで建てる家が出てきて、容積率とか建ぺい率を超えてくる。しかもそれが一様にできるんじゃなくて2階建てばかりのところにいきなり20階建てができちゃったりとか

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戦後、街を急いで作り直す必要があったときにできた建築基準法で道路の最低幅も決まっている。この道路は2項道路

神田:これなんかも2項道路(※みなし道路。基準より狭いが建築基準法第42条2項によって「道路とみなされたもの」)ですよね。道路は建築基準法上4mないといけないことになっているんですよ。
林 :ここ2m20ぐらいですかね。
神田:するとこの家も建て替えようとすると道路中心線から2m後退したところに塀を作らないといけない
大北:そうか、絶対建て替えたくないですね…。
林 :こんな土地が高いところに。

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街歩きシリーズでメジャーを持ち歩く林が最も活躍する瞬間、2m20cn

今、24時間換気ファンがないと家ではない

神田:法律はどうしても増えていきます。地震が起きると構造的に大丈夫なようにしましょうとか。今は地球環境の問題があるから高気密高断熱にしましょうとか。そのために今、住宅は24時間機械換気のファンを付けないと新築できない。
林 :ふつうの民間の家でも? へえ~。
大北:実際に回す回さないは置いておいて?
神田:まあ、そうなんですよね。そうすると、新しい法律以前の建物は全部適法じゃなくなっちゃうわけですよ。法律を変えることが前の建物を価値の無い物にしてしまう面もあって。ほんとの建物の価値と法律がうたっていることとの整合性がとれなくなってしまいます。
林 :基準に合わない家になってしまうけど、もともと住んでる価値はあるわけですもんね。
神田:古い建物で手入れの行き届いた建物がやっぱり見てても気持ちがいいのに、そうじゃない、壊して新しくということを促進するような法律になってる。だけどそれがなかなか機能しない。
林 :ヨーロッパとかはものすごい古い家が平気でありますよね。それは基準には適してないんですかね。
神田:日本のような住宅に関する細かい建築基準法はないんだと思うんですよね。都心のパリとか、建て替える場合でも外側はそのままにしなければいけないというルールがあったりしますけど。
林 :日本の感覚からすると「自分ちだから勝手にさせろ」って思うんですけど、街のものって思うと。
神田:そうなんですよね。建物の寿命って100年とか150年とか、そういうスケールだと一人の人の持ち物ではないので、社会の資産を使ってるという感覚になるといいですね。
林 :持ち家信仰がいけないんですよね。
神田:戦後はね。それが求められてたというのがあるんだけど。

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古い屋根のある家、家の形の大きな要素である屋根はなぜ平たいのと三角があるのか

平たい屋根と三角の屋根があるのはなぜ?

神田:まだこういう昔からの家がありますね。戦前かもしれない。
大北:そもそも屋根が三角になってるのは水が落ちるため?
神田:平らなのは屋上が使えるようにとか、外に出られるように。
林 :平らなのは水が貯まるんですか?
神田:平らだと屋上の水を外側に取り出すために樋を作っておかないといけない。雨漏りの原因にもなりやすいので斜め(三角)のほうが水の面ではいいですね。
平らで外に出られるようにするには、平らな屋根を抜いたり、屋上の階を作るか何かしないと。いろいろ設計上やっかいなことがある。特に木造で平らな屋根だと隙間から雨漏りになったりする。鉄筋コンクリートだと標準なのは平らな屋根で、屋上にアスファルトで防水してっていうのが一般的な仕様です。

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平らに近いので雨樋がついてある

林 :雨漏りって多いんですか?
神田:けっこう多いんじゃないでしょうか。
大北:住宅の敵として大きい?
神田:雨漏りが一番やだよね。
林 :すごくやですね(笑)。
神田:何がいやってね。ほっとくとカビ生えちゃったり住めなくなったりするから。
林 :こんな建築の技術が進んでも雨漏りを避けたいのは変わらないんですね。
神田:単純な屋根のほうがいいですね。複雑に絡ませると雨漏りの原因になりやすいので。
大北:山型に斜めになってるほうが平らより単純?
神田:大きな屋根を一枚かけるのが一番単純ですけどね。
大北:斜めの方法が山形になってるのと、ワンサイドで。
神田:片流れ(1面で斜めに)というのと切妻(2面を山型に)というのと、寄棟(4面でピラミッド状に)というのがあります。

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ガタガタの図だが、こんな感じでまだまだ分類はあるようだ

大北:何の違いなんですか? 見た目?
神田:基本的には見た目ですね。中の部屋の空間をどう配置するかもあるとは思いますけど。瓦の屋根は減りましたよね。

瓦の屋根ってなに?

林 :瓦のメリットっていうのは何なんですか?
神田:耐久性ですね。地震があるとずれたりもしますが。昔はトタン屋根って言ってたんだけど、2〜30年前からガリバリウム鋼板という錆びない鉄板が出てきて、そこそこ耐久性もあるし軽い。
林 :進化したトタン屋根は性能がいいんですね。
神田:好き嫌いで言えば瓦選ぶ人がいるかもしれないけれど。
大北:海外は瓦はないですね。
神田:スレート(薄い石)はありますし、スペインの茶色の丸瓦みたいなのもありますね。日本だって茅葺きの家に対してお武家さんの立派な家は瓦屋根だったり、昔から贅沢なイメージはあったと思います。

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家の形はなんでこうなっているのだろうというのが不思議だった

設計の面でもちがう

大北:容積率の話(※前回の容積率の上限があるので高さぎりぎりの直方体にはならない)と屋根の水が落ちる話があったとしても、それでも家の形はちょっとずつ違いますよね? 
神田:部屋も窓をどのぐらいつけるかとかね。6畳の部屋があったときに三方に窓をつけたかったら、そこは屋根は下げておきましょうとか設計の意図で多少変わってくる。

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外壁の表面ってなんて呼べばいいのかわからない独特の感じがある

街の家の外壁はカタログで選び、工場で作られている

大北:こういう外壁はなんて言うんですか?
神田:これはボード(※サイディングボード、サイディング。工場で作られた壁材)じゃないのかな。タイル貼りに見えますよね。
大北:タイルって陶器とかですか?
神田:そうです。磁器タイルもあります。
※陶器タイルと磁器タイルの違いは水を吸うかどうか
大北:砂を固めて焼いたもの?
神田:粘土かな。色をつけたりもしてるけど。これなんかもあそこに縦に線が通ってますよね。ということはタイルではなくてボード
大北:ボードってことは板なんですよね?
神田:板なんだけど、耐火性もあって火にも強いし雨も入らない。そういう工業製品ですね。見た目にレンガ風にも木造風、タイル風にもできる。
林 :それを選ぶのは設計者。
神田:カタログから調べて選びますね。
林 :近所の設計事務所に「ご自由にどうぞ」って古いカタログが置いてありますね。あれで選んでるのか。
大北:家でレンガ風とかそもそものモデルがあるんですか? レンガの家を見たことがなくて。
神田:なんとなく高級そうに見えるからってことでしょうね。レンガタイル風の外壁にしていたり。

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つなぎ合わせの線が入っているのでサイディングボード
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長く住むにはどうするか?

大北:海外の家とかもこんな感じなんですか? 
神田:100年、150年前からの住宅に住んでるというのは、海外ではずいぶん多いですけど。手入れしてるからですね。
大北:手入れってどの辺なんですか?
神田:普通は雨漏りをしないようにしておけばそんなに傷まないですけど、木造だと一番大敵なのはシロアリ。湿気てたりするとシロアリが入ってくる。一部だと取り替えれば使えたりするけど、ほっておくと全体を作り直さないといけない。海外だと石造りやレンガ造りにするとそういうことはおきないですけど。
大北:日本の家は寿命が短いのかな。
神田:戦後すぐの基準法に合わせてなるべく安く作るっていうことで、安普請になっちゃった家はありますけど。古民家を改修して使うとか、田舎でもやってますよね。太い柱のがっちりした家だったりすれば、ちゃんと手入れをすれば100年でも
林 :木造でも柱をしっかり建てれば長く住めるんですね。
神田:雨漏りでおかしくなってもちゃんと手をかけておけば構造的には問題無い状態を保てる。国交省も一時「200年住宅」とか言葉では言ってましたけど、200年ほんとに使えるかどうかはわからないですけどね。
林 :自分がローンを組んで、って思うと200年だとそこまではいいやって気もしますね。
神田:中古市場が流通して、利用者はちょっと手を加えるだけで安く住めるようになって、そうするともう少し建物自体の寿命が伸びるといいのかなと思いますけど。そのためには多少最初お金かけても質のいいものを作っておかないといけないですね。
林 :いいものを作っておけば中古で売れますもんね。

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100年住めるような住宅は気持ちいいらしいですが、都会の住宅地は集合住宅も多い

市場原理でいくと荒廃する世界

大北:そういうのって集合住宅でも同じことですか?
神田:集合住宅はお金を儲けるために作りますよね。20年とかで資金回収しようと思うと、そこから先はどうでもいいのでなるべく安くということになってしまうんですよね。民間の小規模な集合住宅より、公的にある程度の規模で質のいいものを100年とか150年使えるようにすればトータルではいい。ワンルームマンションとかそこに住み続けないケースも多いのでね。そうすると見栄えだけで安いアパートで耐震的にも問題があって、という事になりかねないので。
大北:市場原理に任せちゃうと、短い命のマンションばっかり建てちゃう?
神田:そういうことになるんじゃないでしょうか。経済的には回りますから。
林 :市場原理に任せると長期的に良くないことになるジャンルなんですね。団地とかって公共が作った長期的に使える住宅ってことですか?
神田:そうなんですよね。今そういう意味でいうと50年前の団地が代替わりの時期になっていて。URなんかも苦労して改修したり、形を変えたり。あるいはエレベーターのない低層の4、5階建てまでだと高齢者にとっては住みにくいから新しくエレベーターをつけるにはどうするかって。
大北:イメージでは木造20年とか30年とか、コンクリート50年とか、寿命がそれしかないというイメージでいたんです。
神田:固定資産税の評価が法律で木造なら22年で減価償却するような形なんですね。
林 :公的に定められた耐用年数なんですか?
神田:税法上ね。なるべく短いほうが早く減価償却できるから便利ですよね。実際は100年もつんだとすると、そういうことはどうなんだろうな。使える建物ならそれなりに税金を払うっていうことがあってもいいだろうし。
大北:実際に使えるんですか?
神田:もちろん。木造で100年以上住んでる人いっぱいいますよ。

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マンションができるみたいだ。高さ制限20m、容積率300%の地域であることがわかる

建築の看板から情報を得る

林 :おっ、ここ高さ20mピッタリ。
神田:塔屋の部分は飛び出してもいいってことですね。
林 :タンクとかですか?
神田:塔屋は屋上に高架水槽を置いたり、エレベーターの上に巻き上げの装置があるから。塔屋は全体の8分の1以下じゃないといけないとかそういうのも法律で決まってる。
林 :容積率何%ぐらいですかね。
神田:300%のようですね。延べ面積が650㎡のちょうど3倍で、延べ面積の容積対象のところ1952㎡。でも延べ面積全体は2604㎡。廊下だとか特定の床の部分は、延べ面積には入れなくてもいいっていう規定が建築基準法にはあるんですね。具体的にどういう基準になってるかまではわからないですけど。
林 :確かに部屋を借りる時に何平米って書いてるのにバルコニーは入ってるのかなっていつも思います。これだけでもすごいいろんなことがわかりますね。おもしろいですね。

基礎ってなんだ?

大北:「杭基礎」はなんですか?。
神田:基礎ですよね。建物を直接載せるのに地盤が十分固くなければ、固い地盤のところまで杭を打って支える。そうでなければコンクリートの基礎をそのまま作ってしまう。
大北:土の上に。
神田:建築面積いっぱいに50cmぐらいの厚いコンクリートを一面に敷くベタ基礎という場合もあるし、もっと強い岩盤があれば、柱の下だけ4m四方ぐらいの盤を作ってその上に柱を乗っける独立基礎、柱と柱をつなぐ梁の下に連続して作ったものを布基礎(※地面の上にコンクリートの仕切りがあるようなイメージ)、独立基礎と布基礎とベタ基礎の3種類あってそれ以外に杭の基礎、杭の場合でも何種類もある。
大北:杭があればよりしっかりしているわけですね。

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上の階が出っ張ってる家がたまにある

家に本を積む怖さ

林 :上の階が出っ張ってる家ありますよね。構造からすると上が大きいのは不安?
神田:それに合うように柱の配置を決めたり太さを決めますね。
林 :江戸東京博物館も見ていて不安な気持ちになりますね。
神田:大きく張り出してますね。張り出している部分が地震の時に上下に揺れるのが問題になって。
大北:建築の構造の計算ってどういうことをするんですか?
神田:どのぐらいの力がかかるかということと、どこに力を負担する柱とか梁が置かれてるかということで計算をします。地震の場合だと建物の重量の0.2倍の力が水平にかかるという条件でまず計算をして、その時に柱とか梁にかかってる引き抜く力とか押す力とか曲げる力が大丈夫かチェックする。
林 :すごい重いものを家に入れちゃったとかそういうのはどうなるんですか?
神田:車と一緒で積載荷重というんですけど、車だと書いてあるから建物でも書いてあるといいんですけどね。
林 :建物でも積載荷重があるんですね。
神田:住宅の場合は1平方メートルあたり180kg。オフィスの場合は300kgが標準になっています。
林 :1平方メートルで180kg? レコードとか本とか溜め込んでると。
神田:局所的に1t近くなっちゃったり。木造の家で書棚にぎっしり本を積み上げたりすると、それは相当危険というかやばいですね。地震のときに負担が大きくなる。そこは一番解析が難しくて、本って固定してないでしょ。揺れるというのは加速度がかかるので、ずれちゃうわけですよ。本が。建物に力がかからないですよね。そのへんの積載荷重をどうやって地震の時の評価にするのかは、けっこう難しい問題ではあるんです。
林 :地震で本棚から全部本が出たのは家的には良かったねってこと?
神田:部分的な話ですけどね。

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気づけば新しい家は木造3階建てばっかりだ

木造3階建てってなんだ?

大北:ここも3階建てですね。
神田:何年か前までは木造は2階までしか許されなかったんですよ。それが一応計算をやれば木造でも3階まで許すという形になって、それから急激に木造3階建てが標準として出てきた。
※木造3階建てが都市部の防火地域以外で建てられるようになったのは1988年の改正建築基準法で実際に増えたのは1990年頃だそう。その後防火地域でも建てられるようになりさらに増えた。
神田:今は高気密高断熱ということになるので、窓の面積を大きく取らない、縦長の窓になっている。そもそも隣と詰まって住んでたら大きな窓は取れないですよね。そういう意味でも木造3階建てはゆったりしたところにあるといいんですけど。狭いところに3階建てだと緑もなくなるし。地震で潰れても2階だと上の1つ潰れるだけだけど、3階だと上の2つ分潰れることになるので3階建てなら地震に対する安全性の条件を厳しくすべきだなと思うんですが。
大北:地震でどう潰れちゃうんですか?
神田:それも計算で決めるんですよね。たとえばピロティ(1階が駐車場など柱だけの吹き抜け)で1階が潰れるって神戸の地震のときもありましたけど、計算よりは1階に余分に力がかかったんですね。平屋だと屋根が落ちるだけだから、建物が潰れたときの人に対する影響というのは階数があるほうが条件は悪いですよね。今の建築基準法は最低(どれくらい)と決めていて、本当はもっと建築主と計算する人がちゃんと調べてやってくれるといいんですけど。

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日本の家はハウスメーカーが多い

大北:合理的な理由で家ができていたら、建材の材質とか、世界の家が見た目同じになるという可能性はありますよね。でもそうなってない。
神田:超高層なんて外から見るとだいたい同じじゃないですかね。
林 :超高層ビルの?
神田:そういう傾向はあります。一方で、地震力の想定を大きく取るような形になってるということはあります。
大北:住宅に関してはどうですか?
神田:日本はハウスメーカーの家が多いので、そういう感じのものが多いっていうのはある。
林 :ああ、ハウスメーカーの家だなって。
神田:最近はひとつひとつオリジナルな雰囲気が出るような工夫がされていますけどね。
林 :それでも「工夫をしたハウスメーカーの家だな」って。
神田:日本ほどハウスメーカーが頑張ってる国は他にないと思う。建築基準法と相性がいいんですよ。全国一律なわけですよ。自治体ごとのルールではない。シェアを持ったところにとっては同じ設計でやれるから。法律が変わったら全部変えればいいわけですよね。
林 :全国一律の基準であれば全国シェアできるんだ。家を建てたことがなくて分からないんですが、家を建てようとしたときに一般的にはハウスメーカーに頼むんですか?
神田:ハウスメーカーの住宅展示場に行くといくつか見れますよね。そういうところに行って、これがいいみたいな話をしやすいっていう雰囲気もあると思います。
林 :これがいいって決めると?
神田:ハウスメーカーが大工さんと契約して、大工さんに作らせる。どういう設計でやるかはメーカーのやり方で家を作るということですね。ヘーベルハウスみたいに鉄骨でやって外側に防耐火の材料を貼り付けるのもあれば、木造の住友林業みたいなところもあったり、コンクリートの大成プレハブとか、種類はいろいろ。
林 :ハウスメーカーが建ててくれるんですね。たしかにヘーベルハウスって書いてあるビニール貼ってる建築中の家を見るなあ。
大北:集合住宅に関しても同じですか? メーカーが建てる?
神田:集合住宅も最近は積水にしても大和ハウスにしてもやるようになりましたね。以前は大きな地方工務店とかがやってましたけど。
林 :積水ハウスが受けましたってなったら工場から板とか壁とか柱を持ってきてその場で組み立てるんですか。
神田:そうですね。
林 :あ~、だからあんなに早いんだ。
神田:ハウスメーカーは工業化住宅という位置づけになっている。
林 :工場で家が作られているんですね。

建築基準法と工業化で伝統工法が危機に

神田:ある意味ね。昔の大工さんはひとつひとつの柱や梁を刻んで組み立ててましたけどね。建築基準法を作った時に大工さんの腕が信じられないから柱と筋交いを金物でつけることが法律で決まっちゃったんです。大工さんの腕に頼らないで家をつくることができて、大工さんが自分で刻んでやろうとすると割高になっちゃうみたいで。今、伝統工法の大工さんというのが危機に瀕している。
林 :筋交いをかけなくても腕のいい大工さんだったら木を組んで。
神田:木を組んで。昔の日本の木造家屋は筋交いは使わない。柱と梁で組んで土壁を入れたり、場合によっては板壁の場合もあるんですけど、そういう伝統工法が建築基準法上認められなくなってることもすごく問題で。
林 :確かに大工さんの個人的な技術に左右されると危険と言えば危険だけど。
神田:でももったいないですよね。そういうのは工業化と合わないわけ。昔は裏山の木を切ってきてその場でノミを使って形を作って組み立てたんだけど、今は集成材っていうと外国の材料で、柱でも木を4枚合わせて工場で作るわけですね。工場で作ると強度とか全部管理ができるので規格に合う、建築基準法でやるには便利なんです。裏の山の木を切ってきて強度を保証しろと言われても難しいわけじゃないですか。だけど、そこに住んでる同じ街の大工さんが作ってくれれば問題があったらその人が直してやってもらえるし、そういう形で昔は回ってたわけですよね。それが工業化になって便利な面と、管理ができるということがあるんだけど、そのかわり個人の技術が認められなくなってしまうっていう。
林 :スクラップ・アンド・ビルドの思想に繋がってますね。
神田:石場建てという工法があって、昔は石の上に柱を置いて、地震があると柱がずれるので家には力がかからない、そういう工夫があったんですけど、建築基準法では柱と基礎はしっかり固めなきゃいけないので法律上は認められないわけですよ。あと金物を使わないといけないとか。10年くらい前に、建築基準法に合わなくても伝統的な工法で大丈夫ですよっていう実験をずいぶんやってた時期があったんですけど、そのままになっていて。まだなかなか伝統工法が復活した状況が法律的にはできてない。
林 :石場建ては柱は固定してないんですか?
神田:足元にある石と柱は繋がない。地震のときにはずれるということですけど。昔からそういうアイデアはあった。
林 :それは知恵ですね。堤防でもわざと一箇所は切っておく昔からのアイデアがあったり。力を逃がすってアイデアは昔のほうがありますね。

木造には伝統工法と在来工法とツーバイフォーの3種類ある

神田:木造というのは、戦前までは今言ってるような伝統工法の木造だったんですけど、戦後は金物を使ってやるっていう形になったので在来工法、それに対してさらにアメリカでよく使われるようになったツーバイフォー。あれは2インチと4インチの断面の木を枠にして板を貼って、パネルを作るんですね。それで床も壁も建てるのでものすごく早く作れる。3種類あるんですよ、伝統工法と建築基準法の木造とツーバイフォーと。
大北:ツーバイフォーは工法として独立してるんですね。
神田:ツーバイフォーは柱と梁で構成するんじゃなくて、パネルで構成する。
林 :面で構成すると強そうではありますけど。
神田:そうですね。
大北:今歩いた中でもいくつかはツーバイフォーになってる?
神田:外側から見てなかなかわからないですけどね。外側は塗ったり貼ったりしちゃうんで。

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駅前の高架下に帰ってきました。こういうものはALCパネルだそう。色々ある…

素材をバリエーションから選択する

林 :例えばこういうものって安普請っぽいですけど。
神田:これはALC板(パネル)じゃないのかな。発泡コンクリートというコンクリートでも少し軽量で、そのかわり防水性も耐火性もある。
大北:外壁と言ったらこれでしょって、1種類の素材が制覇して全部同じになることがありそうですけど…。
神田:意外とそうなってないですね。木造だとサイディングボードが席巻してるかな。見た目にはバリエーションがあるので。あとは耐火の問題がすごくあるんですよ。木だとどうしても燃え移るので。最近は木でも材料を染み込ませて燃えない木にする技術とか新しいのが開発されてるから、木が復権して外壁にも木を使うようなものが出てくるかもしれない。
大北:家を作るとなったら「こっちかな~」とか素材を選択していくわけですか。
神田:どんなイメージの家にしたいかがあれば「それは木造ではやれないから鉄筋コンクリートにしましょう」とか決まっていく。どんな家にというイメージが一番大事だと思うんですけどね。最終的には材料で選択することになるかと思います。
大北:ここに並んでるのはイメージが実現したものとも言えますね。
林 :イメージが優先。

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私達の街は「イメージ」が並んだものとも見えてくる

ハウスメーカーのイメージでできた住宅街

神田:イメージも知らないとわかないから、いろんな家を知っていればこんなイメージだよって言えるけど、今だと住宅展示場みたいなところしかないので、なかなかイメージが広がらないかなって思うんですけど。
林 :住宅展示場でできあいの定食みたいなのを見て、じゃあこれってなっちゃう。
神田:本当は家って作るものなんだけど、今は選んで買うものになってる。テレビなんかでもコマーシャルをやっていて、コマーシャルのイメージでああいうのがいいなって住宅展示場に行くと契約しちゃうというところがあると思うんですけど。あんまりそういうのばっかりになってもね。できれば、暮らし方を設計者ととことん語って、家を作ってほしいなって思いますね。少し敷地に余裕があれば、歩いていても眺めて気持ちいってことになるんでしょうけど。緑も大事だな。
林 :人んち見て歩くの面白いですよね。僕も人んち見ていい家だなって思ってます。
神田:古い家で手入れがされている家が一番魅力的な気がするんですけどね。
大北:古いのがいいなって思うのはどこに由来するんでしょうね。
神田:人を感じるんじゃないですか。出来たばかりのものって人とか歴史ってないわけだから。時間とか。
林 :街がこんなに考えられて色んな人の思惑でこの景色ができてるんだなって。


「なぜ街はこの形なの?」暫定的結論は「法律とハウスメーカー」

なぜ家はこんな形をしているのか? 街はこんな形になっているのか? かねてから疑問だったがみるみるわかってしまった。

まず人の欲望がある。これに従って家をどんどん建ててしまえば街は荒れて気持ちよくないものになる。そこで建築基準法がある。法律で家の制限が決まる。そんな全国一律の法律と経済事情があった上で、日本にはハウスメーカーがある。家とはこういうものだというイメージとセットでどんどこ建っている。

そしてこんな街になっている。これが一緒に街を歩いて出た暫定的な結論である。ただ、これはかなり単純化した答えではありそうなので、また新たな建築の専門家と歩いてどんどんアップデートしていきたい。特にハウスメーカーさん、このシリーズ出てください。編集部までメールを。

神田さんの著書はこちら。

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