感動している
こんなにいいインターネットがあるか、という感じだった。ぼくの目は開かれ、知っていたつもりで知らないことばかりだということが分かる。
名前は、もちろんその奥につづく広い世界の扉にすぎない。でも、名前を知らなければそれを調べるための入口にも立てない。層間スパンドレル! ぼくは今回のことで建物を含むあらゆることについて調べる手がかりをもらった。ありがとうございます!
追記:続編も公開しました
→工事現場にあるものの名前をできる限り知りたい
写真に映っているものの名前をなんでもお教えてください、と呼びかけたところ、あらゆる分野の人からものすごい量の情報が寄せられ、写真がたちまち名前で埋め尽くされる、という経験をした。
顛末を紹介します。
先日、慶應大学教授の石川初さんがこういうツイートをしていて、とても素敵だった。
自宅の前で書いてみたんだけど引き出し線をつけたら図面みたいなことに。ついでに側溝もスペックしておいた。 pic.twitter.com/gmhFXesxeh
— Hajime Ishikawa (@hajimebs) May 11, 2020
石川さんは植物に詳しいので、草花の名前が分かる。そこで自宅前の路上にそれらの名前をぜんぶチョークで書き込んでみたという。ぼくにとっては渾然一体の「草」に見えていたものが、じつは「ドクダミ」「リュウノヒゲ」といった別々の名前を持つ植物だということがありありとわかる。こんなふうに世界の解像度が上がるのはとても素敵だ。
この石川さんの試みを植物に限らず目に見えるあらゆるものでできないかと思い、ツイッターでこんなお願いをしてみた。この写真に写っているもので、名前が分かるものが1つでもあれば教えてくださいと呼びかけたのだ。
「目に映るものの名前をできる限り知りたい」ということができないかと思っています(デイリーポータルZの企画です)。この写真の中で、名前が分かるものが一つでもあれば教えていただけないでしょうか。例:奥の街路樹がケヤキ、黄色い車が日産セレナなど(例は適当です)。「たぶん」で構いません。 pic.twitter.com/702faN4ckL
— 三土たつお (@mitsuchi) May 21, 2020
するとたちまちたくさんの人があらゆるものの名前を教えてくれた。車の名前、植物の名前、路上の設備の名前、建築物の設備の名前。たった1日でものすごい情報量になった。
もとの写真はこんなふうだ。
教えてもらった名前を書き込むと結果的にこうなった。
すごい。しかし文字が小さすぎて読めない。教えてもらった時系列もふまえつつ、部分ごとに詳しく紹介していきたい。
まずは車の名前だ。
右側のハイエースは4型のDXですね。
— 磯部祥行(信濃川最下流左岸) (@tenereisobe) May 21, 2020
黄色い車はトヨタのシエンタです。お役に立てば。
— MCイナゴの大群 (@zan_nyou_kan) May 21, 2020
ぼくにはどれがハイエースかも定かではないのに、(トヨタ)ハイエースのさらに細かい型番がまず飛んできた。これはすごいことになりそうだと思った。その後もいろんな方に教えてもらったが、こちらの方のまとめがすごかった。
見えにくい車も、ミラーやライト、ルーフやフロントグリルの形状から推測してみました。怪しいのもありますが。
— 大倉裕史 (@hiro_sj30) May 21, 2020
左上の車のリアがわかりそうで分かりませんね。 pic.twitter.com/9cuVAUoM4K
なんと。ほんの一部しか見えていない車もあるのに、なぜ分かるんだろうか。
一部しか見えていない車については詳しい人でも同定が難しいようで、そういう人たちの間で意見が交換されることがあった。
アルテッツァというコメントがありましたね。自分もトヨタか日産あたりの国産セダンと思ってアルテッツァも確認したんですが…特徴的な丸いテールランプでスルーしたんですが…よく見ると滲んだ丸にもみえます。アンテナの影もそれっぽいですね。
— 大倉裕史 (@hiro_sj30) May 21, 2020
私もアルテッツァかと一瞬思いましたが,このご時世にアルテッツァもなかなかレアだと思い,また,アルテッツァにしてはちょっとずんぐりしてるなと思い排除しましたが,ウインカーの位置も一致しますし,アルテッツァのような気がしてきました。
— AK (@kinotheta) May 21, 2020
ぼくは詳しい人どうしが自分には分からない言葉で話し合っているのを見るのが好きだ。神々の世界を垣間見ている気持ちになる。しかも会話のもとになっているのは一枚のなんでもない写真なのだ。
車についてまとめるとこんなふうになった。
路上に置いてあるものたちについても情報が寄せられた。
カラーコーンの先っぽに丸みがあり、反射テープが少し斜めっているので、セフテックのスイッチコーンAかなと思います。もし上にちょっとの出っ張りがあれば、ポータ工業のPC-710Hの可能性もでてきますね… pic.twitter.com/d4LdnIgLzu
— からーこーんから (@conemmunication) May 21, 2020
おそくなりました(なにが)左手の自販機はこんな感じかと... pic.twitter.com/Z3M6Op9ser
— 伊藤健史 (@Asimov0803) May 21, 2020
三角コーンについてはメーカーと製品名が、自販機については「サントリー」ではなく「ユカ」という自販機メーカーの名前が寄せられた。たいがいである。
驚いたのは、マンホールの蓋についてのこの指摘だ。
この辺りは電線共同溝が整備されているので、東京電力ではなく都か国の共同溝の蓋である可能性の方が高そうです pic.twitter.com/NOs1rp1FGC
— 駅からマンホール (@EkikaraManhole) May 21, 2020
マンホールの蓋は、元の写真だと斜めにつぶれてほとんど何も見えない。それを「駅からマンホール」さんは、謎のテクノロジーで正面顔に復元し、しかもそれをもとにもとの蓋の種類や業者を推定しているのだ。神業!
まあそれを言うなら、頂いたどのコメントもただ「すごいですね…」と返すしかないくらいのすごさなのは間違いない。
路上の設置物についてのまとめはこんなふうだ。
ぼくは植物の名前が分からない。端的にいうと、どれも同じに見える。だから植物がわかるのこと人は昔から心から尊敬している。
背の高い街路樹はイチョウ、その足元の街路樹はツツジ、左手のレンガのビルの植え込みのはカイヅカイブキ、とかでしょうか。 https://t.co/ZIca51CRDp
— 路上園芸学会 | Ayako Murata (@botaworks) May 21, 2020
もう出たかもしれませんが、歩道はインターロッキングブロック舗装で、低木はたぶんオオムラサキツツジで、あとこの歩車道境界ブロックが車乗入れ用に下げてある部分は「切り下げブロック」 pic.twitter.com/Sn05sqTY1P
— Hajime Ishikawa (@hajimebs) May 21, 2020
ここに世界の知恵が集まっているようすにぼくは感動したし、とてもありがたかった。二つ目のツイートの「Hajime Ishikawa」さんは、冒頭で紹介した石川初さんだ。植物だけでなく路上のブロックも教えてくれている。ありがたい。
植物についてもやはりこの小ささでは見極めるのが難しいようで、苦しみながらお互いで会話をしているようすがあった。「中央分離帯にあるのはメリケンカルカヤかも?」という意見に対して、時期が合わないかもしれないというようなやりとりだ。
メリケンカルカヤは時期的にアレかもな…こういうとこによくいるけどな!
— やけに植物に詳しい悟空 (@kusaiyajingoku) May 21, 2020
手前っかわのヒョロヒョロ出てる感じを見ると、カモジグサの仲間かホソムギの仲間かもしんねぇぞ!
オオアレチノギクも…キク科の何かはいそうだけどな!
その奥の生垣は多分アベリア、げぇ路樹は多分イチョウ、(続く)
ありがたい。植物についてまとめるとこんなふうになった。
地面そのものの各部分にも、やはり名前がついている。
横断帯点字ライン(https://t.co/Zxv2M3YfWu)と自転車ナビマーク(https://t.co/FZLgrgA8ik)が見えます。 pic.twitter.com/ifaeNf684H
— ろぜつ (@dc6ykjgs) May 21, 2020
横断歩道に使われている塗料は「溶融式樹脂塗料」というそうだ。もはや知らないことしかない。
手前の交差点は1万年より新しい沖積面。坂の上は8万年前ころの扇状地の名残りである武蔵野面(最新研究では仙川面)とよばれる地形です。
— 苅谷愛彦 Yoshi Kariya (@yoshi_kariya) May 21, 2020
苅谷さんは大学の地理の先生である。最新の研究成果を教えてくれた。すごいことだ。その他みんなに教えてもらったことを合わせ、地面についてのまとめはこうなった。
アンテナ(のようなもの)を分類してみました。UHFテレビというようは要するに地デジです。VHFアンテナは見なくなりましたね(当然ですが) pic.twitter.com/4ANiRheLyJ
— 磯部祥行(信濃川最下流左岸) (@tenereisobe) May 21, 2020
上空の高いところにあるアンテナ類についてもみんなは目を向けていた。当初は「それは八木アンテナ」です、というレベル感の指摘が多かったが、次第に、「もっといえばVHFオールチャンネル型12素子共同受信用高性能アンテナです」というように強まっていく感じがすごかった。
アンテナについてですが、
— Fuuta (@1_70p) May 22, 2020
下段が
「VHFオールチャンネル型12素子共同受信用高性能アンテナ」
上段が
「共同受信用20素子UHFアンテナ」
です。
恐らくどちらもDXアンテナ製だと思われます。
八木・宇田アンテナでも間違ってはいませんが、言葉が広義過ぎると思いました…
FF外から失礼しました。 pic.twitter.com/MTBSO8LeBF
上空にあるもののまとめはこんなふうだ。
最後は建物だ。
ふつうに街を歩いていると、視界の上半分はだいたい建物だ。しかしぼくは建物の細部についてまったく言葉を知らないので、「建物だなあ」くらいのことを思うしかなかった。視界の半分についてその感想しかないのだ。それが悔しいと思っていた。
しかしツイッターは広い。建築に詳しい人たちが、建物についても名前を教えてくれた。
建築設計やってる人が仕上げを当て込んで遊んでみました(`・ω・´)ゞ pic.twitter.com/XvPA0s1hZp
— 社会建築もぐり/なかみねひろえ (@sha_ken_mogri) May 21, 2020
名前を入れ直して拡大してみた。
「層間スパンドレル」!
「磁気質45二丁タイル」!
なんと。やっぱり一つ一つ名前がついていたんだ。当たり前なんだけど、それが分かるのがとてもうれしい。
これまでのどの分野にも含まれないが、なんだかすごいものだ。
OTISのロゴの書体がわかりました。 pic.twitter.com/DrTxBsf0Hf
— Counterfeiter (@ANI3) May 21, 2020
右端を走っている車に書かれていたロゴである。その書体が分かったという。
OTIまでは明らかにノイエなんですけど、ノイエのSの書き始めってちょっと視覚補正で癖強めてあって、嫌いな人は嫌いだろうなぁっておもってたら、やっぱり書き出しだけもとのヘルベチカライクにフラットにいじったんだな、っていう感じが見て取れてふふ〜んと思いましたw
— Counterfeiter (@ANI3) May 21, 2020
すごい。まったく分からないんだけど、とにかくすごいことは分かる。
これらのいろいろを合わせた全体像は、むしろこちらのツイートを拡大してもらうのがいいと思う。ぜひご覧ください。
まとめを更新しました。いっそうすごいことになっています。 pic.twitter.com/4uFzC91o6S
— 三土たつお (@mitsuchi) May 21, 2020
こんなにいいインターネットがあるか、という感じだった。ぼくの目は開かれ、知っていたつもりで知らないことばかりだということが分かる。
名前は、もちろんその奥につづく広い世界の扉にすぎない。でも、名前を知らなければそれを調べるための入口にも立てない。層間スパンドレル! ぼくは今回のことで建物を含むあらゆることについて調べる手がかりをもらった。ありがとうございます!
追記:続編も公開しました
→工事現場にあるものの名前をできる限り知りたい
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