今まで一度も注文したことがなかったメニュー
2年ほど前、ライターの玉置標本さんが大阪に来た時があり、デイリーポータルZの記事用の取材をするというのでつきあった。大阪と神戸の何か所かで「ひやしあめ」を飲み比べるという主旨の記事で、私は大阪の大正と神戸の湊川市場に同行したのだが、大正の商店街沿いのうどん屋さんの軒先に「ホームランうどん」というメニュー名が見えた。



その時、「ホームランうどんっていうメニューの名前、面白いですよね」という話を玉置標本さんとして、玉置さんが「調べて記事を書きなよ!」と言ってくれたのだが、「そうですね、まあ、いつかねー!」とヘラヘラしてその場は流してしまった。今、ようやくその時が来たのだ。
ちなみに私は以前、大阪のうどん屋さんによくある「スタミナうどん」の正体を探った記事を書いたことがあって、その時も店によって「スタミナ」が意味する具体的な内容に違いがあって面白かった。きっと今回もそんな感じになるのではないかという予感がある。
一軒目は大阪・梅田の「スナックパーク」へ
「ホームランうどん」を食べ比べるためにまず訪れたのは大阪・梅田の阪神梅田本店にある「スナックパーク」というフードコートだ。
このスナックパーク、阪神梅田本店の地下一階に1978年にできたエリアで、今も名物として愛されている「いか焼き」やら、うどん、焼きそば、丼ものなど、色々なメニューをスタンド形式で食べられる場なのである。2015年、建て替え工事のために一時閉鎖され、3年後の2018年にリニューアルオープンした。
フロア内にジャンルも様々な飲食店が14店舗入っていて、好きな場所にテーブルを見つけて立って食べるスタイル。酒類も販売されているのでサッと飲みたい時に私もよく利用している。


というか、これは前々から「すごい!」と思っているのだが、いくつかの店舗がお酒とそれに合うおつまみをセットで販売している「午後3時からのサク飲みセット」というのがあって、どれも税込み600円なのである。

しかもどの店のおつまみにもこだわりを感じ、満足度が高いのだ。いつか友達とこれを全部コンプリートする飲み会をしたいと思っています。
それはそうと、今回はその「スナックパーク」の中にある「大阪本場 中央市場 藤味」という、うどんと丼物を提供しているお店が目的である。


「大阪本場 中央市場 藤味」は大阪市福島区にある「中央市場」に本店を構えるお店。ここの「スナックパーク」に出店したのは2023年からで、このエリア内ではまだ新しいお店である。
頭上に掲げられた「ホームランうどん」のメニュー写真には「勝利を願って 勝利を祝って」というフレーズが添えられている。早速、注文してみよう。
スピーディーに提供された一杯を、近くのテーブルに運んで、と。

「大阪本場 中央市場 藤味」のホームランうどんは、かき揚げ、お揚げ、豚バラ肉、わかめ、ネギが乗ったボリュームのある一品だった。
ザクっとした歯ごたえのかき揚げはかなり分厚く、中身は玉ねぎやにんじんなどの野菜だが、汁の中に刻一刻と脂が溶けだしていく感じ。

四角いお揚げは大阪らしい、これでもかと甘いタイプ。むしろこの中にあっては豚肉が一番あっさりしているんじゃないかというぐらい、器の中は味と味とのぶつかり合いだ。

食べ終える頃にはかなりの満腹感を感じる一杯だった。「ホームランを打つってすごいことなんだな」と身をもって感じる。
全体的にリーズナブルな価格帯のこの店のの中でも最高級な部類に入る「ホームランうどん」をなんとか食べ切り、私は思った。そうか、ホームランうどんって、つまりはめちゃくちゃ豪華な、全部盛りみたいな意味合いなのかもしれない。実際、ホームランって全塁をまわるわけだし。
一緒に食事をした相手に呆れられることがよくあるほど小食な私には、なかなかハードな食べ比べになるのかも。いや、ここはなんとか、明日も続けてホームランを打ちたい。
二軒目は大阪・谷町九丁目の「ふる里」へ
梅田でホームランうどんを食べた翌日、今度は大阪市天王寺区にある「ふる里」といううどん屋さんへやってきた。24時間営業、ほぼ年中無休の店で、日中は地元の方や近くにお勤めの方で賑わい、夜中はタクシーの運転手さんが食べに来たりする、創業およそ50年の老舗である。
私がこの店を知ったのは割と最近で、ミュージシャンとして活動している友人が「遅くまで開いてるからよくライブの打ち上げで『ふる里』に行った。あそこのうどんは思い出の味」と教えてくれたのがきっかけだった。

店の外に貼り出されたメニューに「ホームランうどん」がある。

お昼どきを少し外したつもりだったが店内は大盛況。迷うことなくホームランうどんを注文した。「ふる里」は有名店なので、有名人のサインが壁に所狭しと貼られている。

しばらくして運ばれてきたのがこれだ!

麺はちょっと平打ちっぽい感じだ。

それにしてもこの具材の豪快さよ。緑色の天ぷらがあると思ったらピーマンだったりした。

海老の天ぷらも生きているかのように豪快な見た目だし、食べてみると中身の海老がめちゃくちゃ大きかった。ナスの天ぷらも入っていた。昆布もたっぷり(ここで、さっきの英語メニューの「kelp」が昆布だとわかった)、生卵はちょうどいい具合に白身に火が通っていて、一杯をどう食べ進むかを楽しみながら味わえるような感じだ。お出汁は甘みを感じさせつつも後味はあっさりしていて飽きがこない。
この日、友人にも同行してもらったのだが、その友人の注文した「カレーきざみうどん」の丼が、ホームランうどんに輪をかけて大きかった。

赤ちゃんのお風呂に使えそうなぐらいの丼なのである。私のホームランうどんも、スパイスの効いたカレースープに刻んだ油揚げがたっぷり入った「カレーきざみうどん」もかなりの食べ応えだった。
食べ終えて改めて壁のサインを見るとオダウエダさんのサインに「おうどん、おかわりしちゃいました」と書いてあって、さすがだなと思った。

ちなみにこの「ふる里」にはお寿司もあって、冷蔵ケースに並んでいるものを好きに選んで、瓶ビールや日本酒とともに味わったりもできる。

さらにちなみに、まったく知らずに来たのだが、長く続いたこの「ふる里」の店舗は2025年5月28日をもって閉め、6月8日から新店舗に移転するそうだった。

新しい店舗も楽しみだけど、この年季を感じる店が好きだったので、少し寂しくもあった。ぐるっと店内を眺めてお会計。

会計時、お店の方に「なんでホームランっていう名前なんでしょうか」と聞いてみた。すると、「海老がバット、そういう意味です」とのこと。友人が「あ!じゃあ、玉子がボールっていうことですか?」とすかさず言うと「そうそう!そういうこと!」と教えてくれた。
なるほど!海老のバットで玉子のボールを打つということか。でも他にも色々な具が入っていたぞ。ピーマンはグローブかな。かまぼこがベースで、昆布はなんだろう……などと想像して楽しみながら外へ。
