いつ行っても圧倒されるまち
20代前半に訪れた時、取り憑かれたように京都の寺社を巡った。どこも東京では見られないほど立派で、歴史があって、ただただ圧倒されていた。
そして15年以上たった今でも、やっぱり圧倒された。なんだあの伏見稲荷の鳥居の多さは!なんだあの祇王寺の美しさは!なんだあの卵白の旨さは!なんだあの…!思い返すだけで興奮してくる。これからも何度でも京都に圧倒されにいきたい。
ガイドブックに頼らずに、地元の人にお薦めの場所を聞いて周る旅はたのしい。
どんなところにたどりつくか分からないドキドキと、地元の人しか知らないような情報が得られて嬉しいからだ。
今回やってきたのは、寺社仏閣であふれる人気観光地、京都。いったいどんな旅になるのだろうか。
※これまでいろいろな場所で取材をした記事を読めば誰もが知ったかぶりできるはず。「知ったかぶり47」は、デイリーポータルZと地元のしごとに詳しいイーアイデムとのコラボ企画です。
愛知編:名鉄のナナちゃん人形の股を覗いてはいけない
鳥取編:まさか鳥取でうどんを食べるとは
滋賀編:彦根の心霊スポットが本気で怖い
宮城編:冷やし中華の元祖店では具を自分で乗せる
神奈川編:小田原にはトリックアートみたいな不思議な景色がある
佐賀編:佐賀には深夜23時から開く甘味処がある
静岡編:浜松で一番人気なのは小さな絵本屋さんだった
福岡編:福岡では70歳のおじいちゃんが作るハンバーガーを食べるべし
石川編:金沢ではニンニクたっぷりのステーキに気をつけろ!
愛媛編:松山には道路にみかんが転がっている島がある
栃木編:宇都宮では餃子があちこちで待ち受けている
兵庫編:神戸には空気が異常にキレイなカフェバーがある
富山編:富山市には市民が100%薦めてくる公園がある
岩手編:老舗わんこそば屋さんが薦めてきたのはカツ丼でした
京都といえば20代前半の頃、一人で寺社を周りまくった思い出がある。当時はガイドブック片手にバスで周るしか手段がないと思っていたが、今回は地元の人頼みで原付バイクの旅。気まま旅である。
嬉しいことに京都はバイクのレンタル屋さんが充実していた。お借りしつつさっそく店員さんにお薦めを聞こう。
最初に向かったのは、バイク屋のお姉さんお薦め。地元で大人気のパン屋さんだ。京都の風景に馴染んだいかにも老舗といったたたずまいのお店である。
狭い道路に、車の邪魔にならないようにと端に並ぶお客さん達。中では10人くらいの女性スタッフが手際よくパンを作っては運んでいた。
柔らかコッペパンに、新鮮でシャキシャキとしたキャベツとハム。そして優しい甘さのミルククリーム。
どちらもとてもシンプルだからこそ飽きない感じ。毎朝このパンを食べて一日をスタートしたくなるような、そんなパンであった。
ここは女性の神様がたくさん祀られていて出産や恋愛など、女性の願い事にご利益あるという。そういえば7年前に京都で地元の人頼りをした時も「出世」「お金」「縁切り」と、それぞれ特化した神社を見つけたのだ。京都にはほんとに色んな神社があるんだなあ。
女性向け神社とはいえ、カップルで参拝している人たちも数組いた。場所的に穴場のように見えるが、ひっきりなしに人が訪れているからすごい。
お次はバイク屋さんのお兄さんのイチオシのたこ焼き屋。ここには「しぐれ焼き」というチクワの入ったお好み焼きがあり、この辺を通るときは必ず毎回セットで食べるそうだ。
東京ではなかなかお目にかかれない大玉でトロトロのたこ焼きに、ホクホクのしぐれ焼き。どちらも贅沢にソースと鰹節が使われていて、たまらなかった。
さすがに満腹になったので次は見るところを…と聞いた所、京都らしくお寺をお薦めしてくれた。
まるでお城のように広い敷地だ。中でも面白いと教わったのは、とんちで有名な一休さんを開祖として建てられたという真珠庵。普段は非公開だが今は特別に開いているそうなのだ。
漫画「釣りバカ日誌」の北見けんいちさんの陽気で華やかな襖絵から、ファイナルファンタジーのアートディレクターが手がける見惚れるほど美しい襖絵まで各室楽しめた。
大徳寺はこのように、非公開の塔頭がたまに期間限定で拝観できるようだ。何度訪れてもきっと楽しめるだろう。
次に向かったのは、自転車の女性がわざわざ引き返して教えてくれた場所。
お店に入るとガラスの向こうでバウムクーヘンが焼かれている工房を目にすることができる。ドイツで修行してきたという女性店主が一層ずつ、つきっきりで焼いているのだそう。
可愛らしい焼印まで丁寧に入れられ、しかも種類は抹茶や栗やチョコミントなど年間16種類と豊富だ。
店主のミカさんはキリッとしてていかにもこだわりがある感じの男前な女性だった。こりゃあ引き返すほど根強いファンがつくのわかるわ。
いきなり訪れた人間に対し、こうして親切に説明してくれるのは本当にありがたい。
お次はたこ焼き屋さん他、何人かから候補があがった上賀茂神社。聞いたことはあるが初めてだ。
大きい鳥居をふたつくぐり抜けるとそこにはピンと張り詰めた空気がただよう神聖な場所になった。
思わずキョロキョロとしてしまう。
こちらでは運が良ければ白馬による流鏑馬の練習が見られるそうだ。そして、私が特に薦められていたのは境内を流れる小川や自然である。
お次は高野川と賀茂川の合流地点。橋から見るとパンティのようにきれいに三角地帯ができている。
京都のまちを縦断する鴨川は、それだけでお薦めに挙がっていた。地元の人の憩いの場だとわかる。
また、東京育ちである私でさえ鴨川は定間隔でカップルがいるデートスポットだという噂は聞いている。
そんな中、スーツ姿でビールをあけている男性2人組を発見した。
私が男性ならば祇園をお薦めしたい所らしいが、残念ながらそうではない上にラフな格好なので恐れ多い。
結果、2人がつまんでいる常連のお惣菜屋さんを紹介してもらった。
ほど近い出町枡形商店街の入り口にあるお惣菜屋さんだ。パッケージに入れられたお惣菜は、確かにどれもビールのお供にピッタリ。
紹介してもらったとお母さんに言うと安くマケてくれた。
お惣菜を手に、小さいけれど雰囲気のある商店街を往復した。
立派な乾物屋さんやド派手な果物屋さん、チェーンではない古本屋さん、最近できたというミニシアター。なんとも味わいのある商店街だ。
決して怪しくありません、の文字につい釣られて入ったのは、リトルプレスや旅の情報本などが置かれ、カフェもできるお店だった。
優しい京都弁を話す女性店主のたぬきさんが奥からひょっこり出てきた。
お店全体が、独特なセンスでセレクトしたもので溢れてる。
窓際のカフェコーナーは持ち込み自由。ちょうどツマミが食べられるのでこちらでお茶をいただくことにした。
たぬきさんが言う通り、八百屋さんの手際の良い片付けを見ながら山椒のしびれが利いてるごぼうのたたきや、サバの醤油漬けをいただいた。
香りよい金木犀のお茶とはマッチしていたとは言えないかもしれないけど、この突如出くわした異空間具合とはとてもマッチしていたと思う。
どうして私はこういう状況になったんだっけ? と笑わずにはいられない。
すごく居心地の良いお店だ。入り口の「怪しくない」に女性はひるんでしまう事が多いらしいが私は近所だったらしょっちゅう顔出すだろうな。
ちなみに常連さんにはコーヒーが好評とのこと。
次に向かったのは、将軍塚という夜景スポット。
見た人の感想が「六甲山よりキレイ」「六甲山の方がすごい」と六甲山と比較しているのが面白かった。
さて、夜景はもう一つ教わっていた。地元の人でもレベルが高いかも、と言われた夜の散歩コースだ。
伏見稲荷大社は全国3万社ある稲荷神社の総本宮。「鳥居がたくさんある」というのだけは知っていた。
だが、その鳥居の数が想像を絶した。しかも夜行くと、異世界に迷い込んでしまいそうなくらい神秘的なのである。
この写真は「千本鳥居」と呼ばれる場所で撮影しているのだけど、伏見稲荷の敷地は相当広く、山の上の方までまだまだ鳥居は続いていた。千本どころじゃないのだ!
千本鳥居の突き当りで地図を眺めていると一人の男性が「台風で照明が消えている部分があるからこの先は危ないよ、自己責任だよ」と注意してくれた。
それを聞き引き返そうとした所、「もし行きたいなら案内するけど」と続いたのでお言葉に甘えることに。
どなただかわからないけど真っ暗な中、懐中電灯を照らし案内してくれた。
「ほらあそこ」と所々で説明してくれる。台風で倒れた古い鳥居や、言われなければ真っ暗で気づかない池(手を叩いてこだますると願いが叶う)や、たくさんあるお社の説明をしてくれた。
私達は初めてで、真っ暗で、どこまで続くのか分からない鳥居の中を彼に身を任せ進むのみである。
鳥居の数はやはり千本どころじゃないらしく、「誰かが2万までは数えたらしいよ」とのことだった。
数えている間に鳥居は奉納され続けるし、小さいものも入れるのか?など考えたら正確に数えることなど不可能かもしれない。
もし一人だったら、ここまでは絶対来なかっただろう。めっちゃ怖いのだ。見上げると狐がジャンプしていたりする(そういう像がある)。
明るい所に出て、ようやく案内人の磯辺さんの顔が見えた。狐じゃないし、異世界に誘おうとする人でもなかった(ビビりすぎだ)。
聞くと、健康のために運動がてらたまに観光客を案内している近所の人だという。こんな所まで来るなんて相当な運動量だ。
磯辺さんはこの景色を私たちに見せたかったようだ。
もし私が一人だったら、初めの方で暗闇の中で神秘さや恐怖を感じただけで帰っていただろう。それだけでも充分好奇心を揺さぶられるものではあったけど、磯辺さんが付き合ってくれたことで、その先の美しい景色を見ることができた。
磯辺さんは帰りは違う道を選び、たっぷりもう1時間かけて色んな所を案内してくれた。なんと入り口に戻ったのは23時半である。
おかげで京都の夜をこれ以上無いくらいに堪能できた。もし伏見稲荷大社に行った際はまず磯辺さんを探すといいだろう。
翌朝のスタートは、ホテルの爽やかなお兄さんがたまに行くというパンケーキ屋さんへ。
思ったより大きく、しっかりと重めに焼き上げられたパンケーキ。そこに特製の甘いソースが絡みつく。ブラックコーヒーと相性抜群でお目覚めバッチリである。
それにしても、あのお兄さんがこの可愛いパンケーキを何度も食べているのを想像すると微笑ましくなる。
京都の中心地からバイクを走らせ45分ほど。観光に大人気の嵐山にやってきた。
お目当ては、鴨川デルタで出会ったスーツの男性がお薦めしてくれた祇王寺である。なんだかんだココが一番好き、と言っていた。
祇王寺はCMなどにも使われているし、小さいながら有名である。私も以前来た事がある場所だが、この40近い年齢になって再度訪れると違った味わいを感じることになった。
祇王寺は、本当に狭い。急いだら5分で周り終えてしまうくらいだ。だけどつい立ち止まって、見惚れずにはいられない緑の風景があった。
自分でも驚いたがその緑の美しさに思わず涙が滲んできてしまった。なにこれ!
思わず受付の女性に感動を伝えると、「みんな秋の紅葉を狙ってくるけれど、それ以外の時期は人も少なくてゆっくりと見られるから良いのよね」と言っていた。
この日は紅葉には早い時期で人はまばら。だからこそ得られた感動だったかもしれない。
お豆腐や油揚げなどを買っていく人が多いようだが、その場で食べられる「ひろうす」が絶品だった。
「どれもハズレませんな~」と、店先の椅子に座り青空を見上げながら噛み締めた。
祇王寺の女性に薦められたのはまたしてもお寺だった。日本を旅していて寺社を薦められる事は多いけど、京都は圧倒的である。
でやってきたのは渡月橋からほど近い法輪寺。1700年の歴史がある。
嵐山にも一望できるような所があったのか。少し登っただけだけど、渡月橋はもちろん、広い空や山並みが眺められてとてもきれいだった。
さてお次は「風の駅」で話に出てきた場所へ。
バイクで中心地に戻り、電車に乗り換えて一気に南下。大阪にも近い橋本という駅にやってきた。ここは電車を降りて1分のところから、遊郭の名残を見ることができる。
これまでも元遊郭街を見たことがあるけれど、時とともに営業形態を変え、スナック街のようになっていく印象だ。
ここまで当時の姿を残している建物が並んでいるのを見るのは初めて。昭和初期の最盛期には80以上も並んでいたのだとか。
それぞれ技工をこらした格子戸や二階の手すりなど、建築に詳しくなくてもついつい眺めてしまう。
犬の散歩をしていた方に思い切って声をかけてみた。昔はこういう建物がもっと残っていたけれど、今は持ち主がいなくなってきて、新しい建物に建て替えられたり、更地になってきているそうだ。
持ち主がいなくなった場合、歴史的背景を考えると積極的に保存はできないのかもしれない。けれど、無くなるのは勿体無い、とどうしても思ってしまう。
まさにひっそりと静かに残っている、そんな景色だった。けして普通のガイドブックには載らないディープスポットであった。
さて哀愁100%の橋本から賑わいのあるエリアに戻り、京都での最後の食事をすることに。グルメっぽいご夫婦と犬を発見!
「京都に住んでるからって、いかにも京都らしいもの食べるわけじゃないよ」と笑いながらよく行く中華屋さんを薦めてくれた。そりゃあそうですよね。
ハズレがないと聞いていたものの、何にするか迷うなあ…とメニューを開くと変わった白いチャーハンを発見。
思い切って頼んでみると、フワッフワの白いあんかけがパラパラとした本格チャーハンにかかっている。口に入れると…ほんのりとした甘さと塩気があいまって美味しい。
表現が難しいけど、穏やかな海の中をカニをしゃぶりながら泳ぐような、夢心地のような味である。
さて旅も終盤。バウムクーヘン屋さんが一生懸命描いてくれた地図を元に京都駅前にやってきた。
バウムクーヘン屋さんは昔、京都駅のお店に出入りしていたそうなのだが、そこから出てくる度に見るこの光景が思い出深く、好きなのだそうだ。
なるほど今までタワーしか目に入らなかったけど、ロームのビルも負けじと光り輝いていてキレイだ。この2つの光の配色もお楽しみポイントである。
これから夜に京都を訪れるたびに毎回ここで写真を撮りそうだ。
という感じで、最後はサッパリしてから帰途についた。
日の短い季節だったけど、おかげで夜までしっかり堪能できた。京都の皆さま、ありがとうございました!
20代前半に訪れた時、取り憑かれたように京都の寺社を巡った。どこも東京では見られないほど立派で、歴史があって、ただただ圧倒されていた。
そして15年以上たった今でも、やっぱり圧倒された。なんだあの伏見稲荷の鳥居の多さは!なんだあの祇王寺の美しさは!なんだあの卵白の旨さは!なんだあの…!思い返すだけで興奮してくる。これからも何度でも京都に圧倒されにいきたい。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |