ちょっと前置きが長くなりそうです
以前、日本各地の離島の観光PR団体が一同に会するイベント「アイランダー2024」のレポート記事を書いた。
特産品が販売されていたり、様々な形で島の情報が紹介されていたり、島グルメが味わえるコーナーがあったりしてすごく楽しいイベントだった。86のブースが出展している中に滋賀県の「沖島」のブースがあった。それが琵琶湖に浮かぶ有人島で、漁業が主な産業で、ビワマスやスジエビなどがよく獲れることなどを聞き、私が住む大阪からもそれほど遠くないと知って、近いうちに行ってみたいと思った。
ちなみにデイリーポータルZに地主恵亮さんが書かれた「日本唯一の淡水に浮かぶ島に行く」という記事があって、そちらを読んでいただくと島の雰囲気が伝わるかと思う。
で、私も「アイランダー2024」をきっかけに沖島に行ってみたいと思って、実際に記事にも「これを機に行ってみようと思った」と書いた。すると、なんでも書いてみるもので、記事を読んでくれた知人から「沖島に行きませんか」とお誘いの連絡をいただいたのだった。
連絡をくださったのは以前お仕事でお世話になった方で、「2月23日に伊勢大神楽が沖島で家々でお祓いをするのですが、いつもと違う沖島の様子が見られるかと思うのでおすすめです」と言う。
それから少し遡った2024年末、私は大阪市・谷町六丁目にあるちんどん屋「ちんどん通信社」が主催する「どっこい!ちんどん通信社40周年大感謝祭」というイベントを見に、かつて巨大なキャバレーだったホール「味園ユニバース」に足を運んでいた。
「ちんどん通信社」のショーはもちろん、縁の深いミュージシャンやアーティストが多数ゲストに出て賑やかな夜だった。そのゲストの中に、伊勢大神楽の神楽師のみなさんも名を連ねていて、ステージ上で「総舞(そうまい)」と呼ばれる神楽を見ることができた。

後述するが「総舞」は“八舞八曲十六演目”から成る神楽で、そのすべてを行うと3時間から4時間近くにもなるそう。この時は演目をいくつかに限定し、それでも1時間ほどの神楽を見ることができた。他のゲストの演奏やパフォーマンスとは全然違うものだったが、すごく新鮮で見飽きることがなく、こういう神楽が今の時代に残っているのかと驚かされた。
で、そのすぐ後、NHKの『よみがえる新日本紀行 旅する獅子〜山陽・近江路〜』という番組を録画してあったのを見てみたら、それが伊勢大神楽に密着した映像だった。
昭和47(1972)年に撮影されたもので、その終盤、伊勢大神楽の神楽師が沖島に渡って神事を行う様子が映っていた。島の広場で「総舞」が奉納されている映像を見て「うわ、この前のあれだ!」と思った。もちろん映像は古いのだが、そこで行われていることは先日見たものとあまり違わないように見えたのだ。
そんな流れがあって、最終的にはデイリーポータルZの記事がきっかけとなって沖島への誘いが届いた。これはもう、運命としか思えないではないか。ありがたい話である。私が同行させていただくことで神事の邪魔にならないか不安だったが、あくまで一歩引いたところから神事の様子を見せていただくというスタンスで、ちょっと近くに居させてもらう感覚で参加させていただくことにした。
いよいよレポートが始まります
沖島へ行くことになった経緯もしっかり書いておきたくて、ここまでが長くなってしまった。そんなわけでいよいよ、島へ向かうことになるのだが、神事の行われる2月23日、神楽師のみなさんは早朝から沖島へ向かうとのこと。
そこで、私は前夜から滋賀県・近江八幡駅近くの宿に泊まることになった。その日はギリギリまで大阪で用事があって、最終電車で近江八幡駅へ向かった。やけに寒い日だと思っていたが、滋賀へ向かう途中でさらに強い寒さを感じて、近江八幡の駅前は雪が降りしきっていた。

とにかく明日に備えて早めに寝るようにして、翌朝、6時過ぎにはホテルのロビーに集合した。同じホテルに神楽師のみなさんの多くが宿泊していて、ワンボックスカーに私も一緒に乗せていただく。

近江八幡駅近くから車で20分ちょっとで琵琶湖東岸の港へ着く。堀切港という港から「おきしま通船」という船が出ていて、乗ってしまえば10分ほどで沖島港へたどり着けるのだ。
車が港に着くと、まずは車の後部から「長持(ながもち)」が下ろされる。

後で見てわかったことだが、長持には箪笥のように引き出しがたくさんあり、神事に必要な道具が収納されている。また、家々でいただいたお米やお酒を収納、運搬するのにも使用されていた。
そして神楽師の方に伺ったところによると、そういう機能を持ってはいるが、長持はただの物入れではなく、伊勢大神楽を待つ家々まで運んでいく大事な存在であるらしかった。伊勢大神楽と共に移動する神棚であり、その神棚に神事に使う道具を収納することに大きな意味があるという。



大雪で、もしかしたら島への船が出ないかともしれないという懸念もあったそうだが、無事、船が出た。私は「いよいよかー」とまだ寝ぼけた頭で曇った窓から外を眺めていたのだが、島影が近づいてきたと思ったら神楽師のみなさんが一斉に笛を吹き始めた。

太鼓も叩かれ、しんと静かだった船の中がいきなり賑やかに。これは伊勢大神楽が今年もやってきたことを島の人々に告げる意味合いがあってのことらしい。同行していた私からすると、このお囃子が始まった瞬間から今日の神事が始まったという感じがして気持ちが引き締まった。