特集 2019年5月13日

「ビリヤニって何ですか?」と詳しい3人に聞いてみた

「ビリヤニって何ですか?」と、インド料理に詳しい3人に伺ってきました。

確か昨年くらいからだろうか。気が付くと料理好きの友人たちが、急にビリヤニという米料理を恐る恐る作りだした。なんでも半茹でにした細長い米を、カレーと一緒に炊いたインド料理らしいのだが、ネットなどに載っている作り方が全部違うので、なにが正解なのかわからないのだとか。

ビリヤニの定義ってなんだろう。米の種類なのか、具やスパイスの組み合わせなのか、あるいは作り方なのか。その答えを求めて、ビリヤニ文化に詳しい3人に話を伺ってきた。

趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。

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急にビリヤニが流行りだしたぞ

ある製麺好きの友人が、「僕はもうビリヤニクラスタですから」といいながら、いつの間にかビリヤニを作るようになった。

友人A:「肉じゃがだったら肉の違いとかはあっても作り方はだいたい一緒じゃないですか。動画サイトとかで調べても、ビリヤニは人によって全然違うんですよ。なにが正解なのかまったくわからなくて……」

そんな説明をしながら、新大久保で購入したインドの細長い米を半茹でにして、寸胴鍋の中でマトンのカレーと層にすると、その地表部になにやら派手な色付けをして、小麦粉を練ったもので蓋を目張りして弱火に掛けた。

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これが彼の作ったビリヤニ。味は間違いなくうまいのだが、作り方に込められている意味が理解できない。半茹での米をカレーで炊くのはなぜ?

またある友人は、食事会の締めに炊飯器で炊いたビリヤニを出してくれた。

友人B:「いや、これはビリヤニ風炊き込みご飯。カッチ(生肉を米と炊くスタイル)でダム(米と具の重ね炊き方式)だけど生米で炊飯器だから、あくまで『ビリヤニ風』ということで。ビリヤニって言い切ると、ビリヤニ警察に突っ込まれるかもしれないし!」

ちょっと何を言っているのかわからないのだが、どうやらビリヤニについて熱い想いを持つ日本人ファンは多く、ネット上でビリヤニを取り締まる存在がいるらしい。という話はたぶん都市伝説なのだろうが(だと信じたい)。

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炊飯器で炊かれたナチュラルカラーのビリヤニ(風)。

さてビリヤニとは一体なんだろう。現時点で把握しているのは、米を半茹でにしてから炊きなおしたり、具と米を層にしたりという、私の知らない技術が使われていること。そしてその作り方や材料は、人それぞれでかなり違うということ。それでいて確固たるビリヤニ像を持つ人がいるという謎。

日本でも流行りつつあるっぽいんだけど、まったく正体不明のインド料理、それが私にとってのビリヤニ像なのである。

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今回の記事に出てくるビリヤニの地図。ちょっと南側に偏っちゃったかな。

詳しい人に聞いてみよう

そんな謎多きビリヤニを理解するために、まず上記二人の友人も影響を受けているという、イナダシュンスケさんに話を伺ってみた。

エリックサウスという南インド料理専門店などでレシピ開発を担当する方である。

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様々な国の料理を学んだ後、インド料理は諦めようと踏ん切りをつけるために渡印したら、その魅力に取りつかれてしまったというイナダさん。

イナダさん曰く、ビリヤニについて詳しく知りたいのであれば、できればマトンとチキンの2種類を試してほしいということで、やってきたのは渋谷にあるエリックサウス マサラダイナー。

ここはランチタイムにも2種類のビリヤニを出しており、さらにはプラオというインドの米料理も提供しているそうだ。それってビリヤニとどう違うんだ。しまった、また謎が増えてしまった(嬉しい)。

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メニュー表には、「インド式スパイシーパエリア」と説明されている。
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同行いただいた編集部の古賀さんが、メニューの裏にびっしりと書かれたビリヤニの説明からくる圧力に固まる。内容が気になる方はお店で確認してください。

イナダ:「インドにはビリヤニの聖地と呼ばれる場所が何か所かあって、そこはイスラム教徒の方が多い。中でも有名なのがインドの内陸部にあるハイデラバードで、当店のマトンビリヤニはそこの作り方をベースにしたものです」

インドでも、そして日本でも、オーソドックスなスタイルのひとつと言えるハイデラバード式ビリヤニの作り方を、特別に厨房で見せていただいた。

ハイデラバード式マトンビリヤニ エリックサウス流の作り方

仕込み中の厨房にお邪魔させていただくと、お腹が強烈に空いてくる香りが充満していた。絶対に美味しいものが出てくるキッチンだ。

まずは銀色のツボのような容器に、スパイスを入れた熱湯で半茹でにしたパッサパサの米を敷き詰める。この米はバスマティライスという細長い香り米だ。

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エリックサウスのビリヤニには、インドの高級米であるバスマティライスが使われている。
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スパイス入りの熱湯で半茹でにしてあるのがポイント。

続いて取り出したのは、マサラと呼ばれるカレーソース的なもの。骨付きのマトンがたっぷりと入っている。

多分これとライスだけで、すでに十分うまいやつだ。

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ビリヤニ専用に作られたマトンカレーが使われる。もうこれでいいじゃん。

バスマティライスの上からマサラを掛けて、さらに生のパクチー(コリアンダー)、ドライのミントをどっさりと加える。

「本来インドでは生のミントが普通ですが、日本だと高価すぎてたくさん入れられません。ただこれはやってみてわかったのですが、ドライミントの方がむしろ加熱後もしっかり香りが残りやすいというメリットもあります」

ミントというとアイスにちょこんと乗っているイメージだが、中央アジア料理では肉に合わせるハーブであり、牛や羊の料理でよく使われるそうだ。へー。

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ミントってこんなにどっさりと使うものなのか。

「このようにライスとマサラを層にするのが特徴です。作る量によって層の数は変わるのですが、この6人前の器だと5レイヤー。ライス、マサラ、ライス、マサラ、ライスと重ねるとちょうど良い。

深さがある容器だと、ライスとマサラの二層だと炊きムラができる。米にマサラが満遍なく行き渡らないから層を重ねます。でも実は満遍なくなりすぎても良くない。食べたときに味のグラデーションがある方がおいしいので、炊きあがった後になるべく混ぜないようにしています」

味のムラを作らないように層を作るが、ムラがないと美味しくならないという禅問答。さすがインド料理。

最後に水で溶いたターメリックが掛けられ、茹でるときに使われたホールスパイスが載せられた。

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「料理は見た目も大事ですからね!この色とスパイスで気分が上がります」とイナダさん。
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ディナータイムはこの小さな鍋で一人前ずつ作るため、マサラとライスの2レイヤーとなる。

「インドの古いやり方だと、これに蓋をして小麦粉を捏ねた生地で目張りする方法もあります。蒸気を漏らさずに蒸し上げるためです。密封された鍋で加熱して、マサラの水分と味を半茹での米に移したい。それをこの店ではアルミホイルで蓋をして、麻紐で縛ります」

ビリヤニの容器が、急にヘアバンドをつけたサッカー選手のようになった。

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このためにかっこいい麻紐を選んだそうです。そういうの大事ですよね。

「クラシックな方法だと、ごく弱火の炭火で下から炊きつつ、蓋の上にも炭を置いて上下から全体を加熱します。でもそれってオーブンでできるよね、オーブンでやらない理由がないよねって、あるとき気づきました」

ははー。インド古来の方法をイナダさんが日本でアレンジしたこともあり、一から十まで知らない料理方法である。

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上下からの炭火の代わりに、余熱したオーブンで加熱する。

しばらくして、焼きあがったというか、炊きあがったというか、蒸しあがったというか、とにかくビリヤニが出来上がった。

熱気でアルミホイルの蓋がパンパンに膨らんでいる。まさかここからビリヤニが現れるなんて、インド人もびっくりだ。

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ハイデラバード式のはずがアダムスキー型みたいになって出てきたぞ。

そしてアルミホイルを破けば、黄金色に輝くビリヤニが出現し、一気に香りが立ち込める。

これは気分が上がる食べ物だ。パーティー料理に最適。

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インドではお祭りや結婚式などのめでたい席で食べる料理だそうです。わかるー。

これにもう一度蓋をして、余熱でしばらく蒸らしたら本当の出来上がり。

盛り付けるときは、なるべくかき混ぜずに、層のまま縦に掘っていく。するとマサラに接して味が濃い部分と白く炊きあがった部分のグラデーションが楽しめるのだ。

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一人前を取った後のビリヤニ。

3種類のインド米料理を食べ比べる贅沢

このマトンビリヤニと一緒に、チキンビリヤニと鴨プラオも注文させていただいた。

添えられているのはライタと呼ばれる生野菜入りのヨーグルトと、イナダさんに選んでいただいたカレー達だ。

「ライタは個人的には欠かせないけれど、いらないっていうインド人も地域によってはたくさんいます。途中から掛けるのがおすすめです。ビリヤニにカレーを掛けるのは、インドの一般的な食べ方というよりも、ちょっとした後ろめたさのある裏技的なものですね」

なるほど、炊き込みご飯に肉じゃがの汁とか、チャーハンにラーメンのスープを掛けるようなものだろうか。しかしこのカレーの存在が、日本人のイメージするインド料理と、本場の作り方を踏襲したビリヤニの懸け橋となってくれている。

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左がマトンビリヤニ、上が鴨プラオ、右がチキンビリヤニ。ぱっと見はみんな一緒に見える。

まずは作り方を見学させていただいたマトンビリヤニをいただいたのだが、お米のパラッパラ具合というか、軽さがすごい。本当に米なのか、これ。

古賀:「前に別の店で食べたビリヤニはもっとモッチャリしてましたけど、ここのは持った感じが軽くてフワフワしている。ビリヤニ、めちゃくちゃうまいものじゃないですか!」

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さわなかなミントの香りが印象的なマトンビリヤニ。肉汁をたっぷりと吸ってかなりスパイシーに炊きあがったムラムラした米が、驚くほどパラッパラでこれでもかとアッサリしている。なんだこの説明。

「こちらのチキンビリヤニは、インド南東部のタミル地方といわれるところの作り方です。簡単に説明すると、まずマサラにザバーっと水を足して、浸水させた生米を入れて、焦げ付かないように混ぜながら煮て、途中で弱火にして蓋をして炊きます」

それっておかゆの作り方に近い。でも仕上がりはパラパラのビリヤニというのが不思議。

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ナッツや干しブドウが入って味付けもマイルドで、マトンビリヤニとは見た目以上に味が違う。インド南部のビリヤニだからか、なんだか南国っぽい陽気さがある。

「この作り方だと同じ材料でも旨味が全体にいきわたるのに加え、日本人がイメージする『カレー風味』に仕上げやすい。だからこのビリヤニは日本人にとってカレー味の料理のひとつという感覚で、より馴染みやすいんじゃないかと思います。それに対してハイデラバード式はカレー風味とは違うビリヤニならではの独特な風味という印象を持たれることが多い。

ただ欠点が一つあって、この炊き方だと米がべっちょりしやすい。バスマティライスはパラパラしやすいので、日本の炊き込みご飯みたいにはならないのですが、うちでは伝統的なやり方をちょっとアレンジして、その欠点をできるだけなくしています」

このチキンビリヤニもお米が十分にパラパラなので、素人の私には事前に話を伺っていないと、作り方の根本的な違いは正直わからなかったと思う。

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どれも知らない料理過ぎて、なんだか脳が追いついていかない。

「ビリヤニの作り方はこれだけではなく、スパイスなどでマリネした生の肉と半茹での米だったり、ヨーグルトで合えた生米を生の肉と重ねたり。

また具も様々で、基本的にはイスラム教徒の料理なので、インドだけど牛肉が使われる事もあるし、海の近くなら魚介類を使う。うちの店でもジビエの鹿やブリカマのビリヤニを出していました。インドには様々な教徒がいるので、ベジタリアン向けのビリヤニというのもあります。

ビリヤニというのは、地域だったり、宗教だったり、階級だったり、様々な要素が絡み合って発達した料理なんです」

どうやらインドにおけるビニリヤニは日本でいえばラーメンとか鍋料理くらいバリエーションがあり、なにが正解というものでもないようだ。一つの料理にここまで知らないことが詰まっていたとは。

「ビリヤニに対してプラオは使っているスパイスがぐっと少ない。浸水させて、調味料を入れて、具を載せて炊きます。日本の炊き込みご飯にも少し似ています。プラオはスパイスだけでなく肉や香味野菜の量も少ないので、スープに粘度が出ないため、普通に炊いてもバスマティライスの特性だけでパラパラになりやすいんです」

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こうして食べてみると、同じ米で作られた同じような見た目の料理でも、ビリヤニとプラオは違うものだというのがよくわかる。

どこか日本の釜飯っぽさがあるプラオ。どこを食べても味が均一で鴨のダシには安心感があるけれど、お米は軽くてパクチーが香ってくるという不思議。

なんだかインドにある日本料理屋で食べる釜飯みたいだ。

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ろくろを回すイナダさんと石臼を回す私、みたいな写真。

ビリヤニは米料理であり肉料理でもある説

古賀:「ところで、ビリヤニって量が多くないですか?」

玉置:「といいつ、すっかり食が細くなった二人で三人前を食べきりましたけど」

「インド人は日本人よりお米を一度にたくさん食べる印象があります。また基本的にビリヤニの時はいろんな料理と合わせて食べるというより、それだけをドーンと食べる事が多いというのもあると思います。

ビリヤニは普段のご飯とは違うご馳走というイメージもありますから、余計たくさん食べたいというのもあるかもしれないですね」

たくさん食べたいご馳走ご飯か。ちらし寿司とかお赤飯とか、そんなイメージが近いのだろうか。

「インドへ行くと、一人前で500g以上あることも普通です。でもビリヤニってイメージより使っているお米の量は少なくて、たとえば完成が500gあったとして、米は一合も絶対に無い。

バスマティライスは炊き増えがするんです。日本米は二倍強ですが、バスマティは三倍弱。だから炭水化物の量としてはそんなに多くありません」

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生のバスマティライスを見せていただいた。こんなに細い米だったのか。
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イナダさん的にはチキンビリヤニなら450gが適量なのだが、日本人のイメージに合わせてLサイズとしている。

「うちの店では基本的に調理前の重量でお米に対して1.5~2倍くらいの肉を入れています。お米が100gだったら肉は150~200g、みたいな。そのくらいの量が標準。日本人の感覚だとビリヤニは米料理に見えますよね。でも同時に肉料理でもあるんです。

肉を煮る時に蓋がわりに米をかぶせたのがビリヤニのルーツ、なんて説も聞いた事があります。そうしたら米もおいしくなってラッキー、みたいな。その説自体の信憑性はともかく、まず肉ありき、っていう感覚はあるんじゃないかと思います」

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ビリヤニは肉料理でもあったのか。なるほどー。

「でもプラオはもうちょっと純粋に米料理寄り、というイメージで作っています。米をおいしく食べるために肉や野菜をどう使うか。ビリヤニとプラオを分ける定義には諸説ありますし、そもそも明確に区別することは不可能ですが、個人的にはこんな説が最もしっくりきます。

『まず重ねて層を作って炊くのは問答無用でビリヤニ、そうでないものでも具を米と同量以上使うものはビリヤニ、そうでないものはプラオ』

あくまで便宜的なものではありますが」

今回いただいたマトンビリヤニ、チキンビリヤニ、鴨プラオという3つの料理は、スタート地点やその行程はまったく違うものであり、あくまでゴールの景色(料理の見た目)だけが似ているのだ。

以上がイナダさんにとってのビリヤニ、およびプラオの認識である。さらに少し角度を変えてビリヤニ像を立体的に理解するために、タイプの違う二人からビリヤニの話を伺ってきた。

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