再開発前に行こう
昭和の香りをふんだんに残すニュー新橋ビルだが、なんとこのビルも再開発が予定されているという。SL広場とともに2022年までに解体されてしまうのだ。
この独特な雰囲気が楽しめるのもあと2、3年。今のうちにサラリーマンの聖地巡礼を楽しんでおこう。
東京の街は常に変わり続けている。新宿駅の工事は永遠に終わらないし、駅前のカフェはタピオカ屋になるし、オリンピックに向けて国立競技場は新しくなる。
そんなアメーバのように姿を変え続ける東京の中心部、新橋にあるニュー新橋ビル。サラリーマンの聖地として名高いこのビルを2006年に編集部の古賀さんがレポートしている。
「おやじビル」とも呼ばれるニュー新橋ビルはこの13年で何か変わったのか、はたまた何も変わらないのか。令和という新しい時代を迎えた今、改めてレポートします。
※この記事はデイリーポータルZ開設17周年企画「名作カバーまつり」のうちの1本です。
元記事:観光地としてのニュー新橋ビル
結論からいってしまうとニュー新橋ビルは13年とあまり変わっていないように見えた。もちろんお店の入れ替えは少なからずあるが、新しく入ったお店の多くが「13年前もそこにあったよね?」という風格を携えているのだ。
郷に入れば郷に従えという言葉があるが、郷のパワーが尋常じゃない。ニュー新橋ビルのおやじ力をなめてはいけない。
とはいえ13年という時間はけっこう長い。小学一年生は大学二年生になるし、新卒は課長くらいになっているだろう。細かい部分で変わっているところはあるはずなので見逃さないようにしたい。
ニュー新橋ビルは1971年に竣工しており今年で開業48年を迎える。もう少しで半世紀だ。
48年前の東京がどんな感じだったのか27歳の筆者には知る由もないが、当時はかなりおしゃれなビルだったんじゃないかと思わせる見た目をしている。
ニューと付いているが新橋ビルが別にあったわけではない。いきなりのニューなのだ。生まれながらニューの運命を背負わされていることからもこのビルに対する当時の期待感がうかがえる。
さて、ビルの中だが、これがまぁ本当に古賀さんがレポートした時とほとんど変わっていない。同窓会で「全然変わらないねー」と言われる人の10倍は変わっていない。
1階にはチケットショップや洋品店、ジューススタンドなど13年前にもあったものばかりなのだ。すぐに分かる変化といえばパチンコ屋があったと思われる一角が薬局に変わったことくらいか。
まだオープンから半年くらいしか経っていないとは思えない馴染み具合だったが、新しいお店も新しく見えない一因として一つのお店の区画が小さいことが影響しているのかもしれない。
どうしてもこじんまりしてしまうので、昔からそこで細々やってます感が出てしまうのではないだろうか。
ここまでお店のラインナップが変わっていないということは今も昔もサラリーマンが求めるものは同じということだろう。
出張のために安い切符をチケット屋で買い、昼は立ち食いでさっさと済ませ、夜はいつものおかずと酒で飲めれば良いのだ。若者の街と呼ばれる渋谷や原宿にはない安定感がそこにはある。
おじさんを唸らせるテナントが目白押しの1階で筆者が一番気になったのがこの自動販売機だ。
テナントとテナントの間にひっそりたたずむクッキーの自動販売機である。完全に昭和からタイムスリップしてきた販売機だ。
「湘南」というのもよく分からない。湘南といえばサーファー=サラリーマンよ、時代の波に乗れ!ということだろうか。いや、どうことだ。
この自販機は古賀さんが取材した13年前にはあったのだろうか。当時はなくて最近設置されたのだとすればかなり攻めている。
でもこういうものの存在がニュー新橋ビル全体を味わい深いものにしてくれている。こういうのを味わうだけでお腹がいっぱいだ。
ちなみに2階にはマッサージ店が多く、3階にはクリニックや飲食店、事務所、4階には雀荘やクリニックが入っており、こちらも古賀さんの記事を読む限り雰囲気は13年前と変わってないようである。
何年も前から変わらぬ雰囲気は上層階にいけばいくほど健在なので「観光地」としてニュー新橋ビルを楽しむならしっかり4階まで巡るのがおすすめだ。
13年前に古賀さんがいち押しと書いていたジューススタンドにも行ってみたい。当時1階に2つあったジューススタンド「ベジタリアン」と「オザワフルーツ」はどちらも健在だった。
ジューススタンドなんてこんなにずっとお店を出していられるものなのかと思っていたが、少し見ていただけでもけっこうたくさんのお客さんがジュースを注文していた。
面白いのは「ベジタリアン」と「オザワフルーツ」の客層の違いで、華やかな雰囲気の「ベジタリアン」は外国人観光客がメインの客層なのに対して「オザワフルーツ」はサラリーマンが中心だ。
いかにも前日飲み過ぎましたというサラリーマンが「バナナジュース」とかを注文してグイッと一杯ひっかける姿には思わず「新橋だな~」と声が漏れた。飲み過ぎたサラリーマンと健康を気にするサラリーマンがいる限りここのジュエルスタンドは安泰だろう。
ダイコンジュース、思ったよりも飲みやすい。ダイコンと一緒にレモンの輪切りをこれでもかと入れていたからだろう。というより、あのくらいレモンを入れないと青臭さと辛みで飲めたものではないのだろう。
実際、最後の方はだんだんと辛みが出てきて、大根おろしを作った後にでる汁を飲んでいるような気分になってきた。めちゃくちゃ焼き魚を食べたくなってきたぞ。
基本的には定食of定食といったメニューを出すお店が多いのは今も昔も変わらない。もちろん客層はほぼサラリーマンだ。そこには「映え」など気にせず腹を満たす男たちの背中が並んでいた。
地下1階も基本的には昔ながらの居酒屋が立ち並んでいるが、その中で目についたのは「飲み物。」が2店舗出来ていたことだ。
新橋のサラリーマン、年月を経て歯が弱くなってきているのかもしれない。
昭和の香りをふんだんに残すニュー新橋ビルだが、なんとこのビルも再開発が予定されているという。SL広場とともに2022年までに解体されてしまうのだ。
この独特な雰囲気が楽しめるのもあと2、3年。今のうちにサラリーマンの聖地巡礼を楽しんでおこう。
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