特集 2020年4月24日

路地とファッションショー

路地をファッションショーのようにして歩くということをしている人がいる。それをインスタグラムに上げているという。

いったいどういうことなのか、そのようすを見させてもらった。

1976年茨城県生まれ。地図好き。好きな川跡は藍染川です。(動画インタビュー)

前の記事:街には四角が多いのか

> 個人サイト ツイッター(@mitsuchi)

その人はニコラス・ダートンさんという。路地を歩いているインスタグラムの写真はこんな感じだ。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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とてもかっこいい。元パリコレモデルだそうだ。思わず姿ばかり見てしまうが、いったんぐっとこらえて周りの風景を見てほしい。路地だ。それも自転車がごちゃごちゃと置いてあるような、生活感あふれる路地だ。

なぜ彼は路地をこんなにもかっこよく歩いているんだろうか。

なぜ路地なのか

彼はじつは日本橋人形町の生まれで、その路地をみながら育ったという。生粋の下町っ子なのである。

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彼の卒業制作の表紙だ。ニコラスさんと紹介してきたが、じつは壮一朗さんでもある。どっちの名前もかっこいいな。

路地に囲まれて暮らすなかで、その魅力を知り、分析して卒業研究にまとめた。

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これは文京区の路地

ニコラスさんは「あふれ出し」のある路地に魅力を感じるという。あふれ出しとは、本来私的なものである鉢植えやじょうろ、自転車といったものが道路にあふれ出ていることだ。なかでも路上で営まれる園芸、路上園芸に興味を持ち、それを卒業研究にまとめた。

そんなわけで彼は路地を歩いている。シャレでやっているわけではないのだ。

銀座の路地でファッションショー

そんな彼が銀座でファッションショーをやるという。銀座といってもルイヴィトンとかではない。銀座の路地でやるのだ。

いったいどんなふうなのか、見学をさせてもらうことにした。(※取材は外出自粛要請が出される前の時点です)

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髪をバックにしているのがニコラスさん

待ち合わせ場所の銀座和光前へ。今日は一人ではなく、知り合い数人とやるのだという。段取りを打ち合わせていた。

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最初の撮影場所に行き、ニコラスさんは色鮮やかな上着に着替える。その右側でカメラを持っているのは撮影担当の神宮司さん。きょうのようすを動画に撮って作品にするのだという。

なんだか準備してる姿もみんなかっこいいな。

店と店のあいだの路地から出てくる

銀座ではお店とお店の間にも気づかないような狭い路地がある。ショーはそこからスタートした。

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モデルたちがまっすぐ前を見ながら路地から出てくる。右側で神宮司さんがものすごく低い姿勢で撮影している。

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歩行者天国となっている大通りを歩いていく。さまになる。

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一人ずつ。

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みんなしっかり前を向いていかにもモデルという感じだ。てっきりふだんからそういう仕事でもしているのかと思ったが、本業はぜんぜんモデルとかではないそうだ。逆にすごい。

街の人たちはなんだなんだと様子を見るが、ああ撮影ねとすぐ納得して視線をそらす。東京の人たちも慣れっぷりもすごい。

ひととおり撮影を行い、べつの路地に移動することになった。

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「魅せるガーデン」と「飼うガーデン」

ニコラスさんによると、路地の(すくなくとも人形町の)路上園芸には大きく2つのパターンがあるという。

ひとつは「魅せるガーデン」だ。

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「人形町路地の園芸図鑑」より(29ページ)

魅せるガーデンでは見た目が重視される。まちゆく人に見てもらいたいという心理が働いてつくられているためだ。頻繁に水やりをしたり、いま咲いている花を前に持ってくるといった手入れが行われる。

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同図鑑より(30ページ)

そしてそこには「高さのグラデーション」がある。ひな壇のように前から後ろにいくにつれて高くなる工夫がされたりする。「愛情をもって育てたものを見て欲しいという強い意思が感じられる。」と彼はいう。

もう一つは「飼うガーデン」だ。

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同図鑑より(32ページ)

飼うガーデンは、植物を健康に育てることが重視される。植物を生かすためには手段を選ばず、発泡スチロールでもペットボトルでも、鉢になるものはなんでも使う。

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同図鑑より(33ページ)

もちろん必ずどちらかに分かれるわけではなく、どちらか強いかという傾向が現れるという。

いままで漫然と見ていたけれど、これは目を見開かせる発見だと思う。たとえば「飼うガーデン」の奥には空の発泡スチロールの箱が置いてあったりする。これは、将来株分けなどで増やした植物のために取ってあると考えらえるという。すごい。全然見えてなかった。

そして路地へ

ひととおり大通りを歩いたあと、いよいよ路地に移動してきた。

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銀座のイメージとはほど遠い路地だ。ゴミ箱が並び、バイクがいっぱい停めてある。

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三角コーンを並べてレーンがつくられている。そこをランウェイとしてファッションモデルたちが歩く。

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なんとも自由なショーだ。こんなのふつうはないだろう。ひっそりした路地なので観客はいない。でもやっている当人たちは楽しそうだ。

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若い人たちが自信を持って、そして楽しそうになにかを作っているという光景はいいものだ。きっと素敵なものをつくるだろうなと思う。

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「人形町路地の園芸図鑑」に、彼の人の良さが現れたエピソードがある。路上園芸をしている近所の方に話を聞いたという場面だ。以下で伊藤はニコラスさんのこと。

伊藤:(前略)紫陽花がとても綺麗に咲いてますね。

Aさん:お、わかるかい? これは先週ちょうど買ったんだよ。なかなかいいのが見つからなくてね。紫陽花一つ選ぶのに2週間もかかっちゃったよ。

このAさんは、毎日花屋に通って2週間もかけて紫陽花を一つ選んだという。ただ路上園芸を眺めているだけでは分からないことを、実際に園芸を営む人に一歩踏み込むことによって引き出している。

路上園芸を見ていると、たまに鉢植えが宙に浮いているというか、高いところに置かれることがある。

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なんだろう、そういうものなのかなと思っていたんだけど、彼はその点についても聞き出している。

伊藤:(前略)ところどころ高いところに置かれている鉢植えがありますが、それは何でですか?

Aさん:それはね、ナメクジよ。地面に置いておくとナメクジが上がってきちゃうの。せっかくかわいがったお花にネバネバがついちゃってもう最悪。

なるほど、ナメクジ! それは知らなかった。

それ以外にも、通りすがりの人になるべく近くで花を見てもらいたいという気持ちもあるからだそうだ。そういうのってその人に聞かないと分からないし、ちゃんと聞き出しててえらいなあと思う。いろいろ反省する。

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ショー、ぶじ終了

何回もシーンを撮り直し、ショーというか撮影はぶじに終わった。

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まじめに歩いてきて、
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はいOK、で笑う

笑いとは緊張の緩和だという言葉を思い出す。ニコラスさんだけでなく、みんなそうなのだ。

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まじめに歩いてきて、
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はいOK
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はいOK

とてもいいと思う。緊張しながらなにかを作って、解放されて思わず笑う。最近あまり記憶にないけど、なにかそういうことしたいなと思った。

取材協力:ニコラス・ダートンさん
インスタグラム:rojilas (https://www.instagram.com/rojilas/)


インタビューせねば

ぼくは街角にある三角コーンとかガードレールみたいなものに興味があるので、それらを調べることがある。でも資料だけで調べちゃうことがほとんどだ。

ニコラスさんは路上で園芸の手入れをしている人に飛び込みで声をかけていったそうだ。なんてえらい。ちゃんと当事者にインタビューせねばなあと思った。

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