特集 2016年6月23日

あの「HG創英角ポップ体」の元となった直筆生原稿を見た

HG創英角ポップ体誕生のいきさつをきいてきました
おなじみのこの↑フォント、HG創英角ポップ体誕生のいきさつをきいてきました
まちを歩くと、なにかとめにつく「HG創英角ポップ体」。ポスターや看板などあらゆる場所でみかける。

たまに、シリアスな注意書きの看板に、にぎやかでたのしげな雰囲気のポップ体がつかわれたりして、おもしろ写真としてネットで話題になったりする。

そんな「HG創英角ポップ体」をつくったひとはどんなひとなんだろう?
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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なつかしいタイプのウェブサイト

HG創英角ポップ体について調べると、元になった書体の「創英ポップ体1」は、どうやら「創英企画」という会社が制作したらしいことがわかった。
2008年が最終更新日
2008年が最終更新日
けっこうなつかしいタイプのウェブサイト……というか、ホームページだ。
ぼくが、20年前、HTMLをしこしこ書いてつくったホームページはたしかこんな感じだった。
しかし、Windowsというか、Officeにかならずはいっているあの有名なフォントをつくった会社のホームページだといわれると、そのギャップに唸らざるをえない。

新横浜のリコーインダストリアルソリューションズに取材にいく

取材は、新横浜のリコーインダストリアルソリューションズにうかがうことになった。
どうやら、HG創英角ポップ体は、創英企画がつくって、リコーインダストリアルソリューションズが販売しているということらしい。

取材に伺ったぼくと、編集部の古賀さんを迎えてくださったのは、創英企画の梅原さん。リコーインダストリアルソリューションズの阿部さんと豆腐谷さん。
左から、リコーインダストリアルソリューションズの豆腐谷(とふたに)さん、創英企画の梅原さん、リコーインダストリアルソリューションズの阿部さん
左から、リコーインダストリアルソリューションズの豆腐谷(とふたに)さん、創英企画の梅原さん、リコーインダストリアルソリューションズの阿部さん
まずは、「HG創英角ポップ体」の元となった書体「創英ポップ体1」は、いったい、だれがいつごろ、つくったのか?
(創英企画 梅原さん)「創英ポップ体1」はそうですね、いまから25年ぐらい前でしょうか? デザイナーの水本恵子さんにお願いして制作してもらったんです。
(西村)女性の方がデザインされたんですね……水本さんは、書体専門のデザイナーさんなんですか?
水本さんは、もともとテレビ番組やCMのタイトルロゴをデザインしてた方なんです。たとえば「ベン・ケーシー」はご存知ですか? そういったドラマのタイトルロゴをつくってらしたんです。
「ベン・ケーシー」……さすがに名前ぐらいしかきいたことがない。たしか医療ドラマで、ケーシー高峰の芸名の由来になったアメリカのテレビドラマだ。
むかしは、テレビ番組のロゴはぜんぶ手がきでデザインして、カメラで撮影して合成してたんですよ。水本さんがデザイナーとして活動されてたのはそのころのはなしですね。
水本さんは、ほかにも「スター千一夜」や「ローン・レンジャー」などのロゴも手がけたという。
「スター千一夜」のタイトルロゴならみたことある。あれかー。
ちなみに、水本さんはいま……?
ご健在ですがかなりの高齢です、たしか87歳だったかな。じつは、この取材に来ていただけないか、連絡とったんですが、体調があまりよくないということで、来られなかったんです……。
残念ながらお会いすることはかなわなかったが、創英ポップ体1のデザイナーが、現在87歳でご健在であることがわかった。
しかも、テレビ番組のロゴデザインをしていたというのも驚きである。これは、創英ポップ体1に感じる、したしみやすさや、なつかしさのみなもとではないか。

POPは「point of purchase」のPOP

HG創英角ポップ体ですが、あらゆる場所で見かけるようになったんですが……もともとどんな文字なんでしょうか
もともとでいうとですね、商店でつかう広告や看板に使う文字っていうのがあったんですね。
POP書体2700字
POP書体2700字
POP書体ですか……これは、なつかしい雰囲気の見本帳ですね。
手書きポップ体
手書きポップ体
なんだかなつかしい感じがするけれど、でも、こういった文字は、モノクロの写真がないタイプのスーパーのチラシでよくみかけるきがしますが、最近は新聞とってないので、どうなんだろう?
(編集部 古賀)ポップ体の教室ってむかしありましたよね? 主婦の方が通うような。いまでもあるのかな?
(リコーインダストリアルソリューションズ 阿部さん)パソコンのフォントなんかでつくるんじゃなくて、むかしは、この見本をみて自分でかくという使い方をしてたんですよ。
あぁ、自分で練習するんだ! 最後に練習ページがある!
書体の見本帳の最後には練習するページがついている
書体の見本帳の最後には練習するページがついている
こういう商店のちらしやビラなどで使う書体を「ポップ(POP)体」といっていたんですね、「ポイントオブパーチェス」というんですが。商品を売ったり買ったりする現場でつかう文字なんですね。ひらたくいえばビラといいますか。
「ポップ」って、ポイントオブパーチェスの略だったんですね……。
よく、ポス(POS)っていうじゃないですか? あれはポイントオブセールスの略なんです。
じつは、ポップ体のPOPも、ポスレジなどのPOSも、ポイントオブ~のぶぶんはおなじ言葉なのだ。
えぇ! いわゆるポップって、ポピュラーミュージックのポップじゃないんですか?
ちがいます。けっこう誤解されてますが、ポピュラーのポップではないです。
そうなんだ、たいへん! これはスクープですよ! 西村さん!
明朝やゴシックとはちがう、ポップ体のやわらかくてたのしげなイメージから、てっきりポップ・ミュージックのポップと同じ言葉かとおもっていたら、まったく関係なかった。漫才だと「関係ないんかい」というやつだ。

あくまでポップ体のPOPは、商取引の現場でつかう、カタい用語が語源だった。
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ぜんぶ手書きでかいた

創英企画さんでポップ体の開発が始まったきっかけはなんでしょう?
創英企画では、活字ゆらいの明朝やゴシック、あと毛筆系といった書体をずーっと開発してきたんです。でも、そうこうしているうちにいろんな方から「明朝やゴシックなんかはもういっぱいあるし、それだけじゃちっともおもしろい作品はできないし、みるひとにもあんまりアピールしないから、ポップ体みたいなのもあったらいいね」というはなしがあって、それで開発することになったんです。
それがいまから25年ぐらい前というわけですね。
そうです、当時はパソコンがまだほとんどなかったかわりに、ワープロ(文書作成専用のパソコン)がずいぶん普及していて250万台とか、それぐらいあったんですね。でも、使えるフォントは限られてたんです。
当時、ワープロがかなり普及してきていたものの、使えるフォントのバリエーションはそんなになく、明朝かゴシック、あとは毛筆書体がオプションでつく程度であった。

そこで、いままでになかった、ポップ体の新しい書体をつくることになった。梅原さんは人づてにデザイナーの水本さんを紹介してもらい、ポップ体の制作を依頼した。それが1990年ごろのはなしだ。

水本さんは、文字デザインのプロではあるものの、活字専門のデザイナーではなかったが、今までになかった文字をデザインするうえで、逆にうってつけだったのかもしれない。

創英ポップ体1の直筆生原稿をみせてもらう

きょうは、これをみていただこうとおもって、もってきたんです。
そういって、梅原さんは「創英ポップ体1」とかかれた、ぶあついファイルをひろげてみせてくれた。
創英ポップ体1
創英ポップ体1
ひろげると、手がきで書かれたポップ体の文字がずらりと並んでいる。
おぉー、直筆生原稿だ!
おぉー、直筆生原稿だ!
これって、もしかして、今使われているHG創英角ポップ体の文字のおおもとの原稿……ですか?
そうです。これが元になった原稿です。第一水準と第二水準※の文字、あわせて約7000文字ぐらいあります。
※第一水準、第二水準……JIS規格(日本工業規格)で決まっているパソコンなどで使える文字の種類のこと。
ひらがな
ひらがな
難しい漢字
難しい漢字
わー、これなんだか鳥肌たちますね!
いや、これはすごい。もしかしてこれって、ひらがな、カタカナ、漢字、すべて手がきじゃないですか?!
よく見ると、文字をなぞって色を塗ったあとがわかる
よく見ると、文字をなぞって色を塗ったあとがわかる
日本になん人いるかわからないけれど、HG創英角ポップ体ファンにはたまらない絵づらだ。しかも、水本恵子さんの直筆生原稿である。

これは興奮せざるをえない。
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すべて手がきでデザインした

しかし、これだけの量をすべて手作業でかくと、ちょっとやそっとの時間じゃ足りないですよね?
1990年にデザインのコンセプトを決めて発注して、データ化完了したのが1992年ごろかな? ですから2年はかかってますね。
デザインの方向性が定まってない最初は、ひとに手伝ってもらうわけにもいかないので、やはりすべてひとりでつくらなければいけない。

ということは、水本さんは7000ちかい文字を、すべてひとりで、しかも手がきでデザインしあげたのだ。

さらにおどろくべきは、これらの仕事は今から25年ほどまえのことなので、水本さんはすでに60歳を超えていたはずである。60代の仕事と考えるとすなおにすごい。
ここにおもちしたのは、清書したものですが、じつはこの前段階に、「方眼トレペ」……トレーシングペーパー(うしろがすけてみえる薄い紙)に方眼のマスがはいったものですね、それで何回もなぞってかきなおして、デザインを推敲されて、それでこの清書なわけです。
パソコンがあれば、⌘+Zまたはcontrol+Zと、レイヤーを使えばなんとでもなる作業だが、アナログでやる場合は、鉛筆、消しゴムと方眼トレペである。いまおもうと、とほうもない。
よく見ると清書の原稿にもホワイトの修正が入ってるのがみえる
よく見ると清書の原稿にもホワイトの修正が入ってるのがみえる
水本さんがデザインした手がきの文字はスキャナーで取り込まれ、データ化され、フォントとして使われるようになった。

のちに第三水準、第四水準の漢字が追加されたときは、フォントデザイナーが、データ上でフォントを組み合わせて文字を追加したという。
豆腐谷さんが、創英角ポップ体の歴史を年表にまとめてくださった
豆腐谷さんが、創英角ポップ体の歴史を年表にまとめてくださった
豆腐谷さんがまとめてくださった年表によると、HG創英角ポップ体をリコーインダストリアルソリューションズがパッケージで販売しはじめたのが1994年。そして、マイクロソフトのOffice2000にバンドルされたのが1999年。

Officeが入っているパソコンを買えば、そのまま使えるというのはアドバンテージがおおきい。しかも、第四水準のむつかしい漢字までそろっている。ほかの似たようなポップ体でそこまで漢字がそろっているのはなかなかないという。

以上のことがらから想像するに、まちでHG創英角ポップ体をおおくみかけはじめたのは、1999年以降からだったかもしれない。
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全体のバランスをかんがえて作る

HG創英角ポップ体は、点の一部を丸にする独特な表現があって、そこがすごくおもしろいですね「そこ丸にしたかー」というのを探すのがたのしいんです。
鳥のいちばん右の点が丸
鳥のいちばん右の点が丸
「灬」(れんが)はなぜかひだりから二番目が丸
「灬」(れんが)はなぜかひだりから二番目が丸
これはまさに、デザインのおもしろいところで、水本さんは、同じパーツでも全体のバランスをみて一文字ずつ位置を調節されてるんですよ。そこはさすがデザイナーさんですね。
たしかに、文字を確認してみると、同じパーツでも位置が調整されているものがけっこうある。
同じ忍や念でも、丸の場所が違う
同じ忍や念でも、丸の場所が違う
よく見ると、丸の位置だけでなく、心の「し」のかたちも微妙にかえてあることがわかる。

ほかにもこんな文字もあった。
おなじ「豆」でも、豊の豆の下の左の点は丸じゃない。
おなじ「豆」でも、豊の豆の下の左の点は丸じゃない。
豊の豆の点が丸じゃない。
おそらくつぶれてみづらいからだろうが、こういった、こまかな違いやくふうをさがしていると、フォントを鑑賞するのがだんだんおもしろくなってくる。書を鑑賞する楽しさはこういうところにあるのだろうか? わからないけれど。

まちにあふれるHG創英角ポップ体をみてもらう

ところで、やはりきになるのは街角でみかけるHG創英角ポップ体の文字。

そこで、デイリーポータルZライターの伊藤さんの協力をあおぎ、まちでみかけたHG創英角ポップ体を、梅原さんたちにみていただいた。

まずはこちら。
自衛官募集の看板
自衛官募集の看板
これは創英角ポップ体ですね。ただ、後ろの「ハイジャンプ」のカタカナは違いますね。ちなみに、下の自衛官募集中の文字はうちの新江戸ですね。
後ろのカタカナは「ジ」と「ン」が創英角ポップ体ぜんぜんちがう。言われるとたしかに。である。
犬吠埼マリンパーク
犬吠埼マリンパーク
これはHG創英角ポップ体によく似てますが、ちがいますね。
なんと、この写真にはHG創英角ポップ体は存在しないという。
たしかに下の「地球の丸く見える展望レストラン」の部分は、よく見ると雰囲気がちがう。HG創英角ポップ体よりもはっちゃけている。上の犬吠埼マリンパークもよく似ている別のポップ体の書体らしい。
痴漢盗撮注意喚起のポスター
痴漢盗撮注意喚起のポスター
警察系の看板はポップ体をとてもよく多用するのだが、「痴漢」や、「盗撮」といった不穏なことばも、明るく楽しい雰囲気のポップ体をつかってしまっていいのだろうか? というおもいがないわけではない。
「巧妙な侵入戦略」もあかるくたのしげに
「巧妙な侵入戦略」もあかるくたのしげに
これらのポップ体の写真を提供してくれた伊藤さんによると、看板で3行書いてまんなかの1行を目立たせたい! となったときにHG創英角ポップ体をつかいたくなってしまうらしく、それを「メリハリの呪縛」と呼んでいた。
禁の字のたのしげな雰囲気はいなめない
禁の字のたのしげな雰囲気はいなめない
自由に使えるフォントが明朝、ゴシック、毛筆、ポップ体ぐらいしかないなかで、強調したい文字についHG創英角ポップ体を選択してしまう「メリハリの呪縛」は、たしかにあるかもしれない。

「オカンアート」としてのHG創英角ポップ体

HG創英角ポップ体を生み出したのは、当時60歳代であった女性であった。

お母さんがつくった花がらの電話カバーや、毛糸のぬいぐるみなどをオカンアートと呼ぶむきがある。

その仕事量やデザインの質の高さからいうと、HG創英角ポップ体は、とてもオカンアートとならべることはできないものの、その親しみやすさや愛され方については、オカンアートひけをとらないのではないか。
伝説の創英企画に会ってきたぞー
伝説の創英企画に会ってきたぞー

お知らせ

すみません、こんにちは。ライターの西村です。

6月30日に、笠倉出版社から、私がいままでデイリーポータルZにかき散らした記事をまとめた本が出ます。

たぶん出ます。

紀伊國屋書店にブックカバーを譲渡したはなしや、石川県の栓抜きをつくったはなし国語辞典の記述だけでコロッケをつくったはなしなど、かなり脈略のないラインナップですが、そういうことがかいてある本だということを踏まえて、みなさん月一回のサイゼリヤディナーを我慢して、この本を買ってください。

よろしくお願いいたします。

『「ファミマ入店音」の正式なタイトルは「大盛況」に決まりました』
出版社:笠倉出版社
発売日:2016年6月30日
価格:1296円(税込)
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