特集『あたりまえ入門』
誰もが持っている世間知らずの一面。いま、スポットライトで照らします。(企画説明)
電報とわたし
もし明日地球が滅亡するとして、なにかやり残したことはないかと聞かれたら、唯一思い浮かぶのは“電報を打つ”ことだ。
いい大人は皆電報を打っている。
しかしわたしは36年間生きてきて、いまだ電報を打ったことがない。
なんなら、電報にふれる機会は人より多くあった。
20代の頃司会業をやっていた時期があり、披露宴や演奏会など華やかな催し物の際はよく届いた電報をそれらしく読み上げていた。
「祝電を多数お寄せいただいておりますので、いくつかご披露させていただきます!」とか言いながら。
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あの紙は、どこにどう発注したら届くのだろうか。どんな情報があれば届けたい人に届けられるのか。紙だけじゃなくて、贈り物付きの電報だってあるよな…
わたしは電報のイロハを何ひとつ知らない。
ここは一発、電報を打っておこうじゃないか。
「電報 送り方」で検索
電報を打つにはまずなにから始めたらいいのか。とりあえずGoogleで検索だ。平然と電報を打っている大人たちも、初めは「電報 送り方」で検索したに違いない。
そして今まさに「電報 送り方」で検索してこの記事にたどり着いた人がいたとしたら、参考になるどころかわたしと一緒に右往左往するはめになるので覚悟してほしい。
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電報を打つ方法は、①電話(115)②インターネット③郵便局のサービスと3通りあるようだ。
インターネットが一番便利そうだが、「電報を打つにはどこかに電話するらしい」という記憶がうっすら頭の中にあるので、せっかくなので電話で試してみたい。
記念すべき初電報の送り先は、編集を担当してくれているの石川さん。石川さんも電報を打った経験がないらしく、お互い送りあうことになった。
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早速115に電話しよう!とスマホを手に取った。が、待てよ。わたしは石川さんの住所はもちろん、電話番号すら知らない。普段の連絡手段はもっぱらメッセンジャーだ。
披露宴や演奏会開催を祝う電報は式場やホールを指定すれば送れそうだが、個人に送る場合は送り先の住所が必要に違いない。
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問題は電報の内容だ。
電話で電報を打つ場合、オペレーターと話しながら内容を決めて送るらしい。
送り先が石川さんに決まった時はお互い初電報ということで「初電報、おめでとうございます!」という内容で打つつもりでいたが、オペレーターに変な人だと思われるのが怖くなり、無難に誕生日を祝う電報に決めた。
勝手に誕生日を祝うことにしたが、石川さんの誕生日は7月である。
「石川大樹 誕生日」で検索したら、こちらの記事がヒットして知った。
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この記事でも誕生日ではない日に誕生を祝われていて、今回の電報でも半年も前に祝われて、石川さんはよく誕生日以外に誕生日を祝われる運命のもと生まれた人なんだと悟った。
いざ、115に電話
必要な情報がそろったところで、いよいよ115に電話する。
初めての試みでうまく手順を踏めるか心配だし、そもそも電話でなにかを発注する機会がかなり少ないのでめちゃくちゃ緊張する。
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しかし、初手は不発に終わった。
「お客さまのおかけになった番号は、現在お取り扱いしておりません」という音声案内が流れたのだ。現在お取り扱いしていない!?どういうこと!?
予想外の展開に戸惑ったが、調べてみると電話の利用回線によって接続できない場合があるらしい。その際はフリーダイヤルがあるとの情報を得て、気を取り直して再度電話をかけた。
すると電話はすぐにオペレーターに繋がり、誕生日祝いで電報を打ちたい旨を伝えたところ、送る相手の住所や名前といった基本情報から年齢層や関係性まで聞かれた。
その話をもとにふさわしい電報を用意してもらえる、という流れだった。
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文章はこちらが考えたものを入れることもできそうだったが、定型文の方がいかにも電報らしくなるかと思い、あえて定型文にした。
仰々しい文章の電報が届き、石川さんもきっと喜んでくれるだろう。
そして電話をする前、どうやって選ぶのか疑問だったのが台紙のデザインだ。
送り先の情報や文章は口頭でオペレーターに伝えられるが、台紙のデザインは目で見ないとわからない。
結論、電話注文なので最後まで目で確認する機会はなかったが、はじめに伝えた年齢層や関係性、誕生日祝いという用途から、オペレーターが勧めてくれた刺繍が施された台紙に決まった。
刺繍デザインの台紙は2,000円。
そもそも電報を送るのに必要な基本料金が既に1,600円かかっていたので、正直台紙はもう少し安価なものを望んでいた。
無料の台紙もあると教えてもらったので「じゃあ、無料のもので…」と伝えたところ、「誕生日祝いで無料はまずいのでは?最低限この辺のものは選んだ方が良いかと」という旨の回答だった。
そうか、そういった“電報マナー”的なものもあるのか…
基本料金1,600円+台紙2,000円、それにさらに消費税が上乗せされ最終的な合計金額は3,960円。
予想以上にお金がかかりひやひやしたが、勉強料も含めそのプランで実行に踏み切った。