特集 2022年8月13日

鳥の群れを一瞬で数え、虫に油性ペンで印を書く~環境調査というお仕事

こんにちは、編集部 石川です。

毎月1回、当サイトのライターに専門分野や得意分野の話を聞いています。今回は、本業で環境調査の仕事をしているというこーだいさん。

環境調査って何なのでしょうか。調査してどうするんでしょうか?いきもの好きの方もぜひお読みください。

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環境調査する人:ーだい
変わった生き物や珍妙な風習など、気がついたら絶えてなくなってしまっていそうなものたちを愛す。アルコールより糖分が好き。

虫に油性ペンで目印を付ける

石川:
まずいちばん基本のところからで、環境調査ってなんなんですか?

こーだい:
あくまで一例なんですけど、山の斜面とかに太陽光パネルの発電所あるじゃないですか。ああいうものを作る時って、事前にその場所にどういう生きものがどういうふうに暮らしているかを調べるんです。

石川:
はい

こーだい:
たとえば絶滅危惧種とかがそこに住んでいたりするから、そこの上に新しくものを作ったりしても大丈夫なのかというのを、調査しなければいけないと決まっていまして、その調査をする仕事です。

石川:
具体的には何を調べるんですか。

こーだい:
何の生物がいるかというのが、一番大きいですね。何がどれぐらいの数いるか。

石川:
どうやったらわかるんですか?

こーだい:
ものによりますけど、ひたすら地道に全部しらみつぶしに見ていって、川だったら網ですくって全部調べたりとか、植物だったら全部踏査して歩いて調べたりだとか。

石川:
大変だ。

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トカゲを捕まえて笑顔のこーだいさん。晴れた日にはトカゲ釣りをより

こーだい:
虫の数とか調べるんであれば、標識再捕獲法といって、とにかく虫をたくさん捕まえるんですよ。その背中にマーキングといって、印をつけて1回放す。後日、もう1回同じ種類の虫を集めて何匹マーキングがついてるかで、全体の数が推定できます。

石川:
へー。マーキングって特殊なタグを貼ったりするんですか?

こーだい:
油性ペンで印をつけたりとか。

石川:
普通の道具なんだ!魚も油性ペンで書けますか?

こーだい:
魚とか鳥はあんまりマーキングやらないです。そういうのはシンプルに捕れた数を記録したり、目視でどれぐらいいるか調べたりとか。

石川:
魚を!?目視で数えるの無理じゃないですか?

こーだい:
僕はあまり魚を目視で数えたことがないですけど、一緒に仕事している人は普通にやってますよ。水中メガネをつけて潜ったりして。

石川:
数取器持って?

こーだい:
そう、カチカチ。鳥もですね。僕はまだ年季が浅いんですけど、熟練の人だと群れになって飛んでるのを見て、だいたいの数が言えたりします。

石川:
えー、すごい!それは完全に動体視力ですか。

こーだい:
そうじゃないですかね。慣れと動体視力。

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このくらいなら数えられそうだが…。サンショウウオの卵の形が面白いより

石川:
達人だ。鳥を捕まえることもあるんですか?

こーだい:
鳥はないですね。魚や水生生物はけっこう捕まえます。

石川:
水生生物ってエビとか…?

こーだい:
エビとか、貝類とか。

石川:
魚を捕まえるって、釣るんですか?

こーだい:
釣りはめったにやらないですね。効率があまり良くないし。

石川:
じゃあ網で、がさっと?

こーだい:
そう。ソーキングといって、魚とそれ以外と分けるんです。

石川:
哺乳類を捕まえることは?

こーだい:
仕事ではあまりないですね。かわりにカメラ設置して録画したりします。

石川:
そういうのもあるんだ。一番よく対象になる生きものは?

こーだい:
最近だと鳥の仕事が多いですね。

石川:
なんで鳥なんですか?

こーだい:
なんでですかね。なぜその仕事が依頼されるかまではわからないんです。依頼されてから先が仕事なので。

石川:
殺し屋と同じか。それは調査全体の設計をする人がいて、その人が今回はこの動物、この動物、この動物を調べるから、こーだいさんにはこれだけ頼もうみたいな感じ?

こーだい:
そうですね。

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オサムシの魅力

石川:
こーだいさんが一番好きな調査対象はなんですか?

こーだい:
だいたい全部好きなんですけど、虫が一番専門だったので、虫。

石川:
もともと大学の専攻が虫?

こーだい:
はい。昆虫でした。

石川:
昆虫の中でどれが専門というのはあるんですか?

こーだい:
オサムシです。翅(はね)が退化して、ないんです。飛べないからほぼ歩いているだけっていう。

石川:
地面によくいるやつだ。オサムシの魅力ってどこですか?

こーだい:
飛べないっていうことは、基本的には一匹あたりの行動範囲がそんなに広くないんです。だから、細かいエリアごとに別の種がいて、日本列島の中に何十種類というオサムシがいてですね。

石川:
移動範囲が狭いから、混じり合わずにそれぞれ分かれてるんだ。

こーだい:
異種分化っていいます。極端な話、川が一本流れてるだけで、その両岸で異種文化が起きるという例もあるぐらいで。

石川:
川が越えられないんだ。

こーだい:
ただ仕事で調査対象になることはまずないので、今はもっぱら趣味ですね。オオヒョウタンゴミムシの記事を去年の夏ぐらいに書きましたが……

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海水浴場の黒いダイヤ、オオヒョウタンゴミムシを求めてより

石川:
コップを埋めてたやつだ。

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ピットフォールと呼ばれる罠。カルピスウォーターを入れて虫をおびき寄せます

こーだい:
そうそう。あれもオサムシの仲間ですね。

石川:
かっこいい。クワガタみたいですもんね。あと腰のくびれがすごい。これも翅がないんですか?

こーだい:
ないです。翅でいうとかたつむりを食べるので有名なマイマイカブリが面白いです。同じく退化してて、こちらは小さい糸くずみたいなのがついてます。

石川:
へー

こーだい:
外側の硬い翅があるじゃないですか。カブトムシなんかは飛ぶ時にパカってふたつに分かれると思うんですけど、あれがマイマイカブリの場合はエリトラといって真ん中で癒着しちゃってて、開くこともできないんです。

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これがマイマイカブリ。長崎県・福江島で巨大マイマイカブリを探すより

石川:
どうせ飛べないから。

こーだい:
その代わり一枚板なので、上から鳥とかに突かれたときの防御力が高いんです。

石川:
あーなるほど、甲羅になってるんですね。さっきのオオヒョウタンゴミムシは?

こーだい:
硬い翅は分かれるけど、中の翅がないから。

石川:
結局飛べないと。なるほどね。オサムシって地味な虫だと思ってたけどこうやって詳しくきくと面白いですね。今度オサムシの記事ぜひ書いてください。

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山小屋で暮らすことも

石川:
先月でしたっけ、こーだいさんが東京にいらっしゃったことがあって、久しぶりに会ったんですよね。その時に聞いたんですけど、山奥の仕事だから、山小屋に泊まり込むんだって。

こーだい:
毎回ではないですけどね。そういうこともあります。

石川:
どのくらい泊まるんですか?

こーだい:
長いときで2週間とか。でも最近2〜3日で済んじゃうことのほうが多いかな。

石川:
その間は一緒に現場いる人と共同生活みたいな感じになるんですよね。合宿みたいな。

こーだい:
生き物好きな人が集まるので。すごく楽しいですね。

石川:
やっぱり仕事以外のおしゃべりも生き物の話になるんですか。

こーだい:
なりますよ。変わった人が多くて面白いです。このあいだ一緒になったおじさんは、家の裏の川に遡上してきたエイをやりでつくのが趣味だって。エイヒレを作ってるらしいです。

石川:
あはは、家庭菜園みたいな感じでエイヒレを。

こーだい:
その人は狩猟もする見たいで、すごい話が続々と出てきました。いつか取材したいと思っています。

石川:
それは楽しみ。そういう人がいっぱい集まってるんですね。

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文字が続くのでヒシバッタをどうぞ。まるでデフォルメされたバッタ、ヒシバッタの寸詰まりっぷりを愛でるより

石川:
こーだいさん的にはその仕事の醍醐味というか、一番面白いのって、どこだと思います?

こーだい:
生き物を野外でずっと探すっていう楽しい活動を、やっぱり仕事としてできるのがいいところだと思います。

石川:
そんな仕事ほかにないですもんね。好きな人はたまんないだろうなー。どういうきっかけでそんな仕事ができたんですか?

こーだい:
大学出てしばらく他の仕事をしていたんですけど、自分がフィールドワークが好きでデスクワークが全然できない人間だって気づいたんですよね。2年ぐらいでやめちゃって。

石川:
あはは

こーだい:
そのとき、アパートの隣の部屋にお茶のサロンが入ってまして、主催している女性と仲が良かったんですよ。その人に「デスクワークが苦手なので、ただ1日じゅう野山の動物を見てる仕事をしたいですわ」って言ったら、旦那さんがそういう業界にツテがあって。それで誘われて、っていう。完全に偶然なんです。

石川:
運命としか言いようがないですね!

こーだい:
僕の場合はそういう入り口でしたけど、一応新卒でも募集がありますね。数は多くないですけど。

 

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イノシシ1頭で1年分の豚肉

石川:
こーだいさんって狩猟もされると思うんですけど、これは仕事じゃなくて完全に趣味ですか?

こーだい:
そうですね。食料にもなるから、実益を兼ねた趣味って感じで。

石川:
けっこう捕ってます?

こーだい:
けっこう捕ってますよ。豚肉とかめったに買わないですね。イノシシの肉が山程あるから。

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これはイノシシではなくシカの後ろ足。デカい肉をたき火で焼いて食べたいより

石川:
イノシシは罠で?どんな罠ですか?

こーだい:
くくり罠っていって、ワイヤーで脚をくくって動きを止めるタイプの罠なんですね。地雷みたいに地面に埋めておいて、そこをイノシシが踏んだらワイヤーがかかって動けなくなるっていう。

石川:
それで一匹捕まえるとどのぐらい食べられるんですか?

こーだい:
今年は80kgぐらいのイノシシが捕れて、それ一頭あると一年中ぜんぜん豚肉を満たしてくれますね。

石川:
1年食えるんだ!

こーだい:
肉にして何キロかってちゃんと測ったことないですけど、大量に何十キロも取れます。

石川:
体重の半分ぐらいは肉ですか?

こーだい:
それぐらいいってるんじゃないですかね。

石川:
40kg一気に手に入るんだ。めちゃめちゃでかい冷凍庫がいりますね。

こーだい:
100Lのが稼働してます。

石川:
イノシシ以外だと?

こーだい:
京都市の近郊ですけど、今はシカのほうが圧倒的に多いですね。

石川:
シカが増えてるって誰かが言ってた気がする。

こーだい:
シカは今ものすごい京都市の近郊は増えているのと、豚コレラという病気が流行って、イノシシの頭数が今一時的に減っているので。

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シカを焼くこーだいさん

石川:
食べる以外に、こーだいさんは、はく製も作りますよね?

こーだい:
はい。イノシシとかシカはいまのところはく製にしたことはないですけどね。鳥が多いです。

石川:
鳥か。例えばなんですか。

こーだい:
最近作ったのはカラスですね。家の近くで死んでたやつで。

石川:
どれぐらいちっちゃいやつまでいけるんですか?スズメとかできるんですか。

こーだい:
スズメもわりと拾う確率が高いというか、遭遇率が高いので。よく作りますね。

石川:
剥製づくりの話については、過去にインタビューしてるのでそちらも読んでみてください。ドイツではく製づくりを学ぶために留学しようとしたら……という話。ぜひ。

 

生放送「記事の森」やってます

この対談は、先日放送したトーク配信『樹液でも飲みながら記事を振り返る「記事の森」』から抜粋したものです。番組ではこの2倍くらいしゃべってますので、対談をお楽しみいただけた方はぜひアーカイブをどうぞ。


次回は、8/18木に配信予定です!ゲストはナミノリさん。服作りの話を聞きます。ぜひ配信ページでリマインダ登録していただくか、チャンネル登録をお願いします!ナミノリさんへの質問がありましたらあわせてYoutubeのコメントまでお願いします!

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