特集 2025年4月3日

真冬のハブ探し

冬すぎる奄美大島でハブ探しを敢行(写真はオオトラツグミ)

毒蛇のハブを探して奄美・沖縄諸島を巡っている。
ハブは冬でも冬眠せずに活動しているが、やはり元気さはかなり低下し、出会える可能性はぐっと少なくなるという。

しかし、そんな季節にこそ探しに行くのが真のハブ好きなのではないか。

みたいな天啓を受け、約10年目にしてはじめて冬の奄美を訪れたら、すごい寒波でダウンジャケットが手放せないフィールドワークとなった。

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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冬にはほんとうに会えないのか

はじめて奄美大島を訪れたのは2016年、ハブのいる島巡りを始めて2年目の頃で、いったい何年やっているんだという話だ。

当時は寝ずに探して見つからずに帰ることも珍しくなかったが、継続は力なりとはほんとよく言ったもので、最近では生態や現地の地理などの知見を重ね、コンスタントにハブを見つけることができるようになってきた。

ハロー。

 訪れるたびに島の風情にもハマり、機会を見つけては奄美大島やその周囲の島々を訪れていた。

山中にカエルのオブジェが現れたり。

目を閉じると浮かんでくる青い空に強い日差し。滝のようなスコールが降り注ぎ、湿気でむせかえる夜の林道。ここまでのハブロードを振り返った時、ひとつの経験が欠落していることに気づいた。

 冬に行ってねえな、冬に行ったことがないのだ。

夏秋ばっか!

日本のヘビは冬になって気温が下がると冬眠するが、ハブ(というか奄美沖縄のヘビ)は冬でも活動している。しかし他の季節と比べ活性は落ちて、発見するのは難しくなる。

「冬には見つからない」から見つけやすい、ハブのハイシーズンに行っていた。しかしそれでいいのだろうか。本当に見つからないのだろうか。その見つからなさをこの身体でたしかめずして、ハブ好きと言えるのだろうか。

そんなことを昨年の夏の奄美大島で考えていた私はこの冬、奄美行きの飛行機を予約した。

例年にない寒さ!

朝イチのピーチ!

2月の終わり近く、日本に寒波が襲来し、地域によっては大雪のニュースが流れていたが奄美大島も例外ではなかった。なんだかんだ暖かいんでしょ、とたかをくくっていたが、あまりの寒さにダウンジャケットが脱げなかった。

曇天のビッグツー。

 厚い雲に覆われて北風が強く吹き、叩きつけるような冷気が嫌になって車から出たくなくなるほど。

西郷さんの顔色もどこか寒々しい。

 

給食センターの壁にはいちばん大事なことが書かれていた。

街中でもダウンジャケットを羽織った人たちが「久しぶりにこんな分厚いコート出したわ」と、この寒さを嫌がりながらもちょっと面白がっているようでもあった。

奄美市の中心街、名瀬のアーケード近く。行き交う人皆フル冬装備。

日が落ちるとさらに冷え込み、吐息が白い霧となって本当にここは奄美なのかと思う。こんな日に寒さに弱い爬虫類なんか探すだけ無駄ではないのか。しかし行かねばならない、この白い息は私の魂の証なのだから。

はじめての冬奄美、動きのよくわからないハブを探す上で強力な助っ人に同行をお願いした。エコツアー認定ガイドの西 真弘さんである。

大学で徘徊性の昆虫を研究、20年前に奄美に移住しマングースバスターズの一員として山野を巡りながら、普通の観光では味わえないディープなナイトツアーを行っている。

西さんは人気のクロウサギだけでなく、両生類爬虫類や昆虫の生態に精通しており、ツアーというよりフィールドワークとして奄美の自然の深部に触れることができる。

夏には西さんの導きで模様がパキッとした美ハブに会うことができた。

 「夏によく見られる生き物を冬に探すのはぼくも好きなんですよ」と快く引き受けてくれたがさすがにこの寒さは想定外だった。

乾ききって閑散としている。

「今年は例年にくらべてかなり寒いですね......ぼくの感覚で言うと、10年前くらいに奄美で115年ぶりに雪が観測されたことがあったんですけど、それ以来の寒さですね」

 ―― とんでもない時に来たなあ。

「伊藤さんと一緒に寒波が来た感じですね。本州より気温は下がらないけど、とにかく風で全然違う。気温自体は10℃前後でも北風が強く吹いているので体感的にはかなり寒いです。乾燥もしているのでかなり厳しいと思いますが、もっと低い気温でハブを見つけたこともあるので風の当たりにくい谷底の沢などを見ていきましょう」

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冬の奄美で見られるもの

谷を下る。たしかに風が当たらなくなるだけで体感温度がかなり違う。

―― 冬もナイトツアーの需要ってあるんですか?

「ありますよ。クロウサギは夏より道に出にくくなるけど見られますし、この時期から鳴き出すアマミイシカワガエルがやはり人気がありますね。あとは天然記念物のイボイモリもこの時期に見られます」

樹上にこれまた天然記念物のケナガネズミが現れた。
リュウキュウコノハズク。この寒さでかろうじて顔を出してくれるのが哺乳類と鳥。

―― 他にこの季節(冬)だから見られるものはありますか?

「夏にみられる生き物の違った姿や行動が見られます。足元にいるでかいオタマジャクシはオットンガエルですよ」

40~50mmほどの体幹が強そうなオタマジャクシ。

―― たしかに!ここまで育ったオタマジャクシははじめてみました。

別の時期に撮影した成体。100mmを超える大きさ、というか、横にでかい。

 「気温が15℃を下回るとリュウキュウアサギマダラは集団で枝にぶら下がって越冬します。これも冬だから見られるやつですね」

いつもはもっとすずなりにぶら下がっているが今夜はまばらだった。
「昨日までもっとぶわーっといたんですけどね」チョウまで私を避けるのか。
練馬から来ているのだぞ。

「このチョウは風を避けて谷間に集まります。このあたりは比較的気温も湿度も高くて、冬でもハブが出る可能性が高いところではありますが、今日はそれにしても条件が悪いですね」

ぬうっと姿を現したオオウナギ。水中で暮らすものはそれなりに出てきてくれるのだが。

「あ、そうそう、もうひとつ奄美の冬といえばこの柑橘系のにおい、たんかんですね」

沢に転がり落ちたたんかんの実がいい香りをだだよわせていて柚子風呂に入りたくなった。寒い。
冬限定のたんかんフードもあるのでゲットしよう。これはたんかんチョコ。
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―― やっぱり冬にハブは厳しいんですかね。

「まったく見つからないということはないですよ。一番大事なのはその日の気象のコンディションですね。たとえば寒い日が続いた後、南の風が吹いて気温が上がると一気に活発になって出てきたり」

―― ああ、今行っとけとばかりに。

「はい。あとヒメハブはこの時期に鳴きはじめるイシカワガエルやアマミアオガエルを狙って水辺に来たりします。ハブより寒さに強いんですね」

しかしその寒さに強いヒメハブも今回はまったく姿を現さない。温暖な奄美の爬虫類にとったら氷河期が来たような感覚なのか。

やっと(成体の)カエルが見つかった。アマミアカガエル。
寒いばかり言って申し訳ないがモクズガニのハサミに付いた藻がファーに見えるほど寒い。

結局ハブどころか他の爬虫類(キノボリトカゲとか)も見つけることはできなかった。

⏩ 次ページに続きます

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