特集 2022年7月26日

神保町「三省堂書店 本店」一時閉店で知るさらなる嘆きと、第二章へ

2022年5月8日(日)。

神保町のシンボル「三省堂書店 神保町本店」が建物をリニューアルするため、この日をもって一時閉店することになった。

約10年ほど神保町で働いていたことのある私にとっては、さみしいニュースだ。
昼休みに本を物色したり、会社で仲のいいおっちゃんとの待ち合わせ場所に使ったり、地下のレストランで同僚達とランチしたり…。

思い出が詰まった三省堂本店の最後の日(といっても一時閉店だけど)に行って、最後を見届けてきた。

東京葛飾生まれ。江戸っ子ぽいとよく言われますが、新潟と茨城のハーフです。
好きなものは犬と酸っぱいもの全般。そこらへんの人にすぐに話しかけてしまう癖がある。上野・浅草が庭。(動画インタビュー)

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最終日の営業は20時まで

神保町は大学が多く集まる学生の街、スポーツ用品店や楽器店が集まる街、カレーや中華や昔ながらの喫茶店が人気の街である。そして、なんといっても古書店が密集していることで有名な街である。

そんな魅力いっぱいの神保町は、会社で嫌なことがあっても、ランチタイムや仕事帰りでたくさんたくさん楽しい思い出を作ることができた場所だった。

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神田神保町一丁目1番にある、三省堂書店 本店の建物。無くなると思うと胸がキュンとなる。
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記念撮影。SDカードを忘れて買ったりしてたら18時半前。あと1時間半しかない。

行こう行こうと思いながらも、バタバタしていたら結局最終日当日を迎えてしまった。

しかもついたのは閉店1時間半前。
あわよくば食べようとしていた地下一階のレストランには行列ができていた。

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ガーン!そうか、ランチによくきていた「放心亭」も閉店か…!
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一緒に移転するのではなく、完全に終わってしまうのか…。よくハンバーグを食べていた。
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最後に食べたかったが、、こりゃ無理だ。

2階にある喫茶店「UCCカフェコンフォート」も同じように混んでいた。
みんな考えることは同じだ。
思い出となる時間を過ごした場所を堪能したいのだ。

最後なので撮影は自由

店内に入ると、多くの人が記念撮影をしていた。
近くにいた書店の方に聞くと、今日は最後なのでどこでも自由に撮って良い、とのことだった。

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各階の案内。改めて、立派だ。
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閉店後にセレモニーをする情報もゲット。働いている人にとっても感慨深い日だろうなあ。
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書店の方とも記念撮影。名刺を見たら役員の方だった。

最後のセール

人が多い一方で、ところどころ閑散としている場所があった。
1階の入り口にあった雑貨屋さんは4月からセールをしていたようで、商品はほぼ残っていなかった。
この日、書籍以外のものは50%OFFから70%OFFとどれも割り引かれていた。

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1階「神保町いちのいち」も閉店。プレゼントをよくここで買っていた。

このスペースの一角には、いつも何かしらのクリエイターさんが来ていて、色んな作品が見られるので楽しみだった。

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残っていたものからポケットコイン「地球」を買った。70%OFFで76円。
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神保町いちのいちは、こちらの出入口スペースにも雑貨を並べていた。夏は素敵な風鈴や手ぬぐいなんかが並んでたなあ。
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こちらは3階。がらんどうになった文具コーナー。
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何か思い出に買いたいけど…給料袋は自分には使い道ないな。
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70%OFFでも専門的なものは残ってしまう。(この消しゴムってこんなに高いのか!)
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すべての階をまわる

最後にこの三省堂の姿を目に焼き付かせようと、すべての階をまわることにした。
エスカレーターに乗るのももうこれが最後だし、トイレも最後だ。

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すべてが最後。。
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ラストトイレ。便器の下部分が三省堂書店らしいえんじ色だったのは忘れないでおこう
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一番上の6階へ。語学書は返本ルールが他の本より厳しいらしく、既になくなっていた
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5階。私が一番お世話になったWeb関連の本が並ぶコーナー。なぜか思わず手を合わせてしまったが、今見ると意味がわからない。
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4階。古書コーナーがあるの、初めて知った!
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絵画が売られている所はちゃんと見た事なかったなあ。
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3階はさっき見たので(文具コーナーがあった階)、2階へ。店員さんおススメ、無料の「本みくじ」を引いてみる。
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おみくじを引くと、番号が書いてある。この番号の本を探す。
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本と運命的な出会いができる、という仕組みだ。ただこの「本みくじ」が人気すぎて本はすべて売り切れていた。選書コメントがお客様となっているのが良いなあ。今度改めて読んでみよう。

書店に並ぶ本を眺めていると、ふと手に取りたくなることは誰しも経験あることだ。
こういった「本との偶然の出会い」というのが書店の醍醐味だよなあ。

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各階、すべての通路をまわった。

最初に書いた通り、神保町は古書店が集まる街だ。

古書店には「神保町の古書店が薦めるカレー屋」という企画や、お昼の散歩がてらにひととおり入った事がある。けれど私はふだん、仕事で使う実用書や知人が書いた本以外あまり読まないため、新本がそろう三省堂ばかりきていた。

神保町の本屋で一番通ったのはダントツでここ、三省堂書店だったのだ。

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神保町の古書店が薦めるカレー屋」1日で神保町の古書店を全部周ろうとした無謀企画。
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改めて1階。渋谷の交差点ばりの混み具合!
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毎日カウントダウンしていたのだろうか
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1階は新刊や雑誌、ガイドブックが並ぶ。自分が年を取るごとに、知人が書いたものが並ぶようになって、見つけては興奮したものだ。
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タワー積みは神保町本店の名物だったのか。
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ツインタワーができていた。すごくキレイにつみあがってる
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メッセージボードがあってたくさん貼られていた。思い出のある建物が無くなる、というのはこんなに心動くものなんだな。

さて、いよいよ閉店の時間が近づいてきてしまった。
あ!そういえばせっかく本屋に来たのに肝心の本を買っていないじゃないか。
何か買おう。

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店員さんのおすすめのコーナー。選りすぐりのようだ。
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どれにするか悩むな…
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結果、こちらを買いました!
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それと三省堂書店オリジナルブックカバーも買った。かわいい

閉店時間が近づくにつれて、レジはどんどん混んでいった。
みんなギリギリまで三省堂を堪能し、最後に何かしら買っていくからだろう。
閉店時間は20時だったけれど、実際の閉店は最後のお客が出るまでだ。

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一人ひとり見送っていた

正面の出入口の前は、報道陣はもちろん、思い入れのある人たちでごった返していた。
警備の人だけでなく警察まできている。

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セレモニーを見ようと待つ人たちが遠くまで伸びている様子。

私も閉店の少し前から陣取っていたが、人がものすごく多くなり、ほとんど入り口が見えなくなってしまった。

最初は報道陣とファンたちが入り乱れていたが、そのうち規制されることに。
そこで私も一応ライターだったと思い出し報道陣申請を急いでしにいった。
おかげで最前列に並ぶことができた。

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8時半頃。セレモニーがはじまる。
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神保町が泣いている

セレモニーの直前に、隣に座った、新聞社に入社したばかりだという若い記者が話しかけてくれた。
「僕は東京にきたばかりだし急にこの仕事を振られたのでよく知らないんですが、ここってそんなにすごいんですか」、と聞いてきたのだ。ある意味、私への取材なのだろう。

私は「もう三省堂本店といえば神保町のシンボルですよ!神保町で待ち合わせと言えばここ!」と勢いよく喋りだし、思い出を語った。

するとそこで小雨がほんのちょっぴり降ってきた。
それで私が「ほら、神保町も泣いてますよ」とうまいことを言うと若い記者が、さすがです!と言ってくれたので、新聞の記事に書いてもいいですよ、と伝えておいた。

(雨がすぐさま止んだからだろうか、その後見た彼が書いたらしき記事には神保町が泣いているエピソードは載っていなかった。なので今、私が書いた。)

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社長のスピーチ。みんなへの感謝と、現状維持よりも挑戦することの決意を、丁寧に語る。

まずは多くの人からのメッセージに感謝を述べていた。
従業員のはげみになりました、と。
そして、この決断はあくまで一つの区切りであり、また物語を再開するためのステップである、と。

生活様式も変わっていくなか、コロナでかつて経験したことのない混迷があり、書店の存在意義が揺らいでいる。
そんななかでも、本がもたらす情報の質、本とふれあう時間の豊かさ、本を愛する街、お客様と本が出会う場所として継続していきたい。と。

以下、報道陣向けに配られた紙に書いてあったメッセージを引用します。

“あたらしい出会いをくれる場所。
つまらない毎日から抜け出せる場所。
待ち合わせにちょうどいい場所。
世界のかたちが見える場所。

それぞれにとって意味があり、
それぞれにとって心地いい。
書店は、そんな場所だと思います。
100年先も、200年先も、
書店という文化を残していきたい。

神保町本店はこの度、
建て替えのため、一時閉店いたします。
未来に書店を残すため、現状維持よりも、挑戦を選びます。
もっとたくさんの人が、本と出会い、
本を楽しめる場所に、生まれ変わってみせる。
神保町本店の第二章に、どうぞご期待ください。”

 

…泣いちゃいそう。
三省堂書店だけでなく、書店業界のことも言っているのだ。

自分も、書店は好きなのにネットで本を買うことが多いのでつい下を向いてしまった。
ただ、社長さんが言っていたように、書店の価値というのは本にだけあるのではないと強く思う。人が集まる場所でもあるからだ。

実際に、こんなに多くの人が集まり、心を動かす力がある。

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ギュウギュウ!
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最後はみなさん並んで。

このビルは三省堂書店100周年の1981年に竣工、多くの人が本を求め、その本を楽しむレストランや喫茶店で時をすごし、また、待ち合わせの場所として愛されてきた。建設から40年たち、建物設備の老朽化が進んだことから、建て替えを決定。

6月1日からは、近くの仮店舗ですでに営業再開している。
この神保町一丁目1番地にまた戻ってくるのは、約3年後(2025年)の予定だそうだ。
その時の姿が、今からとてもとても楽しみだ。

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盛大な拍手が巻き起こり、ありがとうと叫ぶ人たちも。

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そして、第二章へ。
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名残を惜しむ人たちがなかなか帰らない
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一つの区切りを表すしおり。取材申請した時にいただいた。
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人がいなくなってから、私も記念撮影。
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新しい仮店舗に行ってみると、ヴィクトリアゴルフだったところだ。私、この建物にも思い出があるんですけど…
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寂しさの連鎖

私は神保町で働いていた時代、「毎日ちょっとでもいいから新しい発見をしよう」と、会社近くの店にしらみつぶしに入っていた。(当時の会社があまりにも刺激がなさすぎてたまっていた)

このヴィクトリアゴルフもそのうちの一つだ。
たった1回しか入ってはいないけれど、ここが閉館されるのか、という寂しさがまた起こった。
寂しさのループ。
たしかに当時から、神保町の店の入れ替わりの早さに寂しさを感じていたけれど。

そのあと、これまで何百回と歩いた「すずらん通り」もブラついた。
三省堂も面している通りだ。

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ウソだろ…

すると、私が「行列のできる店の隣の店にいくin神保町」で取材していたおにぎり屋さんが駐車場になっていた。
いつも大行列を作っていたキッチン南海と共に。

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行列のできる店の隣の店にいくin神保町で取材した素敵なおにぎり屋さん。

さらに、同じ記事の後半に出てくる「六法すし」も閉店していた。
また絶対行きたいと思っていたのに…寂しさの連鎖が止まらない!

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よーく見ると、鉛筆でお客さんからメッセージが書かれている。

私が神保町で記事にとりあげたところで閉店しているのは他にもいくつかある。
好きな街だから色々見てきただけに、逆に変化が分かってしまって辛い。

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神保町ナポリタン、キスマークセクシーNo.1を決める」記事に出てきた「アミ」はもう無いし、
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プロが選ぶ、ペリーと水戸黄門が喜ぶCD」に出てくる中古CD屋ジャニスも無いし(ジャニス2号店は営業中!)、
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女性向け本屋ってどんな感じ?」の本屋ももう無い。

お店が無くなるのは、必ずしもネガティブな理由だけではない。

だからこの寂しさは、自分が知らないうちに突如なくなることへの自分勝手な感情だ。
今回の三省堂本店のように、最後に見届けられるのはとてもラッキーなことなんだなと改めて思った。

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しかも、おにぎり屋さん跡にできた駐車場も閉鎖かい!
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しばし、ションボリした。

終わりではない

三省堂書店の社長さんのメッセージを聞いて、人生も一緒だなと思った。
生きていれば、別れ、倒産、病気、事故、災害など色々な理由で、居心地のよかった生活を一変しなければいけないことが起きてしまう。

でも、それは次章の始まりだ。
場面は変わり、登場人物も変わってくるだろう。
だから、悲しむばかりではなく、どう変化していくのか、楽しみにして生きていきたい。

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6月頭。営業再開した仮店舗を見にいったら、当たり前のようにとても賑わってました!


 

過去に神保町で撮影した記事、良ければ御覧ください。

パンツとバレない帽子をつくる
ブラジャーをアイマスクにすると安定感が半端ない
洋食しばりで学食ランチを食べ比べる in 神保町
知らない人のランチについていってみる
冷やし中華いつ終わりますか?

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