締め切りがあると頑張れる
4時間半で5軒まわることができた。
1日で5回も風呂に入る日がくるとはなあ。
レンタル自転車がなければ無理だったろうし、この先こんなに入る機会はもうないだろう。
火事場の馬鹿力というか、時間制限があったから頑張れたのだと思う。
心配してくれた受付のみなさんや常連さん達に、無事達成したことを伝えたい。
みなさん、お風呂のお湯のようにあたたかかった。心もポカポカだ。
ついに銭湯の回数券の有効期限日が来てしまった。
手元には5枚も残っている。
使わないのはもったいなすぎる。。
会社終わりになんとか行けるだろうか?
ダメ元で5軒、一気に周ってみることにした。
私は昨年、銭湯巡りにハマっていた。
当時、会社帰りに毎日ウォーキングをしていて、「途中で銭湯入ったらもっと楽しいぞ!」と気づき、週に1回ほど毎回違う銭湯に寄っていたのだ。
銭湯アプリも入れ、当時ちょうどやっていたオリンピック開催記念のスタンプラリーを集めて限定手ぬぐいをもらったりして楽しんでいた。
それぞれの銭湯の違いが楽しく、また、すごい勢いで減少していっているものなので今のうちにたくさん周ろう、と思い回数券を買ったのだ。
だが、昨年の秋から仕事がほぼ在宅に代わり、ウォーキングをやめたことですっかり行くペースが落ちてしまった。
それに月の半分行くようになったジムに立派なお風呂があり、「広い湯舟につかりたい欲」が満たされてしまっていた、というのもペースが落ちた理由だ。
しかし余った回数券を使わずに捨てられるほど、銭湯から心は離れていない。
いろいろ忙しくて行けるのが最終日、しかも平日になってしまったけど、私はできる限りこの回数券を使い切る!
令和3年末のデータによると、大田区の銭湯の数は35と、東京で一番多い。
会社から割と近く、ちょうど出社日なので、大田区を攻めることにした。中でも蒲田駅周辺が良さそうだ。
そういえば、大学に入りたての頃に好きになったひとつ上の先輩が蒲田出身だった。
その先輩に「蒲田は銭湯が有名」という話を聞いて以来、「蒲田=銭湯」となった。ほかは正直、蒲田のことを知らない。
昼休みに調べたところ、確かに蒲田駅近辺には銭湯が多いようだ。
だが定休日に当たってしまっている所が2か所。それと個人的なこだわりとして、以前入ったことがある銭湯は省くことにした。
どうせなら初めてがいい。
受付で、輪ゴムでとめていた回数券から1枚ひっぱりお姉さんに渡す。
すると、お姉さんが「これ…今日までですけど大丈夫?」と残りの券の多さに驚きとても心配してくれた。
「全部使い切ります!」と勢いよく述べ、さっそくお風呂場へ。
すると、珍しい円形状の湯舟が真ん中にドーン!
色々なお惣菜が仕切られているケータリングの丸い容器のような感じで、お風呂が別れている。
聞きなれないバイブラ湯(超音波気泡のことだった)、高温風呂、低温風呂、電気風呂があり、みんな中央に向かって座っていた。
銭湯に入ったら壁の絵もチェックだ。
通常は富士山など自然の風景が多いが、ここの絵は大きい帽子をかぶったエレガントな女性がクラシックカーからおりてきたところ、という「なんでそれ?」系であった。
サウナは無料で、備え付けの石鹸やシャンプーは無し(大田区の銭湯はそういう所が多い印象)。
いつもはお風呂とぬる水シャワーを行き来してゆっくりと堪能するのだけど、今日はそこそこにしておこう。
受付のお姉さんは今日初めてこれを売ったし中身を見た、と言っていた。
銭湯では未だにこういった、昔ながらの商品が棚に並んでるのがいい。
新しく良い感じに変化していく銭湯も増えているけれど、時が止まったかのように昔のままの姿を残してくれる所も多いから、体験できる近代の歴史資料館のようで好きだ。
そしてお姉さんは最後にまた、残りの回数券のことを心配してくれた。
優しいな。
ここでも先ほどと同様、受付のお姉さんに回数券の残りを心配された。
「このペースなら行けると思います!」と張り切って入浴。
壁には赤富士が大きくペイントされていた。
それだけでなく、歌手グループの純烈による「スーパー戦闘 純烈ジャー」の絵とサインが書かれていた。
常連さんの話によると、1週間ほど前にペイントされたばかりで、おとといTV撮影が入り、昨日放送されたのだそうだ。常連さん、詳しいな!
さらに常連さんは「あっちに小さいけど露天風呂あるよ」と教えてくれた。
たしかに扉はあるけど、露天があるとは一切書かれていないため見過ごす所だった。(ちなみに露天は女性の方だけ)
行ってみると1畳余りと、半畳ほどの湯舟があった。半畳の狭い方に体育座りしてつかると、なんだかそれはそれですごく落ち着けてよかった。
サウナは無料。
年季の入ったぶらさがり健康器具があったのでぶら下がってみると、常連さんたちに凄いね~と褒められる。上半身が伸びて気持ち良かった。
なんと、この銭湯の建物の前側は、床下が水槽になっていた。
脱衣所でも見れたでしょ? と受付のお姉さんに言われ改めて見に行くと、たくさんの錦鯉が集まっていた。ウッカリ見落としていた。
たしかに銭湯では、休憩所や受付で金魚や派手めの魚を普通の水槽で飼っているのはよく見かける光景だ(浴槽の壁面に泳いでいるところもある)。でも床下までは初めての経験だった。
犬の散歩をしていてこの捨てられたぬいぐるみが回収されないのを見てかわいそうになり、家族3人で運んで連れてきたそうだ。
このデカいぬいぐるみの下も鯉が見られるようになっているのだが、それよりクマ優先なのである。クマの足は長く、人が乗るように出来ているようで座り心地が凄くよかった。
驚きの連続で、受付のお姉さんとジュリーちゃんともっと喋っていたかったけど「あと3つ行くんでしょ?引き止めちゃ悪いね」と切り上げてくれたので次に向かう。
やはりこちらの受付でも、残りの回数券を見た女性が心配してくれた。
今日5軒周ると伝えると「そんなに周って湯あたりしない?大丈夫?」と聞かれた。
それで気づいたが、タイムリミットがあるために長湯はしないので、体は案外大丈夫なのだ。
こちらはマンションの下にあるタイプの銭湯だ。
そのため天井が高いいわゆる銭湯とは違い、普通の天井の高さ。
だが、浴室に入って驚いた!
正面に、2階へと続く階段があるのだ。
まずそれが気になってしまい、体を洗ったあとすぐ階段を登ってみる。
あがった先には右手に水風呂と左手に立派なサウナ(有料)があった。
そして階段の上からは1階部分の浴室を見渡すことができる。
他の銭湯ではあまり見られない光景だろう(私調べ)。
壁は、タイルで滝と鹿と虹が大きく描かれていた。
立派な露天風呂もあるが「静かに」という注意書きが多めで、ここがマンションの下であり余計に近隣住民に気を使っていることがうかがえた。
こちらでは缶ビールや缶チューハイなどのお酒も売られている。
そういう銭湯はけっこうあって、ちょっとした駄菓子やツマミが売られているような所もある。極楽なのだ。
コーヒー牛乳を飲んでいると、受付の女性の店番が終わったようで帰り支度をしながら「おやすみなさい」と挨拶してくれた。
そして店の出口へ向かうと思いきや、、女湯の暖簾をくぐっていった…!
そうか、仕事後すぐにお風呂に入れるのか!
銭湯で働く人の特権なのである。羨ましい。
3階建ての立派な銭湯にやってきた。
1階はコインランドリー、2階が銭湯、3階は飲食ができるホールになっている。
ホールは100円払えばカラオケができるようだったが、残念ながら営業時間は終わっていた。
お風呂場に入ってみると、脱衣所も浴室もとても明るく感じた。
なんせ床のタイルが目の覚めるようなピンクだ。
壁には、海とヨットが描かれていた。
ヨットの絵を見るとついバブル時代を思い描いてしまうのは私だけだろうか。
すぐさま熱海に来た感覚に落ちいった。
奥には露天風呂があり、蒲田ならではの真っ黒なお湯の温泉。
これがまたお肌ツルツルになる。
外には打たせ湯もあり、明るい室内とはまた雰囲気が違ってよかった。
客層も若い人たちもたくさんいるし、桶はケロヨンではないし、スパ感覚であった。
受付の前にある休憩所で飲んでいると、毎日のように通うというおばあさんが「かき氷食べたい」と言いながらヨーグルトを食べていた。
もっと早く来ていたら、3階でかき氷が食べられるそうだ。
この日は6月ながら猛暑で、私もかき氷が食べたくなった。
ここの黒湯はおばあさんもイチオシだし、また改めて早い時間に来よう。
ラストは蒲田温泉だ。
実は蒲田温泉じたいには、5年前に当デイリーポータルZの15周年記念イベントで来たことがある。
その時は時間の都合でお風呂に入れなかったので、また改めてきたいと思っていた。
2階建てで、こちらも上にホールがある。
15周年記念イベントはこのホールで行われ、ライター達による謎のショーが繰り広げられていた。私もカラオケで「WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント」を歌った。
残念ながらホールの営業時間が過ぎていたのでおとなしくお風呂に入った。
サウナは有料だったが、今回行った銭湯の中ではここだけ備え付けのボディソープとシャンプーがあった。
そして、ここにも黒湯がある。
高温の方の黒湯は、デジタル温度計には45度とあったがアナログ温度計の方では50度をさしていて、私の体感だとそれは50度に感じるほどの熱さであった。(隣にはちょうどいい温度の黒湯があります)
おかげで、いつもはちょっと苦手な冷水が最高に気持ちよく感じた。
壁には、ちぎり絵のように小さいタイルを使い山と花が描かれていた。
あとは所々に、お花やフルーツの絵のタイルがはめこまれていて、昭和感ダダ洩れであった。
最後の銭湯だし、時間も少し余裕があるように感じたので、私はこれまで我慢していた顔と頭を洗って全身スッキリした。
そして大好きなおかま型のドライヤーで髪を乾かすことに。3分20円だ。
すごく古いものなのだろうけど、銭湯ではけっこうな割合でこの機械が残っている。
お金を入れる時に10円玉がひっかかってしまったが、先に使っていた常連さんが自分の10円玉を上から押し込んで使えるようにしてくれた。
私はこの、頭全体に熱風がくるおかまドライヤーが大好きだ。
20円でこんなにフワフワした気持ちいい体験ができるなんて!
でも毎回髪がボサボサになるのだけど(たまに良い感じに前髪が7:3分けに出来上がる時があっておもしろい)。
これでもうやり残すことはない、と脱衣所を出ると、いかにも人の好さげな店主がいて、色々案内してくれた。
記念撮影や初めてのオロポ作りに興奮していたが、気づけばこのとき23:30!
最終電車が出るのは23:50だ。
さすがに焦って初めてのオロポを一気飲みした。
オロポは思ったよりも量が多かったけれど、割っているおかげで炭酸はきつくなく、ゴクゴク飲めた。飲んだ感想はそのまんま「オロナミンCとポカリを割った味」だった。
銭湯にはこうやって、オリジナルグッズを作っている所がたまにある。思い出に買うのもいいだろう。
さて、急いで駅へと向かう。
このレンタル自転車は返却できる所がいくつかあるので、最初に借りた所よりもさらに駅に近い所に止める算段である。
だが、これがすんなりと見つけられずこの日一番焦った。
なんとか見つけることができたけど。
終電に飛び乗り、ボックス席が空いていたのでドカッと座った。
あ~、なにこの達成感。
ド平日の夏の夜、一生の思い出ができちゃった!
4時間半で5軒まわることができた。
1日で5回も風呂に入る日がくるとはなあ。
レンタル自転車がなければ無理だったろうし、この先こんなに入る機会はもうないだろう。
火事場の馬鹿力というか、時間制限があったから頑張れたのだと思う。
心配してくれた受付のみなさんや常連さん達に、無事達成したことを伝えたい。
みなさん、お風呂のお湯のようにあたたかかった。心もポカポカだ。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |