特集 2023年7月23日

アメリカはなぜアメリカ?~「人名が由来」のその元の元まで調べる

世界にはおよそ200近い国があります。

その国の名前の由来にはいろいろあると思いますが、意外と多いのが人名を由来にした国名で、アメリカもそのひとつです。

アメリカの国の名前由来についてちょっと調べてみました。

鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

前の記事:からくり発明家、岡山の奇人、ぴかぴかのおじさん、コタツ記事の偉人~ローカル偉人教えてください4

> 個人サイト 新ニホンケミカル TwitterID:tokyo26

アメリゴ=アメリカ?

アメリカの国名の由来はみなさんご存知でしょうか?

アメリカは、アメリゴ・ヴェスプッチの名前、アメリゴが由来となっている……。

これは、うんちくマニア界の中ではド定番の知識で、うんちくクリシェ(手垢のついたベタなうんちく)かもしれません。ですが、あえて紹介します。

アメリゴ・ヴェスプッチは、フィレンツェ出身の探検家で地理学者です。

02.jpg
アメリゴ・ヴェスプッチ

彼は、後に「南アメリカ大陸」と呼ばれる場所を何度か探検しますが、この探検により、それまで知られていたカリブ海周辺や南米の大陸などが、アジアなどのヨーロッパ人にとって既知の大陸ではなく、新しい大陸の「新世界」であることを1503年に論文で発表しました。

「アメリカ大陸」という言葉は、1507年ドイツの地理学者、ヴァルトゼーミュラーが、アメリゴの論文「新世界」を収録した本『世界誌入門』の付録の地図で名付けられたのが最初とされています。

03.jpg
マルティーン・ヴァルトゼーミュラー『世界誌入門』南アメリカ大陸に「AMERICA」の表記がある。ちなみに、真ん中の右のおじさんがアメリゴ・ヴェスプッチです

「アメリゴ」がなぜ「アメリカ」になるのか。

それは「Amerigo(アメリゴ)」のラテン語形「Americus(アメリクス)」のさらに女性形が「America(アメリカ)」だからです。

地名を名付けるときには、女性形にするというのは、どうやらそういうものらしく「Europa(エウロパ=ヨーロッパ)」、「Asia(アーシア)」など(aで終わる形が多い)に倣ったといわれています。

当初、南米大陸に名付けられた「アメリカ」ですが、その後、南北の大陸が繋がっていることがわかり、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸と呼ばれるようになり、北アメリカ大陸に「アメリカ」という名称の国が1776年に誕生したというわけです。

つまり、アメリカ合衆国は、由来に基づいて直訳すると「アメリゴ・ヴェスプッチ合衆国」となるわけです。

ちなみに、アメリゴのファミリーネームの方、ヴェスプッチは、雀蜂を意味するラテン語「ベスパ」が由来となっています。ベスプッチ家は紋章に蜂が描かれています。かっこいい。 

04.png
ベスプッチ家の紋章(Horemhat, CC BY 4.0 , ウィキメディア・コモンズ経由で)

アメリゴのさらにその先は?

さて、世界一の大国であるアメリカは、アメリゴが由来のうんちくは以上ですが「アメリゴ」のもともとの意味はなんでしょうか。

アメリゴという言葉のルーツは、ハインリヒ(Heinrich)です。ハインリヒ、アメリゴ……なにがどうなってこうなった? としか思えません。

ハインリヒは一族の長という意味の「家長」を表します。つまり、アメリカ合衆国を由来までさかのぼって直訳すると「家長雀蜂合衆国」になります。

それはそうとして、ハインリヒがアメリカになった経緯ですが、順を追って説明します。

ハインリヒは、古高地ドイツ語の「Heimrich」が由来で、Heimは、現代ドイツ語のHeim(家)と語源が同じです。ハインリヒの短縮形のハイネ(Heine)は、名前として広く使われ、詩人のハイネなどが有名でしょう。

05.jpg
詩人のハインリヒ・ハイネ

また、ハイネに小指辞(可愛らしいものにつける接辞)がつくと、ハイネケン(Heineken)になります。

06_Heineken_Flasche_0.33.jpg
ハイネケン(Pansebert, CC0, ウィキメディア・コモンズ経由で)

その後、ハインリヒはラテン語化しヘンリクス(Henricus)となり、Hを発音しない言語フランス語ではアンリ(Henri)、スペイン語ではエンリケ(Enrique)となります。

アンリあたりは、アメリゴとなんかちょっと近づいたような気がしますが、まだ道半ばという感じです。

ドイツ王の支配が長かったイタリアでは、ヘンリクス(Henricus)からさまざまな名前が派生しました。エンリコ(Enrico)、アリゴ(Arigo)、アメリギ(Amerighi)などです。そして、このアメリギからさらにアメリゴ(Amerigo)が派生し、誕生しました。

ハインリヒ、ヘンリクス、エンリコ、アリゴ、アメリギ、アメリゴ……そして、アメリカとなったわけです。まじかよ、としか言えません。

いったん広告です

コロンブスがコロンビアに…… 

さて、アメリカ大陸にはじめて到達したといわれるコロンブスですが、彼はアメリカ大陸をアジアのインドだと思っていたという話は、教科書にも書いてあるので皆さんご存知だと思います。

そのためかどうかわかりませんが、新発見とされた南北の大陸にはコロンブスの名前は使われず、アメリゴの名前から名付けられました。

しかしながら、コロンブスの名前が国の名前として残っているところがあります。それがコロンビア共和国です。南米大陸とパナマ地峡の付け根あたりにある国です。一時期、内戦が激しく、非常に治安が悪いと言われた国ですが、現在はずいぶん回復しているとのことです。 

 

コロンビア共和国のコロンビアは、コロンブスが由来ですが、ここで気になるのがなぜコロンブスではなく、コロンビアなのか。これは、アメリクスがアメリカになったように、地名とする場合は女性形にするためです。

07.jpg
コロンブス

では、コロンブスの元々の意味はなんでしょうか?

それは、ラテン語で鳩(columba)です。コロンブスは、鳩さん。ということになるわけで、さら語源の由来をそのまま直訳すると、コロンビア共和国は、鳩共和国。となるわけです。

旧約聖書のノアの方舟の伝説に、陸地を探すために放たれた鳩が、オリーブをくわえて帰ってきて、陸地がある(洪水が終わった)ことを知らせてくれた……という話があります。

07_22672557.jpg
「平和の象徴のハト」は、聖書由来のイメージ

海(大西洋)の向こうに、陸地があることをヨーロッパ人に知らせることになった人物の名前が、鳩というのはとても良くできた偶然のような気がします。さらに、コロンブスのファーストネーム、クリストファーの由来は「キリストを背負う者」となります。

マンガを描くから漫☆画太郎、風船を着るから風船太郎といったペンネームや芸名と同じレベルだけど、偶然というのがすごいですね。

※参考文献
梅田修『ヨーロッパ人名語源事典』大修館書店
辻原康夫『国旗と国名由来図典』出窓社

「国の名前由来ずかん」発売中です!

私、西村が、世界中の国の名前の由来をすべて調べ、簡潔にまとめた『国の名前由来ずかん』が好評発売中です。
実際に買うと、想像以上の判型のデカさで、ひと笑いできるという、得難い体験ができます!
ぜひ、全国の書店、Amazonなどでお買い求めください! よろしくどーぞ。

こちらでーす!

そうだったのか!国の名前由来ずかん
そうだったのか!国の名前由来ずかん
 
西村 まさゆき(著), タラジロウ(イラスト), 辻原 康夫(監修)

※このリンクからお買い物していただくと運営費の支えになります!

▽デイリーポータルZトップへ

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ