特集 2019年1月16日

アヒルのハイヒール「アヒール」を作ったらデカかった

よく見てください、履いてますよ。

おととし「ハトヒール」をここで発表させてもらい、ありがたいことにけっこうウケた。あれから1年半、各所でハトヒールハトヒール言ってきたのだが、どうも少々舌が回りづらい気がする。

ハイヒールのダジャレにしても、もうちょっとなんとかならなかったのか。あるいはヒールだから、鳥+ヒールで…と考えるうち「アヒルがいるじゃないか、“アヒール”だ!」とアルキメデスばりに半身浴からザバッと上がり、勢いで作ってみた。

1970年群馬県生まれ。工作をしがちなため、各種素材や工具や作品で家が手狭になってきた。一生手狭なんだろう。出したものを片付けないからでもある。性格も雑だ。もう一生こうなんだろう。(動画インタビュー)

前の記事:「ベアリングマ」を作った

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パーツの縮尺とディテールのめりはりに苦心

前回と同様、安い安いハイヒールを取り寄せた。作品とはいえ、本当はこんな9cmヒールなど履くのはつらいのだけど、そうしないと鳥の足の長さをかせげないのだから仕方がない、と自分に言い聞かせる。

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なんとかアヒルの形に落とし込んだラフ画。

同じ鳥類でも、ハトとアヒルとでは体型やディテールがかなり違う。アヒルの場合は羽根は体に溶け込んだ感じで強調せず、胸からお腹がぽってり、といったたたずまい。そんなわけでハトのときのノウハウを駆使しつつ、新たな解釈も必要だった。

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胴体はやはりスタイロフォームで。

だめだ、こうやって「新たな解釈」なんて書いても、記述がひとりよがりになりそうだ。やはりここは、できあがった本人たちに登場いただき、お話をさせていただければと思うがよろしいか。

それではアヒールさんたち、お入りください。

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ハロー ワールド。
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こんにちは。具合はどうですか。
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悪くないわ。胴体と羽根と、少し感触が違う感じね。
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ほう、わかりましたか。実はフェルト原毛の種類を変えているんですよ。
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意外と手間かけてくれてるのね。悪くないわ。
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まあ、そのほうが手っ取り早かったからなんですが…
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胴体のスタイロフォーム(密な発泡スチロールと思ってください)に、とにかく「アクリルフェルト原毛」を刺しまくる!

 

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キャー!怖いいい!
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ここは「羊毛」ではなく「アクリル」の人工的なフェルト原毛で、短い毛足を表現しました、というかアクリルの方が毛の筋が見えづらく短時間で均等に仕上がるのです。
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ひいいい。
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(聞いてない…)
そして羽根はこんな風に、「羊毛」のほうを刺せば自然な流れの毛並みになるかなと。

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フェルト布を土台にして、あとからババーンとハイヒールにくっつける。

 こうやって力の限り刺しまくる一方、足やくちばしなども作り込まねばならない。ハトのときよりも存在感の大きいパーツだ。

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とにかく4本あるんで大変。
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フェルト布の水かきは際どい接着で。

 

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くちばしも軽いスタイロで済ます。
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足は、被覆してある針金を曲げて、そこに羊毛フェルトを巻きつけて接着しました。アヒル足っぽいでしょ。
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珍味よね。
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(珍味って言った!)
くちばしは、のちのち、石粉粘土が良かったかなと思わせられる出来事が発生します、お楽しみに。
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怖いわー。
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途中経過。すでにかわいいぞ。

 

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一瞬でもこんな異形のものにされてたなんて、私たち首なし鶏マイクじゃありませんことよ。
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…。
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ふわふわにした布を、胴体と羽根がわりにハイヒールに接着。

 

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この部分はアヒルの場合、境目をあいまいに。
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あみぐるみ用の目を入れる。ここらへんかな…

 

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あなたね。大事な画竜点睛を「ここらへん」で入れないでほしいわ。
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ここは素直に、申し訳ありません。ハトヒールのときもでしたが、どうも私が作ると間が抜けた顔になりがちな気がします。なんでだろ。
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まあ、私たち元からいくぶん間抜け顔ですものね…仕様がないわ。
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ああっ内省的にさせてすみません!

そして、仕上がるに連れてそのデカさにおののいたアヒールの完成形が、これだ!

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ふっくらしたお姿。人間だったら、おっとりした性格だろう。トリだけに。

 

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どうしても後姿は、ハイヒール優先のフォルムになるなあ。
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ハトと比較すればその大きさがおわかりいただけるだろうか。

 

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ハトとまったく同じヒールが入ってると思えない大きさ。ペンギンの骨格見て驚く、みたいな話ですな。
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体の割に、足がかなり小さい気もするけど。
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これ以上大きいと、「私が」歩けないと思いましてね。
そのかわり、くちばしが妙に大きくなってしまいました。これものちのち、もうちょい小さいほうが良かったかなと思わせられる出来事が発生します、お楽しみに。

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それが次ページで明かされるってわけね。
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移動中もかわいい。
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歩き方矯正具としての未来

アヒールでおでかけすべく、不忍池にやってきた。

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アヒル、ではなくずらっとユリカモメ。
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履かれるのを待つアヒールさんら。

 

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前から見るとうっかりバレエシューズに見える、ってこれ贔屓目か。

締め切りギリギリにできあがったので、恐ろしいことにここで初めて履くのである。

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装着。ほとんど履いてるように見えない。

 と、ここで通りすがりの方が、足元をじっと見て近づいて来られた。

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内心「やったぜ!」と思う私。

これはいいよ、とてもいいものを見た、としきりに感心してくださった。アヒールです、と作品名を言うと「お、そう言っちゃいますか」という感じで、こっちまでうれしくなるような笑顔。 

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上野はやっぱり反応いいなあ。これからも、変なもの作ったらなるべくここに来よう。
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ところでなぜ不忍池にいらしたの。
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アヒールだけに、アヒルのボートに乗ろうと思って。
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アヒルじゃないわよ、スワンよ。
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…実はこの前日にそれに気づいたんですが、ほら、「みにくいアヒルの子」って話もあるから、白鳥憧れな設定で…
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あれは虚構よ。

さて例の、くちばしに関する話。余談になるが書き留めておこう。 

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ボート乗り場に猫がいたんですよ。
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あっ猫だアヒル見せたろ!と思わず駆け寄ったら、柵のポールにかかとをぶつけて「パキッ」だって。

 

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くちばしがすっかり取れた…養生するもの持ってくるの忘れたわ…
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近くのコンビニで接着剤買って、なおした。「ありがとう」と、言われた気がした。

 

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まったく言ってないわ。痛かったわ。
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そうですよね。元々は私がギリギリまで作ってたせいですし、ほんとすんません。
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なおったら、さっそく働いてもらうよ、あんたたち。

 

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ユリカモメに会わせたら…
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逃げられた。

 

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気にはしてるみたい。
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生身のハトとも共演。

 さて再び、ボート乗り場へ。履いたまま歩いてみるか。

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いろいろ気をつかわないといけないので、アヒルじゃなくてもよちよち歩きに。

 

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次はアヒルのターン。

 

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歩いてて思ったのが、とにかくくちばしの存在感が大きくて。私ちょっとガニ股なんで、2羽がすれすれにすれ違うことになるから、ヒヤヒヤしどおしでした。またバキッといくんじゃないかと思って。
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1歩ごとに恐怖だったわ。たまらないわ。

その様子を収めたGIF動画がこちら。

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右のアヒールがだいぶ左にすり寄っておる、ということは右足の方が外を向いているのか。骨盤ゆがんでるな。
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ほら、白鳥さんだよ。「憧れるわぁ」
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しかし乗るなり労働に従事させられるアヒールたち。

 

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漕げないんじゃないかと心配でしたが、大丈夫でした!ヒールが床に着きそうだったけど、それはハイヒールでも同じだし。
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おかげでほとんど楽しめなかったわ。私たちの不忍池の思い出は、こうよ。
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人間が、久々のスワンボートに浮かれている頃…

 

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後ろ向きだったアヒールたちの視界はこのようになっていたのだった。

スワンボートを目当てにアヒールとここに来たが、アヒルじゃなくスワンだし結局ほぼ使役されていたわけだし、非常に悪いことをした。

でもこのヒールに振り返る人も多く、作っただけでもひとまずは満足だ。

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申し訳ないので、せめて最後に景色をどうぞ!って「ぬい撮り」みたいだな。

ハトヒールで調子に乗って作ってみたアヒールだが、靴だということをすっかり忘れていた。ハトに輪をかけて履きづらい。くちばしが致命的だ。しかも白いので汚れも目立つだろう。実用には欠点だらけである。

しかしそれを凌ぐくらい、自分的にはかわいいもんになった。これはなるべく履かずに、ぬい撮りとかさせよう。


【告知】

1)19日の「第4回ウェブメディアびっくりセール」に「乙幡啓子@妄想工作所」として出展します。お恥ずかしいですが初の自作写真絵本を作りました。

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ハトヒールにももっとしゃべらせたくて、まあ、今回の会話パートみたいな感じです。

他、デザインしたゆるキャラ「トリィネコ」グッズやオリジナルブローチなど持ってまいります。

2)2月10日、立体物の販売イベント「ワンダーフェスティバル」に出展します。ブース名「寒河江弘」にて、たいがー・りーさんと居候させていただきます。無謀にも「ベアリングマ」縮小版の販売を目論んでます。

 

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