謎を解かないと買えない服屋さん
それはトキキルという服屋さんだ。服のデザインが暗号(謎解き)になっており、それを解いた者だけがその服を買うことができる。
詳しくは以前取材したときの記事を読んでほしい。また、同じ日に取材に来ていたオモコロの記事もすごく面白いのでおすすめだ。
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当時は一人のお客さんとして取材したのだが、記事にさせていただいたご縁から、今度は私が服をデザインすることになった。そんなことある?
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まさか自分がクリエイター側になるとは……。過去にWebで楽しめる謎解きを何個か作ったことはあるが、 服となると話は違ってくる。
Web謎解きではクリックや文字入力の仕組みを利用したギミックを使うことができるが、服の謎解きはそれができない。いわゆる「一枚謎」と呼ばれる、画像1枚で成立する謎解きを考えなければならない。
私はそれを作るのが、ものすごく苦手だ。誰かに自慢できるような1枚謎を今までひとつも作ったことが無い。ずっとWeb謎解きのギミックに逃げてきた……。
↑こちらは亀をドラッグしてウサギに乗せる、ギミックありきの謎解き。よかったら遊んでね。5分ぐらいで終わるよ。
トキキルの服の傾向をつかむ
服のデザインをお声がけいただいたのはとってもうれしいが、一枚謎を作るのは大変だ。
実際、謎解きの服ってどんな感じなのだろう。なにか共通点はあるだろうか。前回の記事で紹介した服を並べてみよう。
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多種多様という感じだが、強いて言えば共通点は
②みんなを驚かせるような謎解き
③とにかくおしゃれ
④たどり着く言葉はその服のデザインに関連している
⑤一枚謎でよく使用される手法である「読むべき文字を番号で表現するやり方」ではなく、文字の拾い方をデザインに溶け込む形で提示している
この5つではないか。 ⑤について補足すると、世の中の一枚謎は、こういうのが多い。
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トキキルの服ではこのような提示方法はほとんどなく、それぞれのやり方で「いい感じ」に提示している。
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こんなの、どうやったら作れるんだろう。どうやったら思いつくのだろう。作るの大変すぎない?
オリジナルの一枚謎を考える
それから毎日のように一枚謎のことを考えていた。例えば、ゆきだるまとかスキーの絵を描いて雪を降らせて文字を読ませるのはどうだろう。
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こういう没案ばかりが浮かぶ。一枚謎を考え始めて3か月。にっちもさっちもいかないな。
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みんなを驚かせるような謎解きで、おしゃれで、拾うべき文字が独自の方法で提示されていて、答えは服のデザインに関連したものにしなければ。制約が多い。
でも待てよ……。後半の「おしゃれ」「拾うべき文字を独自の方法で提示」「答えはその服のデザインに関連」の部分って、絵の力でわりと何とかなるのではないか?
だとすれば、最初に考えるべきは「みんなを驚かせるような謎解き」だ。いままで「冬に関連した絵」のようにデザインから思考をスタートしていたせいでうまく行かなかったのかもしれない。
発想を変えて「枠組み」から考えてみるのはどうだろう。
謎解きには定番の枠組みがある。アルファベットをずらしたり、数字を英語で書いたり、曜日や干支やドレミに当てはめたり……。いくつかはトキキルの服の謎にも使われている。そういうのを除外していき、まだ使われていないものを考える。……あ!いいのがあるじゃないか。
その謎はある日突然舞い降りてきた。それがこちら。
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((シンキングタイムスタート!))
🌵
((シンキングタイムおわり))
矢印が動物(絵が下手すぎますが、しか、くま、うま、とりです!)のお尻を通っている。お尻は、動物名の最後の文字を暗示しており、線が通る順に文字を拾うと、「かままり」になる。しかしそんな言葉は無い。引っかけ問題だ。
実は、この4つの動物には、ある共通点がある。それは、「県名に入っている」である。鹿児島、熊本、群馬、鳥取。よく見ると動物の配置は日本地図上の県の位置になっている。なので、それらの最後の文字を拾う。「かごしま」「くまもと」「ぐんま」「とっとり」で、答えは「まとまり」である。
……我ながらけっこう良くない??? 動物を4つ並べただけのシンプルな構成ながら、引っ掛けありの2段構えの一枚謎だ。へへへ。
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動物名の入った4つの県名の末尾の文字を「?」の形に沿って拾うと、「まとまり」になる。小さな奇跡が同時に3個ぐらい起きている。美しい一枚謎を作るためには、奇跡を待ちつつ、様々な角度から思考/試行し続ける必要があるのだと学んだ。3か月かかったぜ。