沼の上にハチドリを出現させる
全長100メートルもないナスカの地上絵のハチドリ、もしかしたら、河川敷やちょっと広い駐車場があれば、実物大のハチドリを描くことが可能なのではないだろうか。実物大の地上絵がそのまま描いてあれば、その大きさを実感できるはずだ。
実際のナスカの地上絵は、絵の線の部分は、石ころがよけてあり、地面の白い色が見えるようになっているだけだというし、わりとあっさりしたものである。
もしかしたら、実物大で再現するのはそんなに難しいこともないのではないか。
そんなことを考え、紆余曲折あった末、ドローンを使ってGPSの軌跡でハチドリをえがいてみた。それがこちらだ。
ほら、ハチドリ!
多少いびつな形ではあるものの、ナスカの地上絵、しかも実物大である。Google Map上のGPSデータだから、拡大縮小も自由自在である。
引いて千葉県全体でみると、もう点にしか見えない。
下に見えるのは、千葉県の印旛沼である。賄賂政治で有名な江戸時代の政治家、田沼意次が干拓しようとした沼だ。
沼がわかるほどアップすれば、なんとかハチドリがわかる。つまり、地図として見ると、ナスカの地上絵のハチドリはそんなに大きなものではない。
あれだけふわふわ浮いているドローンで、ここまでえがけるのはすごい。
プラレールがだめ、水をまくのもダメ……
当初は、プラレールのレールで実物大のハチドリを作って、その上に山手線を走らせるつもりだった。
しかし、プラレールのレール代と、実物大のハチドリのプラレールを展開できるほどの場所を借りるのに、めちゃめちゃお金がかかることがわかり、断念。
ナスカの地上絵のウィキペディアを読むと、地上絵の再現は、拡大法や目視による描画などさまざまな方法があり、小学生が15人から160人ぐらいいれば、2時間足らずで書くことができると書いてある。
しかし、こちらは人を雇うような余裕はない。もっと簡単にえがきたい。
農薬散布用ドローンを使って、乾いた地面に、水を撒きながらドローンを飛ばしたら、水で地面に地上絵がかけるのでは? と思いつき、知り合いのドローン操縦士に頼んで実験までしてもらった。が、うまくいかなかった。
農薬散布用のドローンは、広範囲に水を霧状に散布するものなので、はっきりわかるほどのくっきりした線を地面にえがくのはむりがあった。
しかし、どうしても実物大のハチドリの地上絵をえがきたい。でも、水を散布してもうまくいかない。では、水をまかなくてもいいのでは? GPSでログをとりつつ、ドローンを飛ばせば、地図の上にGPSの軌跡で絵がかける。
遠回りして、結局「GPS地上絵」の発想に戻ってきた。こういうのを「車輪の再発明」というのだろうか。
当サイトでも大山さん、松本さんなどがGPS地上絵をなんどか記事にしているが、今回は、ドローンを飛ばして、その軌跡で絵をえがく……という方法で地上絵を再現した、というわけだ。
開業11周年を迎えたライフネット生命は最新のテクノロジーで生命保険のサービス向上をめざします。
地上絵を描きたいが、どうやって描くか
さて、ドローンのGPSを使って地上絵をえがくにあたり、なにをどうすればよいのか。
前回に引き続き、今回もドローンの操縦を担当してもらえることになったカメラマンの海彦さんに聞いたところ「ハチドリがかき込んである透明なシートをiPadに載せて、その線をなぞるように操縦すれば、できる」とのことだった。
もちろん、そのハチドリを、実物大で再現したいのであれば、iPadに表示させる地図の縮尺に合わせた大きさでハチドリをトレースしなければいけない。
ナスカの地上絵、ハチドリの正確なサイズを調べるため、文献をあたってみた。
理論社『まんが新・世界ふしぎ物語2 だれがかいたナスカの地上絵』によると、全長約96メートルとなっている。
「全長」の意味がはっきりしないが、くちばしの先から、尾の先まで直線でつないだ時の長さだとぼくは解釈した。
ダイヤモンド社『世界遺産 ナスカの地上絵 完全ガイド』では、千分の一のサイズのハチドリの絵が載っており、この本ではハチドリの全長は「全長約97メートル」となっている。
千分の一ということは、この絵の「全長」(たぶん、くちばしの先から尾の先まで)が、97ミリあればピッタリなのだが、家のものさしではかると、どうはかっても105ミリほどある。どういうことだろう。とりあえず見なかったことにして、話を先にすすめたい。
パソコンの画面でかきうつす
大きさに多少の疑義がのこるものの、千分の一の大きさのハチドリの絵は入手できた。この絵の大きさを信じるとして、ハチドリを具体的にどこにえがくかを指示するため千分の一の地図をシートにかきうつさなければいけない。
千分の一なんて縮尺の地図はなかなか売っていないので、Google Mapの縮尺を千分の一になるよう微調整してノギスで測る。
プログラミングができれば、縮尺を指定して地図を読み込むようウェブサイトみたいなもんをチャチャーっと作ることもできるかもしれないが、そんなことはできないのでノギスで測る。
もうすでに、この方法で正確な大きさを再現できるのかどうか、自分でもわからないが、20メートルが2センチであれば、千分の一だと信じて地形をシートにかきうつす。メートル法、もはや信仰である。
パソコンの画面に直接ペンで文字をかいているような感覚がある。なぜか背徳感がすごい。
上記の千分の一のハチドリの絵が載っていた本から等倍コピーしたものをつくり、さきほどの地図の横にこんどはハチドリをかきうつす。
ひとまず、ハチドリは完成した。
ハチドリだけだとおもしろくないので、田沼意次の名前もかくことにしたい。
印旛沼を干拓しようとして、志半ばで失脚した江戸時代の政治家だ。近年は昔のような賄賂政治家というイメージは古くなり、有能な政治家だったという評価が定着しつつある。
田沼意次。田沼あたりはなんてことないのだが、意次がやばい。特に意。ドローンのバッテリが持つだろうか。
ドローンについてあまり詳しく知らないのでわからないけれど、途中で電池が切れたら沼にドボンとなってしまわないだろうか。
ドローンがどんなものなのかよくわからないまま、印旛沼に向かう。
ドローンで原寸大の地上絵を描くことはできるのか。ライフネット生命はテクノロジーで生命保険サービスの向上を目指します。
鉛色の印旛沼にドローンが舞う
印旛沼にやってきた。
どんよりとした鉛色の曇り空、見事なドローン日和だ。(皮肉です)
現場を段取りしてくれたデイリーポータルZ編集部の安藤さんによると、午後からめちゃめちゃ風が強くなるのでさっさと撮影を済ませたいという。
さっそく、準備してきた地図とハチドリのトレースを操縦用のiPadにはりつけてみる。
準備を進めるうちに、安藤さんが「では、ボートの準備をしときますね」といいだした。
あ、そうだ。ボートで出るんだった。
沼のいい感じのところまでボートで出て、そこからドローンを飛ばして、地上絵をえがく予定だった。だから、安藤さんは風が出る前に撮影を済ませたいなどと言っていたんだ。
ボートを漕ぐのは何年ぶりだろう。左右のオールがてんでんばらばらに動くので、あちこちにぶつかったり離れたりしながらなんとかいい感じのところまでやってきた。
もし落ちても、岸の近くなら深さ1メートルぐらいだから立てます、大丈夫です! と安藤さんがいうが、いくら立てたとしても、落ちたくない。アフリカのザンベジ川でバンジージャンプをしたことがある人(安藤さん)のいう大丈夫の基準はゆるすぎだろう。
ドローンは我々が停泊している場所から、ボート乗り場の方へ引き返しはじめた。
西村「ドローン、引き返しましたよ、わざわざボートでここまで来た意味が……」
安藤「そうですね……くちばしの位置がそこになってたんですね」
やんぬるかな、これはもう、最初にそうかいてしまった私が悪い。
まあ、いい。スタートがどこでも、ハチドリがえがけさえすればよい。
ドローンがうまく動き始めれば、はっきり言って、あとはすることがない。
することが無いので、なぜわざわざ沼の上でGPS地上絵をかくことになったのかでも話しておきたい。
当初は、ドローンを運動場か、大きい駐車場で飛ばして絵をえがくつもりであった。
安藤さんが、サッカー場や運動場に連絡して場所を借りようとしたものの、目的外使用ということですべて断られていた。
どこか広い場所で……といっても、東京はほとんどが「人口密集地域」なので、ドローンを飛ばすことができないのだ。
したがって、人口密集地域でなく、なにもない沼の上で地上絵をえがくことになった。
もはや、われわれが自由にドローンを飛ばせるのは沼の上ぐらいしか残っていないのだ(いろいろ規制があるので飛ばす時には調べてみてください)。
いよいよ地上絵が完成する。開業11周年のライフネット生命も黙っていない。
ハチドリ以外もかいてみた
あらためて完成した原寸大地上絵のハチドリをみてみたい。
ドローンは、角度を細かく変えたり、曲線を描くのが苦手らしく、そういった点ではかなりいびつになってしまう。さらに、正確に飛んだとしても、GPSの精度の問題で、軌跡がきれいに記録されないというのもある。
しかしながら、これだけえがければ御の字ではないか。
これ以上なにを求めるのだ。
ドローンで撮影をする人は多いが、地上絵をかく人はいまだかつていなかったのだ。わたしたちはパイオニアなんだ、という矜持はもっておきたい。(調べずにいってます、すでにやってる人がいたらごめんなさい)
続いて、ドローンでえがいたのは、こちらだ。
ひとふで書きなので少し粗め、目の部分でぐるっと一回転しているのがポイント
まあ言ってしまえばおもねりである。しかし、ドローンを使ってサービス向上を目指すライフネット生命と、沼に原寸大で地上絵をかくという、わたしたちの机上の空論が合致したのだ。これぐらいはやって当然だろう。
田沼意次をえがきたい
さて、ついでといってはなんだけど、田沼意次である。
海彦さんに見てもらったところ、漢字の田沼意次は、ちょっと複雑らしい。
やはりそうか、そうだと思っていた。しかし、心配することはない、ちゃんと次善の策は講じてきている。
「TanumaOkitugu」である。ローマ字の筆記体であれば、一筆書きでえがける。願ったり叶ったりだ。
ドローンが仕事している間は、わたしたちは見るだけなのでやることがない。申し訳ない。
「TanumaOkitugu」は、一筆書きではあるものの、細かく方向転換をする場所が多いので、かなり面倒な形のようではある。
すごい!
「TanumaOkitugu」がみごとに完成している。
田沼意次のGPSデータ
230年以上の時を経て、印旛沼上空に田沼意次が出現した。志半ばで干拓を断念した彼の無念のおもいも晴れるかもしれない。
ドローン落書き、商売になるかしら
ドローンは、動画の撮影、写真の撮影、荷物を運ぶなどさまざまな使い方が考えられるが、GPSの軌跡データで、地図上に絵をえがくというのもアリではないだろうか。
ドローンで、地図の上にメッセージをえがく……。これって商売になるんじゃないか。そんな可能性を感じてしまった。
そもそも「ハトが選んだ生命保険を、ドローンで届ける?」という思いつきから始まった今回の企画。
ライフネット生命は、シンボルマークを空に描くだけでは満足せず、テクノロジーで生命保険のサービスを革新していきたいらしい。
ライフネット生命の皆さん、ドローンにはまだまだ可能性がありますよ!
何度も言うようですが、ライフネット生命は最新のテクノロジーで生命保険サービス向上を本気で目指しています。