特集 2019年1月25日

GPS描き初め2019・泉北亥

GPSロガーを持って歩き回り、全長5kmあまりのウリ坊の絵を描きました。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)

ぼくは、移動の記録をするGPSロガー(スマホでも可)を持って歩き、そのデータで絵を描く「GPS地上絵」という遊びをときどきやっている。

「GPS描き初め」とは、その手法で年始にその年の干支を描くこと。去年は東京は大森に子犬を描いた(→「GPS描き初め2018・山王子犬」)。

で、今年の干支「亥」。今年も描き初めました。

もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

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今年は大阪で!

まずはとにかくそのGPS描き初め「亥」の成果をご覧ください。

今年の干支・イノシシ。全長5kmのウリ坊。2チームに分かれて描き初めた、GPSログを航空写真に乗せて動画にしたもの。

地図で見るとこんな。大阪は泉北の地にこんなに大きなウリ坊がいるとは。

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引いて見ると、こんな。高石の工業地域あたりをじっと見つめていますが、いわゆる工場萌えでしょうか。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)

かわいい。かわいいといっても体長約5kmとウリ坊にしては破格のサイズだけど。

毎年、参加者を募って描いていて、場所はだいたい東京なのだが、今回見つけたウリ坊は大阪は泉北。自分でコースを設計するのだが、どこに見つかるかはそのとき次第なのだ。

大阪か。しょうがない、描きに行くか。

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ということで、Twitterで参加者を募りました

募集ツイートでは「誰も来なかったらひとりで描きます」と言ったものの、今回の道のりは20kmを超えている。初めての慣れない土地でこれを全部歩ききるのは、正直、きつい。なんせ迷子が許されないのだ。散歩じゃなくて絵を描くのだから。間違った道はログに残ってしまう。

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誰も来なかったらどうしよう、と思ってましたが、9名の方々が集まってくれました。ありがとう!(うれしくて自撮りをした)

と、心配だったのですが、この意味不明な催しを面白がってくれた方々、計9名が集合してくれました。ありがたい。大阪まで出張した甲斐があった。きっとみなさんの今年一年は良きものになるでしょう。イノシシが祝福してくれます。

中学生みたいなチーム分けに

ぼくを含めて合計10名。これだけいれば2手に分かれて描くことができる。よかったよかった。

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黄色い「顔チーム」と赤い「尻尾チーム」で分担して描き初めることにした((c)OpenStreetMapへの協力者)

二手に分かれても、それぞれ10kmを超える道のり。それなりに気合いを入れていかねばならぬ。

で、それぞれのチームはこうなりました。

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顔チームの面々。
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尻尾チーム。

尻尾チームの男臭い感じが気になります。当然ぼくは尻尾チームです。

まるで中学生のように男女に分かれちゃいました(最近の中学生はこういうふうにならないという話もありますがほんとか)。狙ってそうしたわけではなく、集合場所に集まったときに並んでいた右半分と左半分で分けたらこうなっちゃった、というだけです。

いでたちからして顔チームが明るいお召し物が目立つのに対し、尻尾チームはなんだか色が黒い。

ぼくも含めてお互い初対面の方も多く「男女混ぜましょう」みたいな合コン的な調整をする雰囲気でもなく(合コンいったことないからわからんけど)、結果こうなりました。

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地上絵と団地の公私混同疑惑

さて、道中の様子をレポートしましょう。まずはぼくも所属していた尻尾チームから。尻尾チーム、すごく楽しかったんですよ。顔チームも楽しかったと思いますが。

上の団地での写真がじつは我々チームの描き初めスタート地点。耳の付け根です。

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尻尾チームのスタート地点。ここから時計回りにお腹まで歩きます。((c)OpenStreetMapへの協力者)

じつはこのウリ坊、ニュータウンを住処ととしていまして、スタート地点のここもさることながら道中魅力的な団地をたくさん見ることができて、団地マニアのぼくはたいへん楽しかった。

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「素敵な団地だなあ」「ああ、素敵ですねえ」と理解を示してくれる尻尾チーム参加者。

団地マニアというぼくの素性を知っている参加者のみなさんは「やっぱり団地がたくさんあるからこの街で描くことにしたんですか?」と当然の質問をしてきましたが、そんな公私混同はしません。どっちも「私」だけど。

というか、GPS地上絵の設計はこれがけっこうたいへんで、日がな一日地図とにらめっこして「どこかにいい絵はないか」と、地上絵の神様が降りてくるのを待つ日々からはじまるんです。道の形が何か動物などの体に見えてくるまで、1週間ぐらい暇さえあれば地図を見る。そういう感じで設計がきまる。

描き初めはモチーフが決まっているという制約があるので、その上場所まで選り好みはとうていできないわけです。偶然です、団地地帯になったのは。

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特に終盤、疲れ切ったところに現れたこの団地には癒やされた。ナイス設計。すばらしいぞウリ坊。

ただ、団地の神様が粋な計らいをした、という可能性はあります。というのも今回参加してくれた方の中に、もうひとり団地趣味の人がいまして。

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ここで「これ、給水塔の跡ですよ」と団地の案内看板で解説を始める、尻尾チーム所属・小山さん。
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残念ながら給水塔はなくなっちゃってるが、看板には残ってる。
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奇跡的に(ほんとうに偶然です)ウリ坊の右後ろ足がこの団地の給水塔跡なのだった。団地の神様、いるね。
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「ここ、何回か来てるんですけどね」と言いながら写真を撮る小山さん。
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ゴール寸前のウリ坊のおなか部分にも団地があって、そこいは現役の給水塔が。「今回のコースで唯一の給水塔ですね」と小山さん。

その気のない人には信じられないかもしれませんが、この世には団地趣味の人というのがちらほらいまして。特に関西の団地趣味界隈は充実の人材を誇っているのだ。

この小山さん(@watertowerUC)は、なかでも給水塔に特化しておられ、長年全国の団地給水塔を追いかけてきたその道の第一人者。先日その名も「団地の給水塔大図鑑」を出版した尊敬すべき人物なのだ。

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小山さんの「団地の給水塔大図鑑」。ほんとうにすばらしい本なのでみんな買うべき。
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ほんとうにすばらしい。たのしい。そして、かわいいぞ。

急に団地仲間の宣伝のようになってしまったが、ほんとうにこのコースも、彼が参加してくれたのも偶然である。それにしても小山と大山を並べると団地漫才コンビみたいですが、これも偶然です。というか、団地漫才ってなんだ。

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現存する日本最古のダムを尻尾に

閑話休題。

これ以上団地の話はぐっとこらえるとして、尻尾チームの道中の見所はあとふたつ。池と地形だ。

地図で見てもわかるのだが、泉北のこの地域は実にため池と調節池が多い。

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たとえば右耳の中のこれ。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)
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調節池だ! ちなみにぼくは調節池めぐりも趣味としています。
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そんな特殊な趣味に賛意を示す、すばらしい尻尾チームメンバー。
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興味深かったのは、このこんもりした小山(右に写っている彼のことではありません)
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上に上がってみたら、なんとため池だった。こんもりは人工の土手だったのだな。
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しかも場所的には、ちょうどウリ坊の肛門にあたる。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)

このエリアは、古くから水不足に悩まされてきたところで、それでため池が多い。

きわめつけはこれだ。

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きわめつけは尻尾の先にあるこの大きな池!(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)
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なんとこれ、現存する日本最古のダムなのだ!

なんとこの「狭山池」はダムで、実に西暦616年に造られたというもの。

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じっくり見たいのだが、ぎりぎり尻尾の先で、それ以上近づけない。無念。

体の各所に調節池とため池を配する、なかなか見所の多いウリ坊である。

GPS地上絵の醍醐味「徒労感」

で、もうひとつの見所が地形。見所、というか、アップダウンにたいへん疲れた。

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後半の後ろ足からゴールのおなかにかけて、登り降りが激しくなった。
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登ったかと思ったらすぐに下り、
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また登り直す……。
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特殊な趣味の合う愉快な仲間たちだったが、さすがに無口になってきた。

「せっかく登ったのに降りるの繰り返し」はGPS地上絵ならではである。ふつうこういう移動はしない。散歩であってもこんな徒労感あふれるコースは選ばないだろう。「絵を描くため」という、目的地に到達するための移動ではない動きは、時にこういう動きを描き手に強いる。

醍醐味と言えば醍醐味なんだけど、正直、つらい。

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最後のゴール地点に至っては、ほぼ山であった。
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さっきまでふつうに住宅街だったのに……
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そしてここがゴール地点。完全に山中。

地図上では上の写真の藪の先に道があるはず。その先の崖っきわがゴール地点だった。崖の下に「顔チーム」がいて、両者のログが断崖絶壁をはさんでつながる予定だったのだが。さすがに危険だったのでここで終了とした。

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こちらはその崖下。ゴール地点にいる顔チームの様子。「この上に尻尾チームがいるはずなんだけど……」
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ログで見ると、ゴール地点はこんなふうに少し離れてしまった。右から来た尻尾チームと左から来た顔チーム。

 

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尻尾チームたいへんだったと思ったが……

こんな感じで、崖の下に移動し顔チームと落ち合って「いやー、尻尾チーム、坂たいへんだったよー」なんて苦労自慢(自分で設計しておいてなんだが)。

ところが、顔チームの話を聞いたら、こちらの坂ぐあいもなかなかすごかったようだ。以下、顔チームメンバーが撮ってくれた道中の写真をご紹介しよう。

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こちら顔チーム。すごい階段。
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写真で見てもあきらかにずいぶん高いところに登ってるじゃないですか(いわばぼくが登らせたわけですが)。
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かと思ったら、降りる。
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また登る。
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(また降りるのか……)

写真を見ただけでそ顔チームの過酷さがわかる。

実際、地形図にログを重ねてみたら、こんなだった。

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ウリ坊を地形図に。かなり彫りの深い造形をしていらっしゃる。(「スーパー地形」アプリが表示する国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル」の画像をキャプチャ・加筆加工)
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特に顔チームはこの口元から目、アゴに描けてのアップダウンがすごいことに。(「スーパー地形」アプリが表示する国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル」の画像をキャプチャ・加筆加工)
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顔チームの道中の高低差をグラフにしたもの。横軸が道のり、縦軸が標高。登っては降りるのすごい徒労感。(「スーパー地形」アプリの画像をキャプチャ・加筆加工)

上の標高グラフを見ると一目瞭然だ。よりによって往復して描かなければならないクチから目の標高差が激しい。自分で設計しておいてなんだが、これはひどい。

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ちなみに、その「目」は「ビッグ・アイ」という施設がある場所だったそうだ。なんという偶然!

顔チーム、140階建てのビルを登る

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一方、こちらがわが尻尾チームの標高グラフ。それなりに登り降りがあるが、顔チームほどではない。(「スーパー地形」アプリの画像をキャプチャ・加筆加工)
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両チームの歩いた距離と標高差の比較。圧倒的に顔チームのほうがたいへんだった!

なんてことだ。けっこうつらかったので「いやー、尻尾チームはたいへんでさあ」なんて言っちゃったけど、断然顔チームの方がハードであった。はずかしい。

累積標高424mって、140階建てのビルを登ったことになるぞ!

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顔チームの皆さん、なんかほんとうにすみませんでした。

GPS地上絵で体力の衰えを実感

今回こんなにしんどかったのは、たぶん加齢のせいだ。最初のGPS描き初めは2011年の「卯」だった。もう8年前。あと3回「子」「丑」「寅」で干支を一周するが、これは体力をつけないとまずかもしれない。

(顔チームの写真は@zhenmeimaoさん、@hirechopさんにいただきました、ありがとう!)

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終了後の打ち上げ。描き初めた達成感による追加オーダーの山。

【告知】ジャンクションの写真集出します!

DPZでも何回か記事にしている、こちらもぼくの特殊な趣味。ジャンクション鑑賞。このたび写真集になります!
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自分でいうのもなんですが、いい出来映えです。みなさん、ぜひ。

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十数年にわたるジャンクション鑑賞の成果を、ここに。
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