物理と最新のドローンはすごい
エイプリルフールの記事ではドローンを使って保険をお届けできるかもしれない、と言っていたライフネット生命の二人にも実験に立ち会ってもらい、最新のドローンにもガリレオの考えた物理法則が適用されることが証明できた。そりゃそうなんだけれど、実際にやってみると納得感が違う。これを保険サービスの向上に本当に使うのならば、もっと入念な実験が必要ですよ、きっと!
理科や数学の問題は実際にやってみると計算通りにいくのだろうか。
50キロで走る車から後ろ向きに50キロで投げたボールは空中で止まって見えるのか。忘れ物をした兄を自転車で追いかけると20分後に追いつくのか。
これ、たぶん実際にやってみるとボールはまっすぐには投げられないし、自転車は信号にひっかかって兄は忘れ物したまま学校に着くだろう。世の中そういうものである。
それでは中でドローンが飛んでいる箱が急に動くと、ドローンはどうなるのだろう。ドローンだけ取り残されるのか、ドローンごと動くのか。
実際にやってみて確かめました。
※この記事は最先端の科学技術によりサービスの向上をめざすライフネット生命の提供でお届けしています。ライフネット生命は明日5月18日で開業してから11周年を迎えます。おめでとう、ライフネット生命!
今回、実験のための「でかい箱」の確保に一番時間をかけた。中でドローンを飛ばせるくらいでかい箱である。
なるべく広大な場所でドローンを羽ばたかせたいです!と意気込むライフネット生命のリクエストに応え、最初は電車やバスを借りようと思ったのだが、ある運営会社に電話したところ「車内でドローンを飛ばすのは安全上許可できません」と断られてしまった。まあそうですよね。
というわけで荷台(箱)付きのトラックを借りてきた。知っているだろうか、2007年までに普通免許を取った人は車の重量が8トン以下ならばトラックを運転できるということを(他にもいろいろと条件があるので必要な人は調べてください)。
運転できると知って借りてはみたものの、届いた車は引っ越し業者が使うようなシリアスなトラックだった。こんなの運転したことがない。
車がでかいので駐車できるスペースも限られていた。そのへんのコインパーキングだと幅も長さも足りないし、ショッピングモールの立体駐車場には高さ制限で入れない。さっそく行き場がない。
というわけで1時間ほどの撮影のために公園の駐車場を借りた。きっと大きな車を持っている人たちの間では広い駐車スペースの情報が共有されているのだろう。そうじゃないと一生車から降りられないぞ。
ドローンの操縦もプロにお願いした。仕事で空撮をやっている友人のカメラマン海彦くんである。
カメラマン海彦くんと事前に打ち合わせたところ、急発進するとたぶんドローンは壁に突っ込んで壊れるだろう、ということだった。壁にあたったドローンはコントロールを失い、予想外のところに飛んでいく可能性もあるので閉じた空間でやると危ない。
というわけでなるべく小型軽量でプロペラガードの付いたものを用意した。
心の準備も含め、すべての準備は整った。車を長く止めておく場所もないので、さっそく実験に移りたい。
今回の実験はエイプリルフールに公開した記事「ハトが選んだ生命保険を、ドローンで届ける?」の実験も兼ねているので、ライフネット生命のお二人にも立ち会いいただいた。
エイプリルフールの記事にあるように、将来、ライフネット生命がドローンで生命保険を届けるという思いはフィクションかもしれないが、そもそもの発端はこの二人である。閉じた空間でドローンがきりもみで暴れるかもしれないが、そこは甘んじて受けてもらいたい(そうならないようプロを手配したわけですが、実験では何が起きるかわかりません)。
荷台でドローンのホバリングが安定したところで運転を担当する僕のところに電話が入ることになっている。
ドローンが浮いている状態で周りが動くとドローンはどうなるのか。
理屈でいくと止まっているものは止まり続けるため(慣性の法則)、ドローンはもといた場所にとどまろうとする。つまり箱の中から見ると進行方向とは逆に飛んでいくことが予想される。電車が急発進すると乗客は斜めになるのと一緒だ。
しかし電車の乗客は足が床についているだろう。浮かんでいるドローンにも同じ法則が適用されるのか、それとも水を入れた水槽で魚を運ぶみたいに、中の空気ごとドローンも進行方向に移動するのだろうか。
結果やいかに。
車はぶるんと一つ震えたあと、けっこうな加速でバックしはじめる。
するとドローンは!
ドローンは同じ高さを保ったままツーっと移動して、そのあと元の位置付近まで戻ってきた。戻ってきたのは床との距離を計りながら自分の場所をキープする機能がついているためだろう。こんなに小さいのにすごいテクノロジーである。
というわけで、前後の移動についてはドローンは慣性の法則にしたがうことがわかった。予想していたこととはいえ、実際にやってみるとちょっと感動する。これをドローンがない時代に考えたガリレオすごい。
次は上下の動きで実験だ!
上下に移動する箱を探すのにもやはり苦労した。最初に思いついたのはエレベーターだが、だいたいどこのビルのエレベーターも中でドローン飛ばしていいか聞くとダメと言われるのだ。うそだと思ったらあなたのマンションの管理人さんに聞いてみてほしい、ダメって言われるから。
このエレベーターは「絶対壁に傷をつけないから」と約束して撮影許可を得た。
科学に絶対はないのだが、ここは絶対と言っておかないと先に進まないので少々のうしろめたさを感じながらも約束した次第だ。よく言われるゼロリスク信仰というやつのジレンマを現場で感じた。
とはいえドローンは小型でどこかに当たると止まる安全機能付きだし、パイロットはプロである。トラックでの実験を見るに、派手に天井にぶつかってバラバラになったり、プロペラやら部品やらが火球となって降り注ぐなんてことはないんじゃないか。
ところでトラックの実験には立ち会ってもらったライフネット生命のお二人がいなくなったのは撮影空間が狭くなったからだけではない。前の撮影を終えてトラックを返しに行く途中、内輪差でトラックの側壁をこすったのだ。そのためいろいろな手続きに時間がかかってお二人はタイムアップとなった。
話を戻そう。
これからドローンを中に飛ばしたまま、エレベーターは二つ下の階へと向かう。
慣性の法則に則ると、浮いているドローンは中から見ると進行方向とは逆、つまり上にあがっていくことが考えられるが、ここは密閉空間である。周りの空気を押しのけて飛んでいるドローンを空気ごと移動させるのだ。もしかしたらもとの位置に浮いたままで行き先階まで到着することも考えられないか。
なんと有意義な実験だろうか。車をこすったことを忘れるくらいわくわくしている(本当です)。
正気に戻る前に実験を開始したい。
カメラマン海彦くんにはドローンの操縦と撮影に加え、今回はエレベーターの操作もお願いしている。持つべきものは器用な友人である。
行き先階を押すとエレベーターが下がり始めた。胃の辺りがふわっと浮く感じがする。
さあドローンはどうだ。
エレベーターの移動と同時にドローンはけっこうな加速で天井付近まで上昇した。まずい。絶対に壁に当てないと宣言して借りているエレベーターである。当てるくらいなら飛びついてやろうかと身構えたところ、ドローンのセンサーが働いたのか、しばらく迷いながらももといた高さまで戻ってきた。
すごい、僕たちはいま慣性の法則を目の当たりにしたのだ。電車や車で通勤している人にとっては、そんなの毎日体感しているよ、と思うかもしれないのだけれど、こうして結果を目の当たりにすると実にすっきりと理解ができる。
エイプリルフールの記事ではドローンを使って保険をお届けできるかもしれない、と言っていたライフネット生命の二人にも実験に立ち会ってもらい、最新のドローンにもガリレオの考えた物理法則が適用されることが証明できた。そりゃそうなんだけれど、実際にやってみると納得感が違う。これを保険サービスの向上に本当に使うのならば、もっと入念な実験が必要ですよ、きっと!
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