学生時代の行きつけだったほっともっと
ほっともっとは学生の頃からかなりの頻度でお世話になってきた。そういう意味では僕の体の何割かはほっともっとで出来ていると言っても、いやそれは言い過ぎだな。でもそのくらいよく食べていた。
特に学生の頃はアパートの近くにほっともっと(当時はほっかほっか亭)があったので、へたしたら学校に行くよりも真面目に通っていたかもしれない。
そんな僕らの味方、ほっともっとだが、メニューの中で一番高いものははたしてどれなんだろう。
メニュー表を順に眺めていくと、明かに一つだけ高いやつを見つけた。
「肉増しカットステーキ重(肉1.5倍)」1200円である。「弁当」ではなく「重」だ。器が四角いのは「重」の名に恥じぬためか。
しかし注目してほしいのはそのカロリーである。735kcal。から揚弁当は790kcalである。肉増しカットステーキ重(肉1.5倍)は値段が倍以上するのに、カロリーではから揚弁当に負けているということか。これを知ってますますから揚弁当が好きになってしまったが、今日はいったん見なかったことに。
「ステーキ重ですね、ちょっとお時間いただきますいいですか」
店員さんが申し訳なさそうに言う。もちろんいいです、僕はもう腹を決めたので、どれだけ時間がかかっても肉増しカットステーキ重(肉1.5倍)を食べたいのです。
支払いを済ませ、店内の椅子でその時を待つ。
床の柄で記憶がよみがえる
待っている間、ずっと厨房を凝視しているのも卑しいと思い、ふと視線を下げた瞬間だった。僕の頭の中でシナプスがスパークした。
店内のこの床、見覚えがある。
学生時代に通っていた店舗と同じ柄なのだ。
もうずっと前の話なので正確に覚えているわけではないが、当時も毎日こうして、この柄の床を眺めていたように思う。
理工学部だったのでこの床を見ながら弁当を買って、それを持って実験室に直行していた。実験室の床は思い出せないのに弁当屋の床の柄だけ覚えているのはなぜなのか。
「よんじゅうさんばんさんー」
僕の番号が呼ばれる。肉増しカットステーキ重(肉1.5倍)がやってきたのだ。
肉増しカットステーキ重(肉1.5倍)は思ったよりも軽かった。「重」の字から想像するに、メロンとかキャベツくらいの重みがあるのかと思っていたのだけれど、感覚的にはピーマンの大袋くらいだ。大丈夫だろうか、間違えていないか。
発生する「どこで食べたらいいのか」問題
ここでひとつ後悔したことがある。職場から最寄りということで、青山にあるほっともっとで肉増しカットステーキ重(肉1.5倍)を注文したのだが、青山といえば泣く子も黙るいけてる街である。さっきも前の道をスーパーカーが走って行った。
そんな街で弁当を買ってしまうと、これはもう食べる場所がないのだ。弁当を食べるとなると公園か川原が最適なのだけれど、そんなのどちらも青山にはない。地図で見つけた緑地は墓地だった。
絶体絶命だと思っていたところを、エントランスに木製のベンチが設置されたビルを発見した。このビルに勤務する企業戦士だろうか、みな個々にスタバを飲んだりサラダを食べたりしている。ここだ、ここしかない。
いざ、ほっともっとイチ高い弁当
袋から出した肉増しカットステーキ重(肉1.5倍)はまだ温かかった。よかった。そしてその四角い容器を片手で持つと、不思議なことに先ほどよりも重く感じるのだ。
そしてさすがは1200円の肉増しカットステーキ重(肉1.5倍)である、タレが別だ。
タレをかけたことで完成した肉増しカットステーキ重(肉1.5倍)は、はらぺこたちをがっかりさせない香りと見た目だった。
よく「メニューと違う」とか「がっかりした」、「イメージですならそう書いとけ」などと言われがちな飲食業界だが、ほっともっとの肉増しカットステーキ重(肉1.5倍)に関して言えば、それは杞憂である。ぜんぜんがっかりしない。これはから揚弁当でも同じことが言えるのだが。
さて、味はどうなのか。
夢中で食べてしまいました
申し訳ないことに、ここから先の写真はない。食べ終えるまで夢中だったからだ。ステーキ肉はやわらかく、ご飯は粒が立っている。なによりガーリックの効いたたれが美味い。このタレになら180円くらい払ってもいいなと思った。隅に添えられた漬物がまたいいスパイスになっている。
足元で、尻を振りながらおこぼれを待っていた鳥には、一粒たりとも分け前があたることがなかった。
1200円はむしろ安い!
ほっともっとで1000円を超えてくるメニューはお店側としてもチャレンジングだったことだろう。そのうえ490円のから揚弁当にカロリーで負けているのだ。
しかし肉増しカットステーキ重(肉1.5倍)は、食べた人の記憶の中に確実に深い思い出を刻み込むことのできる逸品だった。味も量も大満足である。次に食べる時は、娘が彼氏を連れてきた時かな、と思った。