ミラノサンドが贅沢になる世界へ
ドトールのフードメニューといえばジャーマンドッグに加え、やはりなんといってもミラノサンドだろう。
ミラノサンドは、かつてはアルファベットでA~Cまでがラインナップとして存在し、弾力的に具を変更しながらも脈々と3種展開で存在し続けていた、気がする。
現在を調べてみると、生ハム・ボンレスハム・ボローニャソーセージのミラノサンドA、エビ・アボカド・サーモンのミラノサンドB、そしてなんとCは欠番であった。
その代わりというのか、「チーズ in ミラノサンドA」というのが登場している。生ハム・ボンレスハム・ボローニャソーセージにチーズを加えたもので、A’みたいな感じか。
今回取り上げるのは、AとかBとかいったアルファベットの世界線とは別の、上位互換とも言える「贅沢ミラノサンド」のラインだ。
贅沢なミラノサンド、なにを挟むのかといえば、そうローストビーフである。
この贅沢ミラノサンド、当サイトでは2017年にべつやくさんが食べていた(「ミラノのサンドイッチはけっこうミラノサンド」)。どうやら以前から期間限定で展開していたらしい。日ごろ贅沢と縁遠い暮しをしているため気づかなかった。
注目したいのはやはり値段だ。400円~500円台の通常ミラノサンドに比べ「贅沢」の文字の分当然高額となる。今シーズンは650円~790円の3種が展開されている。
790円ってなんかもうちょっとした塊のお金の値段だと私などは思う。ブレンドMをつけたら1090円だから、それはもう晩ご飯である。
何も考えずに出かけたらクリスマスだった
まさかドトールにローストビーフを食べに行く日が来るとは思わなかった。
だって、ローストビーフなんつったらごちそうの代名詞ではないか。誰かが結婚するときとかに食べるやつだ。しかし今日はお昼に気負わず食べるんだ。
エコバッグに電話と財布だけ入れてぶらぶら近くのドトールに向かう。こっそり執り行う、これは「サイレント贅沢」だな……と、思ってスマホを観たら12月25日で、サイレント贅沢だし街はSilent Night Holy Nightだった。おお、メリークリスマス。
クリスマス、混む昼のドトール、ローストビーフ
店内は混んでいた。ちょうど昼どき。うまくいくと昼でもそれほど混雑しない穴場のドトールとして私は重宝していたのだけど、今日はみんなやっぱりクリスマスだしローストビーフを食べにきたんだろうか。
いや、見る限りうかれて贅沢をしているひとはあまりいないようだ。むしろ、静かにコーヒーを飲んでいるひとり客が多い。店も人もばりばりの通常営業のように見えた。
さて、最高額、790円の贅沢ミラノサンドは2種類ある。
・直火焼きローストビーフ &カマンベール ~赤ワインバルサミコ酢ソース~
・直火焼きローストビーフ &トリュフポテトサラダ ~赤ワインバルサミコ酢ソース~
トリュフポテトサラダも気になるが、熟考に熟考を重ね、より贅沢、高級感のあるカマンベールの方を食べることに決めている。
頼むと、横のカウンターからお呼びしますとの案内で、席をとってコートを脱ぐうちにもう「ローストビーフのお客様」と呼ばれた。
はい。私がローストビーフのお客様です。
堂々として受け取った。今年いちばん胸を開く。ありがとう、ローストビーフのお客様です(2回目)。
これだ街場のごちそう
直火焼きローストビーフにカマンベール、そこへ赤ワインバルサミコ酢ソース。「うまいに決まってる」という言葉があるが、自分と遠い名前のメニューの食べ物だとその既決感が、ひらめきづらい。
ローストビーフがうまいのは知っているが、そこへカマンベールと赤ワインのバルサミ酢ソースをかけて、さてどうなるんだろうと、脳は迷う。
しかし、食べれば「そりゃそうだよな!」と思った。うまい。
バルサミコ酢とカマンベールの酸味が上手にかけあわさってしゃれてはいる。でも、ソース全体が思ったよりもしっかりめに甘く、結果気取らない味にまとまっているのだ。
それに、ミラノサンドを久しぶりに食べたのだけど、パンってこんなにおいしかったっけ。独特のツヤのないマットな焼き上がりは昔のまま、バリっとした皮の中の生地は記憶以上にふんわりしている。もちろんローストビーフは噛むごとにおいしい。
これこそが、街場の、今ここの現場味だ。
「ちょっとした贅沢」の具現化というか、ドトールでローストビーフを食べるからこそ味わえる、手の届くひそやかな喜びそのものがここにある。
安い店の高いメニューだからこその味わいだ。しみいる。
すっかり、こっそりした贅沢を味わった。
店内にはしばらくクリスマスソングがかかっていたのだけど、食べ終わるころ選曲のジャンルがかわって、ノラ・ジョーンズの「Don't Know Why」が流れ笑う。場を最終回みたいにすな。
この曲の「いろいろあったけど、私は大丈夫、がんばろ!」と思わせる強制力はなんだろう。とくにいろいろなくてもなんだかすっきり、こざっぱりした気分になる。
口内で噛まれる最後のひとくちが、かんばろね、と曲に共鳴しながら喉をくだった。
2024年もはりきっていくぞ。
ノラ・ジョーンズ Don't Know Why