特別企画:安い店の高いメニュー 2024年1月1日

ミラノサンドにローストビーフを挟む、サイレント贅沢

歳を重ねれば重ねるほどに小食になり、いまやお団子1本食べただけで胃が「もうあらかた大丈夫です」になってしまう。

そもそも若いころから一度にたくさん食べるのは苦手だった(3食しっかりよりも、5食ちょこちょこ食べたい、というような)。それで以前から、定食屋よりも軽食が食べられるコーヒーチェーンが好きだ。

安い店でいちばん高いメニューを食べるこの企画、私が行くのはドトールしかない。

* こちらは「シリーズ・安い店の高いメニュー」の1本です。

東京生まれ、神奈川、埼玉育ち、東京在住。Web制作をしたり小さなバーで主に生ビールを出したりしていたが、流れ流れてデイリーポータルZの編集部員に。趣味はEDMとFX。(動画インタビュー)

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> 個人サイト まばたきをする体 Twitter @eatmorecakes

ミラノサンドが贅沢になる世界へ

ドトールのフードメニューといえばジャーマンドッグに加え、やはりなんといってもミラノサンドだろう。

ミラノサンドは、かつてはアルファベットでA~Cまでがラインナップとして存在し、弾力的に具を変更しながらも脈々と3種展開で存在し続けていた、気がする。

現在を調べてみると、生ハム・ボンレスハム・ボローニャソーセージのミラノサンドA、エビ・アボカド・サーモンのミラノサンドB、そしてなんとCは欠番であった。

その代わりというのか、「チーズ in ミラノサンドA」というのが登場している。生ハム・ボンレスハム・ボローニャソーセージにチーズを加えたもので、A’みたいな感じか。

今回取り上げるのは、AとかBとかいったアルファベットの世界線とは別の、上位互換とも言える「贅沢ミラノサンド」のラインだ。

贅沢なミラノサンド、なにを挟むのかといえば、そうローストビーフである。

誰もいない会議室で公式サイトを開いたら、ローストビーフにPCが乗っ取られたみたいになった

この贅沢ミラノサンド、当サイトでは2017年にべつやくさんが食べていた(「ミラノのサンドイッチはけっこうミラノサンド」)。どうやら以前から期間限定で展開していたらしい。日ごろ贅沢と縁遠い暮しをしているため気づかなかった。

注目したいのはやはり値段だ。400円~500円台の通常ミラノサンドに比べ「贅沢」の文字の分当然高額となる。今シーズンは650円~790円の3種が展開されている。

ミラノサンドからはじめて圧を感じた

 790円ってなんかもうちょっとした塊のお金の値段だと私などは思う。ブレンドMをつけたら1090円だから、それはもう晩ご飯である。

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何も考えずに出かけたらクリスマスだった

まさかドトールにローストビーフを食べに行く日が来るとは思わなかった。

だって、ローストビーフなんつったらごちそうの代名詞ではないか。誰かが結婚するときとかに食べるやつだ。しかし今日はお昼に気負わず食べるんだ。

エコバッグに電話と財布だけ入れてぶらぶら近くのドトールに向かう。こっそり執り行う、これは「サイレント贅沢」だな……と、思ってスマホを観たら12月25日で、サイレント贅沢だし街はSilent Night Holy Nightだった。おお、メリークリスマス。

一部の店舗限定である、ソフトクリームがあることで私のなかで有名な渋谷3丁目北店にやって参りました
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クリスマス、混む昼のドトール、ローストビーフ

店内は混んでいた。ちょうど昼どき。うまくいくと昼でもそれほど混雑しない穴場のドトールとして私は重宝していたのだけど、今日はみんなやっぱりクリスマスだしローストビーフを食べにきたんだろうか。

いや、見る限りうかれて贅沢をしているひとはあまりいないようだ。むしろ、静かにコーヒーを飲んでいるひとり客が多い。店も人もばりばりの通常営業のように見えた。

さて、最高額、790円の贅沢ミラノサンドは2種類ある。

・直火焼きローストビーフ &カマンベール ~赤ワインバルサミコ酢ソース~
・直火焼きローストビーフ &トリュフポテトサラダ ~赤ワインバルサミコ酢ソース~

別の店舗に下がっていた垂れ幕。上がカマンベール、真ん中がトリュフポテトサラダ

 

トリュフポテトサラダも気になるが、熟考に熟考を重ね、より贅沢、高級感のあるカマンベールの方を食べることに決めている。

頼むと、横のカウンターからお呼びしますとの案内で、席をとってコートを脱ぐうちにもう「ローストビーフのお客様」と呼ばれた。

はい。私がローストビーフのお客様です。

堂々として受け取った。今年いちばん胸を開く。ありがとう、ローストビーフのお客様です(2回目)。

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これだ街場のごちそう

直火焼きローストビーフにカマンベール、そこへ赤ワインバルサミコ酢ソース。「うまいに決まってる」という言葉があるが、自分と遠い名前のメニューの食べ物だとその既決感が、ひらめきづらい。

ローストビーフがうまいのは知っているが、そこへカマンベールと赤ワインのバルサミ酢ソースをかけて、さてどうなるんだろうと、脳は迷う。
 

ブレンドMとともに
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しっかりとしたローストビーフの量!

しかし、食べれば「そりゃそうだよな!」と思った。うまい。

バルサミコ酢とカマンベールの酸味が上手にかけあわさってしゃれてはいる。でも、ソース全体が思ったよりもしっかりめに甘く、結果気取らない味にまとまっているのだ。

全開にした写真もありました

それに、ミラノサンドを久しぶりに食べたのだけど、パンってこんなにおいしかったっけ。独特のツヤのないマットな焼き上がりは昔のまま、バリっとした皮の中の生地は記憶以上にふんわりしている。もちろんローストビーフは噛むごとにおいしい。

これこそが、街場の、今ここの現場味だ。

「ちょっとした贅沢」の具現化というか、ドトールでローストビーフを食べるからこそ味わえる、手の届くひそやかな喜びそのものがここにある。

安い店の高いメニューだからこその味わいだ。しみいる。

すっかり、こっそりした贅沢を味わった。

店内にはしばらくクリスマスソングがかかっていたのだけど、食べ終わるころ選曲のジャンルがかわって、ノラ・ジョーンズの「Don't Know Why」が流れ笑う。場を最終回みたいにすな。

この曲の「いろいろあったけど、私は大丈夫、がんばろ!」と思わせる強制力はなんだろう。とくにいろいろなくてもなんだかすっきり、こざっぱりした気分になる。

口内で噛まれる最後のひとくちが、かんばろね、と曲に共鳴しながら喉をくだった。

2024年もはりきっていくぞ。

 ノラ・ジョーンズ Don't Know Why

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