インターネットの集合知、恐るべし
前回の記事公開直後から、本当にものすごい数の情報が集まった。おかげさまで追加調査ができたし、ついには昔のライオンの姿や仲間のパンダの姿を見ることまでできた。大大大満足である。
ご協力いただいたみなさま、本当にありがとうございました。これからも "良いインターネット" の世界で持ちつ持たれつ生きていきましょう…。
多摩川の河川敷にライオンの遊具が埋まっている。以前、この遊具の真相に迫ったが、その後多くの情報が寄せられ、さらなる進展があったのでここに報告する。
前回、多摩川の河川敷にひっそりと埋まる孤独なライオンについて書いた。
多摩川の河川敷にライオンの遊具がぽつんと埋まっており、「なぜ孤独なのか」「いつから孤独なのか」という疑問があった。
前回の調査では、昔の地図や航空写真やブログなどを隈なく調べ、「2007年の台風9号によって多摩川が増水し、ライオン以外の遊具が流失した」という仮説にたどり着いた。しかし、確証を得るには至らなかった。
前回の記事公開時点で未解決の謎は次の3点である。
そして記事公開後、じつに多くの情報が寄せられた。インターネットすごい。みなさん本当にありがとうございます。この記事ではみなさんから頂いた情報をもとに実施した追加調査結果について報告する。
まず寄せられたのは、あいまいな記憶の数々。
前回の記事では航空写真をもとに砂場の可能性を示唆していたが、実際に砂場を記憶している人が何人かいる。あいまいとはいえ、大きな進歩である。
砂場があったということは、周囲はれっきとした遊び場だったということだ。となると、ライオン以外の遊具があった可能性は高い。
……というロジックの予定だったが、そんな回りくどいことをせずとも、そもそも「この箇所に何匹かいた」「別の動物遊具があった」といった重大証言が出ている。これはすごい。やはりライオンはもともと孤独じゃなかったのだ。
ライオンは孤独じゃなかった。ではそこには何が居たのか。実は、複数人からパンダの遊具に関する情報をいただいた。
この2つの情報を合わせると、ライオン、パンダ、前後に揺れる遊具の3つがあったようだ。
そして次に、とても有力な情報が届いた。
2004年の写真である。ついにお目にかかることができた。一人の力ではどうしてもたどり着けなかった2007年以前の写真。感無量である。
拡大してみると、確かに3つの遊具があるように見える。
さらに、同じ方が別アングルの写真も載せてくださっている。
黄色の遊具と黒の遊具だ。これまでの話を踏まえ、どちらかがパンダ、どちらかが前後に揺れる遊具だとすると、色的にこうなる。
黄色の遊具には耳が生えているように見えるので、これもなにかしらの動物であろう。またがりやすそうな形状で、前後に揺れるバネの遊具のように見える。…埋まっているが。
いっぽう、黒の遊具はパンダにしては黒すぎる気もする。塗料がはげ落ちた可能性もあるが、本当にパンダなのだろうか?
そんな中、TwitterのDMですごい写真が送られてきた。
添付されていた写真がこちらである。撮影年は1984年とのこと。
後ろの赤い橋は第三京浜である。位置関係からしても、間違いなく「孤独なライオン」の辺りだ。たしかにパンダはいたのである。
そして、ライオンの写真も。
このあたりの公園(多摩川遊園)はおそらく1984年前後に出来たと推測されるため、このライオンは出来立てほやほやの姿である。いまと違いすぎてびっくりする。
これまでの調査であの手この手をつくしても見ることのできなかった、ライオンの若かりし頃の姿。ついに見ることができた。「感動」という言葉では表しきれない。やっと会えた……。
また、 これにより「2004年の写真にうつる黒い遊具は本当にパンダなのだろうか。」という疑問も解決した。1984年のパンダとライオンの写真をつなげると矛盾なく説明できるのだ。
このライオンとパンダの位置関係は、2004年の写真とも矛盾しない。
晴れて遊具の種類と場所を特定することができた。
こうして、前回の調査で残っていた3つの疑問のうち、2つが解決した。
残された疑問はあと一つ。「ライオン以外の遊具がなくなったのは、本当に2007年の台風による流失が原因か」だ。
そんな中、有力な情報を見つけた。
Google Earth Proでは過去の航空写真が見られるようだ。Googleストリートビューで過去の画像が見られることは知っていたが、それとは別の仕組みがあるとは知らなかった。これは使えそうだ。
さっそく確認した。Google Earth Proの画像をそのまま載せることは権利の都合上できないので、抽象化した図で結果をお伝えする。
前回の記事では、ライオン以外の遊具は2007年の台風9号で流された説が濃厚だったが、Google Earth Proを見ると、2009年10月1日の写真にうっすらとパンダが写っているのだ。もしかすると流されていないのかもしれない。
しかし、2009年9月のGoogleストリートビューだとパンダが写っていない。矛盾しているように見えるが、正直、画像が不鮮明ではっきりしない。(なお、前回の記事で「2009年には砂場が無くなっている」と書きましたが単に見落としているだけでした。お詫びして訂正します。)
これまで得た情報やGoogle Earth Pro、Googleストリートビューの情報を時系列で整理すると次のようになる。
じゃあ結局パンダはどうなったんだろう。可能性は次の3つだ。
普通に考えると①か②だが、万が一、③だったらこわい。ぞくぞくする。しかし、考えられなくもない。その根拠がこちらのツイートである。
(Tadashi Fukui さん)
2019年の台風19号の直後、埋まったライオンの周囲が掘り起こされているのがわかる。多摩川の河川敷の遊具は台風で埋まるのだ。これと同様に2007年の台風9号のときもライオンとパンダは埋まったかもしれない。
そしてそのとき、ライオンだけ掘り起こされてパンダだけ埋まったままだったとしたら?
もしそうだとしたら、2009年のGoogle Earth Proの写真でパンダの姿がうっすらとしか確認できなかったのも説明がつく。
だいたい、ライオンもパンダも同じ材質のコンクリートの上に乗っているのに、ライオンだけ流されなかったというのもおかしな話だ。
ライオンのすぐ近くで、いまもパンダが埋まっているかもしれない。もしこれが本当なら大変なことだ。この目で確認せねば。
パンダは流されたのかもしれないし、まだ埋まっているかもしれない。こうなったら掘り起こして確かめるしかない。
しかし、公園で勝手に穴を掘ってもいいのだろうか。玉川公園管理事務所に確認の電話をした。すると、「基本的に公園内で穴を掘る行為はお断りしている」とのこと。残念。
ところが、前回の記事について伝えたうえで、「追加調査の結果、ライオンの近くにパンダが埋まっているかもしれない」という旨を話したところ、事態が動き出した。
記事を読んでくださり、なんと、調査を検討していただけることに。(社交辞令ではなくけっこう前向きな感じ。)進展あればまた記事にしたいと思います。
というわけで、孤独なライオンの追加調査報告本編は終了。
ここからはおまけ。実は記事公開後、当サイト編集部宛てにこんなメールが届いた。
すごい…。いよいよ遊具を作った方のご家族と連絡が取れた。さっそく詳細を訪ねると、お父様はマスセット株式会社という遊具メーカーにお勤めになっていたようだ。
そこで、マスセット株式会社にライオンの遊具について問い合わせた。しかし、「当時弊社で取り扱いがあった製品と比較させた頂きましたが、若干表情や身体の向きも異なるのではないか」という返答だった。
実は前回の記事公開後、「似たライオンを別の場所で見た」という報告を複数いただいていた。しかし、いずれもマスセット社製のものだ。
情報をお寄せいただいた皆さま、ありがとうございました。これはこれでとても興味深かったです。木全さんのお父様の設計されたライオンは全国各地でいまも遊ばれています。
多摩川のライオンは洪水のたびに埋まる。前回の記事公開後、いろんな埋まり具合のライオンの写真をツイートいただいたので、Togetterにまとめた。よかったら見ていってください。(記事公開前のツイートも含んでいます。)
前回の記事公開直後から、本当にものすごい数の情報が集まった。おかげさまで追加調査ができたし、ついには昔のライオンの姿や仲間のパンダの姿を見ることまでできた。大大大満足である。
ご協力いただいたみなさま、本当にありがとうございました。これからも "良いインターネット" の世界で持ちつ持たれつ生きていきましょう…。
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