特集 2022年8月2日

新横浜にある「水没」が前提の公園

見える範囲、ほぼ水に沈みます。

新横浜の日産スタジアムそばにある公園は、水没することが前提で作られている。

想定される最大の水深は8.57m。真夏の空の下、水の底にいることを想像して巡った。

1975年宮城県生まれ。元SEでフリーライターというインドア経歴だが、人前でしゃべる場面で緊張しない生態を持つ。主な賞罰はケータイ大喜利レジェンド。路線図が好き。(動画インタビュー)

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「公園」でもあり「遊水池」でもある

横浜F・マリノスの本拠地であり、昨年は東京オリンピックのサッカー会場でもあった、日産スタジアム(横浜国際総合競技場)。

僕は昔、この近くに住んでいた(大倉山)。部屋でくつろいでいると微かにミスチルの声が聞こえてきて、「脳内にミスチルが話しかけてきた……」と思ったらスタジアムから漏れ聞こえるライブだったりした。

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ご存じ日産スタジアム。つい先日、関ジャニ∞のライブがあったことでもお馴染み。

その日産スタジアムは、「新横浜公園」という横浜市内最大の運動公園の中に建っている。

市内最大というだけあって、めちゃくちゃ広い。サッカーコートはいくつもあるし、野球場やテニスコートはもちろん、バスケットボール広場、スケートボードパーク、ドッグランまである。

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撮影は日曜午前中に行ったのだけど、3つある駐車場のうち2つは既に満車。運動したい人たちで園内はいっぱい。
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道路の高架下を有効活用したスケボー広場も大盛況。

中央の緑地のところが全部新横浜公園である。右下にある日産スタジアムの大きさを見てもらえれば、いかに広いか分かっていただけるかと思う。

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青空と緑が映えすぎて「写真:ゲッティ」みたいな画が延々と撮れる。

で、なんでこの公園が水没すること前提なのかというと、ここは「鶴見川多目的遊水地」でもあるのだ。

新横浜公園のそばには鶴見川が流れている。鶴見川は昔から“暴れ川“で有名で、大雨による洪水が頻繁に起きていた。

そこで、氾濫した川の水を一時的に溜め込んで、周辺の洪水被害を最小限に留めるための遊水池をここに作った。それが1997年のこと。

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分かりやすい図が貼ってあった。鶴見川があふれると、越流堤(えつりゅうてい:あえて高さを低くして水を引き込む堤防)を越えて水が入り、新横浜公園の一帯に溜める。

新横浜公園は、遊水池であり、公園でもある。有事の際はこの公園一帯が水に浸かるのだ。

遊水池に溜められる水の量は、最大で390万立方メートル。東京ドーム3杯分よりまだ多い。

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新横浜公園ができてから、これまで22回洪水があって、最高水位は2014年に記録した5.90m。計画最水位は8.57mなのでまだまだ余裕……とは言え、そこまで溜まることがありませんように。

1000本以上の柱で支えられたスタジアム

さっきの図、よく見ると日産スタジアムも水に浸かっている。

実は日産スタジアムは、1000本以上の柱に支えられた「高床式」。水没することを前提に、スタジアム全体が底上げされているのだ。

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地上に降りて、改めて日産スタジアムを見たところ。1階にあたる部分が真っ暗なの分かりますか。
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近くに寄るとこうなってるんですよ。
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奥の奥までコンクリートの柱が並んでいる。真っ暗に見えるわけだ。
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​​​​​​小さな中庭には木が植えられていて、​「高度な文明と共に人類が滅び、植物だけが生き延びている世界」みたいになる。

外周を歩くと、どこまで行ってもコンクリートの柱だらけ。上には無数のパイプが走っている。装飾など必要ない、無骨な世界観が続く。

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外周沿いにある、エレベーターが入った建屋。水の侵入を防ぐため入口のドアは防水仕様。そしてここまで水が来るのか……。

ちなみに、1階部分の外周はランニングコースとしても利用されている。炎天下を避けられるし、車や信号も無いしで走りやすそう。この日はどこかの部活がタイム計測をしていて、厳しい檄も飛んでいた。

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1周940m。電動キックボードで走りたい
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水没が前提になっている公園設備

そのままスタジアムを出て、公園に出てみよう。

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あまりに天気が良すぎて、帰ってからぐったりしました。

気温は30℃を超え、日光が容赦なく降り注ぐ。「ここは水底……」と想像すれば少しは涼しく……なるわけもなく暑さの圧勝。心頭滅却しても体は正直だ。

とにもかくにも、「ここは遊水池」という目線でウロウロ歩いてみる。すると、いろいろ発見があった。

たとえばサッカー場に隣接したレストハウス。

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第1レストハウス。新横浜公園には第3レストハウスまである。
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1階部分にトイレがあるのだけど、扉がめちゃめちゃデカい。
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「危険になるとこの防水扉を閉めます」防水扉なんですよ。​
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受付カウンターにもジャストサイズの防水扉がついている。普段は掲示物を貼るために利用されているのがいい。
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他のレストハウスや公衆トイレも、シャッターがあったり窓が少なかったり、浸水を前提に作られている。

「遊水池目線」で園内を観察すると、なんの変哲もない公園に「これも水没前提じゃない?」というものがポロポロ見つかる。

「柵に木やロープを使わず金属やチェーンを使っている」のはたぶんそうなんじゃないの?とか、本当はどうか分からないけどブラブラ歩くぶんには「そうかも~」って思えるだけで楽しい。

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草ボウボウで分かりづらいけど、園内には水路がいくつかある。柵は金属とチェーン、橋も石造りだ
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街灯が異様に高いところにある。そういえば地上には配電機器も見当たらない。電気設備が水没したら大変だもんね。
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でも自動販売機は普通にあった。確かに無いと困っちゃうけど、もしものときは犠牲になるのかな……。

このまま歩いて川のほうまで行ってみよう。

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正面に見える水辺が鶴見川……ではなく、園内の水路。その向こうにある堤防が越流堤で、さらにその向こうに見えないけど鶴見川がある。

鶴見川があふれると、あの堤防を越えて水がやってくるのか……と想像する。想定された環境とはいえ、それはやっぱり怖い。

言い忘れていたけど、鶴見川が危険な状態になったら、もちろん新横浜公園も駐車場も事前に閉鎖される。ご安心を。

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公園内の水路の水量を調節する、なんらかのかっこいい施設。ここも上げ底。
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北の端っこまで来た。遠くに横たわる巨大な建造物は、首都高横浜北線。地下(左側)を出て、港北ICのジャンクション(右側)につながる。ジャンクションの下にポツンとある崎陽軒の売店のところです。
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かなりの種類の野鳥もいるみたい。

鶴見川さえ暴れなければ、ここは穏やかな水面が広がる環境。野生動物もいろいろ暮らしているのだろうな。

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公園の東側から。左奥にあるのは排水門で、遊水池に溜まった水を鶴見川に戻すときに使われる。パッと見は自然の景色だけど、堤防も緑地も全て計算の上で作られた光景だ。
 

ありがとう治水工事

「日産スタジアムの周囲は洪水のとき水が溜まるようになっている」というのは、ニュースで見たりして知ってはいた。

でも実際に行ってみると、公園の広さや想定された水深に驚いたり、設備の工夫に気づいたりする。視点が増えるのはいつだって楽しい。

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小さいお子さんが遊べるゾーンもあります。
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