特集 2023年8月7日

世界最小級のイカ、ヒメイカを観察したい

これでも大人のイカです。

日本人が大好きなイカは世界の海で約450種類ほど確認されているそうで、その中でも最大級のイカといえば、ダイオウイカとダイオウホウズキイカ。

自然界でこれらの巨大イカに出会える機会はほとんどないが、逆に世界最小級のイカであれば、東京湾のように身近な環境にもまだいるらしい。

その名はヒメイカ。大人になっても1~2センチの小さなイカで、海藻が生い茂る浅い藻場に生息しているそうだ。

趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

前の記事:伊勢うどんでフルコースを作る

> 個人サイト 私的標本 趣味の製麺

富津海岸のアマモ場観察会に参加した

ヒメイカを求めてやってきたのは、千葉県富津市にある潮干狩り場。内房で一番海に向かってでっぱっている場所であり、チーバくんでいえばヘソのあたり。今となってはとても貴重な天然の干潟が残されているエリアだ。

私が入会している三番瀬フォーラムでは、毎年7~8月の潮位が下がる大潮の干潮に合わせて、富津漁協の許可を得た上で、潮干狩り場の先にあるアマモ場で観察会を行っていて、そこでヒメイカが見られるらしいのだ。

002.jpg
熊手ではなく目の細かい網を持って集合。

この観察会に初めて来たのが2019年で、めでたくヒメイカを見ることができたのだが、その後も2021年と2023年に参加している。なぜなら楽しかったから。

アマモ場には毎回新しい発見や驚きがあるし、日常とは違うテリトリーである海に全身を委ねながら、じっくりと生物を観察する時間は格別だ。

そんな3回分の記録を動画でどうぞ。

3年分のヒメイカを動画にまとめました。

いったん広告です

2019年のヒメイカ探し

初めて参加した2019年のアマモ場観察会は8月3日。集合場所は富津海岸潮干狩り場の駐車場で、さすがに8月となれば潮干狩りはやっていないだろうと思いきや、まさかの営業中で驚いた。ここでは例年3月後半から8月いっぱいまで営業しているそうだ。

そんあ潮干狩り場に三番瀬フォーラムの会員が約20人ほど集まり、富津漁協の方と一緒にゲートをくぐる。

003.jpg
ちなみに潮干狩りはアサリやハマグリなどが採れて、2キロまで2000円とのこと。
004.jpg
潮干狩りも楽しそうだけど、今日はヒメイカを探します。

波打ち際の潮干狩りエリアをずんずんと通り過ぎ、ものすごく遠浅の海を沖へしばらく進むと、海の中にイネのような海藻がたくさん生えていた。これがアマモという水深の浅い砂泥(干潟)で育つ被子植物。より浅い場所にはコアマモという小さい種類が、そして少し沖に行けばタチアマモも生えているそうだ。

海藻がたくさん生えている場所を藻場と呼び、特にアマモやコアマモが多い場所はアマモ場と呼ばれる(被子植物だから藻じゃないけど)。

このアマモ場は浅瀬で暮らす生物達の生息場であり、それらを食べる生物の餌場であり、そして産卵場でもある。海の生態系を支える大切な場所だ。

005.jpg
水深が膝下くらいの浅い場所で、シュノーケルを使ってじっくり観察するのが楽しいんですよ。毒針を持つアカエイがいるので気は抜けないが。

本来ヒメイカは珍しい生き物ではないのだが、埋立や開発の進んだ東京湾では干潟やアマモ場が激減してしまったため、結果としてなかなか見られないイカとなっている。もちろん減ったのはヒメイカばかりではない。

そういった大切なことを、五感をフルに使って学ばせてもらうのが、今日のアマモ場観察会なのである。

006.jpg
海のゆりかごとも呼ばれるアマモ場。
いったん広告です

ヒメイカが見つからない

会員の方の話によると、ヒメイカはかなりの確率で見られるそうなので、きっと初参加の私でもすぐに発見できるだろうと思ったのだが、これがなかなか難しかった。

私のイメージとしては、アマモに止まって休んでいるヒメイカを早々に見つけて、水中カメラマン気取りでパシャパシャ撮り放題だったのだが。

007.jpg
アマモ場に来られさえすれば、すぐに見つけられると思ったんだけどな。

お腹が底につきそうな浅い海にプカプカと浮かび、首をぐいと持ち上げて(この姿勢が結構辛い)、目の前のアマモに眼球を近づけてじっくりヒメイカを探すものの、捕食者も多い環境下で見やすい場所にいてくれる訳がないよね。

もし都合よくいたとしても、私が近づいてきた時点でこっそり逃げていることだろう。さらにいえば、1センチ程度の小さなイカをアマモが生い茂る森で見つける難しさは現場に来ないとわからない。自分が巻き上げた砂ぼこりに腹を立てもする。

008.jpg
巻貝ならたくさんいる。
009.jpg
アマモによじ登るヤドカリ。たくさんの巻貝がいるからこそ生きられる生物だ。
010.jpg
オレンジのバネみたいなものがたくさん伸びていた。ミズヒキゴカイのエラらしいよ。
011.jpg
バナナみたいなのはアカニシ(貝)の卵で、ナギナタホウズキと呼ばれるものとのこと。知らないことがいっぱいある。
012.jpg
まるで水族館みたいだ。いや水族館が海を再現しているのだが。

ヒメイカを捕まえるだけなら、アマモを傷つけないように優しく網で適当に掬えば入るだろうが、それだとおもしろくないのである。

意外とヒメイカ探しは難しそうだぞという焦り、そして他の生き物が次々に見つかる喜びが、私の心を蛇行運転する。

いったん広告です

ヒメイカは実在した

すぐ切れそうになる集中力をどうにか保ちつつ、全力でアマモ場を彷徨ったのだが、ヒメイカはまったく見つからない。もしや今日はこの干潟にヒメイカがいないのではと怪しみだした頃、あるベテラン会員さんが観察ケースを見せてくれた。

ヒメイカ、タツノオトシゴ、ヨウジウオというアマモ場の大三元である。

ヒメイカ、いるじゃん!

013.jpg
左からヨウジウオ、タツノオトシゴ、ヒメイカ。全部かっこいい。

見せていただいたヒメイカは予想よりも小さくて、でもちゃんとイカの形をしていて、ヒョンヒョンと素早く動いていた。すごくかわいい。

このイカを自分の目で見つけて、そしてこの網で捕まえたい。だが干潟で観察をしていられる時間はとても短く、すぐに潮が満ちてきてタイムアップ。あー。

トボトボとうつむきながら陸へと向かう帰り道、万が一の可能性にうっすらと期待して、網をできるだけ水中に入れて歩いていたのだが、気がついたらヒメイカが入っていた。なんだそりゃ。

014.jpg
こうやって網を構えながら歩いていたら捕れていた。ある程度の数がいるけど、私には見えてなかっただけのようだ。
015.jpg
小さいネットに入れ替えて観察する。すごい、ちゃんとイカだ。
016.jpg
色が一瞬で変わった!

この偶然捕れたヒメイカをじっくり一時間ほど観察していたかったが、団体行動を乱すわけにはいかないので、泣く泣く海に返して撤収する。

ヒメイカ、かわいかったなー。

017.jpg
ありがとう、富津海岸。
018.jpg
顔だけ出していたホタテウミヘビ。

 

⏩ 次ページに続きます

▽デイリーポータルZトップへ つぎへ>

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ