2度目の梅雨がきて、雨の勢いが凄いなあなどと考えてるうちにまた夏になり、9月になるやいなや秋の空気になった。今年の天気はめまぐるしい。
感染症の流行で「外に出るな」と言われているが、そもそもこの天気の中外に出たくないのである。ヘルスケアアプリ曰く「あなたの今日の歩数は57歩です」。
おそらく今後も長いこと家にいるわけだから、家の中でできる趣味を増やしていかなければならない。
1回目の梅雨の時期はどうやって暇を潰していただろうとカメラロールを遡ってみたら、青梅を仕入れて梅酒を浸けていた。
こちらの記事で、北向ハナウタさんも未来の自分に向けて梅酒を浸けているが、果実酒というものは素晴らしい仕組みだ。旬の果物を仕込んで(手間がかかるがその「ひと仕事した感」がまたいい)、あとは放っておくだけで出来上がる。
いつか元気がない日が訪れても、「自分には梅酒があるから大丈夫」という気持ちの担保ができる。
果物の旬の時期にしか果実酒を仕込めないというのは、ちょっともどかしいものだ。今のおうち時間に必要なものは、いつでも仕込めて、いつでも飲める果実酒ではないか。
そうだ、ドライフルーツを果実酒にできないだろうか。
まずは出場する選手の紹介です
思い立ったが吉日とばかりに、近所のスーパーと酒屋にあったドライフルーツを全種類買ってきた。
酒に浸けたドライフルーツは、よくパウンドケーキなんかに入っているが、なぜか「ドライフルーツを浸けていた酒」は出回らない。フルーツの風味が移って美味しそうなのに、一体なぜなのか。
左からアマレット、テキーラ(レポサド)、ダークラム、ブランデー、ウイスキー。
こういう場合の酒は「果実酒用だし…」と一番安いものを選びがちだが、筆者の経験上、「ちょっといいやつ」を選んでおくと仕上がりが格段に良くなる。
果実酒を浸けるときは、腐敗や再発酵を防ぐために20度以上の酒を用いる。つまり、焼酎や今回買った酒群のような『蒸留酒』ならだいたいなんでもいける(ディサローノのアマレットはリキュールだが28度ある)。
以前、ライターの馬場さんがこちらの記事でドライフルーツを日本酒で戻して大変おいしそうであったが、長期保存と酒を味わうことを考えると、なおさら蒸留酒を使うのがおすすめである。
酒とドライフルーツ、組み合わせはあなた次第
さっそく仕込んでいこう。
といっても、ドライフルーツを入れて酒を注いで終わりなのだから、手間としてはカップラーメンにお湯を注ぐ程度である。
一度揚げられているのか、原材料に「ココナッツオイル」とある。果たして上手く浸かるだろうか。
酒に対してドライフルーツの量が多いほど、フルーツのエキス分を濃く感じる仕上がりになるはずである。今回は厳密に図らず、「ひたひたになればOK」くらいのラフさで仕込んでみた。
「果実酒なのに氷砂糖いらないの?」と思われるかもしれないが、フレッシュな果実を使った果実酒に氷砂糖を入れる理由は、浸透圧なんかがこう…良い感じになって……果物のエキスを抽出させるためだ。
すでに諸々が凝縮されたドライフルーツに使用しても、さしたる効果はないのではないかと考え、今回は使用していない。というかめちゃくちゃ甘くなりそうだからやめました。
果実酒の醍醐味は「ひと仕事した感のある仕込み」と思う。
ドライフルーツに洋酒を注ぐだけだと、いまいち「やってやったぞ!」感が少ない気がしたため、ラベルシールを作って貼ることにした。
こういった無駄な一手間で、「ていねいに作ったぞ」感が高まり、後の「自分には仕込んだ酒があるから大丈夫」という気持ちが強く担保される。刺激を求める方はぜひラベルシールメーカーをお求めいただきたい。
煮込むとどうなるか
よく「お酒のレシピは美味しそうだけど、お酒に弱い体質だから自分で作らない」というお話を伺う。
ドライフルーツ、酒で煮込んだらどうなるのだろう。アルコールが良い感じに抜けて、「洋酒風味のおいしい液体+おいしい液体を吸った果物」にならないだろうか。
というわけで、最後にデーツをダークラムで煮込んでみる。
デーツ風味になった液体を楽しみにしていたのに、ほとんどデーツに吸われてしまった。わたしのダークラムを返しておくれ。どうやら、最初の投入時にもっと思い切った量が必要だったらしい。
一方そのころ仕込んだ酒は
すでに様子が変わりはじめていた。固かったマンゴーが生っぽい質感に戻ってきている。
ラムをたっぷり吸ったデーツをいただく
酒をしばらく放置している間に、先ほどのデーツを試食してみよう。
「おいしそう」よりも、「酒が減ったな」の気持ちの方がギリギリまさる。
種に気をつけながら、やわらかくなったデーツをいただきます。
酒を返してなんてひどいこと言ってごめん。ちょっと引くほど美味しい。デーツの甘さと洋酒の香り、ねっちりした食感が合わさって、言うなれば洋風の羊羹。もしかしたらこの記事、タイトルを「今すぐデーツを洋酒で煮込め」に変えた方がいいかもしれない。
※煮込んでもアルコールが全て飛びきるわけではないため、運転前や妊娠中の方、お子様などはお控えください
ドライフルーツ酒を飲んでみよう
さて、浸けて数日放置したドライフルーツ酒を試飲してみよう。
一ヶ月以上待たなければいけない果実酒とちがい、ドライフルーツ酒をいつ飲むかは作り手の気分次第なのだ。正直翌日からでも美味しく飲める。
浸けたてはテキーラの香りが強く、不安に思っていたが、数日経った今はしっかりマンゴーの香りがして嬉しい。それぞれの香りが複雑な調和を生み出していて、なんだかすごく高級な酒な気がする。
一口飲んだ感想→「危ない」。
南国のフルーツの風味とテキーラのスパイシーさ、合いすぎる。マンゴーの甘さがテキーラにしっかり染み出して、「絶対そんなはずないのに異様に飲みやすい酒」になっている。
テキーラを吸ってシャキシャキの食感になったマンゴーも、筆者としては顔がニヤついてしまうほど美味しいが、インパクトの強いアルコールを感じるため(当たり前だ)お酒に弱い方は要注意。
しばらくノンアルコールの液体に浸けておくといい感じに酒が抜けるため、炭酸水等で割る時に一緒に入れておいて、最後にいただくのが良いだろう。
香りの第一印象としては、黒糖や餡子に近い。先ほどのデーツといい、ダークラム×ドライフルーツ=餡子なのだろうか?
ラムはサトウキビ原料のため、元からある程度甘い酒だが、ドライフルーツを浸けると酒というよりシロップの印象が強くなる。
甘さが足りないときは蜂蜜を足すと良い。ヨーグルトのまろやかさが際立って、チーズのような印象になる。とても贅沢な味がして美味しいのだが、並みのカクテルよりも度数が強いため要注意(ダークラムとデーツよろしく鍋で煮込めば、ただのシロップとして美味しいレシピになるのかもしれない)。
ドリンクとして飲む場合は、ソーダ割りや、牛乳割りがおすすめ。
「これって洋酒漬けじゃなくてシロップ漬けだっけ?」というテクスチャになっていた。
プルーンの甘酸っぱい香りをしっかりと感じるものの、黒蜜のような濃密さが食欲を煽る。
だいぶ酸っぱい。こちらも酒というより、プルーン味の美味しいシロップ(度数30オーバー)といったところ。
これがものすごく美味しかった。
バニラアイス、牛乳などといっしょにブレンダーにかけ、大人のフラペチーノ状態にして飲むのもいいだろう。
アマレットそのものの香りはほぼ杏仁豆腐だが、果肉が入ったことでジューシーになった。
アプリコットのフルーツ感と、リキュールの甘さがいいバランス。他の酒群と比べてアルコールが低め(といっても28度)なため、このままでも飲めるが、炭酸やお茶割りが美味しそうだ。
梅酒の梅のアプリコット版という感じ。正直、ドライのアプリコットはあまり好きな味ではなかったのだが、この状態のアプリコットは何個でも食べたくなってしまう。
クリームチーズを探しに行ったら、数日前の自分が空にしていた。おのれ。
匂いはバナナが入ったパウンドケーキのようで、美味しそうだ。ココナッツオイルの香りもふんわり漂ってくる。
これは……一体なんだ?例えて言うなら「異様に高アルコールのフルーツグラノーラ」。
不味くはないが、何を飲んでいるのかわからない。頭の中の引き出しのどこにも分類できなくて、とりあえず床に置いて散らかるタイプの味だ。
見た目は柔らかそうな果肉も、元の甘さが強くないためか、「もきゅもきゅした食感を持つ何か」になっていた。
カップラーメンの麺は一度揚げることによって小さな気泡をつくり、お湯を吸い込みやすくさせるらしいが、おそらくこのバナナも大量のウイスキーを吸っていることであろう。
アイスクリームが酒に負けている。今回作った他のなによりも強烈なアルコールを感じるし、「決して何とも馴れ合わないぜ」というバナナの強い意志を感じる。
筆者は特別な訓練(※)を受けているため完食したが、一度鍋で煮てから召し上がっていただいた方がいいかもしれない。
(※)…日々の飲酒
組み合わせを考えるだけでちょっとしたエンタメ
今回ドライフルーツ果実酒5種類と、デーツのおいしい何らかを作ってみたが、結果は
酒として美味しい…マンゴーテキーラ、アプリコットアマレット
シロップみたいになってしまう…イチジクダークラム、プルーンブランデー
お前は一体何なんだ…バナナウイスキー
であった。
おそらくデーツも酒に漬けると「シロップみたいになってしまう」カテゴリなのだろう。
もちろん今回試していないドライフルーツと酒の組み合わせでも、果実酒を仕込むことができる。
ステイホームで新しい趣味を探している方は、冬に向けてドライフルーツ果実酒を仕込んでみるのはいかがだろうか。
<お酒は二十歳になってから>