2022年1月、三ツ矢サイダーをつくっているアサヒ飲料が「三ツ矢クラフトコーラ」を発売した。
筆者も1本買ってみました
クラフトビールの流行から、クラフトジンジャーエールが話題になり、ついにはクラフトコーラである。コカ・コーラのイメージが強すぎて、「コーラのクラフトってなに?」と驚いた方も多いだろう。
しかし思うのだ。
「クラフト」がいいなら、筆者だってクラフトできるぞ…!と。
クラフトドリンクについての明確な定義は存在していないが、ふんわり「素材にこだわったオリジナルレシピ」とか、「手作業でつくった希少性のある」とかの意味でつけられることが多い。それなら個人が作ったっていいわけだ。
というわけで、今回は筆者が大好きなノンアルコールドリンク・トニックウォーターをクラフトしていきたい。
そもそもトニックウォーターってなんじゃい
サイゼリヤのドリンクバーにトニックウォーターが登場してから、一躍知名度が上がったように思う。以前は紅茶をエンドレスで飲んでいた筆者も、今ではひたすらトニックウォーターをすすりながらピザを食べるようになった。
酒を好んで飲んでいる方ですら、トニックウォーター=ちょっとかっこいい名前の炭酸水 と誤解していることがある。
そもそもトニックウォーターとはなにものなのか。
左から炭酸水、トニックウォーター、トニックウォーター、トニックウォーター、トニックウォーター(そろそろゲシュタルト崩壊してきたはずだ)
トニックウォーターは、ハーブやスパイス、柑橘等でフレーバー付けをされた炭酸飲料。砂糖やシロップが入るため、味も少し甘い。
つまり
炭酸水→ほぼ無味無臭
トニックウォーター→ちょっと甘酸っぱ苦い、香りはハーバルだったりシトラスだったり
と覚えておけば間違いない。
どうしても避けられない、「キナ」についてのはなし
トニックウォーターをつくるにあたって、どうしても避けられない話をひとつしておこう。さっさと始めなさいよ!という方は、次の小見出しまで読み飛ばしていただいて問題ない。
トニックウォーターの原点は、マラリアの治療薬であったといわれている。
英国の植民地だった熱帯地方で、キナノキという木から採れる成分(精製するとキニーネと呼ばれる)がマラリアの治療に効果的だということが知られていた。そのキナの木の樹皮を用いて作られた「トニック(強壮剤)」こそがトニックウォーターだ。
アカキナノキのおはな wikipedia「Cinchona」項より
精製されたキニーネは医薬品として扱われるが、樹皮からとれたキナ抽出物は、食品添加物として使用できる。
しかし日本で出回っているトニックウォーターのほとんどには、キナ抽出物は含まれていない。それはなぜか。
単純に値段が高過ぎるからだ。
「キニーネが劇薬指定されているから日本では使用できない」という説があるが間違いだ。じっさいキナ抽出物を使用したトニックウォーターも、少ない銘柄ではあるが日本でも購入できる。
FEVER-TREE、FENTIMANSはキナ入り。ちょっといいバーなんかに行くと、ジントニックがこれらでつくられていることがある。
もともと熱帯で育つキナノキは、日本で入手するのが難しい。一般人や、小規模の企業であればなおさらだ。
清涼飲料水の成分としてのキナの役割は、主に苦味を与えること。それであれば、柑橘の果皮を使用した方が安上がりだというのが大手の方針である。
ちなみにもちろんこの記事でもキナノキは出てこない。大手でも手が出ないものを筆者個人が使用できると思ったら大間違いなのだ(唐突な開き直り)。
お待たせしました、本題です。
さて、トニックウォーターをつくり始めよう。
「トニックウォーター レシピ」、「tonicwater recipe」などの言葉で検索すると、クエン酸とオールスパイスを使ったレシピがいくつか出てくる。はじめはそれらにならってつくってみよう。材料はこちら。

・オレンジ、ライム、レモン…各1/2個ずつ
・オールスパイス(ホール)…ティースプーン1杯
・クエン酸…20g
・アガベシロップ…100cc
・水…500cc
・粗塩(できればフルール・ド・セル)
このレシピでは、柑橘の皮ごと使用するため、防ばい剤不使用の柑橘を手に入れる必要がある。今回はライムと…
レモンも運良く無添加のものが手に入った。
しかし、いつでも都合よく防ばい剤不使用の柑橘を手に入れられるとは限らないだろう。
オレンジは防ばい剤添加のものしか見つからなかった。みんながほしいのは果肉だから仕方がない。
ホワイトビネガーと塩で洗う、お湯で1分煮るなど、添加物を落とす方法はいくつか知られているが、実際どの程度まで落とすことができるかは定かでない。筆者はいさぎよく皮を切り落としてしまう。
このとき切った皮も、あとで利用するため取っておこう。
1/2に切ったオレンジ(皮なし)、ライム、レモンをさらに一口大に切る。
鍋に水と切った野菜、そしてクエン酸を投入
そしてオールスパイスをティースプーン1杯。オールスパイスとは「この世のありとあらゆるスパイス」の意味ではなく、クローブやシナモンに近い香りの、なんかそういう名前のやつだ。
最後に粗塩を1つまみ弱入れたら火をつける。フルール・ド・セルとかいうちょっとお高い塩、お料理が美味しくなると聞いて導入しましたが、いまだに違いがよくわかっていません。
中火にかけ、沸騰寸前で弱火にする。そのまま弱火で10分ほど煮込む。
コーヒーフィルターなどで濾して、液体部分だけ獲得しよう。この時点でかなりトニックウォーターっぽい匂いがする。
もったいないから棒でちょっと押しちゃう
ここで登場するのがアガベシロップ。リュウゼツランからとれる糖蜜で、超ざっくり言うとテキーラの原料だ。シュガーシロップよりも自然な甘さをもつため、カクテルメイキングによく利用される。
先ほど獲得した液体に100cc投入。甘党の方は好きなだけ入れてOK。
再度加熱し、シロップを煮溶かしていこう。
ここで登場するのが、最初に切り落としたオレンジの皮。オイルは爽やかな香りたっぷりで、このまま捨てるにはもったいない。ぎゅっと絞ってオイルを吹きかけよう。
これで完成!トニックウォータのもと!
ものの2〜30分で完成する。香りはしっかりトニックウォーターだ。さっそく飲んでみよう。
炭酸で割って完全体に
香りはよく知るトニックウォーターにかなり近い。柑橘の爽やかさと、オールスパイスのほのかな香りが飲欲(いんよく/筆者造語)をそそる。
味もおいしい!
クエン酸が入っているため、けっこうしっかりとした酸味がある。
市販のトニックは甘味が強く、バーで提供されるジントニックなどは、トニックウォーターをさらに炭酸水で希釈した「ソニック」であることが多い。それが自作のトニックウォーターなら甘さも自由自在。これは発明ではないか?
ここからが「クラフト」の本領発揮
おいしいトニックウォーターができたが、せっかくクラフトを名乗るからにはもう少し遊ぼう。
先ほどの第1号を飲んでみて、ここを少しアレンジしたいなと思ったポイントが下記の3点だ。
①クエン酸の酸味が好きじゃない気がする
②もっとスパイシーな方がいい
③苦さが足りない
①については、柑橘そのものの酸味というより市販のレモンサワーのような、ちょっとべたつく感じあった。おそらくクエン酸を使用していることが原因だ。
クエン酸とはcitric acid、ようは柑橘の酸味。ということは、別にクエン酸を入れなくても、酸っぱい柑橘の汁をたくさん混ぜればいいわけだ。
そこでこちらが登場、ふつ〜の(無添加でない)レモン。
大きめのレモン3つぶんを絞って果汁を入れることにした。
②のスパイシーさについては、完全に筆者の好みだが、もっと色んなスパイスの香りがした方が面白いと感じた。
そこで、これらのスパイスとハーブを追加してみることにする。
まずはこれ。そのへんで摘んできた枯れ草みたいでしょう
これは筆者宅のベランダで育てていたレモングラスだ。冬が来る前に刈り取って、干しておいたもの。
レモングラスはタイ料理によく使われる、爽やかな香りのハーブだ。海外のトニックウォーターのレシピで使用されているものがあったため、真似してみることにした。
つづいてこちら。大葉エール&ネギエールやカルダモンコーヒーなど、もはや筆者の記事で頻出となったグリーンカルダモン。柑橘に近い香りをもつため、きっとうまく馴染んでくれるだろう。
きわめつけはこれ。ジュニパーベリー。以前ノンアルコールジンを蒸留した際に使ったもので、ジンの香りづけに必要不可欠なスパイスだ。
トニックウォーターにすでにジュニパーベリーの香りがついていたら、ジントニックみたいな飲み物にならないかという発想である。
以前簡易蒸留器でノンアルコールジンをつくったが、今回はトニックウォーターだけで完結するジントニック(ノンアルコール)。楽しそうではないか。
最後に③の、苦味が足りない問題。本来キナ抽出物が使われるところだが、手に入らないため別のもので代用しなければならない。
柑橘の皮を足して煮込む時間を増やせば苦くはなるが、同時にえぐみが出てしまうのが気になる。
アンゴスチュラ・ビターズ。
カクテルを作らない方には馴染みがないだろうが、苦味を足すためのリキュールだ。通常はカクテル1杯につき、ほんの数滴しか使わない。それで十分なくらい苦い。
トニックウォーターに酒を入れるのはどうなの?と思われるかもしれないが、入れるのはごく少量なうえ、煮詰めてアルコールを飛ばしてしまうためお許しいただきたい。
これで①〜③の問題は解決するはずだ。
新しいレシピをここに載せておこう。
・オレンジ、ライム、レモン…各1/2個ずつ
・フレッシュレモン果汁…丸3個ぶん
・オールスパイス(ホール)…5g
・レモングラス(乾燥)…好きなだけ
・カルダモン(ホール)…10粒
・ジュニパーベリー…5g
・アガベシロップ…100cc
・アンゴスチュラビターズ…ティースプーン1杯ぶん
・水…500cc
・粗塩(できればフルール・ド・セル)
まずはオールスパイス、グリーンカルダモン、ジュニパーベリーを軽く潰しておく。香りをしっかり出すためだ。
ひとまずはこんなもん
先ほどと同じように、一口大に切った柑橘を鍋に入れる。レモングラスは適当な長さに切る。
乾燥レモングラスであれば、ごそっと入れてしまってもそれほど強い香りは出ない。もしフレッシュな(または冷凍の)レモングラスが手に入った場合は、量を加減しないとただのレモングラスシロップができあがるため、注意が必要だ。
レモン汁、水、塩を加えたら、アンゴスチュラビターズをティースプーン1杯ほど入れる。
だんだん魔女の窯めいてきた
沸騰しはじめたところで弱火にし、たまにかき混ぜながら10分煮込む。
コーヒーフィルターなどで濾して…
アガベシロップを煮溶かし、オレンジピールを絞ったら完成!
さっきのトニックシロップ(左)と比べてだいぶ色が濃い
オリジナルのクラフトトニックウォーターのもとが完成した。
さっそく飲んでみよう。
炭酸を入れたら異様に泡立った ホップを入れたらみなしクラフトビール(ノンアルコール)かも
これは…!!
「クラフトジントニックです」と言って出されたら信じると思う。ジュニパーベリーの香りが爽やかで、トニックウォーターだけなのに、ジントニックが完成してしまっている。そしてめちゃくちゃおいしい!
レモングラスが全体の爽やかさとボリュームを底上げし、カルダモンと柑橘の香りが合わせられることで、ちょっと華やかなスパイシーさがある。
べたっとした酸味も改善されて、後味でスッと消えていく自然な酸っぱさになった。アンゴスチュラビターズで加えた苦味も後を引く。
友人にも試飲してもらったところ、「これが常にコンビニに売られていてほしい うますぎる」と高評価であった。
クラフトトニックウォーター、大成功ではないか?
ちなみに「トニックウォーターのもと」はお湯で割るとホットレモネードに近くなる。低GI食品として有名なアガベシロップでつくったスパイシーレモネードと考えると、それはそれでアリだ。
トニックウォーターは可能性の飲み物
筆者の予想だと、ここに生姜汁を加えるとより「アルコール飲んでる感」が増すはずだ。(その場合はクラフトトニックウォーターとクラフトジンジャーエールの悪魔合体になってしまうが…)
キナが使用されていない清涼飲料水が「トニックウォーター」という名前で売られているくらいなのだから、もはや何物もトニックウォーターになり得るのではないかという気がしてくる。
酒好きの方、そして酒は飲まないが酒的なおいしい飲み物を飲みたい方、みなさん独自のトニックウォーターをクラフトしてみてはいかがだろうか。