特集 2019年1月14日

パリの地下が骨だらけだった

パリの地下にはすごいことになっている空間があるんです。

キリスト教徒が多い欧米では、人が死ぬと土葬するのが一般的である。

フランスでも基本的に土葬する。でも土葬すると骨が残るだろう。

フランスでは、長い歴史の中で残りまくった骨が、地下に集められていてすごいことになっていました。

 

※この記事はJTBの広告記事の取材の合間に書きました。

行く先々で「うちの会社にはいないタイプだよね」と言われるが、本人はそんなこともないと思っている。愛知県出身。むかない安藤。(動画インタビュー)

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> 個人サイト むかない安藤 Twitter >ライターwiki

フランスの葬儀事情

キリスト教的考え方では、この世が終わるときにイエスが現れて、全人類を天国に行く人と地獄に行く人とに判別することになっている。最後の審判というやつだ。

ここでややこしいのは、「全人類」というのが生きてる人も死んでる人も含めての「全」なのだ。つまり現世で死んだからといって最後の審判は下るわけで、そうなると火葬してしまっていると都合が悪い。

ざっくり言うとそういう理由で、キリスト教の国では人が死ぬと土葬するのが一般的である。アメリカなんかで墓からゾンビがにょろにょろと出てくる映画やマンガを見たことがあるだろう、あれは土葬だからである。日本みたいに火葬されていると出てこようにも灰だから無理なのだ(だから代わりに実体を持たない幽霊が出るわけだけれど)。

キリスト教徒の多いフランスでもやはり土葬が一般的らしく、教会の地下には歴史に名を残した人物が安置されていた。

中でもここサン・ドニ教会には特にたくさんの棺がある。

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サン・ドニ教会の中。フランスの教会は基本的にどこも荘厳で立派です。

この教会の地下にはたくさんの棺が納められていて、見たい人はお金払えば見られる。言ってしまえば観光地化している。

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地下にはたくさんの棺が安置されています。
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生前高い位だった人には棺の上にその人そっくりの像が彫られていたりします。

ここにはフランス革命でギロチンにかけられたマリーアントワネットやルイ16世の棺なんかも安置されているので、中世あたりの歴史好きにはたまらないだろう。ただし中身はすでに盗まれたりしていて、ここにある棺はほとんどが空とのことだった。

一般市民はどうなのか

偉い人たちの棺は教会の地下にあることがわかった。では一般市民は亡くなるとどうしていたのだろう。いくら地下だからって教会の数にも限りがある。

ここまで言えば予想できるかと思うが、一般の人たちはなんとなく地下に安置されているのだ。

もともとは主に教会周辺の地下に埋葬していたらしいのだけれど、数が増えすぎて場所がなくなってしまったため、いったん掘り返して洗浄し、かつて採石場だった場所に集めた。パリの街は主に石で作られているため、地下には採石場跡がたくさんあったのだ。

19世紀くらいまでの大量の遺骨が安置されている採石場跡、それがパリの地下にある「カタコンベ(カタコンブ・ド・パリ)」である。いまではここも観光地化されている。

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カタコンベ入口には常に行列ができていた。一日に入れる数が決められているということなので、ぜったい見たい!という人は朝から行くか、予約しておくといいです。

 

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これから地下に潜ります

フランスは美術館とか人が集まる場所ではセキュリティチェックがあたりまえとなっている。ここカタコンベでも金属探知のゲートをくぐったあと、バッグの中身もチェックを受ける。

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空港並み。これから墓を見に行くとは思えない厳しさである。

セキュリティチェックをくぐり、チケットを買ってらせん階段をひたすら降りていくと、徐々に湿度が高くなっていくのを感じる。地下20mである。その深さは匂いでわかる。

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細いらせん階段を目が回るくらい下ります。

らせん階段が終わると白くて明るい空間に出る。ここから先が共同墓地の入口となる。

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禁止事項のピクトがかわいい。飲食ダメだしドクロ触ってもダメ。触らないだろう。

白くて明るい部屋から暗くて狭い穴に入ると、しばらく歩く。不安になるほど、しばらく歩く。

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すれ違うのがむずかしいくらいの狭さです。天井も低い。
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明るさは補正しないとこのくらい。足元がなんとか見えるくらいです。

不思議なのは入口であんなに並んだのに、穴に入ったとたん一人になってしまったことだ。前にも後ろにも誰もいない。みんなどこへ行ったのか。

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たまに壁が崩れていたりして駆け足になります。

細くて暗い通路を速足でしばらく歩いていくと前方に人の気配がした。ようやく前の団体に追いついたのだ。よかった。

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ここから先は必死でこの団体についていきました。

棺なんてないじゃん、と思いながら歩く通路はここまで。ここから先がすごかった。

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この先、墓。と書いてあるのかどうかはフランス語なのでわかりませんでした。

足を踏み入れると壁の様子が変わった。明らかにこれまでの石の壁ではないのだ。

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さっきまでと変わらないじゃんと思うだろう。でもこれ、実は両側が
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骨なのだ。

 

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壁がぜんぶ骨である。
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整然と積まれた、骨。
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骨。骨。骨。

見渡す限りぜんぶ骨

両側の壁が高さ2メートルくらいまですべて骨である。おそらく地名とか年代とかで分けられているのだろう、プレートによって各区画に区切られてはいるが、見た感じぜんぶ同じように骨だ。

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たぶんこの一枚の写真に数万人写っています。

このカタコンベにはおよそ600万から700万人分の骨が安置されているらしく、教会周辺の地下から掘り起こしてここに積むまでに2年かかったのだとか。かかるなこれは。むしろよく2年で積んだと思う。

そしてさすがおしゃれの国フランスである。骨の積み方ひとつとっても遊び心が見られる。

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ハート型にドクロが配置されていたり。
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模様が描かれていたりする。どんな仕事も楽しくやろう、ということだ。
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ワインの樽みたいに積んである骨。フランス人はみんなワインが好きだから、死んでもワインのことを考えられるように、ということかもしれない。

不思議と怖くない

薄暗い地下で両側には数百万のドクロ。逃げたくなると思うだろう、しかしここまでくると不思議と怖さとか不気味さみたいなネガティブな感情がわかないのだ。

それよりも驚きとか感動とか、そういう底の抜けた明るい感情が先にくる。それはここが戦没者の墓とか虐殺を受けて亡くなった人たち(一部ギロチンで処刑された人も含まれているみたいですが)が眠っているわけではない、という歴史的背景もあるのだろう。

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ここまで来ると壮観です。
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すごすぎて怖くない、という不思議な感覚。

入口には「触っちゃだめ」というサインがあるのだけれど、正直ガードもないので触ろうと思えばいくらでも触れる。でも骨だから、やはり誰も触らない。

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と思ったらこの人さわってた(ダメですよ)。

このカタコンベが一般に公開されたのはまだ最近のことらしく、それまでは電気も通っていなくて、一部のとくべつなツアーにのみ公開されていたのだという。

当時は暗い中をたいまつを持って散策したのだとか。おかげで迷って出てこない人もいたらしい。やばい。今になって怖くなってきた。

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今はちゃんと見学ルートがあるので迷うことはありません。たぶん。
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よく美術館なんかで椅子に座っている係の人がいると思うけど、この施設でこの役は嫌だなと思いました。

数百メートル続くドクロゾーンを抜けると、ふたたび周囲は採石場に戻る。

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地下をぐるぐる歩いていると自分がいまパリのどのあたりにいるのか、まったくわからなくなります。
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突き当りのらせん階段を登ると出口。

入口と同じようにらせん階段を20mほど上がると地上に出てくる。

ここまでの所要時間はだいたい1時間程度だろうか。それでも出てくると生まれ変わったような、不思議な気分になった。考えてみたら死の世界から生の世界へと出てきたわけだ。一種の再誕現象である。

ミュージアムショップがほぼ骨売り場

ところでカタコンベは入口と出口の場所が別なので注意したい。別と行ってもカタコンベは長いので、入った場所から数キロ単位で別の場所に出てくる。知らずに出てくると「ここどこだ?」となる。

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出てすぐのところにあるミュージアムショップは必見です。
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売っているものがぜんぶドクロだから。
 

生きてるの最高

パリの地下墓地「カタコンベ(カタコンブ・ド・パリ)」は、いったん死んだ世界に潜り込んで、自分の足で生きた世界へと戻ってくる、そんな体験のできる場所でした。とはいえ来ているのは主に地元の若者たちで、宗教的な意義とか信仰心を持って、というより単にすごいもの見たさで、といった感じ。
 
怖くないので気の小さい人でも大丈夫だと思います。
 
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グレイトフルデッドみたいなドクロもいました。

 

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