生きてるの最高

キリスト教徒が多い欧米では、人が死ぬと土葬するのが一般的である。
フランスでも基本的に土葬する。でも土葬すると骨が残るだろう。
フランスでは、長い歴史の中で残りまくった骨が、地下に集められていてすごいことになっていました。
※この記事はJTBの広告記事の取材の合間に書きました。
キリスト教的考え方では、この世が終わるときにイエスが現れて、全人類を天国に行く人と地獄に行く人とに判別することになっている。最後の審判というやつだ。
ここでややこしいのは、「全人類」というのが生きてる人も死んでる人も含めての「全」なのだ。つまり現世で死んだからといって最後の審判は下るわけで、そうなると火葬してしまっていると都合が悪い。
ざっくり言うとそういう理由で、キリスト教の国では人が死ぬと土葬するのが一般的である。アメリカなんかで墓からゾンビがにょろにょろと出てくる映画やマンガを見たことがあるだろう、あれは土葬だからである。日本みたいに火葬されていると出てこようにも灰だから無理なのだ(だから代わりに実体を持たない幽霊が出るわけだけれど)。
キリスト教徒の多いフランスでもやはり土葬が一般的らしく、教会の地下には歴史に名を残した人物が安置されていた。
中でもここサン・ドニ教会には特にたくさんの棺がある。
この教会の地下にはたくさんの棺が納められていて、見たい人はお金払えば見られる。言ってしまえば観光地化している。
ここにはフランス革命でギロチンにかけられたマリーアントワネットやルイ16世の棺なんかも安置されているので、中世あたりの歴史好きにはたまらないだろう。ただし中身はすでに盗まれたりしていて、ここにある棺はほとんどが空とのことだった。
偉い人たちの棺は教会の地下にあることがわかった。では一般市民は亡くなるとどうしていたのだろう。いくら地下だからって教会の数にも限りがある。
ここまで言えば予想できるかと思うが、一般の人たちはなんとなく地下に安置されているのだ。
もともとは主に教会周辺の地下に埋葬していたらしいのだけれど、数が増えすぎて場所がなくなってしまったため、いったん掘り返して洗浄し、かつて採石場だった場所に集めた。パリの街は主に石で作られているため、地下には採石場跡がたくさんあったのだ。
19世紀くらいまでの大量の遺骨が安置されている採石場跡、それがパリの地下にある「カタコンベ(カタコンブ・ド・パリ)」である。いまではここも観光地化されている。
フランスは美術館とか人が集まる場所ではセキュリティチェックがあたりまえとなっている。ここカタコンベでも金属探知のゲートをくぐったあと、バッグの中身もチェックを受ける。
セキュリティチェックをくぐり、チケットを買ってらせん階段をひたすら降りていくと、徐々に湿度が高くなっていくのを感じる。地下20mである。その深さは匂いでわかる。
らせん階段が終わると白くて明るい空間に出る。ここから先が共同墓地の入口となる。
白くて明るい部屋から暗くて狭い穴に入ると、しばらく歩く。不安になるほど、しばらく歩く。
不思議なのは入口であんなに並んだのに、穴に入ったとたん一人になってしまったことだ。前にも後ろにも誰もいない。みんなどこへ行ったのか。
細くて暗い通路を速足でしばらく歩いていくと前方に人の気配がした。ようやく前の団体に追いついたのだ。よかった。
棺なんてないじゃん、と思いながら歩く通路はここまで。ここから先がすごかった。
足を踏み入れると壁の様子が変わった。明らかにこれまでの石の壁ではないのだ。
両側の壁が高さ2メートルくらいまですべて骨である。おそらく地名とか年代とかで分けられているのだろう、プレートによって各区画に区切られてはいるが、見た感じぜんぶ同じように骨だ。
このカタコンベにはおよそ600万から700万人分の骨が安置されているらしく、教会周辺の地下から掘り起こしてここに積むまでに2年かかったのだとか。かかるなこれは。むしろよく2年で積んだと思う。
そしてさすがおしゃれの国フランスである。骨の積み方ひとつとっても遊び心が見られる。
薄暗い地下で両側には数百万のドクロ。逃げたくなると思うだろう、しかしここまでくると不思議と怖さとか不気味さみたいなネガティブな感情がわかないのだ。
それよりも驚きとか感動とか、そういう底の抜けた明るい感情が先にくる。それはここが戦没者の墓とか虐殺を受けて亡くなった人たち(一部ギロチンで処刑された人も含まれているみたいですが)が眠っているわけではない、という歴史的背景もあるのだろう。
入口には「触っちゃだめ」というサインがあるのだけれど、正直ガードもないので触ろうと思えばいくらでも触れる。でも骨だから、やはり誰も触らない。
このカタコンベが一般に公開されたのはまだ最近のことらしく、それまでは電気も通っていなくて、一部のとくべつなツアーにのみ公開されていたのだという。
当時は暗い中をたいまつを持って散策したのだとか。おかげで迷って出てこない人もいたらしい。やばい。今になって怖くなってきた。
数百メートル続くドクロゾーンを抜けると、ふたたび周囲は採石場に戻る。
入口と同じようにらせん階段を20mほど上がると地上に出てくる。
ここまでの所要時間はだいたい1時間程度だろうか。それでも出てくると生まれ変わったような、不思議な気分になった。考えてみたら死の世界から生の世界へと出てきたわけだ。一種の再誕現象である。
ところでカタコンベは入口と出口の場所が別なので注意したい。別と行ってもカタコンベは長いので、入った場所から数キロ単位で別の場所に出てくる。知らずに出てくると「ここどこだ?」となる。
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