ケーキ屋さんで、どうしていいかわからなくなる
場所は江東区、清澄庭園のちかくに京橋千疋屋製造直売店はあった。
オープンからすこしたった時間にお伺いすると、開店と同時に入店したらしい先客さんがあれこれと熱心によどみなく商品を購入していて直売店の迫力を感じる。
入ると正面のケースにフレッシュケーキ、ゼリー、左側にアイスクリーム、右側に焼き菓子やジャムなどなどが並ぶ。
店内はすっきりコンパクトだが選択肢は多く、見れば見るほど買い物に悩んで自分の挙動が不審になっていくのを感じる。
一般的な店舗でも扱われている商品と、この店でないと買えないオリジナル商品がある。
前者は通常外税の価格が税込になっていたり、賞味期限が近付いたものをかなりの安さで販売している。
焼き菓子は袋詰めのセット販売の品が価格的にかなりお得で、感情がうれしさをとおりこし困惑に達せざるを得ない(何をどれだけ買えばいい!)。
ケーキのケースには「サービス品」が並ぶ。
その時期その時期で、工房で出たフルーツの余りの部分(とはいえ京橋千疋屋の高級フルーツなのだからな)を使って作るこのお店の限定品だ。
この「サービス品」だけは何がなくとも買わねばと思っていたところ、ケースには全4種類も並んでいた。
そんなにラインナップあるの!?
サービス品はご近所の方々に楽しみにしている方が多いそうで人気が特に高く、よく売れるとお店の方が教えてくれた。
このお店の近くに暮らすことそれだけで、大いなる「楽しみ」がひとつできてしまうのだから人生における居住地の重要性はすごい。
唸って買ったものたちです
この日、私はひとりで乗り込んだ。魅惑のラインナップに気持ちがたかぶりもはや困惑としてうずまいて、ちょっとどうしていいかが分からない。
こんなの、ちょっとひとりで抱えきれなさすぎだ。失恋したときくらいの勢いで友人全員に胸の内を5000字でつづったテキストメッセージを送りそうになったが、人気店に長時間とどまるのも気が引けて深呼吸して、ちゃんと持って帰れる、そして期日内に食べきれるだけの量を慎重に選んでいく……!
サービス品のケーキは全種1つずつ買うとして、いつもの京橋千疋屋で販売しているケーキもどれか一つは食べておきたい。
千疋屋といえば、そう、高級マスクメロンだ。
思い切って、1300円の「マスクメロンババロア」を購入した。
ずるくていやしい人間、ケーキを分ける
さて、私はずるくていやしい人間である。日持ちのするお菓子だったら自宅に持ち帰りすこしずつ食べて味わいのレポート記事を作ることだろう。
しかし生のケーキとあれば今日のうちにすべて食べてしまわねばならない。そして私はいやしいくせに悲しいことに胃がアリくらい小さいのだった。中年になった近年いよいよ、おどろくほど量が食べられない。
やむを得ず、編集部に持ち帰った。不本意ではあるがみんなで手分けして食べるしかない。
ひとつ幸運なことは、同僚がみんなライターであり編集者であることだ。それなりに表現力がある面々なのだ。
ひとりがひとつのケーキを担当して感想を述べてもらうことにした。食レポによる味わいの解像度は高いことが期待される。
みんな、しっかり食べて味を教えてくれ……!