「6粒アタリ付き」と「4粒アタリなし」
あの「マーブルガム」を作っているのは、名古屋市西区に本社を置く丸川製菓株式会社。創業は明治21年(1888年)、現在はガム一筋の老舗企業である。
「マーブルガム」の発売は1959年。オレンジ味、イチゴ味、グレープ味は今も現役で販売されている。パッケージを見ただけで味が思い浮かびますね……。
森さん この3つだと、グレープが一番売れていますね。次がオレンジ。3位がいちごです。
このマーブルガム、パッケージを見ていただくとわかるように「6粒入り」である。
「昔は4粒入りで、正方形の箱だったような……」という方、ご安心ください。今も「4粒入り」は元気に販売されております。
ただ、「6粒入り」と「4粒入り」には個数以外に大きな違いがある。6粒は「アタリ付き」、4粒は「アタリなし」なのだ。
マーブルガムといえば、「当たりが出たらもう1個もらえる」のも大きな特徴。昔は「4粒アタリ付き」でしたよね……?
なんで、アタリ付きとアタリなしに分かれちゃったんですか?
森さん 実は1990年に「6粒アタリ付き」にリニューアルして、4粒入りをやめたんです。ところが、その後コンビニなどで「当たりつきの交換は受け付けない」というところが増えてきまして……。
コンビニチェーンによっては、アイスの当たり棒などの「当たりつき商品」に対応してくれないことがあるのだ。
となると、「6粒アタリ付き」はお店に置いてもらえない。困る。
それならと、丸川製菓は「4粒アタリなし」として4粒入りを復活させた。UFOキャッチャーとかに入っているのも基本的に「4粒アタリなし」である。
というか、そもそも「アタリ付き」をお店に持っていったとき、お店はどういう処理になるんだろう。
店先に並んでいるものを「はい」ってタダで渡したら、お店が損しません……?
森さん もともとの仕入れ時に「交換用の商品」がサービスで入ってるんですよ。アタリを持ってきたお客さんがいたら、そのサービス分から渡せばいいんですね。当たりの確率は決まっているので、その分を入れてあります。
たとえば30個分を仕入れたら、「30個+2個」みたいな感じでオマケがついてくるイメージである。なるほど。それならお店は損しない。
ということは……オマケの個数を数えたら、当たりの確率が分かるってことじゃないですか。それっていったい、いくつなんですか……?
森さん まぁ、それは夢の部分なので。ご想像にお任せします(笑)
本当は「四角いガム」を作るはずだった
もともと、丸川製菓はアメや落花生菓子などを製造する菓子メーカーだったという。
戦後、アメリカからチューインガムが入ってきたのをきっかけに、日本全国で数百社がガムに参入。丸川製菓がある愛知県でも70社くらいガムを作り始めた。まさにガムバブルである(フーセンガムだけに)
丸川製菓もその波に乗り、最初はブロック状のガムを作っていた(現在のフィリックスガムみたいな形)。
それとは別に、他の形も作ってみることにした。目指したのは長方形の糖衣ガム(今でいうボトル入りのタブレット状ガム)だ。
しかし、これがなかなかうまくいかない。
森さん 機械の都合なのかなんなのか、四角にしたいのに、どうしても丸くなってしまったらしいんですね。「じゃあいっそ丸いガムを作ろう」という逆転の発想から生まれたのが、今の「マーブルガム」なんです。
戦前から和菓子を作ってきた会社である。団子やまんじゅうといった「丸い形」を作るノウハウはあった。むしろそっちのほうが得意だったんじゃないか。
こうして、子どもサイズの小さな丸いガム・マーブルガムが誕生した。オレンジ味4粒で当時1個5円。パッケージも形も今とほとんど変わっていない。
変わっていないと言えば、紙箱なのも昔から。
なにせ戦後なので、ビニールもプラスチックも貴重である。「紙箱くらいしかなかったのでは」と森さんは言う。
とはいえ、箱は小さいし、アタリを見破られないよう印刷にも気を使わないといけない。小箱の製造業者ではトップクラスの技術が使われていたそう。
あの小さな箱に大いなる技術が注ぎ込まれていたとは……。
森さん 包装も苦労したみたいですね。のちに包装機械を自社開発するのですが、最初は内職の方が手でガムを詰めていたそうです。おばあさま方が乳母車を押して、会社までガムを取りに来ていたとか。
そのうち、あんなに活況だったガムバブルも弾け、ガムを作る会社がひとつふたつと減っていく。
一方で、マーブルガムは味や形、そして低価格が受けて、全国に広まっていった。
森さん このあたりは昔からお菓子の問屋街があるんです。名古屋独特の「旅問屋」と呼ばれる問屋さんが、日本各地を回って積極的に売っていただきまして、そのおかげで全国に広まっていきました。