小さな箱の小さなガム
子どものころに噛んでいたガムが、今もそのままの形で売られている。それだけでなく、同じ工場で作られたガムを、地球の裏側にいる子どもたちも噛んでいる……。
話を聞けば聞くほど、時間も距離も壮大なだ。「マーブルガムで育った方が社員として入ってきているのでは?」と聞いてみると「全員そうですよね(笑)」と森さんは笑う。
小さな箱の小さなガムは、時と場所を越えて、ファンをどんどん膨らませているのだった。

取材協力:丸川製菓株式会社
そうそう、丸川製菓のガムといえば忘れていけないのが「フィリックスガム」である。
「マーブルガム」と同じ会社が作っていることを知らない人、意外と多いんじゃないだろうか。
フィリックスガムと聞いて思い出すのが、この独特の形。
こんな低反発枕あったな。そう思わせるこの形も、発売当初から変わっていない。
これはもう単純明快に「分けて食べるため」だそう。
森さん 戦後すぐのことですから、甘いものが貴重な時代でした。そこで、兄弟や友人で分けて食べられるように、あの形になったと聞いています。
それなら最初から2個入りにしてもいいのでは……と思うかもしれないが、それだと包装にコストがかかるし面倒だ。そしてなにより……。
森さん お兄ちゃんがガムを2つに割って、弟に「はい」と分けたりする、その行為が大事なんです。最初から分けてあったら、それはできませんから。
人々が助け合いながら復興していった時代。お互いを思いやる気持ちを育むのに、フィリックスガムが一役買っていたのであった。当たった喜びもひとしおだったろうな。
ところで、丸川製菓が「アタリ付き」を始めたのは、実はマーブルガムでもフィリックスガムでもない。もっと前からあった。
その名も「バナナガム」である。
……どんなガムだったんですかそれは。
森さん それが、弊社にも詳しい資料が残っていなくて……。最初にガムを発売したのが1947年ですから、その少しあとに発売したみたいですね。当時は、笛やトンボのおもちゃといったオマケを付けていたようです。
戦後から2~3年で、ガムの景品におもちゃを付けていたなんて。なんというサービス精神……!
しかし、おまけを用意する丸川製菓も、当たりを交換するお店側も大変である。「めんどうだったのでしょうね(笑)」と森さんが言うように、おまけ付きはすぐなくなってしまった。
それって、裏を返せば「めんどくさくなるほど売れた」ってことなんじゃないですか?
森さん 残念ながら、「アタリ付き」を始めたとき市場でどんな反応があったのかは分かりません。ですが、今でも「アタリ付き」のシステムが残っていることを考えると、当時から好評だったかもしれませんね。
ガム一筋の丸川製菓さんであるが、やっぱり気になるのが最近の「ガム離れ」である。
今年3月には有名菓子メーカーがガム事業から事実上撤退する、というニュースもあった。
やっぱり丸川製菓さんにもそういう波が来ちゃったりしているんですか……と、恐る恐る聞いてみると「あまり影響がない」とのこと。そうなんですか!?
森さん 「ガム離れ」の影響を受けているのは、主に大人向け商品ですね。口臭を隠すためにタバコとガムをセットで買っていた人が、タバコを辞めてしまったり、グミに取って代わられたりして。なので、子どものガムはそこまで影響がないんですよ。
むしろ「影響が大きいのは少子化のほう」だそう。確かに……。
さすがに子どもの数が減っちゃうと困っちゃう。でも「子ども人口の減少ほど売上は減っていない」というからスゴい。大人も食べてるってことですね。
となると、やっぱりライバルのガムの動向とかにも目を光らせているわけですか。
森さん いや、むしろライバルは10円~20円のお菓子ですね。お子さんが100円を握りしめてお菓子を買いに行って、どれとどれを組み合わせて買うのか……というのを一番気にしています。
「うまい棒」「よっちゃんイカ」「キャベツ太郎」「ビックカツ」「マーブルガム」……100円以内でどれを買うのか、誰しも迷ったことがあるはず。大人でも悩む。
そこで、ライバルたちから抜きん出る手段のひとつが、キャラクターコラボ商品だ。
「フィリックスガム」から始まって、今は『SPY×FAMILY』やYouTubeで人気の『からめる』ともコラボしている。生まれ年に100年以上の差があるキャラが一緒に並ぶのって、冷静に考えるとすごいことだろう。
そして最近は、相手からコラボを持ちかけられることも多い。グッズのオファーがめちゃめちゃ来ているそうなのだ。
森さん 靴下、ポーチ、文房具……リップや入浴剤、プロテインなんてのもありましたね。「オレンジ」「グレープ」「いちご」とバリエーションが3つ揃っているのが、グッズ化にちょうどいいみたいですよ。
ここまで丸川製菓さんのガムヒストリーをたどってきたが、実はもうひとつ、重要なトピックがある。こちらをご覧ください。
こちらのガム、海外に輸出している商品である。
森さん マーブルガム発売と同じ、1959年から海外展開をしています。一番多い輸出先は中東ですね。現地では日本と同じく「懐かしいガム」として認識されているみたいですよ。
パッケージにプリントされているのは、オリジナルのクマのキャラクター。名前は特にない。
……のだけど、中東では「チャッピー」などそれぞれ好きな名前で呼ばれ親しまれているらしい。親しまれすぎて、勝手にグッズまで作られている。
森さん 許可を出した覚えはないですけど、Tシャツが作られているのを見たことがありますね(笑)。
中国などは日本向けの商品をそのまま輸出していることが多いが、中東向けの製品は日本のガムより甘く作ってあるそう。
気になる。気になるが日本では売っていないので、食べたかったらドバイに行くしかない。ドバイ……!
森さん 世界中で長く愛される商品を、これからも提供していきたいですね。今、ガムを食べているお子さんたちが、何十年か経ったあとに「懐かしい」と言ってもらえるような、そんな商品でありたいと思っています。
子どものころに噛んでいたガムが、今もそのままの形で売られている。それだけでなく、同じ工場で作られたガムを、地球の裏側にいる子どもたちも噛んでいる……。
話を聞けば聞くほど、時間も距離も壮大なだ。「マーブルガムで育った方が社員として入ってきているのでは?」と聞いてみると「全員そうですよね(笑)」と森さんは笑う。
小さな箱の小さなガムは、時と場所を越えて、ファンをどんどん膨らませているのだった。
取材協力:丸川製菓株式会社
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