特集 2019年6月13日

部屋の形は五角形 昔住んでいた大学宿舎でのアート展示へ行く

10年以上前に住んでいた場所でアート展示をやるので行ってみた。

大学に入学して1年間住んでいた学生宿舎が、いつの間にか廃止になっていたことを知った。
さらに、そこで学生がアート展示をやるらしい。

そんなニュースを見て、昔の様々な思い出が蘇りすぐに行きたくなった。
なんといっても、あの独特な部屋に入れる最後のチャンスかもしれないのだ。

そう、その部屋は五角形なのである。

1987年兵庫生まれ。会社員のかたわら、むだなものを作る活動をしています。難しい名字のせいで、家族が偽名で飲食店の予約をするのが悩みです。(動画インタビュー

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なつかしの場所へ行こう

6月2日、アート展に向かうため僕は茨城県つくば市にいた。
目指すは筑波大学の平砂(ひらすな)宿舎である。

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車をコインパーキングに停めて大学へ。緑に囲まれているが学内である。

向かっている間に宿舎について説明しておきたい。

僕が通っていた筑波大学には学生宿舎があった。寮母さんがいるような学生寮ではなく、風呂やトイレが共同のアパートのようなものだ。
学内の4地区に点在していて、全部で68棟4000室もある巨大な宿舎群である。
当サイトの「筑波大学が広すぎる」という記事でも触れられているが、敷地が広すぎてなんでもかんでもスケールがでかいのが特徴である。

家賃が安いのもあり1年生はほとんどが住む習わしになっていて、僕は平砂地区の10号棟に住んでいた。
そしてその平砂地区の8〜11号棟はちょっと癖の強いところだったのだ。

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歩いているうちに宿舎付近の案内図があった。右下に注目してほしい。
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やたらうねうねしている。

ここがくだんの平砂8〜11号棟である。
特徴はなんといっても「部屋が五角形」ということだ。

人生で四角形以外の部屋に住んだことがある人がどれだけいるだろうか。
初めてドアを開けたときの衝撃たるや、すごいものがあった。
ちなみに角部屋は七角形で、少し広かったので「当たり」の部屋だった。

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当サイトのライターで、同じく筑波大学出身の加藤さんは七角形に住んでいた。いいな…。
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当時の部屋を思い出して間取り図を描いてみた。写真に残しておけば良かったな。

この五角形と七角形の特殊すぎる部屋は、僕らの時代は「スラム」と呼ばれていた。
さらに元々沼地だったので湿気がひどく、特に1階は部屋に置いたノートが湿るほどだったので、さらに進化した「グランドスラム」という称号を得ていた。

こんなに嬉しくないグランドスラムもそうそうないだろう。

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そうこうしているうちに平砂地区へやってきた。なつかしいー。

写真に写っているのは共用棟で、食堂や風呂がある。

1年生の夏休み、当時開通したばかりのつくばエクスプレスで実家から戻ってきたら、風呂場のシャワーが3分の1くらい消滅していて驚愕したのを覚えている。
そこから冬の間まで風呂が大渋滞していた。すごい生活である。

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近くに新しくスーパーとカフェが出来ていた。便利に発展していて驚き。
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カフェの見慣れぬオシャレさに焦るが、振り返ると見慣れたヘリポートがある。振り幅の大きさよ。

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  宿舎的ビフォーアフターだ

進んでいくと、当時住んでいた10号棟があった。

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うわー、これこれ。

同行した妻が外観に若干引いていた。
違うんだって、見た目はちょっとアレだけど住めば都なんだってば。風呂は渋滞したし共用の洗濯機はよく脱水出来なくなっていたけど。

そして向かいに鎮座するのが今回の目的地である9号棟である。

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こう撮るとかっこよく見える。
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アート展示のポスターがあった。五角形をフィーチャーしていてかわいい。

前置きが長くなってしまったが、今回はこの「平砂アートムーヴメント」というイベントを見に来たのだ。
2週間ほどの制作期間を経て、55名の筑波大生が思い思いの展示をしているのである。

作品を見る前に、まず何もない状態の部屋を紹介しておきたい。
こちらが五角形の部屋である。

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この奥にあるコーナーのデッドスペースたるや。

備え付けのベッドと机が懐かしい。殺風景という言葉で済ましていいのか悩ましい部屋だ。

この部屋が、このような作品に生まれ変わっているのだ。

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か、かっこいい…!(高橋呼春さん作「pattern」)
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生い茂っているのもすごいし草の匂いもすごい。(藤田悠希さん作「雑草」)
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日本画の「箔焼き」という技法だそう。お金持ちの家みたいになった。(千葉瑞希さん作「take a leaf out of their book」)

劇的すぎるビフォーアフターだ。
語彙がなさすぎて、かっこいいとかすごいくらいしか書けないのが申し訳ない。

無機質なドアを開けて、作品に生まれ変わった部屋に入るのが面白い。

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この部屋はどんな感じになっているのかなー、というドキドキ感よ。これを50回くらい味わえるのだ。

入室してドアを閉めると、作品としっかり向き合えるのもいい。こういう作品展示は初めてなのでとても印象に残った。

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部屋だけでなく休憩スペースにも作品展示がされている。これめちゃくちゃかっこよくないですか。(岡本晃樹さん作「Gravity」)
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どこから撮ってもかっこよくなった。
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お話しを聞いてみる

この平砂アートムーヴメントは学生が運営している。
運営の方にお話を伺ってみた。

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芸術専門学群3年生の栄前田愛香さんと阿部七海さん。

ー そもそもどういうきっかけで、この宿舎で開催することになったんでしょう。

栄前田:私は元々宿舎に住んでいたんですが、廃止になった棟の電気が消えているのを見かけて。
アート展示では廃墟や廃校で開催する取り組みもあるので、ここを使えば学内で出来るなと思って大学に掛け合って始めました。

阿部:私は学祭で展示を担当したこともあって、他にも学内で展示をやってみたいと思っていたのでちょうどいい機会だなと。

ー えー!大学から言われてではなく、自分たちから動いたんですね。お二人とも作品も展示していますが、大変じゃないですか…?

阿部:いえ、まず私たちが展示したいから開催してる、というのが一番にあるので…!

栄前田:私たちがやりたいからやるけど、せっかくなら他の人の作品も見てみたいよね、というか(笑)

モチベーションがすごい。すっきりした動機で気持ちがいい話を聞けた。

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栄前田さんの作品「Body/ies4」。壁一面をキャンバスに出来るのもこの展示の特徴かも。一見優しいけど不思議な印象を持った。
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部屋の中に壁を作った、阿部さんの作品「チャイム」。肉眼で見たら光の加減がいい感じだったのだが、撮影下手くそ選手権で優勝出来そうな写真になってしまった。すいません。

 

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阿部さんの作品は外から見てもちゃんと作ってあるのがわかって良かった。

ー ギャラリーではなく、宿舎のような場所で展示をやる意義みたいなのって、どういうところにあるんでしょう。

栄前田:ギャラリーにある白い壁のようなところに置くと、何でも作品に見えてしまうんですよね。
こういう環境でやると、ちゃんと環境のことを考えて作らないと作品にならないのが違いだと思います。
なので、今回のテーマは「ここにおいて みせる/みる」にしました。

確かに特殊な環境でやる意義はそこかもしれない。
作品も、宿舎を意識して作られたものが多かった。

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伊藤玲那さん作「まっくら、どきどき」。明るいところでは服が踊っているように掛かっているのだが、
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暗くすると不気味な雰囲気になる、という作品。

宿舎の部屋は当然ベランダなんてなかったので、部屋干ししないといけなかった。
なので暗い部屋に帰ってきたときに感じるぶら下がった服の不気味さ、みたいなのは住んでいたときにもなんとなくあったように思う。

この作品なんかは典型的に宿舎生活を反映していて、一番好きだなーと思った。

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それから、金成翔さん作「Catalyst Lab.」。部屋を実験室に見立てたような作品だが、
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ベッドを実験机にするために、木材を使って底上げしていた。

これも収納場所のない部屋でやる、宿舎あるあるだった。
「底上げやってたー!!」ってなってしまった。ベッドの下に収納場所は生まれるけど、ベッドから落ちた時のダメージがハンパないんだよなこれ。

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逆に自分の作品を展示するための場所、として作りきっていたのは夢乃愛莉さん作「fabla」。

あの部屋をこんなきれいな空間にしてくれている!という驚きがあった。
僕の部屋もこんな雰囲気だったら良かったのに。

人によって見せるアプローチが違うのが面白い。
そして見る方も、宿舎に住んでいた人、そうでない人で受ける印象が違っていそうなのも面白いと思った。

僕はまさにドンピシャで住んでいた人だったので、その背景込みの感想にならざるを得ない。

ものすごく感情を揺さぶられる展示だった。行って良かったな。

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会場の9号棟は展示後に現状復旧されたそう(大変だ!)。前日に宿舎祭もあったのだが、これも学生たちが解体作業をしていた。日常に還っていくな…。

 


これがエモさかという思い知りよ

近年急速に使われるようになった「エモい」という単語の用法・用量がわからなかったのだが、まさにこれが使いどきだというのがわかった。
昔住んでいた場所の懐かしさと、若者の自意識のシャワーを浴びたのとで、エモさワールドグランプリ優勝であった。

栄前田さんと阿部さんは今後も他の場所を探したい、とのことだったので次回も期待である。

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ただの昔の注意書きだが、日付が完全に僕が住んでいた時期のものだった。年月~~~~!!!
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