特集 2019年5月16日

真面目なシーンに笑い声をかぶせると面白くなるのか

色んなシーンに笑い声をかぶせてみました

バラエティ番組などで笑い声の効果音(SE)が入る演出がある。
面白いシーンにかぶせることで、見ている人に笑うタイミングをわかりやすく伝える目的があるのだろう。

この笑い声のSE、真面目な場面で流したらどう感じるんだろう?実験してみることにした。

1987年兵庫生まれ。会社員のかたわら、むだなものを作る活動をしています。難しい名字のせいで、家族が偽名で飲食店の予約をするのが悩みです。(動画インタビュー

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笑い声を流す環境を整える

テレビでの漫才やコントでは、観客やスタッフの笑い声が入り反応がよくわかる。
一方それ以外のバラエティ番組ではそういった生の反応を入れるのは難しいからか、効果音として笑い声を入れる演出がよくある。

そういった演出を「録音笑い」と呼ぶそうだ。何にでも名前があるものだ。
この録音笑いを、笑いとは関係ない真面目なシーンで流したら面白くなるのだろうか。気になったので実験してみたい。

笑い声の効果音をパソコンやCDプレーヤーからただ流してもいいのだが、せっかくなので「笑い声を流す専用の装置」を作ってみることにした。
作る必要はまったくないが、こんな目的の専用の装置は他にないだろう。そう思うと面白くなったので作ってみよう。

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最近にわかに話題になっている、ダイソーの300円スピーカーを使って音を流す。

ダイソーのこのスピーカー、300円なのにアンプが内蔵されていてボリュームを変えられるのである。すごい。音を流す工作をしたい人はみんな買うといいと思う。

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マイクロSDカードに入れた笑い声を流す回路と組み合わせる。
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まとめたらいい感じになった。

それぞれのボタンを押すと、大・中・小の笑い声が流れるようになっている。


動作の様子はこんな感じ。
笑い声を流す専用のプレーヤーが出来た。うれしい。これで笑い声を手軽に流し放題である。

早速実験をしてみよう。

笑い声を流してみる

いくつか原稿を用意し、それぞれ笑い声あり・なしで朗読してどう感じるのかを検証してみることにした。

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こんな実験にわざわざお集まりいただいた皆さん。

朗読してもらうのはプープーテレビのライター反省会で読者代表として出られている岡田朗さん。
本業ではラジオのDJやナレーションもされているとのことで、本職である。いいのかこんな実験に参加してもらって。

そしてそれを聞くのは当サイトのウェブマスター林さん、ライターいまいずみさん、プープーテレビで撮影や編集をやっている西垣さんの3名だ。
西垣さんはディレクターや脚本家としても活躍されているとのことで、本職である。いいのかこんな実験に参加してもらって。

若干ドキドキしながらも実験を始めてみよう。
まず最初に用意したのはこちらである。

私の政権は、国境での危機を終わらせるため議会に対して常識的な提案をしている。人道的な援助、より強力な法の執行、港湾での薬物の探知、子どもを密入国させる抜け穴の封鎖、それに入国地点の間を塞ぐ物理的な『壁』の計画だ。
私が壁を作ってみせる。これは、スマートで戦略的な、透明な鉄の壁だ。ただのコンクリートの壁ではない。
これは国境警備隊が最も必要とする場所に作られ、壁ができたところでは不法な入国は急激に減るだろう。

単純に言って壁は効果がある。壁は命を救う。アメリカを本当に安全な場所にするためにともに働き、妥協し、決着をつけよう。

引用元:NHK トランプ大統領 一般教書演説2019より

トランプ大統領の一般教書演説より、メキシコとの「壁」に関する部分だ。
アイデア自体に賛否はあれど、「あ、トランプはマジで壁を作るつもりなんだ」と世界中の人が思ったはずの演説である。

まずは岡田さんに普通に読んでもらう。

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大統領っぽく威厳のある感じで読んでもらった。

爲房:かっこいい…!
林:トランプはそんなにおかしなことは言ってないのではと思っちゃった。
いまいずみ:期待が持てそうな演説ですね。

さすがアメリカ合衆国大統領の演説である。果たしてこれに笑い声を入れたらどうなるんだろうか。

 

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壁を作る決意を言うたびに笑いを起こす。

西垣:すごいなぁ。
林:かっこよく韻を踏んでいるところがギャグになりましたね。
岡田:リズムがあるね、文章にね。
爲房:大統領の原稿なだけはあって。
岡田;やっぱり頭いい人が考えてんだなって思うよね。
いまいずみ:笑わなきゃいけない気持ちになりますね。
西垣:コンクリートのところすごい良かったです。あー、ギャグなんやと思って。

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演説中のセリフがギャグ(もちろんギャグではないのだけど)ということに気付いてしまって笑ってしまう。

岡田:あーだこーだ言って、「壁が」って言ったら笑われるっていうね。
林:ギャグだったんだー、って。
岡田:壁かよ!っていう。
いまいずみ:アメリカンジョークを聞いている気分になるんですよね。
一同:あー。
いまいずみ:すぐにわかるギャグじゃないけど、なんか笑い起きてるし面白いのかなって。

威厳のある演説が急にギャグになった。特に終盤のところがリズミカルに畳み掛けてくる。
これは結構面白いのではないか。

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他もやってみる

次はフィクションから1つ持ってきた。

銭形警部:一足遅かったか。ルパンめ、まんまと盗みおって。
クラリス:いいえ、あの方はなにも盗らなかったわ。私のために戦ってくださったんです。
銭形警部:いや、ヤツはとんでもないモノを盗んでいきました。あなたの心です。

ルパン三世 カリオストロの城のラストシーンである。有名なのでさすがにネタバレは気にしなくていいだろう。

ちなみに林さんは宮崎駿作品を見たことがないのが誇りだそうである。僕も千と千尋の神隠しをまだ見ていないのを言い出せずにいる。

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まずは真面目に。

いまいずみ:もう笑っちゃう。
西垣:なんか笑い声が来る感じが予想出来ちゃうんですよね。でも来ないから、すごい滑ってるみたい。

思わぬ感想が来た。先ほどの大統領演説の印象が残りすぎただろうか。

 

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満を持して銭形警部の決め台詞で笑いを入れてみる。

西垣:(笑い声があって)気持ちいいですよねぇ。
いまいずみ:キマったな!っていう感じが。
林:いいですね、これ。笑うところなのか!というのがわかりやすくなって。
岡田:笑うところじゃないんだけどね。

西垣:言い方がちょっといやらしく聞こえますね。
爲房:こう言えばウケるだろう、みたいな。

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岡田:俺が悪いの?(笑)

いまいずみ:持ちネタみたいになりますね。
岡田:全部借り物だけどね。

爲房:林さんはカリオストロの城を見たことがないから、面白い映画だってなっちゃいますね。
林:たぶん初めてラストシーンを見たら笑っちゃうな。逆にみんな笑わないの?って。

笑いが起こる、ということが事前にわかっているから、いざ笑いが起きたときに面白さよりも気持ちよさが勝っている。

では、日常に起こるシチュエーションではどうだろうか。こんな文章を用意した。

お客様に申し上げます。
現在東陽町駅停車中の電車におきまして、お客様同士のトラブルが発生しております。
その影響で現在安全確認を行っております。
運転再開までしばらくお待ちください。
ご利用のお客様にはご迷惑をおかけします、申し訳ございません。

ゴールデンウィーク明けに通勤電車が見事に遅延したので、それを書き起こした。
謝っているのに笑い声を流す実験である。

 

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謝るところだけでなく、変なタイミングでも笑い声を入れてみた。どうなるだろうか。

西垣:(しばらくお待ちくださいで笑い声が上がったのに対して)そこ?そこで?
爲房:ちょっと変なタイミングでやってみようかなと思って。
西垣:いやー自分のセンスに対して不安になりますね。笑いについていけない。
岡田:ちょっとね!そこでインコース来るんだ、みたいな感じ。
西垣:結構ハイブロウな笑いですよねこれ。難しい笑い。わからない方が悪いみたいな。

どう考えても笑うシーンではないと、シュールギャグのようになってしまう。
勝手なイメージで小劇場系のコントを想像した。

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編集部藤原さんにもやってもらった。原稿が初見なので読むのがたどたどしい。

西垣:なるほど~。
爲房:もういよいよ感想が「なるほど」になってますね。
西垣:でもちょっと正当にウケてる感じがしなくて。作った笑いに感じます。岡田さんのときは素直に受け入れられたんですけど、たどたどしいのに笑いが起きてて、そこまでウケるのかなって思ってしまいました。
いまいずみ:しゃべりで笑わせるんじゃなくて、動き?ジェスチャーみたいなのをやってんだろうなと思いました。それで笑いを取ってるんだろうなと。
林:スーツの後ろが裸みたいな。
岡田:ひきょうな手だ。

しゃべる人の力量にも依るところがありそうだ。笑い声で強引に笑わせているように思ってしまうのは、コント番組でも感じることがあるかもしれない。

最後は流行語にもなった事件に笑いを

ロッキード事件という事件が昭和の時代にあった。当時の現職総理大臣が関わったとされる汚職事件だ。
その中で「記憶にございません」という発言が流行語にもなった。事実かどうかもわからないとする、あやふやな発言だ。
これに笑い声をかぶせたら、そのあやふやさも面白くなるのではなかろうか。

 

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西垣:すごいな〜。
林:コントですね、完全に。
爲房:結構コントっぽくなりましたね。
いまいずみ:フリップ芸みたいな感じもありますよね。(答弁の現場では)面白い絵とか出てるんだろうなって。

林:西垣さんはどんな感じでした?
西垣:いや…ずっとウケてんなって。いいですね、笑いがあるから聞けるし。「記憶にございません」を早く聞きたいのに、フリの人が長くしゃべってるからもどかしい。このオチは間がダメだなぁ。
いまいずみ:でも最後焦らされて、一番大きな笑いになったんで。
岡田:いやーでも俺がウケてる気持ちになるね。

かなりコントっぽくなった。むしろそう思い込みすぎて、西垣さんは質問者のことを「フリの人」と言ってしまっている。
質疑のはずがネタ振りになってしまった。

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林さんも自分がウケるのを体験したい、とのことでトライ。

林:あー、ちょっと嬉しい気もします。僕がウケてるなって。
岡田:スクリプトでさ、文字に起こされてるとさ、(持ちネタを言うのを)「次いくぜーいくぜいくぜー」って気になるよね。

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「記憶にございません」を持ちネタのように思ってしまう岡田さん。

林:西垣さんやった方がいいですよこれ。
西垣:みんなウケてるから緊張しますね。
爲房:ウケないパターンがあるかもしれませんね。
岡田:ボタンを押さない!っていうね。それしょんぼりしちゃうね!

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そんなことはなく、もちろん爆笑が取れる。

西垣:おぉ~!
岡田:自分でボール投げてる感、ありますよね!
西垣:安心して言えますよね、ウケるから。これ、慣れたらこわいですね。麻薬だな…。


笑い声を流すとだいたいコントになる

笑いが起きるのがわかっているから、堂々と「記憶にございません!」と言える。
フェイクの笑いでもコントになるし、話している方はどんどん自信がつく。

会社のプレゼン発表の練習などでも笑い声を流せば、自信を持って本番に挑めるかもしれない。
そう思うと結構いい方法なんじゃないかと思ってしまうが、フェイクの笑いに慣れたままM-1グランプリにエントリーするようなことにならないのを祈るばかりである。

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カメラを構えながら原稿を読みつつボタンを押す僕。役割を抱えすぎて忙しくなってしまった。
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