引き続き、テングハギ類、食べてみます。
そんなわけで今回は見た目も奇妙、味も一筋縄ではいかないユニコーンフィッシュことヒメテングハギについてのレポートでした。
しかし心残りなのは事後処理による味の変化を深く追求できなかったこと。どの個体も処理次第で美味しくなるとしたら実に面白いことだ。また、テングハギ類にはツノのあるものないもの含めていくつもの種がある。それらを食べ比べてみることも大切だろう。……なかなか気の長い実験になりそうだが、楽しみだ。
沖縄の海に「ユニコーンフィッシュ」という魚がいる。その名の通り、魚類でありながら額にツノが生えているのだ。…すごくないですか?見てみたくないですか?なんなら食べてみたくないですか?
ツノっぽく見える突起がある、とか、ヒレの一部が長くてツノに見える、とかいうレベルの代物ではない。
完全にツノ。ツノ以外の何者でもない。
そんなご立派ホーンの持ち主なのだ。沖縄のユニコーンは。
沖へと船を出し、潮通しがよく大岩が点在するポイントへ。
ユニコーンフィッシュに限らず、こういう場所には魚が集まりやすいのだ。
ポイントに到着したら、オキアミをパラパラと少しずつ撒いていく。
これが潮に乗って流れていくと、どこからともなくユニコーンフィッシュの群れが現れるのだという。それまでは他の魚を釣って遊ぶ。
ふと気がつくと、海面直下に青白い魚影がワラワラとうごめいている。
「それ全部ユニコーンっすよ!」
船長が叫ぶ。一体いつのまに。幻獣の名にふさわしい神出鬼没ぶり。
この機を逃す手はない!オキアミを釣り針に刺して群れの中を流すと…!
「あっ、オキアミに魚影が近づいていってるな…」
と思った瞬間、ギュン!!と竿が引きしぼられる。尋常でなく泳ぎの速い魚だ!
「船長~。これ絶対カツオとかですよ~。強すぎ速すぎ~。」
と泳ぎの得意な回遊魚を確信していたが船長は
「いや、それ絶対ユニコーン。カツオはそんなに力強くないよ。」
と自信満々。
えぇ…、カツオより強いって相当だぞ。ユニコーンやべえ。
格闘することしばし、澄んだ海の中に翻った魚体は…たしかにカツオではない。なんだか丸っこく、平べったい。そして……ツノがある!!!
これぞユニコーンフィッシュの正体!
ユニコーンフィッシュとは英語圏での呼び名で、和名は「ヒメテングハギ」というニザダイの仲間である。また、沖縄では「バショーカー」という地方名で呼ばれる。
さあ、釣れたら食べよう!よく観察してクーラーへ放り込む。
ツノは骨が皮に覆われたものでカチカチ。
個体によって長さが異なり、今回釣れた個体は平均的なものだという。より大型になるとさらに長く伸長するというから驚きである。
しかもこのツノ、具体的にどう役に立っているのか明らかになっていないらしい。
考えれば考えるほど「えっ?それいる?」と問いただしたくなる進化である。
さらに尾びれが大きく、グライドフィンのような形状でその付け根はキュッと引き締まっている。
こういう体型の魚は得てして泳ぎが得意。引きの強さにも納得だ。
なお尾びれの付け根には硬い爪状の突起がある。
釣り上げた直後、激しく暴れている時にここに触れるとケガをする恐れがあるので要注意(ニザダイ類全般に言えること)。
ウロコは鮫肌のように皮に癒着している。
サメと同様に頭側から撫でると無抵抗だが尾側からだとザリザリとウロコが引っかかる構造。
遊泳速度の飽くなき追求が感じられる進化だ。よくできている。
なお、皮はカワハギのようにズルリと剥ける。おお、料理しやすくていいな君ィ。
だがここでどうしても気になる点がひとつ。内臓を取り除くために腹を割くと、ひどい臭気が鼻をついた。いや、鼻だけならいいが部屋全体が異臭に包まれる。
磯臭い…!「磯の香りがする」なんてオツなものではない。「お腹の中に磯の悪いとこだけ閉じ込めました♡」的な、即座の換気を余儀なくされる悪臭である。
どうやら藻類も好んで食っているらしく、消化管から臭いが漏れ出ているようだ。おおう…食べるのが怖くなってきたぞ。
だが、刺身にすると見た目は抜群に良い。いけるんじゃないかと頬張ってみると…。
「臭ッッ!!」
嫌な予感的中。濃厚な磯のニオイ(匂い、とか香り、ではない)が口の中にムワァァ…と広がる。
多少磯臭い食材を好む人も少なからずいるが、それにしたってこれはかなり人を選ぶだろう。
だが、悔しいことに味そのものはいいのだ。
旨味も強いし、やさしく甘い。ニオイさえなければかなり美味い魚であることは間違いない。惜しい。
また、揚げ物(中華あんかけ)にもしてみたが多少マシにはなるが相変わらず磯臭く食べるのが辛い。
もはやダメ元で煮つけにもしてみるが、こちらにいたってはむしろニオイが増幅されたようにすら感じる。キツイわ…。
だがその後、水産関係者らに話を聞いたところ意外な答えが返ってきた。捕獲直後の扱いを間違えなければ、そこまで臭い魚ではないというのだ。
まず、ある人物が言うには「冷やさない」ことが肝心であるらしい。
「テングハギ類は他の魚のように氷漬けにして冷蔵すると脂肪分が凝固して臭くなる。だから漁師は獲れても他の魚とは分けて、あえて氷を打たずに帰港する。」というのだ。切り身にした以降の工程も同様とのことであった。
さらに別の人物は「腹を割かない」ことが重要だと語る。
「バショーカーが臭かった?腹割いて内臓出したんじゃない?あー、ダメダメ。内臓触らずに背と尻の身だけ切り出さないと。内臓のニオイが肉に移るよ。」とのこと。
やはり沖縄の海人たちもあのニオイをどうにかしてあの味を楽しむべく、昔から試行錯誤をしてきたようだ。
果たしてこの工夫が通用するのか。鮮魚店に頼んでこれらの条件を満たしたヒメテングハギの切り身(突き漁で獲れたもの)を用意してもらった。
おっ、ちゃんと美味い!
たしかに臭みがかなり軽減されている。まったく磯のニオイを感じないとまではいかないが、これなら身の美味さを邪魔することはない。
「冷やさない」と「背と尻だけ切り取る」二通りの作戦。どちらかは効果があったとみていいのだろうか。
とはいえ魚であれば多かれ少なかれ味に個体差というものがあるし、そもそも漁法も釣りか突きかで異なる。
何よりサンプルが1回分ずつしかないのではあまり断言めいたことも言えないが、ユニコーンフィッシュが必ずしも臭くて食えない魚というわけではないことが分かった。
そんなわけで今回は見た目も奇妙、味も一筋縄ではいかないユニコーンフィッシュことヒメテングハギについてのレポートでした。
しかし心残りなのは事後処理による味の変化を深く追求できなかったこと。どの個体も処理次第で美味しくなるとしたら実に面白いことだ。また、テングハギ類にはツノのあるものないもの含めていくつもの種がある。それらを食べ比べてみることも大切だろう。……なかなか気の長い実験になりそうだが、楽しみだ。
イベントの告知です。
2020年1月25日(土)に仙台うみの杜水族館『うみの杜深海ナイト』にてスペシャルトークショーを行います。登壇は18:30〜と19:15〜の二回です。
他にも夜の水族館見学や隠れた人気コンテンツ「深海生物クッキング」の過去作放映なんかも予定されています(ダイオウグソクムシとかニュウドウカジカとか食べてます)。ぜひお越しください!
詳細は下記リンクからどうぞ
仙台うみの杜水族館『うみの杜深海ナイト』
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