ミツバチ以外にも魅力的な昆虫多し
ある意味対馬を代表する昆虫であるニホンミツバチを観察したわけだが、これら以外にも対馬には注目すべき昆虫たちがたくさんいる。
その後は島内を散策し、ハチ以外の昆虫もいろいろと観察してきたわけだがこれが……実に面白かった。もちろん虫だけでなく海の生き物も魅力的だ。
ぜひみなさんも来秋には対馬の自然とハチミツを目当てに訪島してみてほしい。きっといい行楽になるはずだ。
長崎県の対馬では特殊な養蜂が盛んである。
一般的なセイヨウミツバチではなく、日本在来のニホンミツバチを伝統的な「蜂洞(はちどう)」という巣箱で育てるのだ。
そしてニホンミツバチの巣から取れるハチミツは…抜群に美味い。今回は対馬式養蜂の実態を探ろうと思う。
我々が普段食べているハチミツのほとんどは飼育が容易かつ蜜の収量が多いセイヨウミツバチ由来のものである。手間がかかり採蜜効率の悪いニホンミツバチを飼育する養蜂家は非常に少ない。
地域ぐるみで伝統的なニホンミツバチ飼育を続けハチミツを採っているのは日本広しといえど対馬くらいのものなのだ。
というわけで9月下旬の対馬へとやってきた。
だが今回は渡航当日に対馬へ台風が直撃、歴史的な好天に見舞われてしまった。蜂への影響が気になるところだが、果たして。
地元の文化や自然に明るい一般社団法人対馬観光物産協会の西さん、山下さん協力のもと、さっそく蜂洞探しが始まった。
市街地からなんとなく山間へ、なんとなく農地が多いエリアへと車を走らせる。すると西さんが何かに気づいた。
「あー、アレたぶんそうですね。」
発見早いな!
…高さ60センチほどに切りそろえられた丸太が斜面に並んでいる。その様は遠目には祠かお地蔵さんのようにも見える。
事情を知らねば、まさかここでミツバチが飼われているとは思うまい。
ニホンミツバチは本来、自然下では主に樹木の洞に巣を作る。
蜂洞はそうした彼ら好みの環境を人工的に再現することで、管理しやすい環境へ誘致、営巣させる装置なのだ。
探してみるとあるわあるわ。あちらこちらに蜂洞が。いずれも農地周辺の斜面に下方を見下ろすように設置されていた。これは農業者が自身の所有地である耕作地に蜂洞を構えることが多いため。そしてこのような立地が女王蜂の目に留まりやすいためである。
…しかし、肝心のニホンミツバチがいない。
どの蜂洞ももぬけの殻なのだ。
蜂洞自体もたしかに興味深いものだが、やはりニホンミツバチにお目にかかりたいところ。
そこでさらなる助っ人のもとを訪ねることとなった。
長年にわたって対馬の伝統養蜂を研究している豊玉町在住の扇米稔さんである。
快く迎え入れてくれた扇さんの話によると、露地の蜂洞にニホンミツバチがほとんど営巣していない現状は近年の「異常事態」なのだという。
そもそも蜂洞にニホンミツバチが入るかどうかは最終的に蜂まかせな部分も大きいので、設置場所やその年の気候によっては蜂が寄りつかないものも多少なり出てくるものらしい。しかし、ここまで軒並みガラガラなのは対馬産ニホンミツバチに蔓延するある病気が原因となっているのだそうだ。
「サックブルード病」というウィルス性の伝染病である。
これが一つの巣で発症すると、その巣を壊滅に追いやりつつ近隣の巣へと次々に感染していく。
感染を食い止めるためには発病が確認された巣を直ちに処分するしかないのだが、実際にそれができる蜂洞オーナーは少ない。愛着ゆえに対馬島内ではサックブルードウィルスによって甚大なダメージを被っているのだ。
扇さんの暮らす豊玉町では、彼の指導の甲斐あって多くのニホンミツバチのコロニーは健全に保たれており、蜂洞への営巣率も依然として高いままだという。
実際、扇さん宅からはブンブンと景気のいい羽音が聞こえてくる。
と、ミツバチのかわいらしいブンブン♪に混じってヴィィィィヴィィィィ…!!という野太い羽音も聞こえてきた。
今話題の大陸原産外来スズメバチ、ツマアカスズメバチだ。
スズメバチ類はニホンミツバチの天敵。
キイロスズメバチ、オオスズメバチ、コガタノスズメバチと様々な種が蜂蜜と幼虫を狙って襲来する。……ものなのだが、どうも様子がおかしい。
数時間観察していたがひっきりなしに飛来するそのほとんどがツマアカスズメバチで、それ以外のスズメバチはキイロスズメバチが一匹気まぐれにやってきて撃退されたのみである。想像以上に影響は大きいようだった。
どうもツマアカスズメバチは近年になってその数を増やしており、対馬北部ではごく普通に見られる種となってしまっているようだ。
さらに、ツマアカスズメバチは他の在来スズメバチに比べて非常に機動力に優れており(ものすごく安定したホバリングとかできる)、ニホンミツバチたちの対処能力を超えた攻撃を仕掛けてくるのだという。
そういうわけでサックブルードウィルスと並んで、近年のニホンミツバチと養蜂家を悩ませる存在となっているのだ。
さぁ!ひとしきりツマアカスズメバチを追い払ったところで、ついにハチミツとご対面~。
天板を外すと、型枠にみっちりと詰まった琥珀が甘い香りとともに目に飛び込んできた。
精製する前の蜜が詰まった巣、いわゆる「巣蜜」だ。今回はこれを味見させてもらえることになった。やったぜ!
…「食の宝石箱や~」とはここで使うためのフレーズでは。
……たいへんおいしい。
普段使いしているスーパー売りのお手頃価格なハチミツとは別物である。
コクが深いのに、しつこくない。
『美味しんぼ』で山岡士郎が「本物のハチミツを食べさせてやりますよ」と言いながら出してきそうなハチミツだ。
また、濃い!美味い!というのは各養蜂家で共通であるにしても、面白いことに蜂洞を置くエリアによって味が少しずつ異なってくるという。
働きバチが蜜を集める花の種類、比率が変わってくるためだ。奥が深い。
さらに花の種類の話でいうと秋が深まってくるとセイタカアワダチソウの花があちこちに咲くのだが、これから採られた蜜は妙なにおいがしておいしくないのだという。そのため、採蜜はセイタカアワダチソウが咲く前に済ませてしまうのが鉄則なのだとか。
ニホンミツバチ養蜂、奥が深いぜ…!
そういえば、先ほどチラッと「ニホンミツバチはかわいい」という話をしたが、セイヨウミツバチだってパッと見の姿はほとんど変わらない。
しかし、ニホンミツバチはより「気質」が穏やかでかわいらしいのだ。
たとえばこんなこともできる。
採蜜の際に巣から溢れ出た働きバチたちは周りを警戒して固まるが、そっと優しくであればその群れに手を触れても攻撃してこない。
それどころか手乗りバチになってしまう。…もちろん、手荒く押しつけるように触れると反撃されるけどね。
こういうところもニホンミツバチならではの魅力と言えるだろう。
また、蜂洞は大陸から伝わってきた文化であるらしく、同様の巣箱を用いた養蜂はアジア各地に見られる。
下の写真はマレーシアの片田舎で見つけた蜂洞。
ただし、飼育されているのはニホンミツバチではなく小型のハリナシミツバチの一種。その名の通り毒針を持たず、指でつまんでも刺してこない。
こうして見ると、養蜂ってバリエーション豊富な文化なんだなぁ〜!
ある意味対馬を代表する昆虫であるニホンミツバチを観察したわけだが、これら以外にも対馬には注目すべき昆虫たちがたくさんいる。
その後は島内を散策し、ハチ以外の昆虫もいろいろと観察してきたわけだがこれが……実に面白かった。もちろん虫だけでなく海の生き物も魅力的だ。
ぜひみなさんも来秋には対馬の自然とハチミツを目当てに訪島してみてほしい。きっといい行楽になるはずだ。
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