特集 2019年10月31日

珍魚『ドラキュラ』で作るハロウィンぽい料理

今年もハロウィンシーズンがやってきた。街にカボチャやコウモリ、様々なモンスターのデコレーションや仮装が溢れる季節だ。
……ところで、沖縄の海にはそんなハロウィンにぴったりなネーミングで呼ばれる魚がいる。その名は…『ドラキュラ』だ。今回はこの魚を釣って何かハロウィンっぽい感じの料理を作ってみようと思う。

1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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人呼んでドラキュラ ホントの名前は…?

さて、サクサク話を進めよう。
ドラキュラという魚は沖縄の沿岸で船を出すと割と普通に釣れる魚である。個体数的な意味合いではまったく珍しい存在ではない。名前は相当珍しいが。

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今回は「ドラキュラ城」なるポイントを知るという屋我地島・「遊漁船バディー」の名物船長である与那城守幸さんに協力いただいた。

今回はまとまった数が欲しかったので「ドラキュラ城」なるドラキュラが入れ食いになる漁場を知る遊漁船に案内を頼んだ。
ドラキュラは安価な魚で、沖縄では邪険にこそされないまでもあまり有り難がられない。そのため「ドラキュラ狙いで船をチャーターしたいんですけど」という問い合わせに船長さんもびっくりしていた。

さすがドラキュラ城。釣り場に着くなり即入れ食い。あっという間に20匹も釣れた。
その辺りの捕り物劇はイージー過ぎてドラマもクソもないのでさっさと話を進めます。
はい、ドラキュラとはこんな魚です。

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これが沖縄の「ドラキュラ」だ!

…不思議なルックスの魚でしょう?

もちろんドラキュラというのは沖縄ローカル、しかも海人や釣り人、市場関係者といった魚に触れる機会が多い人たちの間で用いられるローカルネームであって図鑑に載っている正式な名前(標準和名)ではない。
逆に標準和名では伝わらないが「ドラキュラのこと」と言えば「ああドラキュラか!」と納得してもらえるほど浸透している。
…果たしてその正体とは?

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大型の個体だと全長40cmほどにもなる。かっこいい魚だ!

 

なぜドラキュラ?なぜ「アカ」モンガラ??

ドラキュラはモンガラカワハギ科に属す魚で標準和名を『アカモンガラ』という。
そのまま受け取るなら「赤いモンガラカワハギ」ということになるが…。別に赤くなくない?それにどの辺がドラキュラ?

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黒い魚体と燕尾服のように伸びた尾ビレがドラキュラの衣装っぽい気もするが…

ドラキュラ感に関しては…。たしかに妖しくも美しい黒紫のボディーと燕尾服を思わせる長く優雅なヒレは創作上でのドラキュラ伯爵を想起させる。だがそれだけか?

アカモンガラ問題に至っては赤い要素がまったくないように見えるぞ?

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体色は赤くないものの状態によって少しずつ変化する。釣り上げた直後は暗紫色が強いが
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観察しているうちにだんだん頭部が黄色っぽくなり
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絶命すると緑色がかってくる。しかし!一瞬たりとも一部たりとも赤くはなってないぞ!どういうことだいアカモンガラさんよぉ。

が、しかし!彼らに真正面から向き合ってみると「赤い!」し「ドラキュラ!」な部分が目に飛び込んでくる。それは『歯』だ。

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あっ…。赤いパーツあったわ。
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血に染まったように赤いキバ。これが「アカモンガラ」そして「ドラキュラ」という名の由来だ。

歯が赤い。しかも犬歯のように長く鋭い。
そう。これが血に濡れたドラキュラのキバを思わせることからこのあだ名がついたのだ。

また、アカモンガラという名も本来は『アカハモンガラ(赤歯紋柄)』だったのが記載時の手違いで『ハ』が抜けてしまったのではないかとする説がある。それなら納得できる。
実際に英語圏ではRedtoothed triggerfish(赤い歯のカワハギ)と呼ばれているし。

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これは混じって釣れたクロモンガラ。ドラキュラと同じくモンガラカワハギ科に属すかわいい魚だ。名前がややこしい上に同じような環境で見られるためよくアカモンガラと混同される。海外では内臓に毒を蓄えた個体も見つかっているようなので食す場合は解体に注意。
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体のつくりはドラキュラに似通っているが、キバは無い。主食とするエサの違いによるものなのだろう。

なお、ドラキュラがカワハギの仲間にしては珍しくキバ状の歯を持っている理由は彼らの主食が水中を漂うプランクトンや小魚であることに起因するのではないかと思われる。ふわふわ漂う、あるいは逃げ惑うエサをガチッとキャッチするのに都合のいい歯形だからだ。
一方で他のカワハギ類やフグ類の多くは大きなエサをチビチビとかじりとる爪切りのような歯をしている。

…ん?歯が赤い理由?そこは知らんし仮説も思いつかん。アカモンガラに訊いてくれ。

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ドラキュラを料理しよう

さぁ!ドラキュラという魚の正体と魅力がわかったところでさっそく食べてみよう。

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キッチンバサミで体の各所に切れ込みを入れて引っ張るだけで簡単に皮を剥ぎ内臓を外すことができる。慣れると1匹あたり1分でスピード処理することも可能。

まず特筆すべき点は下ごしらえの容易さだろう。
ドラキュラに限ったことではないが、沖縄ではカワハギ類をキッチンバサミ一本と手だけで捌く解体法が用いられる。ハサミで皮に切り込みを入れ、ヒレを切り落とし、皮を剥いで頭と内臓をねじ切る。
これであっという間に処理完了。あとはそのまま煮るなり焼くなり、三枚におろして刺身にするなり。

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が、解体するともはやドラキュラ感は微塵もない。これ、ここからハロウィンっぽくするの大変だな。

なお、沖縄ではカワハギ類のキモ(肝臓)を積極的に食べる文化がない。これは本土のカワハギやウマヅラハギに比べてキモの味が落ちること、魚を冷蔵して運搬する習慣の定着が遅かったこと、さらに内臓にパリトキシンという有毒物質を蓄える種(ソウシハギなど)が分布することに起因するものだろう。

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とりあえず刺身で素材の味確認作業。味は淡白だが「フツーにうまい」。100円ショップのジャックオランタンでハロウィン感ゴリ押し。

刺身で味見してみると、旨味が淡いのが多少残念ではあるがその分クセはなく食べやすい。
「どちゃくそウメェ!!」というものでこそないが、どう料理しても堅実においしくなるという安心感のある味だ。
これならハロウィンらしく見た目にインパクトを持たせる=やもするとやや無茶気味な料理にも合わせられそうだ。

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トマトベースのドラキュラ鍋。加熱すると身質がかなりしっかりする魚なので鍋の具としても優秀。

ドラキュラといえば闇夜と血。というわけでトマトとイカスミを乱用し、赤と黒でまとめた料理を数点作ってみた。

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ドラキュラスパゲティ。具はドラキュラのほぐし身とパンプキンシード。ソースはイカスミベースで辛口。飾りに赤シシトウを添えて無理やり「映え」させる。

カワハギ類には加熱すると身が引き締まって鶏胸肉のような食感になるものが多いのだが、ドラキュラはそこまで固くならずあくまで「肉質の締まった白身魚」であり続けてくれる。煮崩れもなく使いやすい。

結果、トマト鍋にしてもなかなか。ほぐしてパスタにしてもなかなか。揚げてもなかなかだった。
なかなかな優等生である。

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揚げドラキュラ。衣の色は焦げたわけではなくやはりイカスミ。付け合わせは牙モチーフの赤オクラ。

…問題は他にいくらでも替えがきくところだろうか。「ドラキュラを使うことに意義がある!!」のは名前のネタ要素のみである。だがそれこそ調理者の申告次第でしかなく、他の魚にすげ替えても誰も気がつかないだろう。

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まあイケる。でもぶっちゃけ他の魚でも大差ないよね!でもイケる。

俺は食べ続けるぜ、ドラキュラをよ

名前と外見の割に、味には個性がなかったドラキュラことアカモンガラ。だがそれでも僕はドラキュラを釣っては食べ続けるし、来年の今頃もハロウィンコンシャスなドラキュラ料理を開発していることだろう。なんとなくこの魚が好きだから。
愛っていうのは理屈じゃねえんだよ。ドンマイ、ドラキュラ。
 

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日焼けしすぎて体のあちこちがツギハギ柄に。これじゃドラキュラじゃなくてフランケンシュタインの怪物だな。

 


告知:福井と高知で講演&イベントやります

お知らせです。
11月23日(土)に福井県産業会館で行われる『ふるさと環境フェア』に講師として登壇します。

テーマは『捕まえて学ぶ生物学・食べて知る環境問題』。同時間帯には写真家の豊田直之氏も登壇。みなさんどうぞお越しください。

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さらに11月30日(土)には高知でトークショー沖釣り体験イベントにおじゃまします。しんじょう君も来るからみんなも来てね。
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