特集 2022年8月31日

世界に広めたい!知られざるドイツ名物「スパゲティアイス」

ドイツのグルメといえばソーセージやビールが有名だが、実はドイツ国外ではあまり知られてない隠れた名物がある。それが、「スパゲッティアイス」だ。

スパゲッティなのに、アイスクリーム。一体どういうことなのだ。この不思議なドイツ発祥のデザートを食べ歩いてみた。

 

1986年東京生まれ。ベルリン在住のイラストレーター兼日英翻訳者。サウジアラビアに住んでいたことがある。好きなものは米と言語。

前の記事:市民プールといえばフライドポテト 〜ドイツっ子のノスタルジックな夏の思い出を体験してみる

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ドイツの知られざる発明品

ドイツは、私たちの生活に欠かせない様々な発明品を生み出した国である。

印刷革命を起こしたグーテンベルクの活版印刷技術。今や移動手段の主流となったガソリン自動車。体の痛みを緩和してくれるアスピリン錠。ドイツの発明品は、私たちの日常生活を大きく変えてきた。

しかしドイツには、ドイツ国外ではあまり知られていない素晴らしい発明品がある。

それが、スパゲッティアイスだ。

ヴンダバーなスパゲッティアイス。

スパゲッティだけど、アイスクリーム

スパゲッティアイスとはその名の通り、トマトソースのスパゲッティをアイスクリームでそっくり再現したもので、ドイツのアイスクリーム屋さんで食べられるデザートの一種である。

構造は至ってシンプル。スパゲッティの麺はバニラアイス、トマトソースはいちごソース、そしてパルメザンチーズはホワイトチョコレートで再現されており、それがお皿に盛られているだけだ。

たったそれだけのことだけど、物凄いインパクトのあるビジュアルである。 

うっとりするような、パーフェクトなアイスの麺。巨大なモンブランのようでもある。

スパゲッティアイスというぐらいなのだからイタリア生まれなのかと思いきや、実は1969年に旧西ドイツのマンハイム市で生まれた、正真正銘のドイツ発祥のデザートなのである。

ガソリン自動車もマンハイムで発明されたそう。すごいな、マンハイム。

今やドイツの夏の定番デザートとなったスパゲッティアイスは、当時18歳だったイタリア系ジェラート屋の息子が、新商品を模索中に作り出したものだそう。

南ドイツにはシュペッツレという卵麺があるのだが、バニラアイスをシュペッツレ用のプレス機に入れてみたところ、きれいな麺状のアイスを作ることに成功し、スパゲッティアイスが生まれたそうだ。

巨大ニンニク潰し機みたいなシュペッツレ製麺機。これにアイスを入れて、ギュッと押し出したそうな。

まさにイタリアとドイツの文化が融合して生まれた、フュージョンデザートなのである。

これをお店で出したところ大人気となり、瞬く間に西ドイツ全体に広まったそうだ。

こんな楽しいアイス、ドイツだけじゃもったいない。もっともっと、世界中に広まってほしい。

アイス好きなドイツ人 

ところで、アイスクリームといえばジェラートの国イタリアが有名だが、実はドイツ人も無類のアイスクリーム好き人種なのである。

特にベルリンはアイスクリーム屋が多く、老舗のジェラート屋から今時のヴィーガンアイスに特化したお店まで、ベルリン市内には500店以上のアイス屋さんがあるそうだ。 

店先によく置いてある大きなアイスの置物が好き。

日本に住んでいる時はアイスが食べたくなるとコンビニに行っていたが、私が住むベルリンでは最寄りのアイスクリーム屋さんへ向かうことが多い。

冬も通してやっている店も少なくないが、春になるまで店を閉めたり、冬の間は別の商品を売ったりするところもある。

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冬もずっとやっている人気のアイスクリーム屋さん。夏は夜10時まで開いているので、ついつい散歩がてらに寄ってしまう。
アイスは1玉2.10ユーロ(約280円)と高めだが、めちゃくちゃおいしい。

2021年のドイツのアイスクリーム消費量は1人あたり7.9リットル。ヨーロッパでトップの消費量を誇るフィンランドよりはずっと少ないが、それでも結構な量である。 

しかもアイスクリームの生産量に関しては、ドイツはEU圏内でナンバーワンの座を誇っているそうだ。

そんな隠れたアイス大国ドイツの人たちにとって、スパゲッティアイスはノスタルジックな夏の風物詩なのだ。

また、値段が普通のアイスの数倍するためたまにしか食べられないごちそうであるスパゲッティアイスは、多くのドイツ人にとって特別な夏休みの思い出として記憶に残っているのである。

なかなか食べる機会がなかったスパゲッティアイスだが、この際いろいろ食べ歩いてみようじゃないか。

古き良きジェラート屋さんのスパゲッティアイス

まず向かったのはクロイツベルク地区にある、イタリア系の小さなアイス屋さん。1983年からあるそうで、おじさんとお孫さんらしき人が切り盛りしていた。

レトロで庶民的なお店。外にはスパゲッティアイスのポスターがかかっている。コーン入りアイスは1玉1.50ユーロ(約200円)。

おじさんにスパゲッティアイスを作っているところを撮影して良いか聞くと、快くOKしてくれた。

まずは左の機械から出てくる生クリームで土台を作ってから、専用の機械にバニラアイスを3玉入れてボタンを押すと
ニュルニュルと麺のようなアイスが出てくる!

なんでだろう、アイスが麺になっただけですごく興奮する。

見慣れたものがミニチュアになったり、違う材料で再現されたりするだけで楽しい気持ちになれるから不思議だ。

実はスパゲッティアイス、店によってはメニューにないところもあるのだが、この「製麺機」を置いているか置いていないかも理由の一つなのだろう。

調べたらこの機械は安くても20万円ほどするようだ。スパゲッティアイスを出すためにはそれなりの投資が必要なのだ。

スパゲッティの上にいちごソースとホワイトチョコをかけて出来上がり。
まるでてんこ盛りのスパゲッティ。これで6ユーロ(約800円)。

「はい、どうぞ。楽しいことでも考えながら食べておいで」とおじさんに言われ、外のイスに座る。人や車が忙しなく行き来する大通りのを横目で見ながらアイスを頬張る。優雅な時間だ。

実は今までスパゲッティアイスを避けていたのは、全体がバニラアイスだということが大きな理由だった。バニラ味は嫌いではないが、せっかくならもっと変わった味が食べたい、と思ってしまっていたのである。

でもいざ食べてみると、なかなかいける。甘いバニラアイスとすっぱいいちごソースがよく合ってるし、フワッとした生クリームもしてていい仕事をしている。なめらかな口溶けのアイスと生クリームが一緒になって、あっという間に口の中に消えていく。

そして何よりも、見ていて楽しい。大人でもこんなに興奮するんだから、子どもの頃に出会っていたらたまらなかっただろう。

溶けてきてもまだちゃんと麺っぽさがある。

おじさんが「うちのはボリュームがあるから2人前なんだけど」と言っていたが、気がついたら完食していた。

うん。スパゲッティアイス、なかなか楽しいじゃないか。もっともっと食べてみよう。

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生クリームを土台にするとアイスが溶けにくい

今まで食べそこなった分を取り戻すように、スパゲッティアイスを食べ歩く。今度はミッテ地区にあるアイスクリーム屋さんに向かった。

スパゲッティアイスをこよなく愛する夫とお昼休みに落ち合う。平日のランチタイムはお客さんでいっぱいだった。

あっさりとした外観のお店だが、中に入ると黒板にびっしりと書かれたメニューや、色とりどりのアイスクリームのディスプレイで賑やかだ。

コーンのアイスは1玉1.40ユーロ(約190円)。アイス以外にも、パフェやミルクシェイク、クレープなどのデザートも頼める。前のお客さんたちも何を頼もうか迷ってる。

もちろん、注文するのはスパゲッティアイス。ここでもまず生クリームをお皿に盛ってから、専用の機械で麺状にしたアイスクリームをかけていた。

「生クリームを土台にするとアイスが溶けにくいんだよ」と教えてくれたお姉さん。かさ増しだけじゃなかったのか。
いちごソースをたっぷりとかける。ここのお店ではホワイトチョコではなく、ココナッツをトッピングしてくれた。
5.50ユーロ(約750円)のスパゲッティアイス。ウエハースの差し方が横向きでおもしろい。

ガラスの器に入れてくれると特別感が増して嬉しい。ヘルメットを脱ぐのも忘れて、早速食らいつく。 

我ながらいい笑顔。やはりアイスクリームと幸福は関連しているのかもしれない。
うん、ここのもうまい。

夫と並んで、ただ黙々とスパゲッティアイスを口に運ぶ。幸せだ。

「ふーん、バニラアイスかあ」なんて失礼なことを思っていた昔の自分が憎い。

確かに生クリームのおかげでアイスが溶けにくくなっている。

ああ、おいしかった。でもまだまだ食べるぞ。

今時のオーガニックアイス屋のスパゲッティアイス

最後に訪れたのは、ベルリン市内に5店舗を持つ地元のチェーン店。

2008年にできたおしゃれなオーガニックアイス屋さんだが、友人がそこでバイトをしているそうなので、彼女のシフトの日に遊びに行かせてもらった。 

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ベルリンらしいモダンな店構え。ここの抹茶アイスが絶品なのでたまに来ていたが、スパゲッティアイスは初めてだ。

この日はスパゲッティアイス大好き人間の夫と、スパゲッティアイス未経験のスロバキア人の友人バシカと一緒に訪れた。

左からバシカ、夫、そして友人のレア。

では早速、スパゲッティアイスをお願いします!

他の店と同様、まずは生クリームをお皿に盛る。このお店ではワッフルコーンの器に入れてくれる。
次に2玉のバニラアイスを​​​​​製麺機に設置して
レバーをギュッと引くと、スパゲッティが出てきた!
器を回しながらアイスを絞り出す。手動の製麺機なので結構な肉体労働だ。

これまで行ったお店とは違って製麺機が電動ではないが、大変じゃないのだろうか。

「そうそう、うちの機械は体力がいるんだよ!この間なんか、いっぺんに注文が5個入ってめちゃくちゃ大変だったんだから」
レアが作ってくれたスパゲッティアイス。ここのお店は6.50ユーロ(約890円)。

早速みんなでスパゲッティアイスに食らいつく。

ああ、おいしい。そして麺が他のお店より細いような気がする。

濃厚だけど甘すぎない、上品なバニラの味。さすが材料にこだわっているお店だけあって、アイス自体がものすごくおいしい。 

「バニラアイスかあ〜」とちょっと乗り気じゃなかったバシカもお気に召したようだ。

ベルリン出身のレアも、子どもの頃スパゲッティアイスを食べていたのだろうか。

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レアもスパゲッティアイスは好き?
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大好きだよ。値段が高めだから子どもの頃はたまにしか食べられなかったけど、今でも無性に食べたくなるアイスだな。
 一時期、スパゲッティアイスを出してる店があんまりなかった時があったけど、最近は取り扱うお店が増えた気がするな。
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そうなんだ!最近はスパゲッティアイスを出す高級レストランもあるぐらいだから、再ブームが来てるのかな?
スパゲッティアイスのどこが一番好き?
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生クリームとアイスが交わってフワっとしてるところが好きだな。
あと何が楽しいって、スパゲッティっぽさを演出するためにすごい手間をかけてるところ。専用の機械が必要だったり、何かと面倒なんだけど、見た目だけのためにすごく努力をしてるところがくだらないんだけど、好きなんだよね。
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確かに!ドイツの人って合理的で無駄を嫌うところがあるけど、手間がかかるし値段も高めなスパゲッティアイスがこんなにも人気なのは意外かも。
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あとドイツ人はイタリアに対して憧れがあるから、イタリアっぽいところも魅力なのかもね。

もっと世に広まれ、スパゲッティアイス

ドイツ人のハートをがっしり掴んで離さないデザート、スパゲッティアイス。合理的な民族と思われがちなドイツ人だが、こんな遊び心溢れるアイスクリームを愛する人たちだとは知らなかった。

あとでネットで調べてみたら、すでに日本にもスパゲッティアイスを出すお店がちらほら存在するようだ。嬉しいことだ。

この調子でスパゲッティアイスの素晴らしさが世界に広まって、いつかドイツが「ビールとソーセージとスパゲッティアイスの国」として知られる日が来るかもしれない。

義理のお父さんが送ってくれた、​​​​ブレーメンのスパゲッティアイスのメニューがすごかった。
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