特集 2021年12月20日

酒粕ラーメンを自分のものにする

京都に出かけ、お腹がすいたので中華料理店に入った。メニューを手に取ると、その中に「酒粕ラーメン(冬季限定)」というものがあってびっくりした。

その時はまだ夏の終わり頃だったので食べることができなかったのだが、今度、冬が来たら食べに来ようと思っていた。

ようやく冬になったので改めて食べにいってみると、思いがけず「酒粕ラーメンの旅」が始まったのだった。

大阪在住のフリーライター。酒場めぐりと平日昼間の散歩が趣味。1,000円以内で楽しめることはだいたい大好きです。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーとしても活動しています。(動画インタビュー)

前の記事:ディスプレイ造形とはどんな仕事なのか、宝島造形のポピーさんに聞く


冬を待って食べに行った酒粕ラーメン

今年の夏の終わり頃、京都の地下鉄・太秦天神川駅で電車を降りたことがあった。その駅の近くにある展示会場で開催されていた展覧会が見てみたくて、それで行ったのだった。時間はお昼時、展示を見る前に何か食べておきたいと思い、通りかかった「天鳳」という中華料理店に入ることにした。

そこで手に取ったメニューがこれ。

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一番下に「酒粕柳麺(さけかすらーめん)」の文字が見える

「さけかすらーめん」……。私にとっては初めて目にする言葉であった。「冬季限定」とあるから、この店の季節の名物のような、風物詩のようなメニューなのかもしれないと思った。「冬になったら必ず食べに来るぞ!」と私は誓い、その時は「湯州麺(五目そば)」というのを食べた。それはそれで美味しかった。

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野菜たっぷりで美味しかった「湯州麺(五目そば)」

そして冬が来たのだ。私は再び太秦天神川駅を目指すことにした。酒粕ラーメンに会いに行くのである。

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時を経て再び訪れた「天鳳」
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店の外にも「酒粕らーめんあります」と貼り紙が!

お店の方に「酒粕ラーメンお願いします!」と声をかけ、見上げたところにも貼り紙だ。

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これだけ推しているんだからやはり名物メニューなのだ

お店のご主人が厨房で手際よく調理を進めている。調味料がボウルに綺麗に分けてあって、それを見るだけで美味しそうだ。

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ここからパッパッパッと調合していく動作がよかった

しばらくして運ばれてきたのがこれである。

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美味しそう!これが酒粕ラーメンか
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レンゲでスープをすくうと酒粕がゴロゴロと
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もっちり柔らかなめの麺とよく絡んでいます

初めて食べる「酒粕らーめん」は、味噌ラーメンをベースにして、そこに酒粕の濃厚な風味がふわーっと加わったようなものであった。具材は豚肉、にんじん、タケノコ、ネギなど。食べごたえも十分である。初めて食べるものあるのは確かだが、違和感はまったくない。

というか、そもそも私は粕汁が好きなのだ。東京から大阪へ引っ越してきて、寒い季節になると食堂や居酒屋のメニューに「粕汁」が現れる。最初はおそるおそる食べてみて、今ではすっかり気に入った。家でも酒粕を使った鍋物を作って食べたりもしているぐらいだから、そこに中華麺が入ったって違和感を覚えないのは当たり前かもしれない。むしろ、酒粕ラーメンがもっと世の中にあって当然だという気がしてきた。

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「天鳳」の酒粕ラーメンには源流があった

お店に他のお客さんがいない時間帯だったので、「酒粕らーめん」について店主にお話を聞いた。それによって以下のようなことがわかった。

・「天鳳」では毎年10月の寒くなって来た頃から4月末まで「酒粕らーめん」を出している(それ以降、「冷麺」に切り替わる)
・10年ほど前にご主人がお友達と京都の伏見で酒粕ラーメンを食べて美味しいと思ったのをきっかけに自分流にアレンジして作るようになった
・月桂冠の酒粕を使っている
・毎年「酒粕らーめん」のシーズンを楽しみにしている常連さんもいる
・卓上のコチュジャンを入れるとさらに美味しい
・ご主人は写真が趣味で京都新聞社の「読者写真コンテスト年間賞」の銀賞をもらったこともある

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写真が趣味のご主人、壁には自信作が飾られている

なるほど、「天鳳」の「酒粕らーめん」は、京都・伏見で提供されていたものが原型というか、源流だったのか。京都の伏見といえば酒蔵の町として有名で、「黄桜」「月桂冠」をはじめ、数多くの酒造メーカー・蔵元が集っているエリアなのだ。

調べてみると、「酒粕ラーメン」を看板メニューにしているラーメン店もあるようだ。そうと知れば、行くしかないではないか。そこで数日後、私は京阪電車の伏見桃山駅を訪ねることにした。

駅を出るとすぐ伏見大手筋商店街のアーケードだ。

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活気ある伏見大手筋商店街

私事なのだが、ここでどうしてもお伝えしたいことがある。取材当日、私は非常に重い二日酔いに悩まされていた。前日、お世話になっている方と久々にお酒を飲む機会があり、飲み過ぎないようにと気をつけていたつもりだったが、どういうわけか、度を越してしまった。二日酔いに苦しんだ経験がある方は、その時の気分を思い浮かべつつ読んでいただけると嬉しい。

先述の通り、伏見桃山は酒蔵が並ぶエリアなので、町のいたるところに酒的なものがある。たとえば、銀行のウィンドウディスプレイに酒樽のミニチュアが並べられていたり、道端に酒樽が置かれていたりする。

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伏見桃山が誇る日本酒銘柄のミニチュア酒樽がずらっと
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ふと道端に目をやれば酒樽だ

蔵元の直営のショップがあちこちにあり、酒や酒粕がバンバン売られている。

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蔵元・山本本家の看板銘柄「神聖」の直売所
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「酒粕出ました」の文字
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店頭には初揚げだという酒粕が並ぶ

二日酔いの人間が酒蔵の町を歩く

どこを歩いても酒なのだ。実際にお酒の匂いが漂ってもきて、私はふらふらだ。二日酔い状態の人間にとってこんなにも辛い町があるだろうか……と思った。まあ、自分が勝手に来てるだけなんだけど。

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酒造メーカー「月桂冠」の酒蔵
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いたるところで売られている酒粕
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自販機で売られている「あま酒」

酒、酒、酒!昨日はあんなに求めていた酒が、今、私を追い込んでくる。ああ、こんなにも二日酔いが辛いのに、これから私は酒粕ラーメンを食べようとしているのだ。自分で自分が信じられない。

酒造メーカー・黄桜の直売所・レストランなどが入った施設「黄桜カッパカントリー」には、日本酒の製造工程が解説された展示スペースも。

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黄桜の運営する施設「黄桜カッパカントリー」
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「上槽(しぼり)」という工程で酒粕が取れるんだな
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黄桜の車、可愛いな

ショップで買った日本酒が飲めるスペースがあって、そこでたくさんの人がお酒を飲んでいる。いつもなら「俺も飲むー!」とはしゃいでいるところだが、今の私は酒を飲んでいる人を見ていることすら辛いのだ。

このままではいけないと思い、できるだけ酒感のない場所を探して1時間ほど歩くなどして、ようやく回復してきた。なんとかなってよかった。

いよいよ、今日の目的地である「伏見酒蔵小路」へやってきた。デイリーポータルZでも以前お酒の飲み比べで紹介されていた場所だ。

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酒粕ラーメンを求めてここまでやってきた!

この伏見酒蔵小路は敷地内に8店舗の飲食店が集まった複合レストランで、伏見桃山の蔵元の日本酒が美味しい料理とともに味わえるのが売りだ。その中の「門扇」というラーメン店に「酒粕らーめん」というメニューがある。

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体調も回復し、お腹が減ってきた

この「門扇」の「酒粕らーめん」がすごいのは、味のベースとなる酒粕の蔵元が選べること。

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蔵元によって味がかなり違うらしい

さっきまで二日酔いに苦しんでいた私だが、せっかく来たのだからここは蔵元による味の違いをぜひ確かめておきたい。「酒感強め。酒粕を感じかつマイルドでバランスがいいです」と紹介されていた「豊祝」と、「酒感優しめ。初めて食べる方でも食べやすい」という「都鶴」の二つを注文することにした(麺半分の「ミニ」があるというのでそれにしました)。

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はい来た!「豊祝」と「都鶴」の酒粕を使った「酒粕らーめん」
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こっちが「豊祝」の方で
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こっちが「都鶴」です

見た目はほとんど一緒で見分けのつかない二つのラーメンだが、実際、スープを飲んでみると全然違う。

「豊祝」のスープはガツーンとくる酒粕フレーバーがあって、まさに粕汁とラーメンの融合という感じだが、「都鶴」はもう少しあっさりしていて、鶏白湯ラーメンっぽくもある。

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「豊祝」のスープが少しとろりとしているのに対し、
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「都鶴」のスープがさらっとしているのがわかるだろうか。わからないか……

「酒粕らーめん」の初心者なら「都鶴」の方が違和感なく受け入れやすいだろうけど、「豊祝」の方が「酒粕らーめんを食べているなあー!」という強い実感を与えてくれる。

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酒粕ってこんなに味が違うものなんだな、と思った

食べ比べてよかった。今度は友達と一緒に来て4種類ぐらい一気に比べてみたいと思った。

お店の方に話を伺ってみたところ、次のようなことがわかった。

・伏見酒蔵小路がオープンしたのは2016年3月。「門扇」ではオープン時から「酒粕らーめん」を提供している
・選べる酒粕の種類は入荷状況などに応じて入れ替えている
・どこの酒粕が人気ということはなく、まんべんなく人気。土日には売り切れることもある
・酒蔵さんの努力によって酒粕の味が作られるので、味わいはどれもまったく違う

お話を聞いていると、気さくな店員さんが「写真送りましょうか」と言って、私のスマホに綺麗な画像のデータを送ってくれた。

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ジャーン!これが「門扇」の「酒粕らーめん」だ!

すっかりお腹いっぱいになって外へ出た。駅への帰り道を歩きつつ私は思った。最初に「酒粕らーめん」を食べに行った店、「天鳳」のご主人は「10年前に伏見で酒粕ラーメンを食べた」と言っていたけど、「門扇」が入っている伏見酒蔵小路がオープンしたのは5年前だという。とすると、「天鳳」のご主人が食べたのは別の店のものだったのかもしれない。

気になって調べてみると、かつて伏見桃山には「玄屋」という、「酒粕らーめん」が看板メニューのラーメン店があったらしい。2021年の5月に惜しまれつつ閉店してしまったということだったので、きっと「天鳳」のご主人はそれを食べたんだと思う。私も食べてみたかったけど、こればっかりは悔やんでも仕方ない。

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自分でも「酒粕ラーメン」を作ってみる

さて、酒粕ラーメンの旅を終えて帰宅した私だったが、家でも自分なりに作ってみようと思った。そんな風に思うこともあろうかと「黄桜」の直営ショップで酒粕を買ってきていたのだ。

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伏見桃山で買ってきた「黄桜」の酒粕

この酒粕を使ってマイ酒粕ラーメンを作ってみようと思う。と、いっても作り方はすごく簡単で、インスタントラーメンに好みの分だけ酒粕を足してみるというもの。

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この二つさえ揃えばきっとできるはず

袋に入った酒粕を適量取り出し、小さく切り分ける。今回は70gほど酒粕を使ってみた。

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完全になんとなくの量です

あとはもう、「サッポロ一番塩らーめん」の調理法に記載された500ml(酒粕が加わる分、少し水の量を増やしてもいいかも)のお湯を沸かし、そこに酒粕を加えて丁寧に溶かした上で、麺を投入!

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もっと大きい鍋で作ればよかったと思った

なんとなく酒粕に合いそうなカマボコ、小松菜、舞茸、小ネギなどをトッピングしてできあがり。

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これがマイ酒粕ラーメンです

食べてみると、予想以上にしっかりと酒粕ラーメンである。今回は70gの酒粕を使ったのだが、酒粕感が相当強めになったので、この半分ぐらいでもよかったかなと思った。

翌日、家にあったみそ味の袋麺を作り、30gほどの酒粕を同じ要領で加えてみたのだが、それぐらいの量だと、酒粕と味わいがもともとのスープの味をそれほど変えず、いい具合に融合した感じだった。それでいて旨みがグッと深くなったような。

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酒粕と味噌なんて合わないわけないものなー。美味しい!

これはもう、どんな組み合わせもあり得るな、と思った。好きなインスタントラーメンに、気分に応じた量の酒粕を加える。それだけで酒粕ラーメン化させることができる。京都で食べるお店の「酒粕らーめん」はすごく美味しかったが、そこまでは遠くて行けないという人でも、スーパーなどで酒粕を買えばいつでも試してみることができるのだ。これは忙しくなるぞ!


先日、京都のとある居酒屋で「粕汁」を注文しようとしたら、プラス50円でキムチがトッピングできるという。「粕汁にキムチ!?」とその時は思ったのだが、食べてみるとこれがすごく美味しかった。

酒粕ってきっと色々なものと融合してくれるものなのだと思う。きっと色々な味のラーメンと融合してくれるはず!

ぜひみなさんも酒粕ラーメンの世界に触れてみてほしい!自作する場合は最初は10gとか20gとか、少しずつ酒粕を加えて自分の好みの量を探ってみてください。

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