特集 2022年10月27日

岩手・青森県に残る「望楼付き消防屯所」を見に行った

日本全国に存在する消防屯所(とんしょ)。消防車などの装備を格納し、消防団員が詰める施設である。

どの町にもある見慣れた建物であるが、北東北に残る古いものは一味違う。二階建ての建物に望楼(ぼうろう)と呼ばれる物見櫓(やぐら)がそびえ、独特のフォルムを形成しているのだ。

今回は岩手県と青森県に残る「望楼付き消防屯所」を巡ってみたい。

1981年神奈川生まれ。テケテケな文化財ライター。古いモノを漁るべく、各地を奔走中。常になんとかなるさと思いながら生きてるが、実際なんとかなってしまっているのがタチ悪い。2011年には30歳の節目として歩き遍路をやりました。2012年には31歳の節目としてサンティアゴ巡礼をやりました。(動画インタビュー)

前の記事:備前焼の里に残る窯跡が陶片山積みで凄い!

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消防屯所に火の見櫓を乗せた「望楼付き消防屯所」

「望楼付き消防屯所」とは、要するに消防屯所に火の見櫓を乗せたものである。火災時にその場所を特定し、鐘を打ち鳴らすための火の見櫓を消防屯所に備えることで、消防の機能を集約しているワケだ。

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どの町にもある消防屯所の建物に――
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このような火の見櫓を組み込んだものが「望楼付き消防屯所」である

おそらくは冬の厳しい北東北において、積雪時にも素早く火の見櫓に上れるよう、消防屯所と一体化したのだろう。

その多くは大正時代から昭和初期にかけて築かれたものだ。火災通報手段の発達や防災無線の導入によって火の見櫓の役目が終わり、望楼付き消防屯所もまた建てられなくなった。現在は残り少ない希少建築となっている。

盛岡市紺屋町番屋

さて、御託はともかく実際に望楼付き消防屯所を見てみよう。まずは岩手県盛岡市の中心部にある「紺屋町番屋」である。

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というワケで岩手県の県庁所在地、盛岡市にやってきた
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江戸時代に盛岡藩を治めていた南部氏の本拠である盛岡城、石垣が良い感じに残る
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東京駅の設計者である辰野金吾が手掛けた岩手銀行旧本店本館も超立派!
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これまた雰囲気ある町家が並ぶ紺屋町の路地を進んでいくと――
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町並みの中に姿を現すのが「紺屋町番屋」である

このなんともかわいらしい色使いの消防屯所は、大正2年(1913年)に消防組第四部事務所として建てられたものだ。

大正11年(1922年)には消防車が配備されており、その後も畳敷きの座敷を設けるなど改修の手が加えられていたが、近年になって建造当初の姿に復元された。

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昭和初期に第五分団に改組されたとのことで、その頃のプレートだろう
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屋根の上には六角形の望楼がそびえている

本体も望楼も洋風で上品にまとまっており、まさに大正といった雰囲気の、実にハンサムな建物だ。

現在は消防屯所としての役目は終えており、一階は売店およびカフェ、二階は事務所として活用されている。

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手前の石畳が見えている部分が消防車庫で、奥が詰め所だったそうだ
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復元前の模型や、望楼に吊るされていた半鐘など、消防屯所に関する展示もある

ちなみに望楼へは二階から階段で上れるそうだが、一般公開はしていない。建立当時は周囲に高い建物がなく、望楼からは紺屋町全体を見渡すことができたのだろう。

100年以上経った現在も修理が施され、新たな活用が始まるなど、これからも地域のシンボルとして大事にされていくに違いない。

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二戸市消防団第二分団第一部屯所

続いては、盛岡市から少し北上して二戸市である。その中心市街地に望楼付き消防屯所が現存している。

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現在、駅前が大規模改修中の二戸駅
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豊臣秀吉に最後まで抵抗したことで知られる九戸政実の九戸城がある
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九戸城の西側を南北に通る道路には、歴史あるたたずまいの町家が残る
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その町並みの中に……望楼があった!
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入口上部に「二戸市消防団 第二分団第一部屯所」と掲げられている

いわゆる看板建築と呼ばれる四角い前面部は後世に改築されたものだろう。それもあってパッと見では普通の町家のようだが、屋根に乗る望楼が消防屯所であることをこれ以上なく主張している。

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隣接する町家も相まって、レトロな雰囲気を醸している
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望楼をよく見ると、現在も半鐘が吊るされていることが分かる

盛岡市の紺屋町番屋のようにキレイに整えられているワケでもなく、町の一部としてひっそり建っている感じであるが、それはそれでひたすら仕事に打ち込む職人のような、いぶし銀のカッコよさがある。

二戸市消防団第九分団第一部屯所(浄法寺町消防団第一分団)

お次は二戸市の中心部から西へ。文化財クラスタには漆の産地としておなじみの、浄法寺町に残る望楼付き消防屯所である。

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山間を通る街道に沿って家屋が並ぶ浄法寺町
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緩やかな上り坂に連なる町家の向こうに望楼が見えた
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建ちの高い消防屯所に、西日に輝く白塗りの望楼がそびえている

シンプルながらもスッと伸びる望楼が気高さを感じさせる消防屯所である。昭和13年(1938年)頃の建造で、平成になってから消防車の車高に合わせて基礎をかさ上げし、現在も使用し続けられている。

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望楼としての役割は、隣に立つ火の見櫓に譲ったようである

浄法寺町は現在も高い建物があまりなく、この望楼や火の見櫓からは今もなお町の全体を見渡すことができるはずだ。

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三戸町消防団第七分団屯所

二戸市からさらに北上し、青森県の三戸町に入った。三戸駅から少し歩いたところにある泉山という集落にも、立派な望楼付き消防屯所が現存している。

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素朴な感じのたたずまいで、なんとなくホッとできる三戸駅
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線路の下をくぐってしばらく歩いていくと――
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リンゴ畑に囲まれた泉山集落に到着する
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現在はトタン板で覆われた茅葺屋根民家の奥に望楼がのぞく
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なかなか凝ったデザインの望楼付き消防屯所である
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側背面は普通の民家っぽいのはご愛敬
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青年会館とも掲げられており、集落の寄り合い所としても利用されるのだろう
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正面ポーチの柱は鉄製に変えられている。消防車の車幅に合わせた改変だ
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シャッターの窓越しに、格納されている消防車が見えた
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現在、望楼の内部には半鐘が吊るされてはおらず――
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望楼の正面外側に機械式のサイレンが据えられてる

大きな茅葺屋根が点在する農村集落に洋風の望楼がそびえているのは少し不思議な光景だ。なんとなく既視感あるなとも思ったが、少し考えるとそれは長崎県の集落にある教会だと気が付いた。

教会の鐘楼も屯所の望楼も鐘の音を響かせるという点では同じである。だから西洋風にした……ということではなく、単に当時における最先端のイケてるデザインを目指したのだろう。

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旧弘前市消防団西地区団第四分団消防屯所

南部地方から一気に西へと進み、津軽地方の弘前市にやってきた。江戸時代に津軽藩の本拠であった弘前城のすぐ近くにも、望楼付き消防屯所が残っている。

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全国に12しか現存しない近世天守がある弘前城
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その北側には現在も武家町の風情を残す町並みが広がっている
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そのさらに西側の紺屋町に、望楼付き消防屯所が建っている。くしくも盛岡市の紺屋町番屋と同じ町名だ
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旧弘前市消防団西地区団第四分団消防屯所である(漢字が連なりややこしい)

昭和8年(1933年)頃に建造された、良い感じに洗練された洋風デザインの屯所だ。頭に「旧」と付いている通り、現在は消防屯所としては利用されていない。

これまでのものに比べて横幅が広いが、これは向かって右側が消防の屯所、左側が警察の派出所として使われていたためである。消防と警察がひとつの建物に同居する、珍しいタイプの建物だ。

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右側には「第五部紺屋組 消防機械置場」とある
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左側は「弘前警察署 紺屋町巡査派出所」だ
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現在は津軽塗の研修所として活用されており、発表会などで開放しているようだ
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望楼は高さが控えめながら洒落ている。半鐘は内部ではなく外側に吊るすタイプだ
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正面は洋風なのに、背面は白壁に障子の日本建築なのがおもしろい
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黒石市第一・二・三消防部屯所

最後は弘前市の東側に位置する黒石市である。その中心市街地には、なんと三棟もの望楼付き消防屯所が残っている。

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大型の主屋に「こみせ」と呼ばれるアーケードを備える黒石市中心部
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その町並みの傍らに、大正13年(1924年)建造の「第三消防屯所」が建っている
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堂々たる破風(屋根の三角形の部分)を見せる消防屯所である
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望楼には欄干付きの縁を巡らしており、格調を高めている
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望楼の内部には半鐘を吊るしているのが確認できる
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非常に印象的な建物であるが一般人の立ち入りはできない
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その内部にはボンネット消防車が格納されている

実にレトロな車両なので展示品なのかと思いきや、なんと現役の配備車両である。昭和46年(1971年)から現在まで使用され続けており、現役のポンプ車としては最古参とのことだ。いやぁ、凄い。

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中心の町並みから西へと進んでいくと「第二消防屯所」が見えた
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大正9年(1920年)の建造で、黒石市内では現存最古の望楼付き消防屯所だ
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望楼はシンプルながらスッキリしていてキレが良い
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こちらも窓越しに消防車が見える
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「第一消防屯所」は中心の町並みから東へ行ったところにある
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昭和21年(1946年)の建造と比較的新しい分、より現代的な洋風デザインだ
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しかし正面上部に火災除けの「水」を掲げるあたり、​​​​昔ながらの伝統を残している
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望楼はスタイリッシュなフォルムと、外側に吊るした半鐘が特徴的だ

地域のシンボルとしてあり続けてほしい「望楼付き消防屯所」

というワケで今回は岩手県および青森県の望楼付き消防屯所を紹介させて頂いた。消防屯所のような公共施設はフォーマットが統一されているものかと思いきや、意外にも同じものはひとつとなく様式もデザインも様々で非常に興味深く楽しむことができた。

いわば時代に取り残された建物であるが、望楼が高くそびえるその姿は非常に象徴的なだけに、これからも地域のランドマークとしてあり続けて頂きたいものである。

今回訪れた場所以外にも望楼付き消防屯所は現存しており、特に青森県の五戸町にあるものはデザインに優れ、また新郷村の西越沢口にあるものは望楼が二段重ねになっているらしく、機会があったら見に行きたいと思う。

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黒石では個人的に日本一だと思うお酒「稲村屋文四郎」を買って帰りました。物凄くフルーティーなのにスッキリしていてホントうまい

 

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