特集 2022年2月21日

ベルリンの空港跡地、テンペルホーフで映画を見てきた

ベルリンには、第二次世界大戦や冷戦時代など、さまざまな歴史的瞬間の舞台となった空港の跡地がある。今回空港内で期間限定のポップアップ映画館ができることになったので、 行ってきた。

1986年東京生まれ。ベルリン在住のイラストレーター兼日英翻訳者。サウジアラビアに住んでいたことがある。好きなものは米と言語。

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空港で映画を見るチャンス 

ベルリンには、今はもう使われていない、テンペルホーフという空港の跡地がある。

2008年に廃港となって以来、空港ビルの一部は警察署やオフィスとして使用されている。そのほかにもハンガー(航空機の格納庫)やターミナルビルはマラソンやコンサート、映画のロケ地としても使われたりしている。

そしてついこの間、2021年11月から数か月間、期間限定でテンペルホーフ空港に映画館ができることを知った。

普段はツアーに参加しなければ入れない本館のメインホール内にスクリーンが設置され、映画を見ることができるとのこと。これは行かなくては!

典型的なナチス建築

テンペルホーフ空港の跡地は、ベルリン市内南部にある。 

2008年の閉鎖以来、テンペルホーフは空港として使われることはなくなったが、文化財として保護されており、今でも当時の姿を見ることができる。

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空港の正面玄関。「ZENTRALFLUGHAFEN」(中央空港)の文字が残っている。

ドイツの歴史に詳しい人はご存知かもしれないが、テンペルホーフ空港は1923年に開港したドイツ最古の空港の一つである。現在も残る建物はナチス建築家エルンスト・ザーゲビールによって設計され、1936年から1941年にかけて建設された。

1989年に撮影されたテンペルホーフ空港の写真。本来は、半円形のターミナルビル上に航空ショーを眺めるためのトリビューンが建設されるはずであったそう。

全長約1.2km、30万平方メートルの面積を誇る空港ビルは、一時は世界最大の建築物の一つだった。今ではベルリンに残る数少ないナチス時代の建築物の一つでもある。

ナチス建築ならではの簡素かつ威圧的なデザイン。
ナチス的な要素をかき消すために様々な工夫がされているが、入り口の床にはナチスを象徴する赤白黒のデザインが残っている。
ターミナルビルを外から見た様子。

冷戦の大空輸作戦の舞台となった空港

第二次世界大戦後、降伏したドイツは西と東に分割された。

西ドイツは米仏英、東ドイツはソ連の支配圏となり、首都であったベルリン自体も西ベルリンと東ベルリンに分けられた。西ベルリンは米仏英、東ベルリンはソ連によって統治されるようになった。

つまり、東ドイツに囲まれた西ベルリンは、西ドイツの飛び地ということだ。位置関係がちょっと分かりにくいので、地図にしてみた。

そして1948年、東西両陣営の対立がエスカレートし、ソ連によって西ベルリンと西ドイツを結ぶ陸路が完全に閉鎖され、西ベルリンはあっという間に物資不足に陥ってしまった。

しかし、空路だけは封鎖されなかったので、当時米軍の拠点として利用されていたテンペルホーフ空港は、西ドイツから西ベルリンまで物資や食料、石炭などを運ぶ「空の架け橋(Luftbrücke)」と呼ばれる大空輸作戦の舞台となった。 

テンペルホーフ空港の最寄り駅も「Platz der Luftbrücke(空の架け橋広場)」という名前。

約210万人のベルリン市民に必要な物資を運ぶために、当時は3分間隔で飛行機がテンペルホーフに到着していたそうだ。

テンペルホーフからは、ハンブルグ方面、ハノーファー方面、フランクフルト方面に向けて3つの空路があった。

しかし、このタイトなスケジュールのため渋滞が起き、墜落事故が相次いだため、その後はアプローチに失敗した飛行機は一度元の空港まで引き返し、再度テンペルホーフを目指さなければいけないルールができた。

ピーク時には飛行機は1分間隔で発着していたそう。

やがて1949年にベルリン封鎖が解除され、1年3か月に及ぶ大空輸作戦が終了した。

そして1951年からは一般の乗客向けのフライトが開始され、特に1961年のベルリンの壁の建設後は、テンペルホーフ空港は西ベルリン市民にとって西ドイツへの唯一の安全な道として利用された。

また、東ドイツからの難民の多くも西ベルリンのテンペルホーフ空港を経由して亡命した。

1960年代のテンペルホーフ空港のメインホール。

1975年のベルリン北部のテーゲル空港の完成とともに、テンペルホーフ空港の民間航空は一旦中止されたが、1981年に再開し、2008年の閉鎖までの間は小型旅客機での短距離フライトを運行していた。

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イベントなどに使われる空港跡地

長くなってしまったが、これがテンペルホーフ空港の大まかな歴史である。

歴史的にも政治的にも複雑な背景を持つテンペルホーフは、現在、建物の一部は警察署やオフィスとして使用されており、それ以外のスペースは見本市や音楽祭、映画のロケ地などとしても使われたりする。

そのほかにも、昨年はワクチン接種会場としても活躍したり、2015年の難民危機では臨時シェルターとしても使われたことがある。

ハンガー内に設置された難民シェルターの様子。

そして去年の11月には、期間限定のポップアップ映画館がオープンし、木曜日から日曜日の間、毎日1〜2本の映画を上映している。上映作品は「ブルース・ブラザーズ」から「パラサイト 半地下の家族」まで、ジャンルや時代もさまざまだ。

テンペルホーフ空港は外からは見たことがあるものの、空港ビルの中に入ったことはない。ちょうどクリスマス直後に時間があったので、このチャンスを利用して映画を見に行くことにした。 

空港跡地で見る「ダイ・ハード」

チケットは一人11ユーロ(約1400円)とドイツにしては少し高めだが、コロナで長い間映画館に行っていなかったので、何週間も前から楽しみにしていた。

その日は12月26日だったので、正面玄関がクリスマス仕様になっていた。
テンペルホーフの全体地図。メインホールが今映画館になっている。
映画館の入り口は、正面玄関ではなく横の入り口だった。「THF」はかつての空港コード。

入り口の看板には「出発・到着」の文字があり、映画館なのに、旅行に来たような気分だ。パンデミックが始まって以来2年ほど飛行機に乗っていないので、久々に足を踏み入れる空港だ。

中に入ってチケットを見せる。チケットは予約確認メールだったが、搭乗券みたいになってたらもっと面白かったかも。 

ちょうど前の映画が終わったところだった。すでに空港感が半端ない。
ちょっとレトロな空港カフェも
昔のままの案内サインも
フライトボードも、全てが空港だ!

前の映画のお客さんが出終わると、電気が点き、映画が始まるまでメインホールをじっくり観光することができた。 

空港なのに映画館。なんだ、この不思議な空間は!
チェックインカウンターと荷物用のベルトコンベアが同じ場所にあるのは初めて見た。
レトロな時計とレストランのサインもかっこいい。
ホールの一角には、冷戦時代のアメリカ軍による大空輸作戦にちなんだ絵画があった。
ホールの片側には、2008年まで使われていたチェックインカウンターが並ぶ。
聞いたことのない航空会社ばっかりだ。
こちらのエア・ブルボン、後で調べてみたら2002年の設立からわずか2年間で倒産したフランスの航空会社らしい。ということはこの看板、めちゃくちゃ希少なのでは。
2008年まで使われていた荷物はかりもそのままだ。
戦後、天井の装飾を隠したり、2階フロアやガラス戸を加えたりして直線的なナチス感を消そうとしたのが分かる。いろんな要素がごちゃ混ぜになった、なんとも不思議な雰囲気だ。
そんな歴史的な空間で、映画を見るのだ。

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その日見た映画は、ブルース・ウィリス出演の「ダイ・ハード」。偶然にもオープニングシーンが飛行機の中だったので興奮した。

言うまでもないが、「ダイ・ハード」は、いつも通りの面白さだったし、ブルース・ウィリスも安定の不死身ぶりでかっこよかった。 

ただ映画が終わって巨大な空港ビルを退場するのは異様な体験で、ちょっとした旅から帰ってきたようなふわふわとした気持ちになった。

建物が本来とは違う用途で使われているのって、なんだこんなに楽しいんだ。今度はまた別のイベントで訪れたい場所だ。

空港の外にも案内標識があって、帰り道も余韻が楽しめた。

テンペルホーフは非日常体験の宝庫

手軽に非日常を味わうには、テンペルホーフ空港は絶好の場所である。

また、他にも歴史博物館や展望台の計画なども進んでおり、これからも文化センターとしてさらに利用しやすくなるそうだ。

ベルリンに来ることがあれば、一度にいろんな時代の歴史を感じられるテンペルホーフ空港に、ぜひ遊びに行って欲しい。 

ちなみに、滑走路エリアは2010年に公園として生まれ変わり、バーベキューやスポーツをする人などでいつも賑わっている。
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