4000メートルには行った
富士山より高いと喜んで行った標高4000メートル。しかも、ゴンドラという素晴らしき楽な方法で。そこにはやはり落とし穴があり、あんなに好きなバナナがそうでもなかった。せめて景色でも、と思ったけれど、それもない。人生とは難しい。
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登山というものがある。山を登るやつだ。世界には低い山もあれば、高い山もある。休日に手軽に出かける登山もあれば、何日もかけて山頂を目指す登山もある。登山と言ってもいろいろな登山があるのだ。
山頂で飲むコーヒーは美味しいと聞く。きっと美しい景色を見ながら食べたり飲んだりするものは美味しいのだろう。普段食べているものでも、山頂で食べれば味が変わる。ということで、標高4000メートルでバナナを食べたいと思う。
登山の最中などに食べるメインの食事ではないものを「行動食」という。エネルギー切れを防ぐために食べるもので、高カロリーなものが多い。それはゼリー飲料だったり、チョコレートだったりする。
バナナも行動食の一つだ。そして、私の好きな食べ物でもある。バナナは行動食で、私の好物。ある意味、私は登山をするべき人間なのかもしれない。きっと山頂で食べるバナナは美味しいだろうと思う。
日本で一番高い山は富士山で、その標高は「3776m」。弾丸で登山をしようと思うと0泊2日になる。ただ高山病になったりで大変だ。時間をかけて登るにしてもキツいだろう。だって「3776m」だもの。ただ3776mで食べる大好きなバナナはいつもより美味しと思う。
私は登山をしない。その理由は簡単で、キツいからだ。とにかくキツいのが嫌なのだ。ただ山頂には立ちたいと思っている。一番ダメなタイプの人間だとは思うのだけれど、事実だから仕方がない。だからこそ、エクアドルに来たのだ。
今回登るのはエクアドルの首都キトにある「ピチンチャ山」。標高は約4700メートルと富士山より高い。常に私は高い頂を目指すタイプだ。3776mでは満足できないのだ。もっと高く、もっと空に近くを目指しているのだ。だからこそ、選んだのだ、ピチンチャ山を。きっと今までに見たことがない世界が見えるはずだ。
一番の理由はこれである。ゴンドラがあるのだ。楽なのだ。歩かなくていいのだ。最高ではないか。バナナもエクアドルには大量にある。私のような人間には最適な場所、それがエクアドルだ。
実はゴンドラに乗った場所で、すでに標高2790メートルある。富士山の7合目のくらいの高さだ。それはピチンチャ山があるエクアドルの首都「キト」の標高がそもそも高いからだ。
キトについてすぐ私は高山病にかかっていた。脳が押しつぶされると同時に頭が破裂するような矛盾したひどい痛みと、吐き気に襲われた。それをどうにか順応させ、克服して今回の登山に挑んでいる。挑むと言ってもゴンドラなんだけどね。
ゴンドラに乗る私が首から紫色の何かをぶら下げているのが分かると思う。バナナの黄色い頭が少し出ている。これは私が作ったバナナケースだ。エクアドルはバナナの産地。しかも、そのバナナは大きい。そのために手作りしたのだ。
エクアドルのバナナの大きさは人の顔の長さほどある。リュックにバナナを入れていてもいいと思うかもしれない。しかし、登山だ。バナナをわざわざリュックから取り出す動作が面倒くさいので、首にぶら下げるシステムを作ったのだ。
バナナが大きいので、一度に全てを食べるのはキツい時もある。そんな時も、この袋に入れてぶら下げておけば、好きなタイミングで好きな量だけ食べることができる。しかも、立ち止まることなく。もっとも効率的な行動食を食べる方法なのだ。
行動食「バナナ」を効率良く食べる仕組みまで作り出して臨む、標高4000メートル。ただ私はサンダルだったりする。登山に詳しい人には怒られそうだけれど、ゴンドラだからなのか、この山では全然珍しいことではない。半袖半ズンの夏の少年のような格好の人もいた。そもそも地元の観光案内所でも気軽に行けるピクニックくらいの案内だ。
全く達成感はないけれど、高いところまで来たな、というのがある。ここが標高4000メートルほど。割となだらかな感じでここを山頂と言っても問題ない感じ。しばらくそのなだらかな道を歩くと、おそらくあと700メートル分と思われる山が見えて来る。
私がキツそうな顔をしているのが分かるだろうか。はい、そうなんです、ふんわりと高山病カムバックなんです。標高2790メートルから標高4000メートルにゴンドラで楽して来たら、治ったと思った高山病がひょっこり帰ってきたのだ。若干フラフラする。
絶妙なのだ。一番キツい時の高山病と比べれば、今のキツさは遠く及ばない。歩けないほどキツいかと言われるとそんなことはない。全然歩けちゃう。ただキツいのだ。それは間違いない。空気が薄いからだろうか。
楽してここまで来ているので、行動食のバナナを食べる必要がない。キツい今となっては首にぶら下げるバナナが重くて邪魔になっている。ただあと700メートル。登ろうではないかと最後の力を振り絞る。
キツかった。めちゃくちゃキツかった。平坦な道では高山病もまだなんとかできた。そもそも軽い高山病だし。しかし、登り始めると辛かった。それは高山病関係なく斜度が急だからだ。あきらめよう、ここを我々の山頂としよう。無理はしないタイプなのだ。山での無理は危険だしね。
山頂をあきらめたけれど、標高は4000メートルある。富士山より高いのだ。ゴンドラで4000メートルまで来てしまえるのがすごい。なんの努力もいらないのだ。景色を楽しみながらバナナを食べようではないか。
霧がすごい。薄く、とても薄く、フグの刺身よりも薄く街が見えている気もするけれど、真っ白だ。4000メートルから見る街の様子を楽しみにしていたけれど霧。山頂で食べるバナナが美味しいのでは、と言ったけれど、山頂じゃなし、霧で何にも見えないし、私の家の近所の公園と変わらない。
バナナに罪はない。ただ高山病で全然食欲がない。ただせっかくなので食べるわけだけど、特別美味しいということはない。どちらかというと、美味しくない寄り。バナナに罪はないのだけれど。楽するとそういうことが起きると知った。
富士山より高いと喜んで行った標高4000メートル。しかも、ゴンドラという素晴らしき楽な方法で。そこにはやはり落とし穴があり、あんなに好きなバナナがそうでもなかった。せめて景色でも、と思ったけれど、それもない。人生とは難しい。
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